久々の読書メモです。
統一地方選挙前に読んでおくと面白いかなと思う一冊です。
支配のありようを支配者とその権力の存立を左右する基盤となる人々との関係から解き明かそうとする「権力支持基盤理論」をベースとした本です。
訳者あとがきによると、学術的な本というよりは、一般向けの読み物とのこと。
本書では、独裁政権と民主主義政権の間には境界は無く、
- 名目的な有権者集団
- 実質的な有権者集団
- 盟友集団
この3集団の構成比や関係性によって政治のあり方が決まってくると説明します。
「名目的な有権者集団」は、選挙権を与えられている人全員です。
「実質的な有権者集団」は、有権者の中でもリーダーの選出に関わってくる人のことを指します。
「盟友集団」は、リーダーとしての地位を保つために絶対支持してもらう必要がある人のことです。
日本の首相選出(間接選挙)の場合名目的な有権者集団 選挙権を保有する人全員実質的な有権者集団 与党の国会議員盟友集団 与党議員の意見を左右するだけの影響力を持つ人(与党内の有力議員、与党の金銭的パトロンなど)都道府県知事(直接選挙)の場合名目的な有権者集団 選挙権を保有する人全員実質的な有権者集団 当選するのに最低必要な票数分の有権者盟友集団 票集めができる有力者
政治のあり方を決めるのは、この中でも「盟友集団」です。
盟友集団への便宜を図るのがリーダーの仕事、おこぼれをもらうのが庶民
本書におけるリーダーとは、「自分の立場を維持するために、政府予算を使って盟友集団に便益を与える存在」です。
支配地の隅々、国民全員まで便益が及ぶかどうかは、最初から興味がありません。
支配地の隅々、国民全員まで便益が及ぶかどうかは、最初から興味がありません。
盟友集団以外にも便益が届くかどうかは、盟友集団の人数や性質によって決まります。
盟友集団の人数が多ければ、総人口に占める便益を受けられる人数も多くなります。
加えて、盟友集団と有権者集団が結びついていれば、俗にいうトリクルダウンが発生して、盟友集団向けの便益が有権者集団へも流れ落ちて行きます。
盟友集団の人数が多ければ、総人口に占める便益を受けられる人数も多くなります。
加えて、盟友集団と有権者集団が結びついていれば、俗にいうトリクルダウンが発生して、盟友集団向けの便益が有権者集団へも流れ落ちて行きます。
一方、独裁的と言われる政治体制では、盟友集団の人数が少ない上、その外に便益が漏れません。
軍上がりの独裁政権をイメージしてみてください。
軍の将校(盟友集団)と一般庶民は隔絶されていて、どれだけ軍人が潤っても庶民にはお金が流れません。
軍の将校(盟友集団)と一般庶民は隔絶されていて、どれだけ軍人が潤っても庶民にはお金が流れません。
盟友集団の人数が少なく、名目的・実質的な有権者集団と結びついていない場合、便益を受ける人数は限られます。結果、多くの人が政府サービスを受けられない政治、つまり独裁になります。
全校生徒2000人が参加する選挙で生徒会長が決まる高校があるとしましょう。現生徒会長の盟友集団は、学校一の塩顔イケメン学校一の彫り深いイケメン学校一の女顔イケメンの3人であり、こいつらからの支持さえつなぎとめておけば、ほかの生徒も流されてくれて、難なく再選できます。
この場合、生徒会長はこいつら3人を喜ばせるためだけに生徒会予算を使いますが、独裁にはなりません。イケメンでも学校の生徒であることには変わりなく、顔面の出来の良さを除けば、その他有象無象の生徒と大差ないからです。(こういう状況を、「盟友集団と有権者集団とが結びついている」と言います。)そのため、「イケメン達にとってはメリットがあるけど、その他大多数の生徒には何のメリットもない施策」、つまり独裁的な施策そのものが存在しにくいのです。盟友集団とその他生徒との差がほとんどないため、盟友集団向けのサービスを提供したつもりでも、結局は盟友集団以外の生徒も喜びます。
このように、有権者集団とのしっかり結びついている場合は、盟友集団の人数が少なくとも、盟友集団以外にも便益が広がっていきます。
本書では、このような枠組みで、主に独裁政治の特徴を分析していきます。
地方自治体は割と独裁に近いのでは?
この枠組みで地方自治体の首長選挙をみると、盟友集団と有権者集団が結構隔絶している現状が見えてきます。
首長選挙を左右する盟友集団、つまり票集めができる人は、地主だったり〇〇協会会長だったりして
- 高齢
- 男性
- 金持ち(資産家)
に偏ります。
(開票速報番組でバンザイしている人たちを思い出してみてください)
こういう人々からの支持を取り付けられた候補者が選挙に勝つわけですが、その結果、こういう人々向けの行政サービスを厚くせざるをえなくなります。
言うまでもなく、こういう人々は、人数でみれば、有権者集団の中でもマイノリティです。
首長の施策は「高齢・男性・金持ち」というマイノリティに向けられることになり、その他大多数の有権者は恩恵を受けづらくなるです。
去年の猛暑で「公立学校のクーラー設置が進まない」というニュースを見て以来、どうして地方自治体は教育にお金をかけたがらないのか考えていたのですが、本書を読んですっきりしました。
教育への支出、つまり子育て世代向けの支出は、多くの首長にとって、盟友集団を潤さないのです。
つまり、教育に支出すると、再選が遠のくのです。
子育て世代の人間が盟友集団に食い込めばいいのではと思うのですが、そういう能力のある若い人って地方には残らず東京に出ていっちゃうんですよね。
今回紹介したのは、本書の第1章に当たる部分のみです。
独裁のあり方、特に独裁がどのように続いていくのかに興味のある方は、ぜひ本書を手にとってみてください。
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