キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

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カテゴリ: 公務員の仕事術

押印ルール見直しの機運が高まっています。
僕自身これまで非合理的な押印ルールのせいで散々苦しめられてきたので、この機にやり過ぎなくらいに簡素化すればいいと思っています。

現在生き残っているルールは、これのおかげで誰かが得をしているからこそ存続しているのだと思っています。
このため、ルールを変えようとすると、その誰かがきっと反発してきます。

現行のめんどくさい押印ルールも同様です。
世間の大多数が手を煩わせることで、誰かがきっと利益を享受しているはずです。
これから押印廃止が現実味を帯びてきたら、既得権益を死守すべく、その誰かが反旗を翻してくるでしょう。

これから押印廃止反対派との論争のネタになりそうだと思っているポイントをまとめておきます。

「押印廃止」と「行政のデジタル化」は密接に関係しているけど根本的には別問題

同じようなタイミングに話題になったためなのか、「押印廃止」と「行政のデジタル化」を混同している方がけっこういるように思います。

押印を廃止すれば、確かに紙の使用量は確実に減少するでしょう。
ただし、紙の使用量が減れば行政のデジタル化が進むかといえば、そう簡単な話ではありません。

行政のデジタル化を進めためには、押印ルール以外にも、色々な規則や慣習を見直さなければいけません。
押印廃止よりもずっと難しく、気の長い道のりになるでしょう。


一方、押印廃止の効果は、紙資源の節約(=ペーパーレス)だけにとどまりません
紙資源以外にもインクなどの節約になりますし、資材だけでなく時間や労力もカットできます。

そもそも、押印ルールの不合理・非効率は、役所に限った話ではありません。
押印問題は、少し前までは「押印作業のせいで出社せざるを得ない」というテレワーク阻害の文脈で語られていました。

たとえ押印廃止が行政のデジタル化に繋がらなかったとしても、他にもたくさんメリットがあります。
むしろ行政のデジタル化は、たくさんあるメリットのひとつに過ぎません。
とりわけ紐付けて議論する必要は無いと思います。


「行政のデジタル化」という困難な課題の一手段として「押印廃止」が位置付けられてしまう、いわば「行政のデジタル化」と「押印廃止」の間に主従関係を設けられてしまうと、押印廃止反対派にとって都合が良くなります。
「行政のデジタル化という目標のためであれば、押印廃止はあまり効果がない。コスト的に無駄だ。もっと他のところを見直すべきだ」という反論が有効になってしまうのです。

前述のとおり、押印廃止の効果は、行政のデジタル化を差っ引いてもたくさんあります。
行政のデジタル化と無理に結びつけず、ガンガン進めていいと思います。


押印をひとくくりにせず内実ごとに分けて考えたほうがいい

役所絡みの押印手続きは、ざっくり分けて以下3通りがあると思います。

①凛議文書に押印する(押印決裁)
②公文書に公印を押印する
③役所外(住民や民間事業者)から提出してもらう文書(申請書や請求書など)に押印させる

これらはそれぞれ、押印する人も違いますし、文書の宛先も異なります。
押印している背景・理由も別物です。
このため、押印廃止にあたっての検討事項も、廃止するためのアプローチも異なります。

①は、既に電子決裁システムを導入している自治体であれば、一瞬で解消します。
それを使えばいいだけです。
未導入の自治体だと時間がかかりますし、補正予算を組んで議決を経るというプロセスも発生するため、時間がかかるでしょう。

あとは公文書管理の問題も関係してきます。
「説明責任」を重視する方々にとって、決裁過程は文書で残しておかなければいけないものです。
「電子決裁を隠れ蓑にして意思決定プロセスを隠すつもりだ、許せない」と息巻いている方も既にいらっしゃいます。
こういう外圧といかに調和するか、整理が必要です。

さらにはパソコン周りの設備も更新が必要でしょう。というかやるならぜひ更新してほしい。
たとえば僕のパソコンだと、ワードファイルひとつ開くのに数十秒かかりますし、PDFファイルを開こうとすると2割ほどの確率でフリーズします。
こんな環境で電子決裁しようとすれば、データを開くための待機だけで膨大な時間を消費します。


②は、内規を見直す作業がメインになるでしょう。
あとは法律の専門家にヒアリングして、押韻を廃止しても支障無いかを確認する必要があります。
①③と比べて一番簡単だと思います。


③が多分一番難しいです。
役所の内規を見直すだけでなく、民間の商慣習・法律や会計の専門家の見解・会計検査院の動き(押印なし請求書でも適正と認められるか?)など、考慮すべき事項がたくさんあります。
自治体レベルではなかなか改革できず、まずは国の会計手続き変更を真似ることになるでしょう。


①〜③を十把一絡げにして、全ての押印手続きに対して同一のアプローチだけを講じれば、そもそもの背景・理由の違いのために、トラブルが生じるでしょう。
押印廃止反対派は、押印廃止によって発生したトラブルを目ざとく見つけて、あげつらってくると予想されます。

押印の性質をきちんと見て分類し、それぞれに個別のアプローチをとって、極力トラブルを未然に防ぎたいところです。

体験談

本記事をご覧の方には、特に学生の方だと、「どうして世間が押印を目の敵にしているのか」いまいちわからないかもしれません。
というわけで、僕の個人的経験を最後に書き記しておきます。


とある外資系企業の日本支社(以下X社)に業務を発注したときの出来事です。
僕が仕事を発注した日本法人は「Xグループの東アジア支社」という扱いでした。
日本事業の責任者は、「Xグループ東アジア支社長」です。

このような組織形態のため、X社から図領した書類には、文書の発出者として「Xグループ東アジア支社長」の氏名が記載されて、東アジア支社長の印鑑が押されていました。

僕の勤める県庁には、「民間企業から図領する支払い関係書類は全て『代表取締役社長』の押印が必要」という会計ルールがあります。
外資系企業であっても同様です。
「支社長」の押印では支払いできず、「代表取締役社長」の押印が必要です。

ダメもとで会計課に提出してみましたが、「代表取締役社長の押印を貰うこと」というメモ書きとともに即座に突き返されてしまいました。

当然のことながら、東アジア支社の独断では、代表取締役社長の印鑑(=海外にある本社の印鑑)なんて使えるわけがありません。
そのため、東アジア支社から本社に対して、押印してもいいかの稟議を回してもらいました。
X社の担当者からは「数百万円オーダーの契約で本社まで稟議を回すのは初めてです、普通は百億超えたら回すんですけど……」と苦笑されました。
僕も苦笑するしかありません。

苦笑だけで済めばよかったものの、事態はどんどんヒートアップしていきます。
稟議を回したところ、Xグループ本社法務担当から「たかが数百万円規模のくせに代表取締役社長の押印を求めるなんて、一体どんな案件なんだ?ひょっとしたらこれを皮切りに超大型プロジェクトが始まるのかい?東アジア支社には期待していいんだね?」という強烈なプレッシャーを掛けられてしまったらしく、東アジア支社は事態の沈静化に奔走する羽目になりました。

弊庁に対しても、「あくまでも事務手続き上、代表取締役社長の押印が必要なだけです、深い意味はありません」という一筆が欲しいと、わざわざ支社長から連絡がありました。

結局、2ヶ月くらいかかってなんとか代表取締役社長印を押してもらえたのですが、X社からは後々苦言を呈されました。
代表取締役社長印を押すための人件費だけで、今回の業務の利益がほとんど吹き飛んだとのこと。
「もう二度と自治体とは仕事したくない」とまで言われてしまいました。
 

僕のケースは極端かもしれませんが、役所の押印ルールのせいで誰かに迷惑をかけた経験は、公務員であれば誰でも持っていると思います。
だからこそ押印廃止の流れにときめいているのです。



どんな部署にいようとも、住民やマスコミからの「公表資料の意味がわからない、わかりやすく説明してくれ」という質問は常につきまといます。

こういう質問を受けたとときは、まずは公表資料に書いてあることを朗読するところから始めて、質問者の出方を伺うのがセオリーです。

役所的には、公表資料以外の情報は一切明かしたくないのが本心です。
資料中の言葉も図表もレイアウトも、諸々の利害関係や政治的事情を織り込んで推敲を重ねた末の成果物であり、この資料が火種になってトラブルが生じないよう予防線を張り巡らせています。
 
役所の事情を知っている人は、公表資料の裏に隠された真相を読み解こうを試みます。
「わかりやすく説明してくれ」と要求して、職員にラフな言葉遣いでしゃべらせることで失言を引き出そうとする、悪意を持った手合いなんかは日常茶飯事です。


というわけでまずは朗読するのですが、すると面白いことに、書いてある文面を読み上げただけですんなり理解してくれる方がかなりいます。

どうやらまったく同じ内容であっても、視覚では理解できないけど、聴覚経由なら理解できるのです。

認知特性を紐解いてみる

「視覚優位」や「聴覚優位」という言葉を見聞きしたことのある方は、きっと多いと思います。
宮城県ホームページにあった資料から引用します。

miyagi
情報の認知(整理・記憶・理解)にはざっくり以下の3通りがあり、人によって得意不得意があります。
  • 「視覚優位」…情報を「見て記憶する」のが得意
  • 「言語優位」…情報を「読んで記憶する」のが得意
  • 「聴覚優位」…情報を「聞いて記憶する」のが得意




資料を読んでも理解できないが、読み上げられれば(音声で説明されれば)理解できるという方は、きっと聴覚優位にあたるのでしょう。

ちなみに僕は言語優位にかなり偏っていて聴覚の認知機能はひどく脆弱です。
例えば、相手から「〇〇県庁××課の△△です。~~さんいますか?」という電話を受けたとします。
よほど調子が良いときを除き、記憶できるのは「〇〇県庁」「~~さんいますか?」の2要素だけです。ほかの部分はすぐ抜け落ちます。

あとは歌詞やセリフを聞き取るのも苦手です。
真剣にアニメ考察するときは、まずセリフの文字起こしから始めます。そうしないと頭に留めておけないのです。


言語機能の牙城

3つの認知機能のうち、役所は完全に言語機能に支配されています。
公務員の仕事では「言語機能」ばかり使い、言語機能の優劣が仕事の出来不出来、組織内での評価に直結します。
そもそも公務員試験という選抜プロセスも、言語優位者に有利なものです。
 つまり、公務員には言語優位な人間が多く、入庁後もさらに言語優位方向へと磨かれていくと考えて良いでしょう。

しかし、役所の外の世界は異なります。
言語優位者だけではなく、視覚優位・聴覚優位の方も大勢います。

最近は誰でも手軽に動画メディアを扱えるようになってきて、視覚優位・聴覚優位の方へも的確に情報を伝えられるよう日々進歩しているところです。
いまだに言語機能に頼り切りなのは、役所くらいなのかもしれません。

何よりまずは、役所は言語機能という認知の一機能に特化している異質な集団であるという自己認識を持つ必要があると思います。
「これくらい読めばわかるでしょw」みたいな高慢な態度は厳に慎むべきです。


民間企業では徐々に出張が復活しつつあるようですが、役所はまだまだ自粛傾向が続いています。
僕自身、本当なら秋シーズンは担当者会議やら説明会やらでガンガン出張しているはずなのに……今年は全滅です。

今年はリアルな会議の代わりに、オンライン会議で用件を済ませています。
ただしご存知のとおり役所は技術後進組織なので、スムーズにオンライン会議が開けるわけがありません。
万事手探りで、かろうじて回している状態です。

「どのツールを使うか」でもめる

世間的にはzoomとteamsが人気のようですが、僕の勤める県庁ではいずれも使用できません。
セキュリティルール上、使えるのはもっとマイナーなとあるツールだけです。

このため、外部から「zoomで会議しましょう」と提案されても、一旦はお断りするしかありません。
代わりに弊庁で使っているマイナーツールで開催できないか打診するのですが、すると今後は相手から「うちは内部ルール上zoomしか使えません……」と難渋を示されることがままあります。

こうなってしまうと、どちらかが内部ルールを曲げるしかありません。
それぞれ組織内のシステム部局に相談して、特例措置を求めます。

弊庁だと、相手側のルールを書面で貰って「本当にzoomしか使えない」ことを証明したり、そもそもこの会議がどれだけ大事か、メールや電話だけでは済ませられない重要案件であることを資料作って説明したり……という内部調整作業が発生します。

正直、すごく面倒です。

今はまだオンライン会議黎明期であり、システム部門もいろいろ模索しているところだと思っています。いずれルールがゆるくなるはずと期待しています。

機材トラブルは日常茶飯事

  • 映像が映らない
  • 音が鳴らない
  • ウェブカメラが認識されない
  • マイクが機能しない
  • そもそも回線に繋がらない
このあたりの機材トラブルがほぼ毎回発生しています。

役所で使っているパソコンは、低スペックで古いものばかりです。
オンライン会議という用途はそもそも想定していません。
そこに無理やりカメラとマイクをつないでいる状態なので、うまくいかなくて当然だと思います。

職場の備品を使おうとして痛い目に遭った結果、カメラ・マイクを自腹で購入する職員や、SIMカード入りの私物タブレット端末を使う職員も増えてきました。

何より困るのが回線の不調です。
僕もつい先日、庁内のインターネット回線につながらず、スマートフォンの4G回線を使う羽目に陥りました。
原因はシステム部局にて調査中なのですが、どうやら同時に庁内で多数のオンライン会議が開催されていたようで、通信量が膨大だったために弾かれたのではないか?とのこと。

端末トラブルは私物持ち込みで最悪対処できるとしても、回線不調はどうしようもありません。
こればかりは早急になんとかしてもらいたいところです。

ペーパーレスではない(資料は紙で用意する)

諸々の苦難を乗り越え、ついにオンライン会議が始まりました。

「こんにちは〜〇〇県庁のキモオタクです、聞こえますか?」
「聞こえますよ〜、いつもお世話になってます〜」

ありきたりな最初の挨拶ですが、ここにたどり着くだけでめちゃくちゃ感動します。

「オンライン会議」といえば、テレビ電話のように相手の顔を見つつ、画面上で資料を共有して進めるのが普通だと思います。
よくある「ウェビナー」はこんな感じですよね。

しかし役所のオンライン会議では、画面上での資料共有は基本的にやりません。
資料は手元に、紙媒体で用意します。

先述したとおり、役所が使う端末はロースペックです。
画面が小さく解像度が低いので、画面上に資料を表示しても読めません。

資料は前日までにメールで送ってもらって、各自印刷して会議に臨みます。
重要なのは、印刷条件をちゃんと伝えることです。

印刷条件を特に指定しなかった場合、たいていどの資料もA4モノクロで印刷されてしまいます。
資料自体がフルカラーであっても、わざわざトナー代を費やしてくれるほどリッチな組織はあまりありません。

こちらとしてはカラーで見てもらいたいビジュアル資料であったり、A3で印刷することを想定して内容を詰め込んだ資料であったとしても、ちゃんと伝えない限り、相手は解ってくれません。
色(カラーorモノクロ)や、用紙サイズくらいは、しっかり指定しておいたほうが、当日の進行がスムーズになると思います。

資料のどこを見ているのかわからなくなる

オンライン会議中は、手元の資料と画面上の相手の顔を交互に見ることになります。リアルな会議と同じです。
しかし不思議なことに、リアル会議よりも、相手が資料のどこを見ているのか(説明しているのか)わからなくなる事態が多発します。

特に注意が必要なのは指示代名詞です。


ニジガク 説明.001
突然のダイマ。過去シリーズでは尺不足のために描ききれなかった(かつファンが渇望していた)「個」あるいは「個×個」の物語を丁寧に紡いでいこうという気概を感じる。単純に自己実現の物語として上質。クライマックスをどう設えるのか、そこにどう持っていくのか(「個」の物語をどうやって撚っていくのか)が楽しみすぎて毎週真剣。(オタク特有の早口)


例えば、上の資料の説明を受けているときに、「その次の理由ですが〜」「その右にあるグラフをご覧ください」と言われたら、一体どこを指しているのか、すぐに察せるでしょうか?

ちゃんと話を聞いていれば、文脈的にどこなのかすぐわかると思います。
しかしオンライン会議の場合、先述のとおり、機材トラブルで音声が飛んで(しかも相手には飛んでいることがわからない)、説明がぶつ切りになることがよくあります。
長丁場になると集中も途切れやすいです。ついつい別のことを考えたりしてしまいます。
つまり、文脈が途切れやすいのです。
 
しかも役所が作る資料は、限界まで情報が詰め込まれた中身ギチギチの1枚紙です。
お世辞にも見やすいとは言えません。リアル会議であっても、どこを説明されているのかわからなくなりがちです。



ニジガク 説明.002

ちょっと修正してみました。
仰々しいかもしれませんが、「2(2)の理由ですが〜」「図1をご覧ください」というように番号で示せるようにして、指示代名詞は極力使わないほうが親切だと思います。

複数ページにわたる資料の場合はページ番号が必須です。
複数ファイルに分かれている場合には、さらに資料番号を振る必要があります。
手間は増えますが、ページ番号を通しで振るほうがより親切かもしれません。

機材さえなんとかなれば実際便利

これまで十数件のオンライン会議を経て、一方的に話を聞くだけの説明会や、2陣営までの会議であれば、オンラインで十分だと思うようになりました。
資料の作り方にさえ気をつければ、誰でも開催できると思います。

他方、多数の陣営がいて議論が錯綜する会議だと、経験のあるファシリテーターが必要だと思います。
オンラインの場合、紛糾したら収拾がつきません。


今のところ、組織の小さい市町村のほうが、サクッと設備を充実させてオンライン会議に移行できているように思います。
県内のとある僻地自治体からは「オンラインのほうがずっと楽だし、もう県庁行かないわ(笑)」と宣言されてもいます。

役所はこれまであまりにデジタル経験値を積んでこなかったので、当分はうまくいかなくて当然です。
「じこはおこるさ」の精神で慣れていくしかないと思います。

地方公務員がたどるキャリアは人それぞれです。
僕のように頻繁かつ無秩序に異動する人もいれば、何年も同じ業務を担当し続ける人もいます。

後者のパターンだと、担当業務に飽きてしまうこともあると思います。
役所は基本的に民主主義プロセスによって決められた事項を実施する手足であり、意思決定機関ではありません。
下っ端の職員には尚更、権限も裁量もなく、その役割は作業が中心にならざるを得ません。
ひととおり業務のルールを覚えてルーチンワークをこなせるようになり、ボトムアップでも実行できる程度のマイナーな業務改善を終えてしまえば、あとは同じような日々が続くことになります。

こういう淡々とした日々を送って給料がもらえるという環境は、実際かなり幸せなことだと思います。
しかし人間はわがままなもので、新鮮味や刺激が欲しくなるものです。

そんなときは、役所以外の関係者の目線を調べてみれば、眼前の作業が再び新鮮に映ると思います。

「役所だけの案件」ではない

庁内調整業務を除き、役所が携わる仕事には、役所外にもたくさんの関係者がいます。
むしろ役所は関係者の一角でしかありません。
それぞれの関係者ごとに役割が異なり、実行する作業内容も異なります。
そしてそれ以上に、その仕事に対する目線(認識、スタンス)が異なります。

地方公務員として働いているだけでは、普通は「役所の担当者」という一関係者の目線からしか、仕事を捉えません。
関係者それぞれの考え方を知り、「役所の担当者」以外の視線から仕事を眺めてみれば、きっと新しい発見があるでしょうし、よりよい結果につながるかもしれません。

典型的な「関係者」

仕事によって登場する関係者は様々です。
ここではどんな業務でも関係者として存在しそうなものを挙げていきます。

住民

公務員なら誰しも「住民目線を持て」という訓示を受けたことがあるでしょう。

僕も何度も聞かされてきましたが、自治体内に暮らす全住民を合算したようなマクロな意味での「住民」を想定すべきなのか、一人一人の個々人の感情や損得を重んじるミクロな意味での「住民」を想定すべきなのか、その中間のどこかで落とし所を見つけるべきなのか……いずれの方法を採るのか次第で、獲得すべき「住民目線」は全く異なってきます。

今回の場合は、「受益者」「負担者」「賛同者」「アンチ」「無関心層」のような特徴的なスタンス別に、住民目線を想定すればいいと思っています。

議員

議員の最大のモチベーションは再選です。
どうすれば得票につながるかを考えれば、議員さんの思考も見えてくるでしょう。

議員さんの背後には、財界や地域の有力者が控えています。議員目線を知ることは、こういう影の実力者の利害関心という、別の目線を知ることにも繋がります。

マスコミ

マスコミの目的は視聴者・読者の関心を集めることです。
そのために、事実を組み合わせてストーリー化したり、要素を削ぎ落として単純化することが多いです。

まずは「自分の担当業務をスキャンダルに仕立て上げるにはどうすればいいか」を考えてみたら、いい練習になると思います。

一見地味な業務でも、別の事業と組み合わせたり、過去事業の延長線上に位置付けてみたりしたら、ものすごいインパクトを生むかもしれません。
マスコミはこういう潜在的爆弾を探し求めています。

アカデミック

役所の仕事は学術的な研究対象でもあります。
研究成果をまとめた書籍もたくさんありますし、ciniiで論文を調べても多数ヒットします。

本省も絡む業務であれば、国が設置した有識者会議のような組織でも、学術的観点からの考察がなされているかもしれません。

自治体広報には「全員にもれなく理解させなければならない」という原則があります。
これを達成するためにはアナログな手法をベースにせざるを得ません。
デジタルな方法だと、ツールをうまく使えない人に対して、情報を伝達できないためです。

とはいえSNSアカウントの運用のような、今時のデジタルな広報も、間違いなく重要です。
手間もコストも、発信に至るまでの時間も大幅に削減できます。
使える手段も増えて、内容も充実させられます。

デジタルな広報業務を担う職員は、地方公務員の中でも圧倒的少数です。
多分、1000人に1人くらいでは?
担当者は一から独力で勉強し、誰にも相談できず、孤軍奮闘する羽目に陥りがちです。

僕も観光の仕事をしていたとき、公式SNSを運用していた時期がありました。
幸いにも僕の場合、2ちゃんねるに始まり、ふたば、爆サイ、mixi、facebook、twitter、instagram、マストドンなどなど、それなりにインターネットでのコミュニケーションに触れてきた経験があったおかげで、ネット上の作法には自信がありましたし、すぐに「それっぽい」運用ができました。
最近のギスギス具合を見ていると、「リナカフェなう、誰か氏〜」とか言ってた頃のTwitterが本当に懐かしくなります。

しかし、こういう予備知識がない人間がいきなりSNSを任されたら、かなり大変だと思います。
前述のとおり圧倒的少数派であり、庁内にも仲間がいないので、疑問があっても誰にも相談できないのです。
自分の力でなんとかするか、自治体をまたいだ横のつながりを作るしかありません。

そんな悩める広報担当職員にぜひお勧めしたいのが、先月発刊された『まちのファンをつくる 自治体ウェブ発信テキスト』です。


今年読んだ役所本の中でも暫定ナンバーワンです。
若手よりも、ある程度役所の常識が染み付いてきた職員のほうが、心に響くと思います。

ひたすら具体的でわかりやすい

よくあるビジネス書だと、抽象的な概念図や数式を用いて、広報のコツを紹介しています。
民間企業のサラリーマンであれば、普段から身近にマーケティングのことを考えているために、概念を説明されるだけで自らの経験とリンクできて腹落ちするのかもしれません。
 
しかし公務員の場合、そんな素地がありません。
抽象的な一般論を説明されても、字面を追うのに必死で、理解できるとは限りません。

本書はひたすら事例ベースで具体的です。抽象概念や専門用語が無く、すっと理解できます。
読んだらすぐに実践できる事柄も多数取り上げています。

これからの予算要求にぴったり

本書で取り上げているのは、全国の自治体が実施している先進事例・成功事例です。
まさにこれからの来年度予算要求にも大いに役立つと思います。
新規施策のヒントにしたり、予算折衝の材料に使ったり……全部で100事例も掲載されているので、きっと参考になるものが見つかるでしょう。
発刊のタイミングが絶妙です。


職員が疑問に思うポイントを的確に押さえている

僕がSNS運用に関わったのは半年弱でした。
2ちゃんねる(大学受験サロン)でコテハンやっていた頃と同じ感覚で、何より炎上しないように節度を保ちつつ、応援したくなるような誠実さ・好感度を演出するように投稿していたのですが、本当にこれでいいのか迷う場面も多数ありました。

本書を読んで僕が何より感激したのは、当時疑問に思っていたポイントの多くが、本書で触れられていたことです。
著者の方は本当に自治体のことをよく見ていると思います。
自治体職員が悩みそうなポイントを把握していて、答えを提示しているのです。


例えば、SNSアカウントに寄せられたリプライへの反応。
僕の場合、炎上回避のため、以下のルールで運用していました。
  • 基本的に反応しない(プロフィールにあらかじめ明記しておく)
  • 投稿内容のミスを指摘するリプライのみ、感謝の意を返信する(「黙って修正した」と後から叩かれないように)

当時この本があったら、このような対応には止まらなかったと思います。


攻めに転じる手がかりとして

インターネット上には意図的に炎上案件を発生させて楽しむ悪い人がたくさんいます。
そんな方にとって、自治体は格好のターゲットです。
幸い、自治体には炎上を回避するノウハウが豊富に蓄積されています。
公平性と網羅性の徹底なんかは、その最たるものでしょう。

まずは行政ならではの守備優先の運用方法を習得してから、本書にあるような「攻めの運用」を考えていけばいいのではないかと思います。

広報のレベルは、自治体ごとに相当格差があります。
あえて力を入れていない(広報より内実に注力する)という考え方の自治体もあるのでしょうが、そうであったとしても、全国的な成功事例・先進事例を知っておくことは重要だと思います。
手軽に全国の事例を総ざらいできるという意味でも、本書は大変有用です。

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