キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

カテゴリ: 公務員になるまで

前回の記事に続き、僕が転職フェアに参加した結果をお届けしていきます。
今回は市役所・町役場ブースの探訪記です。

僕が参加した転職フェアは他県で開催されたもので、出展していたのも他県自治体です。 
さすがに県内市町村の説明会に乗り込む度胸はありません…… 

 

聞いてみたいこと

市役所・町役場ブースを訪問したのは、採用担当者から是非とも聞いてみたい事柄があったからです。

ひとつはアピールポイントです。
自治体の採用説明会や採用パンフレットでは、役所の仕事全体を幅広く取り上げるのではなく、前向きで華々しい仕事を「客寄せ」として紹介するのが通例です。
市町村の場合は、まちづくりや観光、移住定住あたりがよく取り上げられている印象です。

ただ新型コロナウイルス感染症のせいで、このあたりの「花形事業」は現在縮小中です。
そこで、代わりに何を取り上げるのか、気になっていました。

もうひとつは定年延長の影響です。
「定年退職者が減る分だけ採用者数も減るのでは?」という噂の真相を、無邪気に質問できる絶好のチャンスです。

加えて、参加者側からどのような質問が挙がるのかも興味がありました。
ブログのネタにできそうだからです。

捌き方に実力差あり

今回の転職フェアでは、全部で3自治体から説明を伺いました。
いずれのブースも大人気で、ほとんどの民間企業ブースよりも賑わっていました。
一番混んでいた自治体では、20人ほどの待ち行列ができていて、ブースにたどり着くまで小一時間かかりました。

ただ、待ち行列の捌き方には、明らかに自治体ごとに実力差が出ていました。
ひたすら待たせるだけで放置している自治体がある一方で、
  • 待っている人にQRコード付きのチラシを渡して「概要説明は動画でも見られますよ」と案内する
  • 待っている人に対して「質問あったら何なりとどうぞ」と個別に声かけ
など、待ち時間を無駄にさせない工夫をしている自治体もありました。
こういうところで印象が激変するんですよね。勉強になりました。


貴重なお話ありがとうございました

いずれの自治体も、15〜20分ほど採用パンフレットに沿って概要説明した後、質疑応答時間を設けていました。

SDGs激推し

概要説明では、いずれの自治体もSDGsへの取組みにかなり時間を割いていました。
役所自らがSDGsを実践するとか、市民にSDGs意識を浸透させる事業を展開しているとか……
「従来から存在する施策や制度を、SDGsの観点から捉え直して〜」という言い回しも、複数回聞こえてきました。
まちづくりや観光に代わる「花形事業」「客寄せ役」として、SDGsを位置付けているのかもしれません。

定年延長期間中の採用者数減は確実か

定年延長に関しては、いずれの自治体でも、概要説明では言及されませんでした。
そこで、こちらから質疑応答時間に「最近、公務員試験予備校の案内で『これから定年延長が始まると退職者数が減るから採用者数も減り、試験倍率が上がります!』という文句をよく見かけるのですが、実際のところどうなんですか?」と質問してみました。

その結果、いずれの自治体でも、「あくまでも担当の感覚ですが……」という前置きつきで、
  • 退職者数が減るのは確実で、その分だけ採用者数を減らさなければいけないのも確実
  • 退職者数が減るのは2年に一度だが、採用者数も2年に一度のペースで減らすとなると、職員の年齢構成が乱れるので、減少幅は年度間で均したいところ
  • 実際のところ、「フルタイム勤務の再任用職員」が「61歳以上の正規職員」に置き換わるだけなので、組織が急に高齢化することは多分ない

とのことでした。
 やはり、減少幅は未知数ではありますが、採用者数が減るのは間違いないと思われます。

やはり待遇が一番気になるのか

順番待ちをしている間は、ずっと他の参加者がどのような質問をしているのか、耳をそば立てていました。
聞こえてきた範囲では、待遇に関する質問が多かったです。
  • 有給の取りやすさ
  • 残業の有無
  • 休日出勤の有無
このあたりは誰もが尋ねていました。
そして「配属される部署によって様々です」と即答されていました。

全体的に質問をする人が少なく、質問するにしてもホームページを見ればわかるレベルのものばかりで、正直物足りなかったです。
やはり業務内容自体には全然関心がなく、「クビにならないし収入安定している」という理由だけで公務員を目指す方が多い、ということなのでしょうか……


機会があれば、都道府県庁の中途採用説明会にも乗り込んでみたいです。


「『やりたい仕事』を明確化・具体化すべき」というアドバイスは、就職活動(特に新卒)の鉄板です。

地方公務員の場合も同様で、
  • ただ「地方公務員になりたい」だけでは不十分
  • 採用後にどんな分野でどのような仕事をしたいのか、具体的に考えるべき
  • 具体的に考えるための情報収集が欠かせない

というアドバイスが、一般的になされています。

「具体的にどんな仕事がしたいか」という質問は面接でも定番で、誰もが考えなければいけないポイントです。
ただ僕は、このポイントはあくまでも面接対策として必要なだけで、「地方公務員を目指すか、それとも民間就職するか」を決断する段階では、無意味だと思います。

民間就職ではなく地方公務員になる理由は、「具体的に〜〜したい」ではなく、「地方公務員になりたい」であるほうが、健全だと思うのです。

むしろ、採用前に「やりたい仕事」を具体化・明確化してしまうほど、採用後のミスマッチがひどくなり早期離職を引き起こすのでは……とすら思っています。

まず考えるべきは地方公務員という職業そのものの特異性であり、これに魅力を感じるか否かを徹底的に吟味したほうがいいと思います。

「やりたいこと」が実現できるわけない

日本は民主主義国家であり、行政は民主主義的決定事項を執行(実行)する立場にあります。
「何をするか」「どのようにするか」を決めるのは主権者たる国民であり、行政ではありません。

この原理原則はもちろん地方自治体にも適用されます。
役所(=地方公務員)の仕事のラインナップは住民が決めるわけで、地方公務員が決めるわけではありません。
役所の仕事の多くは法令に基づいていますが、法令はまさに民主主義的決定の結果であり、法令に基づく仕事は「住民が決めた仕事」の代表例です。

法令に基づかない仕事(例えば観光振興とか広報あたり)は、一見すると役所の裁量で動かしているように思われるかもしれません。
しかし実際は、議会や業界団体や地域住民の意見に従って進められており、役所の意向で動かせるわけではありませんし、担当職員の考えを挟む余地はほぼありません。

つまるところ、役所は職員個々人の「やりたい仕事」を実現できる環境ではありません。

「やりたい仕事」が実在しても担当できるとは限らない

もちろん、役所の仕事ラインナップの中に、自分の「やりたい仕事」が含まれている場合もあり得ます。
しかし今度は、「ジェネラリスト志向」とかいう人事異動の仕組みが立ち塞がります。
異動希望はほぼ通りませんし、通ったとしても数年でまた異動させられます。
「やりたい仕事」を担当できるかどうか未知数であるうえ、担当できるとしてもせいぜい数年なのです。
僕は今年でちょうど入庁10年目になりますが、同期入庁職員の中でこれまで「やりたい仕事」に配属されたことがあるのは、だいたい3割くらいです。

人事異動の無理ゲーっぷりを定量的に知りたければ、こちらの記事をどうぞ。

 

地方公務員の仕事は刻一刻と変わっていく

そもそも、役所が手がける仕事のラインナップ自体、どんどん変わっていくものです。
わずか数年後ですら、現時点では想像もしないような仕事を一般事務職員が担っているかもしれません。

新型コロナウイルス感染症の流行前後の激変っぷりが、まさに好例です。
コロナ前の自治体はインバウンドブームでした。
「訪日外国人観光客をいかに呼び込むか」が重要課題であり、ハード・ソフトともに新規事業がバンバン展開されていました。
「これからの地方公務員は英語で日常会話できるのが当然」なんて主張もなされていました。

もし当時にタイムスリップして、「2020年に新型感染症が世界中で流行して、一般事務職員が夜な夜な居酒屋を回って会食マナーを指導したり、ホテルに駐在して患者に弁当を配るよ」なんて言おうものなら、確実に頭がおかしいと思われるでしょう。

しかしこれが現実……

「地方公務員の特異性」に魅力を感じますか?

地方公務員の面接における「やりたい仕事は何ですか?」という質問、僕は本当にナンセンスだと思います。


採用された途端に、まるで「千と千尋の神隠し」冒頭のごとく
「贅沢な名だね、今からお前の名前は『主事』だ。いいかい主事だよ。わかったら返事をするんだ『主事』!」
と言わんばかりに没個性化を強いるのに、面接段階では個性を主張させようとする。何なんですかね。


多分、この質問が「ちゃんと下調べしているか」を測るのに好都合だからなのでしょうが、受験生的には「具体的に考えるのが大事なんだ!」「熱意が重要なんだ!」と勘違いしてしまいかねません。
そもそも採用側が虚飾だらけの情報しか公表していないのに、「やりたい仕事」を明確化・具体化しろと受験生に強いるほうがおかしい気すらしてきます。

「やりたい仕事」を具体的に考えるのは、面接対策の直前期だけで十分です。 
「やりたい仕事」は、面接を通過するための方便・手段に過ぎず、真剣に考えたところで何の役にも立ちません。
特に「地方公務員になるか、国家公務員になるか、民間就職するか」という根本的進路選択には、まず役立ちません。むしろ害悪です。
 
代わりにじっくり考え抜くべきなのは、
  • 地方公務員という職業は、国家公務員・民間勤務とどう異なるのか(=地方公務員の特異性)
  • 地方公務員の特異性に対し、魅力を感じるか

この2点だと思います。
地方公務員の特異性は、すでに多くの人が論じており、書籍でもインターネット上でもいろいろな説が提唱されています。
先にも触れたとおり、役所が「何を」「どのようにするか」を決めるのは住民であり役所に自己決定権は無いという性質……俗にいう「他律性」も、地方公務員の特異性の一つです。
「原則クビにならない」「病気休暇を取得しやすい」等の勤務条件も特異性の一つでしょう。

このような地方公務員の特異性を見つけるためには、地方公務員のみならず国家公務員や民間企業のことも詳しく調べて、比較することが欠かせません。


他職種と地方公務員を冷静に比較していくと、地方公務員のメリットが実はあんまりないことにきっと気がつくと思います。
それでも「地方公務員になりたい」と思えるのであれば、それこそ真のモチベーションです。
薄っぺらな「やりたい仕事」とは段違いに深みのある、本音の「志望動機」です。 

定年延長関係の研究会報告書が、いつの間にやら総務省ホームページにアップされていました。


 

この研究会は定員管理が主な議題であり、新規採用者数についても言及されています。
僕はずっと「採用数は間違いなく減る」と考えてきましたが、果たして研究会の先生方はどう結論づけたのでしょうか?見ていきます。

<定年延長関係の過去記事>






職員増が許容される!?

以下、報告書の「概要版」ベースで、主な内容を見ていきます。
まずは「基本的な考え方」です。
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定年引上げ期間中においても、一定の新規採用者を継続的に確保することが必要

自治体の採用は、基本的に退職者補充です。
採用者数=退職者数をベースに、業務量の増減に応じて加減していきます。
また、退職者の約6割が定年退職者です。

退職者補充ベースで採用者数を検討する場合、定年引上げ期間中は定年退職者が2年に一度しか生じないことから、1年ごとに退職者数が大幅に増減し……これに連動して採用者数も増減することになります。
例えば直近だと、令和5年度は定年退職者が発生しないので、退職者数が激減します。
その結果、令和5年度の採用者数(R6年4月1日から働き始める人)も、連動して激減することになります。

研究会報告書では、このような1年ごとの採用者数大幅増減は「望ましくない」と評価しています。
職員の経験年数や年齢構成に偏りができて組織運営に支障をきたすうえ、職員人材確保の観点から問題があるからです。

そこで研究会報告書では、「一定の新規採用者を継続的に確保」「採用者数を一定程度平準化」という表現で、定年引上げ期間中の採用者数が乱高下しないよう留意を求めています。

新規採用者の検討をはじめ、中朝的な観点から定員管理を行うことが必要

目先の単年度の採用者数を検討するのみならず、定年引上げが完成する10年後を見据えて定員管理をする必要があり、職種ごとの年齢構成や採用環境を踏まえしっかり分析する必要がある、とのことです。
そのとおりですね。改めての念押しという位置づけなのでしょう。

業務量に応じた適正な定員管理である説明が必要

定年引上げというイレギュラー要因があろうとも、職員数の増減理由をしっかり住民へ説明する必要がある、とのことです。
こちらもそのとおりです。改めて言われずとも切実に考えているでしょう。

採用者数は「2か年平準化」がスタンダード!?

採用者数の平準化に関しては、さらに具体的に深掘りしています。
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注目すべきは「定年退職者が2年に一度しか生じないことを踏まえ、2年ごとの平準化を基本としつつ、各職種の状況を踏まえ、平準化を行う年数については柔軟な検討が必要」という部分です。
ざっくりいうと、定年退職者が発生する年度としない年度の採用者数の平均をとって、2年ともこの平均人数を採用する…という方法を基本としています。

例えば直近だと、シンプルな退職者補充の場合、
  • 令和5年度の採用者数(R6年4月1日から働き始める人)は、令和5年度に定年退職者数が発生しないので減少
  • 一方で令和6年度の採用者数(R7年4月1日から働き始める人)は、令和6年度は定年退職者が発生するので、前年度と比べて増加します。


研究会報告書でいう「平準化」とは、令和5年度と6年度の採用者数を均一にすることを指しており、その人数は(R5採用者+R6採用者)÷2です。
2年間の採用者数計は変わらないものの、R5採用者数は増加、R6採用者数は減少します。
R6の採用者枠の一部をR5に前倒ししたともいえるでしょう。

「平準化」する場合、R5退職者数<R5採用者数となり、R6年4月1日時点では総職員数が増加します。
その反面、R6退職者数>R6採用者数となるので、R7年4月1日時点では総職員数が減少(元通り)になります。
この「一時的な職員数の増員」を、研究会報告書では許容しています。

ここが個人的には一番の驚きでした。
過去の記事でも触れましたが、総職員数が増えないよう「採用減の前倒し」または「採用枠の後ろ倒し」するよう技術的助言してくるものかと想像していました。

採用数の減少はほぼ確実だが減少幅はそれほどでもない?

採用者数が「平準化」されて、定年退職が出る年度と出ない年度の増減幅が小さくなったとしても、定年引き上げ期間中の総退職者数が減少するのは確実であり、そのため採用者数が減るのは間違いありません。 
どのくらい減るのかという定量的情報は示されませんでしたが、報告書を読む限りでは、僕が以前試算した方法(最大▲25%)がわりといい線きているかもしれません。

あくまでも人事素人の感覚ですが、今回の研究会報告書や総務省通知は、自治体の裁量を広く認める内容なんだろうと思われます。
 
これまでの総務省の定員管理といえば、地方自治法第2条第14号「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」に基づき、「業務遂行に必要な最小の人員で賄うべき」という考え方が一般的でした。
そのため、「対外的に説明できること」を前提としつつも定年引上げが原因の職員数増加を認める…という今回の整理は、かなり斬新に映ります。

総務省からの縛りが無い分、業務量推移の見込みや、総人件費、住民や議会からの風当たり、組合との関係……等々、いろんな要素を考慮しながら、各自治体で対応を考えることになるのでしょう。
つまるところ、採用数が減るのはほぼ確実としても、採用者数の減少幅は自治体によってバラバラになりそうです。

来年度に地方公務員試験を受けようか考えている方は、採用情報に加えて定員管理情報にも注目したほうがよさそうです。

今の世の中、「デジタル化」という単語を至るところで見かけます。
 
特に地方自治体はデジタル化が遅れていると連日揶揄されており、新聞なんかでは「自治体のデジタル化が進まないせいで〜〜のような問題が生じている」みたいな指摘がほぼ毎日繰り返されています。
「ネタが無いときの紙面埋め要員か?」と疑りたくなるくらいです。
 
実際のところ、役所はアナログな組織です。
民間企業と比べて明らかにデジタル技術の導入が遅れていて、新しいサービスが提供できていなかったり、非効率なプロセスが残っていたりしています。

デジタル化の遅れは、マスコミから糾弾されるまでもなく、職員自身が自覚しています。
少子高齢化や人口減少、財政悪化、公共施設の老朽化などと並んで、誰もが共通して認識している「行政課題」の一つと言えるでしょう。
 

これから地方公務員試験の採用面接に臨む方の中には、「自治体行政のデジタル化」を志望動機に据えようと計画している方もいるかもしれません。
大学で情報関係の勉強をしていたとか、IT関係のアルバイトをしていたとか、情報処理技術者などのIT系資格を保有しているとか……このような「自分の強み」を活かして「デジタル化」を進めたい、というストーリーを練っている方もいるかもしれません。

個人的には、「デジタル化」を前面に押し出すのは、避けたほうがいい気がしています。
綺麗なストーリーが作れるかもしれませんが、それが面接官に受けるとは限りません。
 

所詮は木端役人

いくら高度なデジタルスキルを持ち合わせていようとも、地方公務員は地方公務員です。
できることには限界があります。

役所のデジタル化が遅れている案件を深掘りしていくと、デジタル以前の理由がボトルネックとして浮上してきます。
法令の規制に引っかかるとか、お金が無いとか、何より住民の理解を得られないとか……
 


デジタル化に限った話ではありませんが、行政課題は頻繁に「総論賛成、各論反対」という民意によって阻まれます。
総論として「行政のデジタル化を進めるべき」だと誰もが思っていても、あるプロセスのデジタル化という個別具体的な論点になると「それは無駄だ」「アナログのままがいい」みたいな反対意見が噴出して、止まってしまうのです。


自治体行政をデジタル化していくためには、単なる新技術の導入のみならず、デジタル以外のボトルネックを解消しなければいけません。
こういうボトルネック解消には、残念ながらデジタルスキルは活かせません。

それどころか、ボトルネックの中には自治体にはどうしようもないものも多く、職員がどれだけ有能であっても解消できるとは限りません。
デジタルに強い地方公務員が増えたところで、自治体のデジタル化は簡単には進まないのです。


このような背景が存在するために、受験生が「行政のデジタル化!自治体DX!」みたいなことをどれだけ熱く語ったとしても、面接官側としては現実味を感じられないと思われます。

「自分のデジタルスキルを活かして〜」という前置きが加わると、皮肉なことに一層非現実的に聞こえます。
個人のスキルで行政課題を解決するなんて、ちゃんと業界研究した人であればまず口にできません。
あまりに現実離れしているために、勉強不足だと思われても仕方ないでしょう。

内部プロセスなら改善できるかもだが……

とはいえ、職員のデジタルスキルだけでも対応できる課題もわずかながら存在します。
それは組織内部のプロセス改善、特に非効率の解消です。
 
  • 組織の問題……部署間のデータ共有ができていなくて、複数の部署で同じような作業を重複して行なっている
  • 職員の問題……職員のデジタルスキルが低くてデータの扱いが下手で、効率が悪い
こういう組織内部しか関係してこない課題であれば、職員個人のデジタルスキルで解決できるかもしれません。

ただし今度は、どういう課題を解決するのか具体的に挙げようとすると詰みます。

非効率の事例としてよく槍玉に上げられている「紙資料使いすぎ」とか「神エクセル」みたいな有名な課題は、徐々に改善されつつあります。
内部プロセスの改善事例として上げられている「会議資料のペーパーレス化」「テレワーク環境の整備」「RPA導入」あたりは、今やどこの自治体でも大なり小なり取り組んでいます。

こういった事例を今年の面接でなんて話そうものなら、さすがに時代遅れです。
勉強不足と思われてしまうでしょう。

組織内部の課題は、実際に組織を観察しなければ見えてきません。
特にデジタル化に関しては、自治体ごとに進捗具合がバラバラで、課題もバラバラだと思います。
めちゃくちゃ熱心にOBOG訪問してリサーチしたり、長期インターンなどで既に組織の一員として働いた経験があったりして、組織内部の状況を熟知しているのでもなければ、地雷を踏みかねないと思います。

素っ頓狂な深堀りを喰らうリスクも

そもそも面接官が「デジタル人材」の実態を理解しているか、かなり疑問です。
僕自身、情報処理技術者試験の勉強をするまでよく知りませんでしたが、一口に「デジタル人材」と言っても、色々な専門分野に分かれています。

しかし面接官は、デジタル人材といえば、
  • プログラムを作れて
  • ネットワーク配線工事ができて
  • データ分析できて
  • プロジェクト管理できて
  • SNSでバズれて
  • スマホやパソコンのおすすめの機種に詳しくて
  • パソコンの使い方をやさしくわかりやすく説明できて……
みたいなパーフェクトオールラウンダーを想定している可能性が大いにあり得ます。

そのため、面接でデジタルスキルをアピールしたら、一発目の受けは良いかもしれませんが、全然専門外の分野から深堀りされるかもしれません。

面接官的には「的確な返答が返ってくるはずだ」と期待しているところ、専門外分野ゆえにしどろもどろになってしまうと、「ハッタリかよ…」と落胆されてしまいかねません。
もちろん適切な深掘りができない面接官の方が悪いのですが、面接の場だとそういう指摘もできません。

アピールしたいなら「添えるだけ」

どうしてもデジタルスキルネタを使いたいのであれば、「行政のデジタル化」という大きな課題を持ち出すのではなく、「〇〇の分野に携わりたい、具体的にはデジタルの知見を活かして〜」みたいに、あくまでもデジタルは手段の一つとして位置付ければいいと思います。

このように位置付ける場合でも、「どうして現時点ではデジタル化が進んでいないか」理由をしっかり確認する必要があります。
ひょっとしたら、自治体では太刀打ちできない理由のために、「デジタル化したくてもできない」かもしれないからです。

こういう観点でスクリーニングしていくと
  • 法令の規制がなく
  • しっかりしたシステムを組む必要がなく(=ローコスト)
  • 住民の「お気持ち」を反映させる必要が薄い
このあたりの条件を満たす分野、具体的には広報とか観光あたりに絞られるのではないかと思います。


変な話、行政全般のデジタル化に本気で携わりたいのであれば、IT企業に就職して行政向けの機器・サービスを開発するほうがよほど近道だと思います。 
コンサルファームに入って行政関係のプロジェクトに参加するのもアリでしょう。

今年度の国家公務員受験者が久々に前年を上回ったようです。


とはいえ僕が公務員試験を受験した頃の3分の2くらいにまで落ち込んでいます。
当時より採用者数は爆増しており倍率的には歴史的低水準、つまり「合格しやすい」にもかかわらず受験者数が伸びないということは、巷でよく囁かれる「学生の公務員離れ」が進んでいると思わざるを得ません。

人事院では昨年、「国家公務員を志望しなかった理由」を調査しています。

 

国が実施する調査は、調査する前は大々的に取り上げられるものの、調査結果はなぜかスルーされがちです。
この調査も、「調査します」と発表した際にはニュースになっていましたが、3月に発表された調査結果はほとんど話題になっていなかったように思います。僕自身、つい先日気づきました。
気になった項目を紹介していきます。


全文へのリンクを貼っておきます。

もうちょっと細かく集計してほしかった

僕がまず注目したのは、本アンケート回答者の「志望状況」です。

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まず、回答者の約65%が「もともと興味なし」と回答しています。結構高いです。
ということは、このアンケート結果には、「公務員を興味が湧かなかった人」の意見が色濃く反映されています。

就活生は忙しいです。
興味が湧かない業界に対し、わざわざ時間と労力を費やしてリサーチしている余裕はありません。
ゆえにこのアンケート結果は、「公務員に興味がない人が」「直感的印象で回答している」ものと解釈するのが適切だと思います。

また、約20%が「関心があったが、やめた」と回答しています。
この層は「ちゃんとリサーチしたうえで止めた」方々であり、採用側からすれば「取りこぼし」ともいえます。
個人的には結構高いと思います。一旦公務員を検討したら受験まで一直線のイメージが強く、「よく考えたうえでやっぱりやめる」というパターンはごく少数だと思っていました。

ガチで分析するのであれば、「もともと関心がなかった」層と「関心はあったが、やめた」層を分けて集計する必要があると思います。
前者の回答は「ただの印象」で、後者の回答は「調査・熟考の結果」です。重みが違います。
なんらかの対策を講じるにしても、手法が全く異なるはずです。
公表されていないだけで、人事院内ではきちんと分析しているのでしょうが……

「人間関係と職場の雰囲気が終わっている」というイメージ

個々の回答項目を見ていくと、1問目から衝撃的な結果が出てきます。

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「人間関係や職場の雰囲気が良さそう」のスコアが飛び抜けて低い……
本省のエンドレス長時間労働や、国会議員にどやされている印象が強いのでしょうか?
「職場の雰囲気」は多忙と結びついているとして、「人間関係」とは……?

「仕事と私生活の両立ができる」も気になります。「そう思わない」がこの項目だけ頭一つ抜きん出ています。
「関心はあったが、やめた」層がこの項目でどう回答しているのか非常に気になります。
ひょっとしたら「そう思わない」に集中しているのかも……

コスパが悪い就職手段?

次の設問では「国家公務員を選ばなかった理由」を尋ねています。

先述したとおり、この設問の対象者には、「もともと関心がなかった」層と「関心はあったが、やめた」層という異質な存在が入り混じっています。
これらの2層では、「選ばなかった理由」に差がありそうですし、たとえ同じ回答を選ぼうとも、その回答に至るまでの過程は全然違うはずです。
そのため、ごちゃ混ぜで集計してもあんまり有意義ではない気もしつつ……とはいえどうしようもないので、この結果を見ていきます。

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まず目につくのが採用関係です。
「採用試験の勉強や準備が大変」が最も高スコア、「採用試験に合格しても必ずしも採用されないこと」「採用試験の実施時期が遅い」もなかなか上位に来ています。

がっつり対策しなければいけないのに採用されるかどうか不確実、つまるところ採用対策のコスパが悪いということなのでしょう。わかります。完全に同意です。

あとは「ハードワークだから敬遠している」系統の項目でスコアが高くなっています。

一方、ハードワークを厭わない層からは、処遇関係への不満がありそうです。
「出身大学が処遇に影響しそう」「能力や実績に基づいた評価がなされなさそう」「若手に責任のある仕事を任せてもらえなさそう」あたりの回答も高スコアで、実力や成果に見合った待遇を求めるバリキャリ志向のニーズに沿えていないことがわかります。

第三者発の情報のせいで受験者が減っている?

この調査では、国家公務員関係のみならず、就職活動プロセス全般についても質問しています。
中でも僕が気になったのは情報収集手段です。

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本文中でも触れられているとおり、採用側が発する公式情報のみならず、インターネット記事や口コミサイト、Twitterのような第三者発の情報も結構参照されているようです。

この傾向は、役所にとってはかなり不利です。
世間の人々の大半は、公務員に対して敵対的です。
インターネット上には、公務員批判記事は大量にあれど、公務員に好意的な記事はほとんどありません。

公務員への就職に関しても、「オワコン」「泥舟」「人生の墓場」といった否定的な記述ばかりです。
公務員就職を推奨しているのは、今や予備校くらいです。

つまり、第三者発の情報を集めるほど、公務員就職に対してネガティブな感情を抱いてしまうでしょう。
こうやって意欲を挫かれる人も、ひょっとしたら少なくないのかもしれません。

この調査結果はあくまでも国家公務員について尋ねたもので、そもそも地方公務員は対象外です。
ただし、この設問は「就職活動全般」について尋ねており、地方公務員採用でも大いに参考になります。
インターネット上の第三者意見が結構参照されていることが定量的に明らかになったという事実は認識しておいたほうがいい気がします。

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