僕が公務員試験を受験した頃は、志望動機のネタといえば観光振興が定番でした。
前向きですし、とにかくお手軽です。実生活にも近いので、考えやすいです。

ただ、実際に仕事で観光に携わった身としては、この「お手軽さ」は罠だと考えています。
面接やエントリーシートで観光ネタを使う際には、細心の注意が必要です。

観光の仕事は、役所の外から見たイメージと異なります。
そのため、発言内容自体は正しくても、自治体実務と乖離していると、「現実離れしている」と思われて悪印象になりかねません。

今回は、だいたいの自治体に共通する観光業務の考え方を紹介します。
困ったことに、観光業務の実態は自治体ごとにまちまちで、一般化は困難です。
自治体固有の事情を知るには、職員にOB訪問するしかありません。
今回の内容は、あくまで基礎知識です。

二つの潮流

自治体の観光部局の仕事は、大きく2種類に分けられます。
僕は勝手にシステムコンテンツと呼んでいます。

システム:観光客を増やすための仕組み作り

一つは、観光客を内外から引っ張ってくるための流れを作る仕事です。
主に道府県が実施し、地元住民よりも企業・法人との折衝が多いです。

具体例
  • 旅行会社と組んでパッケージツアーを造成
  • 交通機関と組んで特別便を走らせる
  • 団体旅行やMICEの誘致
  • ポータルサイトの運営

コンテンツ:観光客が消費・体験するモノやコトを作る

もう一つは、観光地としての魅力を高める仕事です。
多くの人にとって「観光の仕事」と言えば、こちらの方が馴染み深いでしょう。
地元住民の中に溶け込んで一緒に仕事をしていきます。

具体例
  • 既存の観光名所をさらに整備する
  • 新たな観光施設を作る・運営する
  • イベントを開く

それぞれの特徴を表にまとめました。

観光の表

きっちり役割分担

システムとコンテンツでは、担当者が異なります。
係レベルで分けているところも多いですし、課単位で分けている自治体もあります。
 

誘客交流課がシステム、観光企画課がコンテンツと担っていると思われます。

システムとコンテンツを同時にこなすのは非現実的に聞こえる

システムとコンテンツは別々に進めていくものという認識が、役所内では一般的です。
典型的な縦割り行政ですね。

両方を一人でこなしたいと言われると、欲張りというか、どっちつかずというか、現実味が無いというか……とにかく違和感があります。

(ありがちな志望動機)
これまで多くの祭りにボランティアとして参加した経験から、地域住民に溶け込む術を学びました。このスキルをディスティネーションキャンペーンに活かしていきたいです。

アピールしている能力は「コンテンツ」の範疇に属するものですが、志望業務は「システム」です。これだとスキルが業務に活かされないように思えます。

エントリーシートや面接で観光ネタを使うなら、「システム」「コンテンツ」どちらか一方に特化した方が無難かと思います。 

今回紹介したのは、田舎自治体のケースです。都会の自治体は事情が異なります。
もともと人がたくさんいるので、「システム」に注力しなくても「コンテンツ」さえしっかりしていれば、自然と人が集まるためです。

都会自治体だとインバウンド誘客ネタが鉄板でしょう。 
もともと訪日外国人がたくさん来ているので、彼ら彼女らに既存のコンテンツを消費してもらうだけで、立派な観光振興になります。