キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

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全国的にイベントごとが復活してきました。
(最近はまた怪しくなってきましたが……)
ただし、都市部と田舎を比べると、かなりの温度差を感じます。都市部のほうが復活のペースが早いです。

これから当面の間、田舎では、イベントごとに限らず、地域住民発の活動が下火になると思っています。
キーパーソンがいなくなるからです。
 
キーパーソンの内訳は様々です。リタイア後の地域住民、副業サラリーマン、ボランティア、地域おこし協力隊、イベント会社のプロデューサーなどなど……意欲的に地域を盛り上げようと励んでいる方を指します。

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【YouTube限定公開】コットンキャンディえいえいおー! Special MV(https://www.youtube.com/watch?v=Ksf_gq6fZZM )

こうした方々はこれまで、イベントの企画運営、地域住民コミュニティの運営、スモールビジネスなどを通して、地域を盛り上げてくれました。
しかし今後こうした方々は地域活動から離れていってしまうのでは、もしかしたら既に離れてしまったのでは?というのが、僕の懸念です。

キーパーソンはコロナ下でも活動している

かつて観光の仕事をしていた頃、地域のキーパーソンの方々ともよく関わりました。
今でも各種SNSで活動を追いかけています。

彼ら彼女らは、例えるならマグロです。
燃えたぎるパッションのために、活動を止められません。

新型コロナウイルス感染症のせいで外部環境が変わろうとも、彼ら彼女らのパッションは不変です。
人との接触や越境移動が制限されようとも、活動意欲は抑えられません。

そこで彼ら彼女らは、オンラインに活路を見出します。
オンライン上で同士を募り、できることを模索していくのです。

オンラインの悦びを知った上で地域に戻ってくるか?


思うに、田舎のリアル社会で活動するよりも、オンラインで活動するほうが、あらゆる面で有益です。

多くのターゲットにアプローチできる


田舎の地域社会でどれだけ精力的に活動しても、見込み客の数には上限があります。
いずれ頭打ちになって停滞せざるを得ません。
オンラインであれば可能性は無限大です。

全国の有能かつモチベーションの高い仲間と協働できる


田舎はそもそも人員の頭数が少ないですし、地域活動に意欲的な人間になるともっと少ないです。スキルもありません。
つまるところ、人的リソースが圧倒的に不足しています。
そのため、最終的なアウトプットの質も量も、自ずから限界があります。

一方オンライン上には、自分並みの有能な人間がごろごろいます。
そういった層と協力し合えば、地域住民とでは成しえなかったスケールのアウトプットが実現できます。

大きな仕事を達成する悦びを知ってしまった後に、ちんまりした事業を再開する気が果たして起こるでしょうか?
しかも仲間は、やる気も能力も今ひとつな田舎住民達。
オンライン上で出会った、意志を同じくする全国の優秀な仲間達とは雲泥の差があります。
 
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ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル ALL STARS メインストーリーより

たいていの人にとっての地域活動は「やったらやったで楽しいけど、やり始めるまでは腰が重い」ものだと思っています。
いったん日々のルーチンに組み込まれてしまえば有意義に感じられます。
ただし一旦ルーチンが途切れると、再開するのは大変です。面倒臭さが勝ります。

新型コロナウイルス感染症のせいで、ほとんどの地域で活動のルーチンが途切れたことと思います。
キーパーソンの仕事は、まずは他の住民を呼び戻すことです。
やる気の冷えてしまった住民を再び揺り動かして、巻き込まなければいけません。
すぐに活動そのものを再開できるわけではありません。いわば土壌作りからやり直しなのです。

人間関係面でのオンライン活動との落差は凄まじく、地域住民への幻滅すらありえると思います。
この難局を果たして乗り越えられるのか?僕は正直悲観しています。

しがらみが無い


リアル田舎社会だと、外部から横槍が入って企画が頓挫するという事態が多発します。
議員古老が許さないとか、地元メディアが自社の営利活動に組み込むべくああしろこうしろと口出ししてくるとか……
「教育のため」をお題目に無理難題・私利私慾をぶつけてくるPTA団体もかなり厄介と聞きます。
他住民から妬まれて不快な思いをすることもあるでしょう。

オンラインだと、こうしたしがらみから随分解放されて、自分の思い描くままに活動できます。

(妬み・嫉妬はむしろもっとひどいかもしれませんが)

自分のキャリアアップにつながる


田舎社会でどれだけ頑張って成果を出しても、最終的に到達できるのはせいぜい地方議員くらいです。
オンラインであれば全国区の専門家へと羽ばたけます。
どっちが好ましいかは人それぞれでしょうが、大抵は後者を選ぶのでは?


とにかく、一度オンラインでの活動を経験したら、あまりの心地よさのために、二度と地域活動に戻ってきてくれないのでは?と思えてならないのです。

決めるのは「住民の人柄」


合理的に考えれば考えるほど、オンライン上での活動を続けるほうが賢い選択です。
堅固な合理的理由を打ち破り、彼ら彼女らを地域に繋ぎ止められるとしたら、地域住民との絆しかないと思います。
  • やる気も能力もいまひとつだけど、一緒に活動しているとなぜか楽しい仲間
  • お金も名誉もくれないけど、素直に喜んでくれる地域住民


こういう存在が桎梏とならない限り、キーパーソンは地域を飛び出していってしまうと思います。

今更どうこうできる話ではありません。これまで(コロナ発生前まで)の蓄積の問題です。
キーパーソンが孤軍奮闘していたような地域はさらに衰退するでしょうし、地域全体で盛り上がっていたところは早々に復活するでしょう。


かつて観光の仕事をしていた人間がこんなこというと怒られてしまいそうですが、僕はイベントごとは「確固たる目的があるものを除き不要」だと思っています。
この機にゾンビイベント(特に意味なく延命されている、開催することだけが目的なイベント)が払拭されればいいなと思うくらい。
ゾンビイベントが減れば、会場や人員、予算面でのリソースが生まれて、新しい「目的のある」イベントが生まれてくるはずです。

自治体広報には「全員にもれなく理解させなければならない」という原則があります。
これを達成するためにはアナログな手法をベースにせざるを得ません。
デジタルな方法だと、ツールをうまく使えない人に対して、情報を伝達できないためです。

とはいえSNSアカウントの運用のような、今時のデジタルな広報も、間違いなく重要です。
手間もコストも、発信に至るまでの時間も大幅に削減できます。
使える手段も増えて、内容も充実させられます。

デジタルな広報業務を担う職員は、地方公務員の中でも圧倒的少数です。
多分、1000人に1人くらいでは?
担当者は一から独力で勉強し、誰にも相談できず、孤軍奮闘する羽目に陥りがちです。

僕も観光の仕事をしていたとき、公式SNSを運用していた時期がありました。
幸いにも僕の場合、2ちゃんねるに始まり、ふたば、爆サイ、mixi、facebook、twitter、instagram、マストドンなどなど、それなりにインターネットでのコミュニケーションに触れてきた経験があったおかげで、ネット上の作法には自信がありましたし、すぐに「それっぽい」運用ができました。
最近のギスギス具合を見ていると、「リナカフェなう、誰か氏〜」とか言ってた頃のTwitterが本当に懐かしくなります。

しかし、こういう予備知識がない人間がいきなりSNSを任されたら、かなり大変だと思います。
前述のとおり圧倒的少数派であり、庁内にも仲間がいないので、疑問があっても誰にも相談できないのです。
自分の力でなんとかするか、自治体をまたいだ横のつながりを作るしかありません。

そんな悩める広報担当職員にぜひお勧めしたいのが、先月発刊された『まちのファンをつくる 自治体ウェブ発信テキスト』です。


今年読んだ役所本の中でも暫定ナンバーワンです。
若手よりも、ある程度役所の常識が染み付いてきた職員のほうが、心に響くと思います。

ひたすら具体的でわかりやすい

よくあるビジネス書だと、抽象的な概念図や数式を用いて、広報のコツを紹介しています。
民間企業のサラリーマンであれば、普段から身近にマーケティングのことを考えているために、概念を説明されるだけで自らの経験とリンクできて腹落ちするのかもしれません。
 
しかし公務員の場合、そんな素地がありません。
抽象的な一般論を説明されても、字面を追うのに必死で、理解できるとは限りません。

本書はひたすら事例ベースで具体的です。抽象概念や専門用語が無く、すっと理解できます。
読んだらすぐに実践できる事柄も多数取り上げています。

これからの予算要求にぴったり

本書で取り上げているのは、全国の自治体が実施している先進事例・成功事例です。
まさにこれからの来年度予算要求にも大いに役立つと思います。
新規施策のヒントにしたり、予算折衝の材料に使ったり……全部で100事例も掲載されているので、きっと参考になるものが見つかるでしょう。
発刊のタイミングが絶妙です。


職員が疑問に思うポイントを的確に押さえている

僕がSNS運用に関わったのは半年弱でした。
2ちゃんねる(大学受験サロン)でコテハンやっていた頃と同じ感覚で、何より炎上しないように節度を保ちつつ、応援したくなるような誠実さ・好感度を演出するように投稿していたのですが、本当にこれでいいのか迷う場面も多数ありました。

本書を読んで僕が何より感激したのは、当時疑問に思っていたポイントの多くが、本書で触れられていたことです。
著者の方は本当に自治体のことをよく見ていると思います。
自治体職員が悩みそうなポイントを把握していて、答えを提示しているのです。


例えば、SNSアカウントに寄せられたリプライへの反応。
僕の場合、炎上回避のため、以下のルールで運用していました。
  • 基本的に反応しない(プロフィールにあらかじめ明記しておく)
  • 投稿内容のミスを指摘するリプライのみ、感謝の意を返信する(「黙って修正した」と後から叩かれないように)

当時この本があったら、このような対応には止まらなかったと思います。


攻めに転じる手がかりとして

インターネット上には意図的に炎上案件を発生させて楽しむ悪い人がたくさんいます。
そんな方にとって、自治体は格好のターゲットです。
幸い、自治体には炎上を回避するノウハウが豊富に蓄積されています。
公平性と網羅性の徹底なんかは、その最たるものでしょう。

まずは行政ならではの守備優先の運用方法を習得してから、本書にあるような「攻めの運用」を考えていけばいいのではないかと思います。

広報のレベルは、自治体ごとに相当格差があります。
あえて力を入れていない(広報より内実に注力する)という考え方の自治体もあるのでしょうが、そうであったとしても、全国的な成功事例・先進事例を知っておくことは重要だと思います。
手軽に全国の事例を総ざらいできるという意味でも、本書は大変有用です。

大型市役所や県庁志望の方は、今ごろ面接ネタを練っているところと思います。
中には「役所だけではどうしようもない課題を、住民や民間企業と協力しながら解決していきたい」という展開を考えている方もいるかもしれません。
 
とても耳触りの良いストーリーではありますが、実務をやっている身からすると現実味がありません。
面接官としても心を動かされないと思います。

協力してもらえれば解決できそうな課題は実際たくさんありますが、「いや役所の責任でしょ」と一蹴されるのが常であり、そもそも協力しあえる素地があれば、現存する社会課題の多くは今ほど深刻になる前に解決できていたはずです。
いまだに課題のまま残っているものは、過去に協力を仰ごうとして失敗したと考えるほうが自然です。

もし「住民・民間企業との協力による課題解決」要素を使いたいのであれば、国内自治体の成功事例を探しておいたほうがいいと思います。
少なくとも事例が無いと、根拠があまりにも薄弱だからです。

ただし、どんなに優れた成功事例があったとしても、指定管理者ネタだけは絶対に避けたほうが無難です。
全国各地でトラブルが相次いで発生していて、職員を悩ませているからです。

指定管理者の懐具合

指定管理者制度の概要は、インターネットで検索したほうが正確かつわかりやすいでしょう。
ここでは省略して、お金の話を中心に進めていきます。

役所側から見ると、指定管理者制度は
  • コスト削減(特に人件費)になる
  • 役所では提供しづらいサービス(物販や飲食、娯楽イベントなど)を提供でき、施設の魅力向上につながる
というメリットがあります。

一方、指定管理者として施設を預かる民間側(受託者)からすると、
  • 設備は役所が準備してくれるので、初期投資なしで事業が始められる
  • 賃料や固定資産税がかからないので、運営コストが安い
  • 指定管理料という安定収入を得られる
というメリットがあり、一見双方にとってお得な制度のように見えます。

建前はこんな感じなのですが、実際やってみると、上記メリットの恩恵を受けられるとは限りません。
特に受託者側の負担が想定以上に重くなり、受託当初は想定していなかった多額の赤字を抱えることになりがちです。

想定外のコストが嵩む

赤字の原因の一つは、住民や議会からの要望です。
運営を指定管理者(民間)に任せているとしても、施設自体は役所のものです。
そのため、民主主義の原則から逃れることができません。通常の民営施設のように営利優先での運営ができないのです。

完全民営の施設であれば、お客さんから要望があったとしても応じる義務はありません。
「利益につながるかどうか」を判断基準として検討するでしょう。
しかし役所の場合は、民間企業の感覚では一蹴すべきトンデモ案件や、利益には到底結びつかない提案であったとしても、しかるべき相手・人数からの要望であれば応じなければいけません。

指定管理者が運営している施設も、税金を原資に提供されている行政サービスであることには変わりありません。
民主主義の原則に従い、役所本体が提供するサービスと同程度に、住民の意見を尊重しなければいけません。

かっこよく言うと、公設という性質上、採算度外視でロングテールのニーズに応じなければいけないのです。 
  • 農産物直売だけでなく試食も出してほしい →加工・提供スタッフ増員(人件費増)、衛生管理のコスト増
  • 街灯代わりに照明を点けておいてほしい →光熱水費増加
  • ふるさと納税の受付窓口機能も持つべきだ →対応スタッフ増員
  • 避難所機能も持つべきだ →非常食などの備蓄(消耗品費増)
指定管理料を増額したりして役所側で費用増額分をカバーできればいいのですが、全てカバーするのはなかなか難しいです。
こういう要望に応じるたびにランニングコストが嵩んでいって、赤字を積んでいくのです。

役所から支払われる指定管理料ではなく、受託者の独自財源を使っている事業であっても、状況は変わりません。
その事業単体では確かに公費は入っていませんが、事業に使っている施設の財源は税金である以上、「独自事業だから好きにやらせてほしい」とは言えません。

「住民や議会からの要望を優先せざるを得ない」という現実は、受託者の裁量を制限し、意欲を減退させます。
受託者としてやりたいことがあっても、こういった要望に応じるために予算が枯渇してしまって実行できなかったり、真逆の要望を受けたために諦めざるを得なかったり……。
まさに学習性無気力という状態に陥るケースもよく聞きます。

人材確保できないためにオペレーション効率化できない

指定管理で運営されている施設で働いているのは、ほぼ全員が非正規雇用の方々です。
正社員は施設長くらいでしょう。しかも元から受託者の別部署で働いていた方を配置転換しただけで、指定管理のために新たに雇用するケースはごく稀だと思います。

施設の指定管理は、たいてい3年くらいの有期契約です。この期間が終了したら、次どうなるかは全くわかりません。
もし正社員を雇用して、3年後に継続受託できなかったら、余計な人員を抱えることになります。
このため、指定管理のために受託者が正社員を新たに雇用するケースはほぼ無く、アルバイトや契約社員を中心に運営することになります。

アルバイトや契約社員を募集するにしても、「3年後に終わるかもしれない」という点がネックになります。
将来性に欠けるため真面目な人がなかなか集まらず、採用できたとしても腰掛け的なジョブホッパーかリタイア世代ばかり採用せざるを得ないのです。
職場としての魅力に欠けるために離職者も多く、採用活動はずっと続くことになります。

スタッフが定着しないために、日々のシフト調整ですら苦労する羽目になり、長期的な経営計画はもちろんのこと、年間の運営計画すら見通せません。
人の入れ替わりが激しいせいでノウハウが育ちにくく、運営のマニュアル化も難しいです。
このような手探り・場当たりの環境がずっと続くために、オペレーションの改善が進まず、非効率・高コストな運営になりがちです。

そもそも儲からない?

指定管理業務をやっている上場企業は、なかなかありません。
決算に現れるくらいに大きなウェイトを占める企業だと、シダックス株式会社しか見つかりませんでした。

トータルアウトソーシング部門

有価証券報告書によると、同社は全国で指定管理を受託していて豊富なノウハウを持っており、しかもグループ内で流通会社を持っているためにローコストで物品調達ができるとのこと。
さらに社員もたくさんいるので、先述した人材確保の問題もある程度は緩和されるでしょう。

つまり、指定管理ビジネスをやっている企業の中でも、かなり高い利益率を確保できるほうと思われます。
しかし、それでも営業利益率6%前後(しかも本社機能の経費は別途発生)なのです。
そもそもビジネスとしてあまり儲かる分野ではないのでしょう。

担い手がいない

このような事情が深刻化しつつあり、指定管理の担い手がいなくなりつつあります。

現行の受託者は、人手不足や赤字を理由に継続受託を断念することが増えています。
新たに指定管理者を公募しても、応じる事業者が見つからないケースが多発しています。

役所が直営で運営できる施設ならまだしも、道の駅のような物販や飲食機能のある施設だと、直営は不可能です。
実際、指定管理者が見つからないまま閉鎖状態の施設も出てきました。

「指定管理者 断念」あたりのワードで検索すれば、いろんな事例が出てきます。
今後はさらに増えていくと思われます。新型コロナウイルスの影響でさらに収益性が悪化して、会社として生き残るために、指定管理業務をリストラせざるを得なくなるケースが予想されるためです。

指定管理という運営方法が成り立たなくなった場合の対策を検討しているのが田舎役所の現状です。
もし面接で「指定管理制度を活用して〜」みたいなことを発言されたら、少なくともローカルニュースに全然目を通していないんだなと思われるでしょう。 

チラシにしろ動画にしろホームページにしろ、役所が作る広報物はだいたいどこかダサいです。自覚はあります。
役所が作ったパワポ資料を朱書きしてデザイン的な誤りを指摘するツイートなんかも定期的にバズっていますし、役所の中の人間だけでなく、世間一般から「ダサい」と認識されていると考えて間違いないでしょう。

デザインにものすごく気を遣っている自治体も最近は増えてきましたが、そのせいでかえって、普通の自治体がいかにデザインを疎かにしているかが露骨にわかるようになってしまいました。

役所が作る広報物のデザインはどうしてレベルが低いのか。
その理由は明確です。しかしなかなか手をつけられずにいるのが現状です。

「正確さ」という呪縛

役所の広報は、何よりも発信内容の正確さを重視します。
民間企業であれば、発信する情報の種類ごとに、広報の目的も手段も普通は異なると思います。
しかし行政の場合は、どんな内容であってもとにかく正確であること、より正しく言えば誤解されないことを重視します。

誤解が生じる余地の無い一義性網羅性、悪意ある者に攻撃されても「それは屁理屈だ」と堂々と反論できるだけの堅牢性を、役所組織を挙げてひたすら突き詰めます。
ここに時間も労力も全てつぎ込むため、デザインにまで気を回している余裕がありません。

役所が発する情報は、幅広い住民が受け取ります。
一読して理解する人もいれば、利害関係者ゆえに過剰反応する人、何らかのバイアスがあって変な方向に解釈する人などなど……想定しなければいけないケースは多岐に及びます。
もし誤解を与えてしまった場合、後から補足するだけでは済まず、取り返しのつかない事態を引き起こしかねません。

さらに困ったことに、マスコミにしろ住民にしろ、行政が発した情報を意図的に曲解したり揚げ足取りしたがっている人が大勢います。
特に最近はこの傾向が強まっていて、どんな細かい内容でも気を許せません。


具体例:チラシ作成の場合

例えばチラシを作る場合だと、テキストや画像のような個々のパーツの校正にとにかく全力を尽くします。
特にテキストは一言一句まで厳密に精査します。時間の許す限り、極力たくさんの利害関係者にチェックしてもらって、脇の甘い表現や記載漏れが無いかを確認します。

色合いやレイアウトのようなデザイン面は二の次です。デザイナーさんから上がってきた案をそのまま採用するか、職員による手作りで済ませます。
もし外部から「デザインが悪い」と叩かれても有効打にはなり得ないため、役所としては注力する理由が極めて薄いのです。
マーケティングの本なんかだと頻出の「色使いの心理的効果」や「視線誘導」なんかは全く考慮しません。

レイアウトで唯一気にするのは、個々のパーツに強弱・序列を持たせず、いずれの要素も平等に扱うことです。
情報の強弱は、誤解の原因であり、攻め入る隙にほかなりません。


ライブのチラシ

架空のイベントのチラシを試しに作ってみました。
中止なのにお客さんが来てしまうケースを何より避けたくて「雨天中止」を強調したとします。
こういう強調をすると、
  • どうして「現金のみ」を強調しなかったのか。今やキャッシュレスが当たり前の時代であり、よほどの用事がない限り誰も現金なんて持ち歩かない。役所は常識が無い。
  • 朝早くから始まるイベントであり、近くにコンビニもないから、もし現金を持ってこなかったら下ろしにいけない。危機管理能力がない。
このような、「雨天中止」は強調したのに「現金のみ」を強調しなかったという判断に対する苦情が多数寄せられるでしょう。
実際の来場者からの「現金を持っていなくて入れなかった」という苦情ではなく、あくまでもチラシの表記に対する批判です。

逆に「現金のみ」を強調したとしたら、
  • どうして雨天中止だと強調しなかったのか。朝早いイベントであり、間違ってキモオタク公園にきてしまったら、帰る手段がない。
  • ただでさえ自然災害が増えている時代なのだから、雨天の中に不用意に外出させるようなことはあってはならない。「雨天中止」という情報な何よりも大事だ。
というお叱りが四方八方から飛んでくるでしょう。
 
つまり、役所側で情報に強弱をつけると、「強弱をつけたこと」「強弱の判断」に対する批判が発生するのです。
実際の役所業務では、こういう批判の声を誰もが予想して、どちらも赤字&太字で強調するでしょう。
結果、あらゆる情報が同程度に強調された、ゴテゴテしたチラシに仕上がります。

この状況は、民間企業の広報であっても同様でしょう。
受け手によって、重視する情報は異なります。
発信側としては劣後する情報であっても、そちらを重視する人はどこかに存在するものです。

ただし役所の場合、先述のとおり、誤解や批判を何より避けたがります。
特定の情報を強調することにどれだけメリットがあるにしても、誤解・批判を招きかねないというデメリットがわずかでもあるのなら、採用できません。


職員のデザインスキルが低い

このように、役所ではデザイン面について考える機会がほぼ無いため、どれだけ地方公務員としてのキャリアを積もうともデザイン力は磨かれません。
むしろどんどんデザイン面に鈍感になっていきます。
どれだけ職員が努力してデザイン面を改善しようとしても、そもそもの能力が足りていないのです。

さっきのチラシを見てもらえば察してもらえると思います。
Pagesのテンプレをいじっただけですが、これを作るのに小一時間かかりました。
一応僕は広報業務経験者です。チラシやSNSの投稿をたくさん作ってきました。
それでもこの程度です。 

もし独学で勉強してデザインスキルを身につけた職員がいたとしても、その技能が活かされるのはごくわずかな期間だけでしょう。
そもそも広報業務がある部署は限られています。デザイン業務に携わる職員は少ないですし、定期人事異動のために同一の業務をずっと続けることもできません。
一度もデザインに関わらずに定年を迎える職員もいるでしょう。
 
異動を挟んでも継続して広報業務を担当する確率は著しく低いです。
役所内でデザイン自体が重視されていないために、職員のデザインスキルは評価されず、異動時にも考慮されるとは思えません。

ワードプレス等を使って綺麗なサイトを作っている公務員(現職・元職いずれも)の方は本気で尊敬しています。
公務員として働いていたら逆にどんどんデザイン力が落ちていくはずなのに、きちんとしたレイアウトのサイトを構築でいるということは、余暇を費やして猛勉強したか、それか本物の天才です。


万人受けするデザインはとても難しい

最近だとWebサービスのUIも酷評されています。
こちらも広報物と同様、
  • 役所という組織がデザイン面を重視していない
  • 職員のデザインスキルが足りない
という事情のために生じている事態だと思われます。

役所が提供するサービスは、住民全員が利用者になり得ます。
こんなに対象が広いサービスはほかにありません。

加えて、役所という立場上、民間企業であれば「外れ値」として無視してもいいようなレアユーザーに対しても、役所の場合はきちんとわかりやすく、使いやすくなるよう考慮しなければいけません。

しかし実際のところ、万人がわかりやすい・使いやすいデザインは現状の役所の能力では実現不可能であり、どれだけ洗練させたとしても批判は根絶できないと思います。
それでも叩かれないように務めた結果、サービス自体が不便になったというパターンを、役所は繰り返しています。

最初にも書いたとおり、最近ではデザイン面にこだわっている自治体も出てきました。
実情はわかりませんが、単なる情報の羅列以外のものをリリースすれば、絶対に批判が飛んできるものです。
華々しい広報の裏で、職員は日々戦っていることでしょう。

こういうところが批判に屈せずに成果を残してくれれば、他の役所も追随して変わっていくはずだと思いたいところです。

動画制作といえば、都道府県よりも市町村の方が一歩前を歩んでいる印象です。
ただ最近のコロナ騒動を受けて、イベント関係が中止になった分の観光振興予算を回したりして、都道府県も動画に注力し始めるのではないかと思います。

実は僕も、仕事で1本だけ動画を作ったことがあります。
庁内向けのプロトタイプなので、世間一般にお披露目するものではありませんが、テロップを入れたり色味を調整したりサムネイルも作ったり……なかなか手間暇をかけました。
 
動画を自ら作ってみることで、編集の巧拙や作者の工夫・こだわりがちょっとわかるようになったという副産物もありました。
この意味でも有意義な仕事でした。

役所が動画を作る機会はこれからもどんどん増えていくでしょう。
ただ役所にとって、動画制作は茨の道です。
たくさんの苦難が待ち受けていることが容易に予想されます。

動画はどうしても網羅性に欠ける

役所はとにかく網羅性を重視します。
世の中には「重箱の隅を突きたがる層」が相当数存在して、内容に少しでも遺漏があると執拗に食らいついてくるからです。

広報物では特にこの傾向が強いです。
「役所が作るチラシはごちゃごちゃして醜い」というお叱りのとおり、役所作の広報物は網羅性を優先するあまりレイアウトが崩壊しがちです。
醜いのはもちろん承知しています。
しかし、レイアウトを犠牲にしてでも網羅的に中身を詰め込まないと、もっとお叱りを受けるのです。

そのため動画制作でも網羅性を持たせたいところなのですが、動画という媒体は網羅性とは相性が悪いです。
網羅的に内容を盛り込もうとしたら、ものすごい分量になってしまいます。

実際に僕が動画を作ったときも、上司から色々と不足点を指摘されて、それらを次々に盛り込んでいきました。
その結果めちゃくちゃ長くなり、パソコンのハードディスク容量を超えてしまいました。
僕も上司も目からウロコが落ちました。役所の王道である網羅性至上主義と動画媒体の相性の悪さを痛感しました。

このため、役所が動画を作るときは、網羅性を諦めるしかありません。
となると、「重箱の隅を突きたがる層」の格好の餌にならざるを得ません。

要素をコントロールしきれないせいで隙が生じる

単なるチラシや文書とは異なり、動画には「音」と「動き」という要素があります。
これらもまた「重箱の隅を突きたがる層」の格好の標的になります。

映像制作のプロは、「絵」「音」「動き」ほか動画を構成する要素の全てをコントロールして、制作側の意図を視聴者に伝えようとするでしょう。

しかし、役所の職員にそんな能力はありません。
メッセージ性の薄い、ひどい時にはあり合わせの素材で済ませてしまうでしょう。

「重箱の隅を突きたがる層」は、こういう「甘い」部分を見逃しません。
「ボディがガラ空きだぜ」と言わんばかりに痛烈な指摘を繰り返してきます。


「重箱の隅を突きたがる層」は、最近どんどん増えてきています。
そのため役所側は、当面は網羅性重視の広報体制を改められないでしょう。

網羅性に欠ける媒体である動画は、優先順位がなかなか上がらないでしょうが、それでも世間の潮流には逆らえません。役所の動画利用はどんどん増えていくでしょう。
当面の間は、動画を作るたびにクレームを受けつつノウハウを蓄積していく「雌伏の時」が続きそうです。

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