2019年5月30日の毎日新聞朝刊に掲載された記事が公務員の間で話題になっています。

「窓口対応お断り」50代男性に通告 佐賀・嬉野

数年間にわたり窓口に通い続け、職員に対する暴言が複数回見られた50代男性に対し、市長名で
  • 市への質問は文書に限り、回答は文書で行う
  • 住民票や戸籍、保険、年金の窓口交付以外の対応は文書の受け取りだけに限る
  • 電話には一切応対しない
という内容の通知を発出したようです。

報道した毎日新聞は、この対応をかなり否定的にとらえています。
前掲のヤフーニュース見出しとは異なり、新聞紙面での記事見出しは

暴言対策やりすぎ? 市役所「窓口対応お断り」

と、端から否定的です。

有識者のコメントも加えて、?マークが霞むくらいに批判しています。

なぜ市長名で通知したのか?

新聞の報道姿勢はどうでもいいですし、窓口対応お断りの通知自体も大して珍しくはありません。
僕が気になったのは、市長名で通知文を発出した理由と背景です。

僕の知る限りでは、市長名で通知するメリットがありません。
むしろデメリットばかりです。

市長名で通知すると、行政処分に該当してしまいます。
行政処分であれば、行政不服審査法に基づく不服申立てのような、裁判よりも安価で手軽な法的反抗手段がいろいろあります。
そのため、市長名での通知は、新たな攻撃手段のプレゼントにほかなりません。

そもそも、市長名でこういう通知を出せるものなのか疑問です。

基本的に役所は、所管法令に基づく行為か、議会で承認された行為しか実行できません。
こういう通知の場合は前者でしょう。
市が所管する許認可等の法令に基づく通知であれば、市長名で堂々と発射できます。
ただ、今回の通知は、どういう法令に基づいて窓口利用を制限しようとしたのでしょうか?

庁舎管理条例違反なら問題ありません。
軽犯罪法だと厳しい気がします。市長は軽犯罪法を所管していないためです。
根拠法令を示さず、単に「暴言がひどい」「業務妨害だ」という理由だったら、脇が甘すぎます。

今回のような根拠法令のはっきりしない通知は、弁護士名で出すのが基本だと思っています。
役所から弁護士に対し、通知相手の窓口対応を委託するのです。

弁護士からの通知は、行政処分ではありません。
そのため、通知された側は、裁判を起こすしか法的反抗手段がありません。
法的ではない手段はいろいろありますが、何にせよ行政処分よりは反抗しにくいことは確実です。

なぜ弁護士名で出さなかったのか

ここからは100%僕の空想です。
本当は弁護士名で出したかったけど、何らかの理由で実現に至らず、次善の策として市長名での通知に落ち着いたのでは?

「弁護士への報酬支払い理由が立たない」と出納部門から止められたとか。
市内の弁護士が人権派ばかりで誰も応じてくれなかったとか。

理由は何せよ、市長の英断にただ感激です。
これから不利な戦いを強いられるのが見えているにもかかわらず、職員を守るために一歩踏み出した。

今の世の中、すべての自治体が不当要求に苦しんでいると思います。
僕も最近はご無沙汰ですが、以前の部署では相手3人vs僕1人、6時間ぶっ通しとかも経験しました。
「今のうちに親孝行しておけ」と言われたこともあります。

今回のニュースが良い先例になってほしいと切に願います。