キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

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タグ:公務員の未来

つい先日、現役官僚(総合職採用)の友人から転職相談を受けました。
(転職したいと思った背景とか、僕みたいな就職弱者に相談してきた理由とか、後日別記事にまとめます。)

友人の話を聞きながら、僕はデジャヴを覚えていました。
どこかで聞いたことがある……というか、見たことがあるのです。

正体はこの本です。

ブラック霞が関(新潮新書)
千正康裕
新潮社
2020-11-18

 

実は本書、発刊当初に読んでいたのですが、このブログではあえて取り上げていませんでした。
内容が大変に素晴らしく、かつ僕の思いと重なる部分が多くて、本ブログの存在価値が無くなってしまうからです。
むしろ本書を読んだ後にこのブログの過去記事を漁ったら「パクリか?」と思われそうです。

今回、今まさに霞が関から離れるかもしれないリアル官僚からの話を聞いて、本書の記述が現実にしっかり裏打ちされていることを改めて痛感しました。
このブログの存在価値は最早どうでもいいです。
本書をわずかでも広めることのほうが有意義だと思い直しました。

そもそも本ブログを読んでいる方は、プライベートの時間にわざわざ公務員のことを考えている方であり、行政や公務員への関心が強い方でしょう。
本書のこともご存知であり、既読という方も大勢いるでしょう。

もし未読の方がいれば、このブログを読んでいる場合ではありません。
ぜひ本書を読んでみてください。


現状&提言


朝七時、仕事開始。二七時二〇分、退庁。ブラック労働は今や霞が関の標準だ。相次ぐ休職や退職、採用難が官僚たちをさらに追いつめる。国会対応のための不毛な残業、乱立する会議、煩雑な手続き、旧態依然の「紙文化」……この負のスパイラルを止めなければ、最終的に被害を受けるのは国家、国民だ。官僚が本当に能力を発揮できるようにするにはどうすればいいのか。元厚生労働省キャリアが具体策を提言する。(出版社ページより)



本書のことを暴露本だと思っている方もいるかもしれません。
あまりにも勿体無い勘違いです。
本書は現状解説にとどまらず、具体的解決策の提言まで踏み込みます。

本書の内容は、現役公務員からすれば、目新しさは無いかもしれません。
どこかで見聞きしたり、自ら経験したことのある内容も多いでしょう。

ただ逆にいえば、本書の内容は、現役公務員にとって非常に身近なものです。
今まさに感じている不安や課題が、自分の周りだけの局地的事象ではなく、誰もが抱えている「行政全般に共通する」んだと気づくだけで、幾分か元気付けられると思います。

「役所で働く喜び」のリアルなあり方

本書には「キャリア官僚として働くことの楽しさ」が随所に盛り込まれています。
使い古された陳腐な表現ですが、まさに「書き手が目の前で語っているかのような」リアル感と情熱をもって、胸に迫ってきます。
採用パンフレットや説明会よりもわかりやすく、官僚の仕事の魅力が記されているかもしれません。


かつて僕が学生だった頃、官僚志望の東大生集団と交流したときのことを思い出しました。
(以下記事の中ほどで紹介したエピソードです)


本書を読んで、むしろ「官僚になりたい」と思う方もいるかもしれません。
反対に、本書にある「官僚の役割」に違和感を覚えるのであれば、明らかに向いていないと思います。


「国民の声」で行政が変わる……とは期待できない

本書の記述の中で、個人的に同意できない部分が一箇所だけあります。
「政府も国会議員も、国民の声を無視できなくなった」という部分です。

ここ最近の「国民の声」なるものは、実際にはメディア(あるいはメディアを動かす「黒幕」)の声だと思っています。
「国民の思い」の総体が「国民の声」になるわけではなく、メディアが喧伝する「国民の声」を、国民が「マジョリティはそう考えているのか…」と受容しているだけです。

自治体で勤務している身からすれば、こう感じざるを得ません。
住民から寄せられるリアルな意見や苦情、要望は、メディアが報じる「国民の声」とは異なります。

本書には国民の意識改革を促す意図もあるため、あえて「国民が主役」であるかのようにぼかしているのかもしれませんが……


役所現場がウィズコロナを考えるには時期尚早な気もしますが、備忘録も兼ねて、現時点で想定される展開を書き残しておきます。

長期化する不信感・感情的反発

今年4月〜5月にかけての、全国的流行から経済活動停止までの流れでは、都道府県知事の責任を訴える声が非常に強かったです。


  • 感染者が出るたびに知事が会見していたということは、知事が責任者だ
  • 経済活動の自粛要請の呼びかけ役だった
  • 結果的に抑え込めずに感染拡大を許し、経済活動が停滞した

僕が直接対応した苦情電話では、このあたりの主張がよく登場しました。

いずれにせよ、「感染拡大・経済停滞は行政による人災だ」「行政のミスを住民が自粛という形で尻拭いさせられている」という確固たる認識の下、知事を叩いていました。

この時期は本当にしんどかった。
庁内どこも外部からの電話に忙殺されていて、電話回線が常時パンク状態で、役所機能が停止しかけていました。
物理的にF5アタックを食らっていた気分です。

電話の内容のほとんどは、具体的な救済を求めるものではなく、感情的な反感でした。
論理もへったくれもありません。要約すれば「お前らムカつく」に収束する内容です。
具体例は伏せさせてください。思い出すだけで気分が沈んでしまいます。

平日は批判電話への対応で仕事が進まないので、休日出勤を余儀無くされていました。
休日であれば、設定上「営業していない=職員は誰もいない」ため、電話に出る必要が無いからです。
鳴り響く電話を無視して、事務作業に勤しんでいました。

知事叩きも役所への電話攻撃も、今では随分落ち着きました。
しかし、世間の不満感情そのものが解消されたわけではありません。
インターネットを少し散策してみると、当時となんら変わりのない憎悪を燃やしている方が大勢います。

この憎悪の根本には、「感染拡大・経済停滞は行政による人災だ」「行政のミスを住民が自粛という形で尻拭いさせられた」という認識があります。
この認識は、もはや変えようがありません。「今年4月〜5月の一連の出来事」という歴史的事実が、この認識の根拠だからです。

失望は広範にみられる

感情的な反発までは至らなくとも、役所に失望した方は非常に多いと思います。

今回の騒動では、首長の言動だけでなく、役所組織や木っ端公務員の仕事っぷりも激しく叩かれました。
「いまだにアナログ」とか、「意思決定が遅い」とか、「言い訳ばかり」とか、「住民感情に寄り添っていない」とか……

中でも「いまだにFAXが現役」「結局人海戦術」「オンライン申請の相次ぐ不備」あたりは、強く印象に残ったのではないかと思います。

さらに今回は、特別定額給付金事業を通して、国民のほぼ全員が役所と関わりを持ちました。
連日流れる「給付が遅い」「ルールがおかしい」という批判報道を、自分ごととして受け止め、強い関心をもって眺めていたと思います。
つまり、「いつ10万円が手に入るのか」という個人的利害のために役所の存在が普段より身近に感じられていたところに、どんどん公務員&役所批判報道が流れてきたのです。

この結果、「公務員&役所は無能」という認識が、相当数の方に深く刷り込まれたと思います。
特にこれまで役所に対して中立・無関心だった層を、一気に潜在的アンチへと転化させたといえるでしょう。

実務への影響

燃えたぎる憎悪が拡散してしまったために、官民協働・住民参加型のような施策は、今後難しくなるんじゃないかと危惧しています。

さらには住民訴訟も避けられないと思います。
「新型コロナウイルスの拡大も経済活動の停滞も都道府県による人災である」という認識に立てば、役所がミスしたために自分に損害があったわけで、諸悪の根源たる役所に賠償を要求するのが必然の流れです。

どういう形をとるかはわかりません。今まさに作戦を練っているところかもしれません。
とりあえず現時点では、公文書公開請求されたものは訴状に使われると思っておいて間違いないと思っています。

私刑執行に巻き込まれる

正当な権限を持たないにもかかわらず、他人の心身に危害を加えたり、権利を制限・侵害する方(以下「私刑執行人」)が、世の中には大勢います。
今年流行った「自粛警察」も、こういうタイプの方の一種です。

役所には以前からこういう方がよく訪れます。
公務員に対して自ら私刑を執行しにくるだけでなく、別の誰か(役所とは全く関係のない個人や団体)に対して刑を執行するよう働きかけてくるケースも多いです。

このたび「自粛警察」が大々的に報道され、世間から否定的に捉えられたために、自ら私刑を執行するのは難しくなっています。
とはいえ燃えたぎる正義感(または悪意)を抑えることはできません。何らかの形で他人を罰しないと気が済まないのです。

そのため、従来のように自ら個人で私刑を執行するのではなく、
  • 第三者を動かして、間接的に私刑を執行する
  • インターネットなどを使って賛意を集め、個人ではなく集団として刑を執行する
という動きが強まるのではと考えています。
 

役所への影響:加害者かつ救済者かつ被害者

役所にも、それらしい理屈を作って私刑を執行するよう訴えにくる案件がますます増えると思います。
同時に、「私刑は悪いこと」という認識が浸透したために、従来は泣き寝入りしていた私刑の被害者からの救済申立も増えるでしょう。

私刑の中には、純粋に民民の問題であり、行政が絡むべきではない案件も多数あります。
「執行しろ」という圧力であれ「助けてくれ」という要請であれ、関係ないものははっきり断る姿勢が重要でしょう。

前述の憎悪のために、役所や公務員に対する私刑執行も増えると思います。
これまで以上に身の振り方に注意が必要です。

大手マスコミに弄ばれる

新型コロナウイルス関係の報道では、自治体の首長の発言が頻繁に取り上げられています。
発言そのものをスキャンダル扱いするだけでなく、国の方針と対立させたり、別の自治体と対比させたり……便利に使われています。

経緯も文脈も無視して発言の一部を意図的に切り取られているケースも多々あります。
大手マスコミにとって、地方自治体の首長なんて恐るに足らない相手なのでしょう。

地方自治体の首長ネタは、そこそこウケているようです。
最近炎上した首長の名前をgoogleトレンドで検索すると、失言したタイミングで検索数が急上昇しており、視聴者に影響を与えられていることが見えてきます。

反応が上々ということで、今後も首長は雑に扱ってもいい便利ネタとして使われていくのでしょう。
 
そのため、大手マスコミの地方支社には細心の注意を払う必要があると思います。
現状既に、ネタ集め目的なのか、記者会見で誘導尋問みたいな質問をしたり、各課の担当職員に詰め寄ったり……などなど、これまでにない攻勢を敷いているように思われます。


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