観光振興は他自治体との競争です。限られたパイの奪い合いです。
勝利を収めるには、他の地域よりも優位な点を強調するのが効率的なはずですが、自治体実務ではそう単純には進められません。

公平性という枷

自治体は、特定の観光資源に肩入れできません。
原則あらゆる観光資源に対し、満遍なく平等に接しなければいけません。
つまり、他地域と比べて相対的に劣っている観光資源に対しても、予算をつぎ込まなければいけないのです。

今は劣っているとしても、ゆくゆくは他地域を圧倒するくらいに成長するかもしれません。
しかし実際のところ、延命治療にすぎない案件だらけです。
観光振興という字面は前向きに見えますが、実際は零細業界を政治的事情で延命させるためのセーフティネットのような要素もかなりあります。

何を隠そう、僕が去年まで担当していた仕事がまさにこれでした。
政治的事情で建てたハコモノを極力ローコストで運営する仕事です。
常に閑古鳥が鳴いていますが、閉鎖したら業界からクレームが飛んできて首長の政治生命が危うくなる。だから閉鎖できず、しぶしぶ運営を続ける。 
こんな案件が散見されます。

疑問を抱く時点で観光振興に向いていない?

「将来に向けた投資」とか、「存続させるだけで価値がある」とか、それらしい理屈は立てられます。
しかし、自治体予算には限りがあります。
観光振興よりも優先すべき課題が山積する状況下で、見込みの薄い観光資源に予算をガンガン突っ込むべきかと問われると、僕は否だと思います。

今年度だと、ワイナリー関係で苦労している自治体がたくさんあるのではと推測します。
去年からの「日本ワイン」の流れに乗じて、議員さんあたりが「うちにもワイナリーあるから追随せよ」って声を荒げて予算化されて、今年度から税金投入して観光客受入設備を作ったり、見学ツアーを始めたりしているのでは。
今はブームなのである程度は集客できるかもしれませんが、将来的にワイン強国の長野や山梨に対抗できるのでしょうか?
一時的なブームに乗っかるためにハード整備するって、いかがなものでしょうか?

こういう疑問を抱いてしまう時点で、僕は観光部局に向いていないのでしょう。
だからショートスパンで異動。人事課に内心を見抜かれていたわけです。