民間企業と比べて、役所の仕事は無駄が多く非効率だとよく言われています。
民間企業の場合、最大の目的は「利益の最大化」です。
無駄な仕事を減らすことで、人件費というコストを削減でき、利益を増やせます。
つまり、民間企業には無駄な仕事を減らすモチベーションがあるのです。
一方役所には、人件費を削減しようという意識が希薄です。
それどころか、人件費をコストとみなす感覚すら怪しいです。
そのため、無駄な仕事を減らすモチベーションが湧いてきません。
……という趣旨の記事を過去に書きました。
参考:なぜ地方公務員の管理職は「残業を減らそう」という意識が希薄なのか?
参考:なぜ地方公務員の管理職は「残業を減らそう」という意識が希薄なのか?
この考えは今も変わっていませんが、今回はちょっと追記をしたいと思います。
過去をひたすら調べる
どんな仕事でも、役所では過去の経緯を重視します。
過去の意思決定との整合性を確保するためです。
新たな意思決定を行ったせいで、過去の意思決定が誤りだったと間接的に証明してしまうのを、役所は嫌がります。
現在と過去、両方の意思決定を正しいものとするためには、過去を紐解くしかありません。
例えば、公共施設の移転を決定したとしましょう。移転には多額の費用が必要であり、しっかりとした理由が必要です。この理由作りが難しいのです。 単に「移転後の場所の方がアクセスしやすい」「繁華街にあり集客が見込める」など移転後のメリットを挙げるだけだと、反射的に「移転前の立地はアクセスが悪く集客が見込めない」と認めることになりかねません。というか、マスコミや市民団体が「移転前の当初立地は間違っていた!失策だ!」と騒ぎ立てます。こうなるのを防ぐべく、過去=移転前の場所に立地した理由を入念に調べ、
- 移転前の場所も当時は適地だった理由
- 移転前の場所が今ひとつになってしまった理由(もちろん役所のせいではない外的理由)
これくらいは整理しておかなければいけません。
担当職員はとにかく徹底的に調べさせられます。
倉庫の中はしらみつぶしに探しますし、他の行政機関にも出向いて家宅捜索させてもらいます。
民間企業に乗り込むのは流石にやったことありませんが、僕が知らないだけできっとやっているのでしょう。
過去の担当職員にも入念に聞き取りします。
担当職員から得られる情報は貴重です。資料には残せない、当時の雰囲気がわかります。
当時から絶望していたとか、反対に誰もが楽観していたとか。
大昔の出来事だと、退職したOB職員に聞き取りするべく、自宅に伺うこともよくあります。
十中八九すごく嬉しそうに語ってくれますが、あいにく大昔の話なので有益な情報はほとんど得られません。
なんでもいいので情報量が求められます。正確性は二の次です。
あやふやな情報をどれだけ集めても使えないのでは?という疑問を抱きながらも、ひたすら集めなければいけません。
悪魔の証明
過去調査より頻度は低いものの、役所は悪魔の証明にも果敢に挑戦します。
悪魔の証明とは、ざっくりいうと、「存在しない」ことの証明です。
例えば、とある施策で「都道府県初」のサービスを提供するとします。本当に他の都道府県でやっていないのか、少なくともインターネットを使って全都道府県の関連施策を調べます。
時間の許す限り、電話でも聞き取りします。「まだホームページに載っていないだけで、実は近日中にリリースしたりしませんよね?」と確認するのです。
都道府県職員であれば最大47調べればいいだけですが、市町村の職員はどうしているのでしょう?
もしかしたら都道府県庁特有の慣習なのかもしれません。
非効率だけど必要不可欠
こういった仕事は何も生みません。非効率です。
しかし無駄ではありません。必要な仕事です。
しかし無駄ではありません。必要な仕事です。
公共施設移転の事例で触れたとおり、こういった事前準備をしておかないと、外部から攻撃されて余計に面倒事が増えるのです。
(ちなみに「役所が悪魔の証明しなければいけない空気を作る」のは、手練れ市民団体の王道戦略です)
同じ不毛な仕事でも、攻撃される前に準備しておくのと、攻撃された後に焦って取り繕うのでは、前者の方がずっとマシです。
役所の仕事に無駄が多く非効率なのは、組織文化も原因です。
ただ、それと同じくらい外部要因もあるのだと思っています。
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