老後資金2,000万円不足に続き、興味深いレポートが国から発表されました。
厚生労働省若手による緊急提言という形で、
- 業務改善
- 人事制度
- オフィス環境
上記3点にフォーカスして、厚生労働省の労働環境がいかにひどいかの具体的指摘と、改善に向けての具体的提言をまとめています。
とても読みやすい「概要版」もあるので、公務員であろうとなかろうと、万人にぜひとも読んでほしいです。
むしろ本体よりも概要版を読んでほしい。役所が作るレポートとしては近年稀に見る怪作です。
あくまで僕の推測ですが、このレポートは社会に広く読まれることを目的として作られています。
類を見ない気合の入り具合
僕がこう考えるのは、体裁があまりに役所っぽくないからです。
役所がまとめるレポートの類は、普通もっと無機質です。
ワードで手作りした感が満載のシンプルなつくりで、お世辞にも読みやすいとは言えません。
そもそも役所関係者以外には読ませるつもりがないので、読みやすくする労力を節約しているのです。
一方、今回の緊急提言(概要版)は、役所っぽくありません。
ビジュアルにとことんこだわり、読みやすく感情を揺さぶります。巧いです。
ここまで作りこむのはものすごく大変です。しっかりお金をかけて外注しているでしょう。
官僚が作成した原文をプロのライターが改稿し、デザイナーがオリジナルのイラストやピクトグラムを作り、InDesignあたりの専用グラフィックソフトを使って紙面レイアウトを作り……という複雑かつ豪華な工程が眼前に浮かびます。
「お金と手間と時間をかけてでも役所以外の人間にも広く読んでもらいたい」という強い意図を感じます。
役所はマジで職場環境にお金を使わない
大手優良企業にお勤めの方がこの報告書を見たら、厚生労働省の職場環境があまりに時代遅れなことに驚くでしょう。
冷房が効かなくて夏場32度あるとか、ブレーン担当の官僚が会場設営と荷物運びに忙殺されているとか、スケジュールが共有されていないとか……
実際のところ、これらは厚生労働省に限った話ではありません。
ほとんどの役所も似たような状況です。
役所ごとに理由はいろいろあるのでしょうが、どこでも共通して最大のネックなのが、職場環境改善のための予算が全然認められないこと。
地方自治体の場合、職場環境改善のために予算を使おうとすると、ほとんどの場合、議会や住民から反発を受けます。
彼ら彼女らへの恩恵が無いからです。
「職員の勤務環境改善」なんて言い出したら、次回の選挙で落ちてしまいます。
そのため、トップダウンでは絶対出てこないし、ボトムアップでも途中で圧殺されるのです。
国の状況はよくわかりませんが、似たような状況なのかもしれません。
「役所はやる気がないからいつまでも旧態依然としているのだ」と思っている方もいるかもしれませんが、それ以前に予算が全然無いから改善できないという事情も知ってほしいです。
報告書の目的
このレポートは単なる現状暴露ではなく、厚生労働省が堂々と職場環境改善のための予算要求をするための布石なのだと思っています。
ただ「職場環境改善の予算をくれ」と要求しても却下されてしまうので、世論を味方にするために、このような緊急提言を出したのでしょう。
「職場環境がダメだから役所はダメなんだ!しっかり改革しろ!」
こんな感じの国民の怒声を財務省にぶつけることで、予算要求を通そうとしているのです。
もしかしたら、老後資金2,000万円不足の報告書がバズった様子を見て、二匹目のどじょうを狙ったのかもしれません。
この予算が通過すれば、自治体も追従する流れが生まれるかもしれません。
僕の勤める自治体も例に漏れず超絶ローテク環境です。
職場で使っているパソコンはWindows Vista時代の年代物で、エクセルファイルを3つ以上開くとフリーズします。 10MB以上のPDFはメモリ不足なのか開けません。
みんな読もう!そして声を荒げましょう!
個人的に一番僕が紹介したいページがこちら。
会議参加者用のお茶を発注したり、会議室の冷暖房や照明をオンオフしたり、会議室のマイク電池残量を確かめたり……
いずれも国家公務員(総合職)若手の重要な仕事です。
答弁準備とかで疲弊している中、こういう単純作業もしっかりこなせるかどうかが、若手官僚の評価基準だともっぱらの噂。
どう考えても非効率というか、頭脳の無駄ですよね……
コメント
コメント一覧 (8)
衛生委員会でいくら要求しても全く通りません。
どの役所でもそうなのかなと思いますが、未だに和式トイレがあることに驚きです。下手したら和式トイレしかない事務所も。
備品の古さも驚き。
某事務所では、昭和50年代に購入したブルドーザーが現役で動いています。
研究センターの備品も殆どが昭和末期か平成初期あたりで買い替えが止まっており、ロクな研究ができないと研究員(旧帝大博士号取得者)が嘆いています。人材の無駄遣い……。
備品台帳を見ると、大正時代に導入された備品さえあるのですから感心します。
ところで。
県庁生活2年目の私ですが、このたび南関東の都道府県庁に転職することになりました。
南関東のほうということは、より大きい自治体への転職になるのでしょうか?新環境でもご活躍されることを祈っております。
知人の一人係長(総合職)はいまだ設営から逃れられないと愚痴ってたので、部署によるのでしょうか……
部局の事務補佐が力を合わせてやるようなこと書いてましたけど、人が増えなければ負担が増えるだけですし、設営などのマンパワーが必要なところは総合職とか関係なく余裕のある人が集まってササッと終わらせればいい気がしますけどね…
号令はかかれども予算も人員も増えない、ありがちなパターン……
軽い肉体労働は気分転換にもなりますし、ささっとみんなで終わらせたいですよね。
昔であれば省の内情を外にさらすようなことはおよそ考えられないことですが、それほどひっ迫した状況であることが伝わって、胸が痛くなりました。
地方でも国の組織もだいたい同じようなもんと思いますが、どこも少子高齢化と格差拡大が進み、取るべき政策課題が急増しているにもかかわらず、システムや人員・職場環境がまったく追いついていないようです。こちらは外部要因ですね。
それに加えて、霞が関特有の問題として、特に省庁合併の際に無理矢理で急ごしらえに合わせて作られた厚生労働省はあの「みずほ銀行」と同じような混乱状況が生まれていると思います。
例えば厚生労働省、国土交通省、文部科学省などは統合省庁ゆえにたすき掛けのような人事や体制がいまだに温存されて、思うように業務効率化や事業見直しが進んでおらず、その調整ゆえに若手を中心に激務が拍車をかけているんだと思います。まあ、これは見えにくい内部問題ですね。
民間銀行では統合で三菱UFJと三井住友が表面上には比較的トラブルが少なく巨大メガバンクに以降したのに対して、みずほはお互いの権益を守るための争いが収束できず、たすき掛け人事がやシステムの統合の遅れが続いて今のような体たらくなありさまになっていると言われています。
霞が関の中央省庁においても政治家や上級官僚の強力なリーダーシップが欠如してしまったがために、混乱が長引き、想像以上の組織の劣化が進んでしまったのではないかと考えられています。
厚労省は組織の再々編も噂されますが、政治家のリーダーシップの欠如により改革が遅々として進みません。そこで国民に窮状をうったえるべく、若手が声を上げたんだろうなと私は理解しています。
課題が増えているのに体制強化が追いついていないというのは、完全に同意です。
僕がかつて観光部局で仕事していたとき、何回か「観光みたいな虚業に勤しんでいる余裕があるなら福祉部門を強化しろよ」というクレームをいただきました。
反論できませんでした…