今年4月、総務省からふるさと納税制度の基準が示されました。
返礼品については、寄付額の3割以下かつ地場産品と指定されました。
 
返礼品が地場産品縛りになったことで、今後ゴネ型クレームが増えるのではないかと危惧しています。

都心部からのあるあるクレーム

ふるさと納税返礼品へのクレームは現時点でもたくさん寄せられています。
特に東京周辺の都心部からのクレームが多いです。(そもそも人口が多いので当たり前ですが……)
 
僕が対応した限りだと、もっとたくさんの返礼品を引き出そうと戦略的にクレームをつけている玄人の方が多く、本当に困っている人はむしろ少数派だと感じました。

よくあるパターンは以下のとおり。
  1. 「届いた返礼品が写真と違う」等、返礼品に対する苦情電話からスタート
  2. 通常の売買なら即返金の落ち度だが、制度上返金が難しいから正確なものがもらえれば我慢してやる(ここでなぜか恩を着せてくる)
  3. 自宅まで来て謝罪と交換するのが筋だろう、私は忙しいけど○月○日なら対応できると一方的に提案(普通の小売店なら当たり前の対応なのだが?と凄んでくる)
  4. 「他の自治体はこれくらいやってくれた」と事例提供
  5. 「私は貴自治体のためを思ってふるさと納税してあげたんだから、善意を裏切らないでほしい」とのプッシュ
  6. 「対応次第ではポータルサイトで低評価をつけざるを得ない」とのプッシュ
  7. 「忙しいから早く結論出してくれ」と度々急かす

ポイントは②③。
みんな大好き「返報性のルール」を使った具体的テクニックである「譲歩的要請法(ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック)」を使っています。

たとえば、あなたがある要求を私に受け入れさせたいとしましょう。この場合、次のようなやり方で、私が承諾する可能性を高めることができます。まず確実に拒否されるような大きな要求を私に出します。私がそれを拒否した後、それよりも小さな、あなたがもともと受け入れて欲しいと思っていた要求を出すのです。これらの要求を上手に組み合わせて提出できれば、私は二番目の要求を自分に対する譲歩だと考え、こちらも譲歩をしなければといけないという気になり、ーー二番目の要求を受け入れるでしょう。

ロバート・B・チャルディーニ
『影響力の武器 ーーなぜ、人は動かされるのか』P.68
2014年 誠信書房

「田舎自治体が謝罪のためだけに出張するなんて不可能だ」とわかりきった上で③の要求を繰り出し、③の要求を拒否させることで、②の要求(もう一回送る)を通そうとしているのでしょう。

④〜⑦は、自治体組織の意思決定プロセスを踏まえたアレンジです。
ポイントは⑦。電話窓口役のような下っ端職員に即答を迫ったところで、「確認して返答する」以上の回答しか返ってこないことは勿論承知しています。
それでも圧力をかけることで、自治体側に罪悪感を覚えさせ、要求を通しやすくするのです。

地方行政の仕組みまで把握している

僕が観光部局に勤務している間、何度かこういうクレーム電話を受けました。
ただし、全部、県内市町村の返礼品に対するクレームでした。

正式な担当課の連絡先は、返礼品に同封した令状の中にしっかり書いてあります。
それでもわざわざ県庁に、しかも観光部局に電話してくる時点で相当な玄人です。
 
なんだかんだで市町村は県に逆らいにくいという実情に加えて、観光部局の職員が県庁の中でも性善説タイプが多いことも知っているのだと思われます。
 
総務系の部署だと、クレーム電話に対しては最初から防御姿勢で対応します。
一方、観光や商業など善意の住民と触れ合う機会の多い部署だと、困った住民からの声を素直に聞き入れがちです。
こういう職員のキャラクター性もふまえての電話。プロの技です。

備えるしかない

これまでギフト券を返礼品としていた自治体は、こういうクレーム回避目的も少なからず考えていたのだろうと思います。
ギフト券に対してはクレームのつけようがないからです。

しかし地場産品縛りになると、ゴネる余地が大きく広がります。

クレームという形でわざわざ戦いを挑んでくるのは、勝てると確信しているからです。

ふるさと納税制度への慣れ具合は、自治体によってバラバラです。
ホームページやパンフレットを見て制度への習熟具合を見極め、ゴネ通せる相手だと確信した上で攻め込んできます。
押し負けないよう、あらかじめしっかりとクレーム対応プロセスを構築しておくべきでしょう。