大きな役所になればなるほど、部署によって求められる能力が異なります。

県庁レベルになると、ある部署では「優秀」と言われていた職員が、次の異動先では一転して「無能」と評されてしまうこともしばしばあります。

しかし、役所という組織の一員である以上、どこの部署でも共通して賛美される能力も存在します。


物事の順序付けが上手い

僕が一番重要だと思うのが、これです。
プロジェクトの最初期段階で、具体的にどういう順序で物事を進めていくのか、どういう条件から先にクリアしていくのかを適切に判断する能力です。


例:アニメーター育成支援補助金の創設
首長の発案でこういう補助金を新設することになったと想定します。

首長発案の補助金なので役所内は誰も反対してこないでしょう。
しかし、補助対象が非常に狭いことから、役所外の色々な団体から苦言がありそうです。

反発してきそうな団体は、
・商工団体(なぜアニメだけなのか)
・美術関係団体(同上)
・音楽関係団体(同上)
・広告代理店(うちの領分を荒らすな)
・マスコミ(同上)
あたりでしょうか。

それぞれのパワーバランスを考えながら、事前合意を取り付けるか、批判してきても無視するかを、まずは判断します。

事前合意を得る場合は、どういう順番で得て行くかを決めます。

今回の場合は、以下の条件があるとします。
・美術団体のトップと首長の仲が良い
・美術団体は商工団体が嫌い
・美術団体のトップはものすごい権力者で、マスコミも広告代理店も逆らえない
・音楽団体のトップは行政OBで首長に逆らえない

条件を整理すると、
①美術団体のトップを抑えればマスコミ・広告代理店は黙る
②商工団体を先に抑えると美術団体が確実に反発を強める
③首長を使えば美術団体トップを抑えられる
④音楽団体は無視で構わない
となります。

ここから導き出される結論は、美術団体トップと首長の懇談をセットして同意を得て、ほかの団体は様子見です。


このような順序付けは、事業担当であれば、ほぼ毎日必要です。
順序づけがうまくできれば、良い結果が残せるだけでなく、無駄な仕事も減らせます。


ゴールまでに必要な全作業をスタート時点で網羅的に洗い出せる

手探りで動くことほど、時間と体力と信用の無駄はありません。
無駄を減らすためには、初期段階で必要な作業を洗い出し、リストアップするのが一番です。

例:美術団体への説明資料作り
「補助金対象はアニメーターだけですが、決してアニメーターだけを優遇しているわけではありません。本自治体が有名背景美術アニメーターをたくさん輩出していることに着目し、後進を育成することで、本自治体を『背景美術の聖地』とするのが目的です。この補助金事業の中では、有名アニメーターが感銘を受けた美術作品全般の展示会も多数実施するので、美術界隈全体にも多大なメリットがあります。」という主旨の資料を作り、美術団体に説明に伺うことになりました。

資料作成のためには、下記情報が必要です。
①出身アニメーターにはどんな人がいるのか
②各アニメーターが感銘を受けた美術作品とは例えばどういうものか

①は調べればすぐに分かりますが、②は少し面倒です。
作業を細分化して、③過去のインタビュー記事を探す、④講演会のログを探す、⑤過去のアニメ関係の美術展情報を探す あたりに分けます。

③は「どういう媒体からインタビューを探すか」という観点から、さらに細分化できます。雑誌、ウェブ、設定資料集、ブルーレイの特典冊子、オーディオコメンタリー……等々、関係がありそうなものを挙げていき、作業の全体像を作ります。
こういう作業の細分化・リストアップを、プロジェクトの着手時点でしっかりやっておかないと、後々致命的なミスに繋がりかねません。

僕はオタクなので、この事例ならサクッとリストアップできます。
しかし仕事では、全くアニメを知らないガチリア充職員であっても、「ブルーレイの特典冊子をチェックせねば」と気づかなければいけないのです。

逆に言えば、僕ももしかしたら「プロバスケチームを作ることになったから、監督と選手集めとホームグラウンドづくり、頼んだよ」と指示されるかもしれないのです。無理ですね。


最終決定者の意向を推察できる


どれだけ素晴らしい成果が確約されていようとも、最終決定者の意向にそぐわなければ、やり直しです。

最終決定者は、役所内の上司とは限りません。
議員さんかもしれませんし、財界のドンかもしれませんし、「住民の総意」という形のない相手かもしれません。
いずれにせよ、最終決定者の意向に沿うように物事を組み立てていかないと、意味がありません。

基本的に、最終決定者の意向に沿えているかどうかの監督は、上司の仕事です。
ただし、担当者がちゃんと意向に沿った作業ができていれば、作業効率が大幅にアップし、スムーズに仕事が進みます。


以上3点、なるべく具体的に書いたつもりですが、伝わったでしょうか?
これらがこなせる職員は、例外なく出世コースに乗っています。

どうやったら身につくのか?

役所内・他自治体の過去事例を知識としてストックしていけば、いずれの能力も身についていくと思います。

役所仕事の多くは、大抵は過去の類似事例や他自治体の事例を真似しているだけです。
 
事例として挙げた「アニメーター育成補助金」も、よくあるIT人材育成補助金と構造は大差ありません。
アニメに詳しくなくとも、特定セクターへの補助金を新設した過去事例を知っていれば、難なくこなせるでしょう。

地方公務員にとって、事例とはお手本のようなものです。
何事も、完全な我流よりも、お手本を見ながらやる方がうまくいきます。
過去事例のストックを増やすことは、お手本の引き出しを増やすことと同義です。


いずれの能力も、学歴とは全く関係がありません。
公務員として働く中で身について行くスキルでしょう。

加えて、採用区分とも関係ないでしょう。
技術職で出世する方は、技術的知識がある方よりも、こういった能力に長けている方なんじゃないかと思うほどです。