この記事、実は9月下旬に投稿する予定だったのですが、神奈川県二宮町役場の残業代未払いニュースのせいで全部書き直す羽目になってしまいました。

職員の時間外勤務手当について/二宮町ホームページ


ちなみに、書き直し前はこんな展開でした。
  • 東京都庁は満額支給されるらしい
  • 税収の多い関東圏・阪神圏・中京圏なら、満額まではいかなくともかなり支給される
  • 田舎にいくほど支給されない
  • 県庁は上限付きで支給されるけど、中核市レベル以下はマジで支給されない

「関東の1都3県なら、よほどのことがない限り支給されてる」と都庁職員から聞いていたのに……

残業代のルール

残業代の計算方法は、他のブログ等で丁寧に説明されているので、そちらをご覧ください。
検索したら沢山ヒットするはずです。
本記事では内部事情を紹介します。

残業代の総支給額は、予算案の一部として、議会の承認を受けています。
予算計上されているということは、総支給額の上限(枠)が決まっていることになります。

県職員の残業代の予算について/宮崎県ホームページ

この上限枠が、部署ごとに割り振られます。
どういう単位で割り振られるかは、自治体によって異なるようです。
組織の最小単位(課・室)の場合もあれば、部や局といったより大きな単位の場合もあるようです。

わかりやすさ重視で「支給上限額を部署ごとに割り振る」という表現を使いましたが、総支給額の算定方法も、いろいろあるようです。
・総務部局が上限額を設定して各部局に割り振る
・各部局が必要額を算定し、積み上げたものが総支給額になる
主な方法はこの2パターンでしょう。

後者の場合は、「支給上限額を部署ごとに割り振る」のではなく、「各部署が自分の上限額を決める」ことになり、前者より合理的な上限額となるのではと思います。

上限額の設定方法

上限額は、過去実績をベースに決められます。
「オリンピックがある」「国体がある」といった明らかに仕事が増える事情が無い限りは、まず増えません。
「法改正があって国から制度が移管されて、業務が増える」程度の地味な事情では、増やしてもらえないでしょう。

補正予算が組まれる(上限額が年度途中で増える)場合も

大災害が発生して応急対応が必要になった場合など、想定外の残業が必要になった場合には、補正予算を組んで残業代上限額が拡張されます。

補正予算で増額されるのは、誰が見ても必要不可欠な残業に限られます。
僕が知る限りでは、災害対応以外の事例はありません。

例えば、年度途中の選挙で首長が変わって、いきなりオリンピックを誘致することになり、業務量が激増したとしても、残業代上限は増えないでしょう。
他の部局からカンパしてもらうのが限界で、役所トータルの残業代上限は増えないでしょう。

「上司が細かすぎて残業がものすごく増えて、年度前半で残業代予算を使い切ってしまった」みたいな、組織内部の事情は論外です。

残業代の貰い方

多くの自治体は自己申告制です。
「自分は××業務で○○時間残業したので、残業代をください」という申請を上げて、管理職が諾否を判断します。

正直、管理職が帰った後であれば、水増し請求してもバレません。

申請側としても、管理職側としても、悪い意味で裁量が入りやすい仕組みです。

残業代が貰えるかどうかを決める要素

残業代が実際に支給されるかどうかを決めるのは、2つの要素があります。
役所全体のトレンドと、管理職の裁量です。

役所全体のトレンド

自治体によって、残業代に対する考え方が全然違います。
県庁レベルであれば、ほとんどの自治体で残業ありきで予算措置されているようですが、市町村レベルだと「原則ゼロ」という自治体も多いようです。

さらに、役所ごとに、残業代枠が大きい部署がだいたい決まっています。
一般的に、防災系の部署は法定の突発出勤や宿直が多いため残業代枠が大きくなる一方で、福祉系・環境系のような制度運用メインの部署は小さいようです。

管理職の裁量

残業代を支給(承認)するかどうかを最終決定するのは、管理職です。

「部下に残業させなかった」ことを自分の手柄と考えているとか、自分が直接指示したもの以外は残業と認めないとか……部下の残業代申請を却下する管理職は、やはりいます。
こういう管理職の下では、残業代が貰えません。

反対に、満額支給させたがる管理職もいます。
残業が少なすぎると、人事部局から暇認定を受け、人員が減らされてしまうからです。

改めて、残業代の支給事情

続いて、僕の身の回りの支給事情を紹介します。

僕自身はこれまで管理職に恵まれてきており、残業代申請を却下されたことは一度もありません。
同期入庁職員からは、「うちの部署は申請しても認められない」という愚痴をたびたび聞いているので、同じ役所内でも管理職によって事情が異なるようです。

また、とある部局にて、管理職がめちゃくちゃ細かくて資料作りのための残業がものすごく膨らんで、7月中に年間残業代予算が枯渇して、8月以降は残業代が全く支給されなかったという事件が過去にありました。

僕のマイルール

僕の場合、どれだけ残業したとしても、月40時間ちょっとまでしか申請していません。
月50時間(60時間?)を超える場合、管理職から人事部局に「こいつはたくさん残業すべき特別な事情があるんです」という書類を提出するらしく、超えそうになると管理職に呼び出されて個別面談が発生します。
この面談が結構面倒で、極力避けたいからです。

経験上、20日時点累計を30時間未満に抑えておけば、面談は100%発生していません。
この条件をクリアしつつ、貰うだけ貰う&50時間を超えないようにすると、だいたい40時間前後になります。

月平均残業時間がだいたい50時間くらいなので、毎月10時間はサービスしていることになります。
サービス残業率20%という水準、同期入庁職員の中では格段に低いです。

僕のような総時間ルールのほか、
  • 深夜割増が発生する22時以降は申請しない
  • 3時間未満の残業は申請しない
  • 異動一年目は自分のスキル不足で残業が発生しているだけだから申請しない
など、素直に満額申請するのに抵抗があり、いろいろ理由をつけて申請しない人はたくさんいます。

公務員志望者の方へ

残業代支給事情を知るには、現役職員に聞いてみるしかないと思います。
それも、自治体主催のオフィシャルな場ではなく、ほかの職員が見ていないプライベートな場で、です。

できれば、幅広い年齢の職員に別々に聞いてみるとよいでしょう。
若い職員からは採用後の自分のリアルな現実が、中堅職員からは「若いうちはもらえない」「以前は貰えたのに最近はもらえない」といった時系列推移情報が得られます。
どちらも重要です。

あくまで一般論ですが、市役所よりも県庁、田舎よりも都会のほうが貰えているのは事実です。
田舎の市町村役場にUターンする場合は、特に入念に事前調査してほしいなと思います。

ちなみに、僕もOB訪問で「県内市町村では、残業代が出ないところのほうが多い」と聞いてしまい、県庁を第一志望に決めました。
市町村では、法定の時間外労働(宿直など)を除き、そもそも残業代予算が設定されていないようです。
実際の残業時間は県と大差無いのに……本当に気の毒です。