表紙買いしてしまった本書を読了。
残業にまつわる諸説をデータで裏付けしつつ、対処法を考えていくという内容です。

同書で分析されているのは民間企業の残業事情で、役所については触れていません。
そこで勝手ながら、同書の分析を役所に当てはめてみました。


残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書) [ 中原淳 ]
残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書) [ 中原淳 ]
超高齢化社会を迎え、あらゆる仕組みをアップデートする必要に迫られている日本。女性やシニア、外国人をはじめとした多様な人々の力が鍵となる中、それを拒む最大の障壁が、日本独特の働き方「残業」です。
政府も企業も「働き方改革」を叫ぶ今、本当に必要なのはそれぞれの「持論」ではなく、客観的なデータを基にした「ガチ」な対話。
一体なぜ、日本人は長時間労働をしているのか? 歴史、習慣、システム、働く人の思い――2万人を超える調査データを分析し、あらゆる角度から徹底的に残業の実態を解明。仕事と人生の「希望」は、ここから始まります。パーソル総合研究所×立教大学・中原淳の共同研究「希望の残業学」プロジェクトを書籍化!
 
光文社 書籍紹介ページ
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334043865  


残業の「集中」と「感染」

長時間残業が蔓延している職場では、以下2つの現象が起こっていると分析します。
(『残業学』p.167〜168より)
  • 集中:優秀な人材にばかり仕事が振られ、その人に残業が集中する
  • 感染:職場内の無言のプレッシャーや同調圧力によって残業してしまう
続いて、それぞれの現象が発生しやすい業務の特性を深掘りしていきます。

「集中」を招きやすい特性

 1 高い専門性・スキルが必要とされる
 2 業務量の繁閑差が大きい

「感染」
を招きやすい特性

 3 仕事の成果が数値で測りやすい

両方ともを招きやすい特性
 4 突発的な業務が頻繁に発生する

反対に、「集中」「感染」を招きにくい特性として、以下2つが挙げられています。

 5 自分が責任を負う仕事の範囲が明確
 6 仕事の範囲ややり方は、自分で決めることができる

1〜4に当てはまるほど長時間残業が蔓延しやすく、5と6が当てはまる職場では残業が少ない傾向があります。

役所はだいたい当てはまる

役所においてはどうなのか?
1〜6の各要素について、ひとつひとつ考えてみます。

高い専門性・スキルが必要とされる

明らかに該当します。
役所仕事における専門性やスキルとは「調整能力」です。
調整能力とはそもそも何なのかという疑問はありますが、調整能力が無いと仕事が進まなかったり、調整に長ける職員に業務が集中しているのは、実態通りです。

業務量の繁閑差が大きい

部署次第です。
役所の場合、この要素はあまり関係ないような気がしています。
出納部署のような季節労働部署の方が、帰れるときはサクッと帰り、忙しいときはがっつり残業と、メリハリをつけられていると思います。

仕事の成果が数値で測りやすい

徴税部署のような一部を除いて当てはまりません。
役所の場合、数値で測れる部署の方が早く帰っている気がします。
数値で測れないせいで終わりが見えないと言いますか……

突発的な業務が頻繁に発生する

明らかに当てはまります。
突発的な業務の方が多いのではと思えるくらいです。

自分が責任を負う仕事の範囲が明確

当てはまりません。
そもそも全然関係ないのに責任を押し付けられるのが役所の立場です。

仕事の範囲ややり方は、自分で決めることができる

全く当てはまりません。だいたいルール化されています。
一考の余地があるとしても、決めるのは上司か、議員か、住民です。
民主主義によって決められた中身を遂行するのが公務員の役目なので。

役所の長時間残業改善は民間企業よりも難しいと思わざるを得ない

以上のとおり、長時間残業蔓延につながる要素のうち、「仕事の成果が数値で測りやすい」以外だいたい当てはまると思います。

中でも「突発的な業務が頻繁に発生する」自分が責任を負う仕事の範囲が明確でない」「仕事の範囲ややり方を、自分で決められない」というマイナス要因は、役所だけでは改善できません。
役所がこういう皺寄せを受けることで、現代社会の秩序・均衡が維持されているからです。

本書を読んで、役所の残業問題解決は民間企業以上に相当難しいなと思わざるを得ませんでした。
抜本的解決が困難な以上、当面は残業に潰されないよう自衛するしかないのでしょう。

ただ、役所の長時間残業の原因を、これらだけに帰するのは誤りだとも思います。
便利なツールが全然導入されないとか、謎の因習に囚われているとか……
もっと初歩的な原因も転がっています。

本記事では、同書の中でも2ページ分の内容しか取り上げていません。
この部分の他にも、日頃から内心感じている残業あるあるをデータで裏付けてくれます。
興味があったら是非実際に同書を読んでみてください。