地方公務員の研修は、OJTがメインです。
こう言うとかっこいいですが、実際は「揉まれて覚えろ」ということです。

この研修体制自体、かなり不親切だとずっと思っていますが、最近はこの体制すら維持できなくなりつつあります。
早急に手当てしない限り、地方公務員の平均的な能力はどんどん落ちていくでしょう。

職員の年齢分布がいびつなせいで、新人へのOJTが激減

「効率化」「スリム化」の名の下に、どこの自治体もここ数十年で人員を削減してきました。
自治体の場合、雇用整理するわけにはいかないので、人員削減の手法は採用抑制しかありません。
今の30台中盤〜40台前半が、ちょうど採用抑制真っ盛りの時期にあたり、極端に職員数が少ない年代になります。役職としては係長くらいですね。

一方、ここ数年は採用数がものすごく多いです。僕が受験した年の倍くらいいます。
つまり、指導される側の新人がたくさんいるのに、指導側の中堅職員が少ないのです。

指導者が少なければ、自然と1人あたりに割かれるOJTの時間も減ります。
OJTの不足を補うために、座学研修を増やすなどの対策をとる動きは、今のところ全然見えません。
OJTの不足が、新人の教育不足に直結しています。

OJT不足の結果、仕事の中身がスカスカに

霞ヶ関用語に「ロジ」「サブ」という言葉があります。
「ロジ」はlogistics、段取り仕事全般のことです。
「サブ」はsubstance、事業や政策の具体的な中身を指します。 

例:地元出身声優のトークイベントを開催する場合
会場の手配、予約受付から本番までのスケジューリング、スタッフの確保、当日の会場セッティング、声優さんが飲む水の準備など、トークイベント開催に必要な準備全般が「ロジ」に当たります。
一方、告知フライヤーのデザイン、当日のプログラム作成など、具体的な中身を作る仕事が「サブ」です。

地方自治体のOJTでは、「ロジ」優先で教えます。
「ロジ」抜きでは仕事が進まないからです。
「サブ」を教えるのは、ある程度ロジが身についた後になります。
僕が新人の時は、こんな感じでした。

しかし、現在は、「サブ」を教えている暇がありません。
新人に対して中堅が少なすぎて、「ロジ」を教えるだけで精一杯です。
「サブ」は、業務時間外に自発的に学ぶものになりつつあります。

結果、休日に自発的に勉強するような熱心な新人を除き、どんどん「サブ」のレベルが落ちていきます。
つまり、仕事は滞りなく進められても、肝心の仕事のクオリティが低い職員が量産されつつあるのです。

ロジ教育偏重の先に待つ事態

自治体を取り巻く環境は、悪くなっていく一方です。
少子高齢化や過疎化、財政赤字などなど……一筋縄ではどうしようもない課題が山積しています。
こういった課題への対応策を考えるには、「サブ」の能力が不可欠です。
いくら「ロジ」が上手くても、根本的な解決には至りません。

これからずっと、「サブ」がわかる職員、つまり自発的に勉強するような熱心な職員に業務負担が集中する傾向が、ますますひどくなっていくんだろうなと思っています。

こうなると、その人は「替えのきく存在」ではなくなります。
職位にかかわらず発言力も増していくでしょうし、内外から感謝されると思います。
もちろん、待遇はあんまり変わりません。せいぜい残業手当が堂々と貰える程度です。 

これを「やりがい」とみるか、「不公平」とみるか。
前者だと断言できる人は、公務員に向いていると思います。
「頑張っているのに報われないのは間違っている!」と目くじらを立ててしまう方は、こんな先細りの世界には近寄らないほうがいいでしょう。


そもそもの話、地方自治体にしっかりと「サブ」を考えられる人材は、現時点でもあんまりいません。
これまでの記事で書いてきた通り、首長をはじめとした有力者の意図を汲んでばかりで、一職員がゼロから「サブ」を組み立てることがほとんどないためです。
有力者の意図を、必要なステップを踏んで実現させる仕事は、まさに「ロジ」です。

「サブ」ができる公務員は、もしかしたら官僚しかいないのかもしれません。