キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

2021年01月

古のインターネットでは、PDFファイルはブラクラ扱いを受けていました。
しかし今では超便利ツールとして活躍しています。時代の変化を感じますね。
特に役所のホームページでは「とりあえずPDF化しておけば大丈夫」という感覚で、色々な情報がPDF化されて掲載されています。

PDFに限らず、どんなファイルにも「メタデータ」というものがあります。
ざっくりいうと「プロパティの中にあるデータ」であり、作成日・更新日や作成者などの情報のことを指します。

メタデータの中でも特に有名なのが、画像データのexif情報です。
弊ブログでも過去に取り上げたことがありますが、最近はきちんと公表前に削除するのが常識として定着しつつあるようで安心しています。 




PDFファイルを公表するということは、必然的にPDFファイルに含まれるメタデータも公表されてしまいます。
この「PDFファイルのメタデータ」が意外と厄介で、下手をすると炎上案件を引き起こしかねません。

右クリックするだけでは閲覧できない

PDFファイルのメタデータはプロパティの中に潜んでいます。
ファイルを右クリックして見られるプロパティではなく、Adobe Acrobat Reader DC(閲覧機能だけの無償版)のようなPDF閲覧ソフトの中で見られる、より詳しいほうのプロパティです。

ここには、PDF化する前の元データ(ワードやパワーポイントのファイル)のプロパティが一部残存しています。


otoshi01

otoshi02

実例を見てみます。左が元データ(ワードファイル)のプロパティ、右がPDFのプロパティです。
「タイトル」と「作成者」がそのまま残っています。
これらの情報が残っていて、役所外部に知れ渡ってしまうと、非常に面倒です。

タイトルのせいで不要なトラブルを招く

まずはタイトルから見ていきます。
メタデータにおける「タイトル」は、ファイル名とは別物です。
PDFファイルの名称をいくら変更しても、「タイトル」は変わりません。
PDF化する前の元ファイルの名称がそのまま残るようです。

伝えたい情報はファイルの中身とファイル名に記載しておけばいいのであり、メタデータに記載する必要はありません。
メタデータの「タイトル」は、「file01」のような無機質な名称か、ブランクで十分です。 

メタデータの「タイトル」欄は、そこに使われている単語のニュアンスをめぐり、トラブルの引き金になりかねません。

画像で示した例でいうと、タイトルに含まれる「講演」「資料」という2語は、人によって定義が異なる可能性が高い単語です。
各人がバラバラな定義を持っているせいで、以下のような抗議が想定されます。

  • 「講演」は目上の人間が目下の人間に対して行うものだ、公僕である役所職員が「講演」するなんて思い上がりも甚だしい、謝罪しろ
  • 「資料」と称するからには講演内容の出典や根拠資料を網羅的に示すべきだ、学会ではこれが常識だ
  • 「講演資料」と題するなら講演そのものを追体験できるデータ、つまり音声と動画を掲載すべきだ、テキストだけで済ませるのは怠慢だ
いずれの抗議にしても、メタデータがブランクであれば起こりえないものです。
まさにメタデータが余計な一言になって、住民感情を逆撫でしてしまうのです。


さらに、資料の中身とは直接関係のない情報がタイトルに書かれていると、あらぬ疑念をかきたててしまいます。

画像で示した例でいうと、「案B」「修正4」の部分が問題です。
これらの情報は講演内容そのものとは関係ない「講演に至るまでの検討過程」であり、本来は役所外部に披露する必要のない情報、これも余計な一言です。

「案B」「修正4」という文言を見ても、大抵の人は関心を示さないでしょう。
しかし、役所と戦いたい人にとっては、この情報が攻めの糸口になります。

  • 案Aはどんなものだったのか?なぜ案Bにしたのか?もしや案CやDもあるのか?
  • どうして修正が生じたのか?そもそも4回も修正する必要があったのか?修正に要したコストは?コストに見合う成果はあるのか?

こういう攻撃を誘発してしまうのです。

個人情報漏洩になりかねない「作成者」情報

「作成者」情報のほうがより深刻です。
個人情報の漏洩というマジモノの不祥事に直結するからです。

公文書公開のルール(情報公開法・自治体の情報公開条例)では、公文書に含まれる個人の氏名は非公開情報であり、黒塗りしなければいけません。
誤って公開してしまうと、個人情報の漏洩になります。
※ただし個人の氏名であっても「公務員の氏名」は例外で、黒塗りは不要です。

データの場合も同様に、個人の氏名は公開してはいけません。

データの場合はさらに注意が必要です。
ファイルの中身(本文)だけではなく、プロパティ内にも情報(メタデータ)が潜んでいるからです。

メタデータの中に個人情報がある場合も、消去するなり記号に置き換えるなりして個人情報を守らなければいけません。
ここが結構見落としがちなポイントで、誤って公開してしまい不祥事として大々的に報道された事案もあります。

画像の例でいうと、「作成者=久川凪」という情報は、まさにメタデータの中の個人情報です。
原則、公開してはいけません。
(ただし、久川凪さんが公務員であれば全く問題ありません。)

役所が自前で作った資料であれば、「作成者」欄は作成した職員=公務員の名前になるので、問題は生じないでしょう。
しかし、外注して作成した資料だと、外注先の社員さんの氏名がそのまま残っているケースがよくあります。チラシとかパース図とか図面とか……
バレたら即、不祥事です。

元データのプロパティを消す

不祥事ハンター達はメタデータをよく見ています。
そもそもこの記事自体、ネット上でアンチ役所活動を展開している方の発言から着想を得ました。
その方いわく、「いつどこが不祥事を起こすかわからないんだから、日々あらゆる行政機関のサイトを巡回してメタデータに個人情報が残っているファイルを収集している」とのこと。

どういうふうに悪用されるかわからないし、役所としては(今のところ)公開する義務もないので、可能な限り消しておくのが無難です。

しかし困ったことに、PDFのプロパティ内のデータは、一旦PDF化してしまうと削除できないようです。
Adobe Acrobat(PDFの加工ができる有償版)があれば消せるようですが、無償版のAdobe Acrobat Reader DCでは対応していません。
Adobe Acrobatは高価なため、役所で保有しているところはごく少数でしょう。

そのため、PDFファイルを作成する前に、元ファイルのメタデータを消すしかありません。

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赤丸で囲んだところをクリックしてプロパティを消してからPDF化すれば、PDFのプロパティも綺麗になります。
できれば作成日とか更新日も消したいところなのですが、こちらは消せないようです。



若手(20代)地方公務員の給与考察の続きです。
前回の記事では全国平均の数字を使いて、若手地方公務員の給与水準は同年代の民間勤務高卒者並みという結果を見ましたが、今回は地域別の数字を使って
  • 給与の構成要素(基本給・残業手当・賞与)ごとの影響も気になる
  • 高いor安いの感覚は、同一地域内での相対的順位にも大いに影響されそう
という直感的疑念について考えていきます。

賃金構造基本統計調査より


今回は賃金構造基本統計調査の数字を用います。



統計表はこちら。(総務省統計局)


このデータであれば、都道府県ごとのデータが使えます。
エクセルのランダム関数で対象都道府県を選んだところ、岡山県がヒット。
今回は岡山県のデータを使って検討していきます。

ちなみに岡山県は、同統計内の「所定内給与額」(≒諸手当除きの月給)が47都道府県中24位であり、ちょうど中間に位置します。
そのため、単県のデータではありますが、ある程度は全国普遍的な結論を導けるかもしれません。

今回は「若手」にフォーカスすべく、25~29歳のデータを取り出します。
さらに男女差が想定されるので、性別ごとにデータを集計。

この統計調査は民間事業者だけが対象のため、公務員のデータは含まれていません。
そこで、僕が実際にもらった金額をベースに、地方公務員のデータを追加します
地域手当は、岡山県岡山市(3%)を反映させました。
ただし残業代は水物なので、僕の実績をそのまま使うわけにはいきません。
そこで、総務省の「地方公務員の時間外勤務に関する実態調査結果」中の都道府県職員の平均残業時間である12.5時間≒13時間、毎月残業すると想定し、13時間分の残業手当を「きまって支給する現金給与額」に盛り込んでいます。

残業手当単価は、所定内給与時給換算額×1.25で算出しました。

賞与は4.45か月分を計上しました。


男性:真ん中よりやや悪い

こうして出来上がった一覧表がこちら。
スライド1


右側2列の「所定内給与時給換算」と「年収」のみ、統計データから僕が算出したもので、その他は統計データからのコピペです。
この表を見ただけで、地方公務員の賞与額がかなり大きいことが見て取れます。

スライド2
一覧表を並べ替えて分析を進めていきます。
まずは基本給を比べていきます。

諸手当除きの月給、いわゆる基本給は、「所定内給与」に相当します。
ただし、これの実額で比較すると、対象となる労働時間(所定内実労働時間数)が産業ごとにまちまちで公平な比較になりません。
そこで今回は時給換算して公平性を確保しました。

この基準だと、公務員は51区分中の28位。真ん中よりも少し悪いあたりです。

続いては年収です。
公務員は51区分中の27位。基本給と同じく真ん中よりも少し悪いです。


女性:余裕で上位

続いて女性のデータも見ていきます。
スライド3
スライド4

元データにある民間企業では、どの産業区分でも男性より給与水準が低くなっています。
一方、地方公務員の場合、男女間の差は基本的にありません。
そのため、男性と比べ、相対的に地方公務員の順位が上昇しています。
時給も年収も、余裕で上位に食い込めています。

まとめ:ちょっと劣る

以上の結果をまとめると、岡山県の場合、
  • 平均的な若手地方公務員(男性)は、民間企業勤務の同世代男性よりも高給とは決して言えない。とはいえ薄給とも言えないし、特に賞与は確実に恵まれている。
  • 女性の場合は、同世代女性の中でも相当な好待遇。
といえるでしょう。

統計上の数字には現れていませんが、民間企業の場合は個人差がものすごく大きいことを忘れてはいけません。特に賞与。
つまり、同一区分の中でも相当なばらつき(分散)があると思われます。

一方、地方公務員は、残業代の多寡くらいでしか差がつきません。
20代のうちなら基本給の差も小さいですし、賞与は余程のことがない限り満額支給されます。

給与の安定感を重視する方にとっては、地方公務員の待遇は数字以上に魅力的に映るでしょう。

今回は岡山県のデータを使ってみましたが、都道府県ごとに特色が出ると思います。
お住いの地域のデータで自分の給与と比較してみたら、きっと発見があると思います。

出身大学比較(その2)

「30歳時点の想定年収」という出身大学別のデータも見つけました。
【2021/2/17 新しいデータがリリースされたので差し替えました】




「年収」の定義がよくわからないうえ、転職サイト登録者のデータをもとにしているようなので、どちらかといえば上振れしている気がします。

僕の場合、30歳時点(2020年)の年収は約440万円でした。
※内訳:基本給300万円+賞与110万円+残業手当+地域手当
ちなみに地域手当を東京23区水準(20%)まで引き上げると、約500万円になります。


このデータだけだと、
  • 東北大学→宮城県庁・仙台市役所
  • 九州大学→福岡県庁・福岡市役所
みたいな、地方の旧帝大を卒業してからの地方公務員という流れは、年収的には負け組のように見えます。実際は結構たくさんいそうな気がするのですが……


どこの自治体の職員採用パンフレットにも「現役職員へのインタビュー」が載っています。
内容は様々ですが、「仕事のやりがい」「一日のスケジュール」「プライベートの過ごし方」あたりはどの自治体でも共通していると思います。

パンフレットの読者である公務員志望者にとって、一番関心のある情報は「一日のスケジュール」ではないかと推測しています。

「仕事のやりがい」はあくまでも職員個人の主観的な感想で人それぞれですし、「プライベートの過ごし方」も同様です。
「一日のスケジュール」のみ客観的事実で、入庁後の自分を想像するヒントになります。

しかし残念なことに、パンフレットに載っている「一日のスケジュール」はほぼ嘘です。
少なくとも、定時出勤・定時退社していたら確実にフェイクです。
採用パンフレットに載るような花形部署が定時勤務できるわけがありません。
(退庁時刻が20:00を過ぎているようだったら信用できます)

そこで、リアルな実例として、閑職県庁職員である自分の一日を紹介します。
暇さ具合でいえば、フルタイム勤務の平職員の中でも上位10%に入る自信があります。

出勤〜定時まで

定時(9:00)の20分くらい前には出勤して、地方紙とネットニュースに目を通し
  1. 自分の業務に関係あるニュース
  2. 職場内で話題になりそうなニュース
  3. 議員や公務員の不祥事(地方・国政問わず)
あたりをチェックします。

①②は入庁当時から続けているルーチンで、僕に限らずたいていの職員が実践しています。
 
③は今年に入ってから新たに加わった習慣です。
新型コロナウイルス感染症の流行以後、自分の担当業務に関係なく行政全般への苦情をぶつけられる状況であり、こういう情報を知らないと苦情主から「意識が低い」と更に叱責されるため、否応無くチェックしている状態です。 

定時内

9:00 業務スタート

まずはメールチェックから始めます。
だいたい夜のうちに5件くらいはメールが届いており、それらを読んでいきます。
自分の個人アドレスだけでなく、課の共有アドレスもチェックします。
 
「朝一のメールチェックはNG」と説くビジネス書もありますが、地方公務員の場合は始業時のメールチェックが不可欠です。
前日の定時後に発出→本日AM10:00期限の作業依頼のような急件がたびたびあり、こういう案件に限って重要だからです。

メールチェックの次は課全体のスケジュール確認です。
特に管理職の予定は必ず確認します。

地方公務員の仕事には、自分一人では完結せず、管理職の了承が必要なものがたくさんあります。
朝のうちに予定を確認しておかないと、「今日中にチェックしてもらいたいのに、午後から管理職が外出しててチェックしてもらえない、詰んだ」という事態に陥りかねません。

課全体の慌ただしさを把握しておくことも重要です。
もしかしたら急に応援を求められ、自分の作業ができなくなるかもしれないからです。

9:15 本日のタスクに着手

課全体のスケジュールを頭に入れた上で、本日のタスクを確認します。
一日の大まかな流れを決めて、優先順位の高い順に取り掛かっていきます。

本日の場合、真っ先にこなすべき案件は、本日17:00締切の調査ものです。
しかも16:00から来客のアポがあるので、実質16:00までに回答しなければいけません。 

定時内であれば、だいたい20分に1回くらいは電話がかかってきます。
よほどの急件を抱えていない限りは、作業の手を止めて電話に応じます。
メールも同様です。定期的にチェックします。

他の職員の書類決裁も、すぐに見て回すようにしています。
僕の手元に留めておくメリットが皆無だからです。

10:30 上司から急件

予定通り作業を進められる日なんて滅多にありません。
毎日少なくとも3件くらいは突発案件が舞い込んできます。
 
本日の1件目は上司から資料作成依頼。議員からの問合せに答えるため、過去のデータをまとめてビジュアル化します。
管理職のチェック・修正指示を経て、資料を仕上げる頃には午前が終わっていました。

12:10〜13:00 昼休み

ちょっと遅れて昼休みに入ります。
自席で昼食(仕出し弁当)をいただき、愛読しているブログ類をスマートフォンで読んでから、仮眠に入ります。

13:00 国からの通知文を読む

午前中の急件対応中、国から通知文が届いていました。突発案件2つ目です。
どうやら僕の担当している制度の運用ルールが今後変わるようです。
幸いにも大した変更ではないので、特段上司には説明せず、通知文を課内供覧に回します。

13:30 作業再開

本日のタスクを再開します。順調にいけば定時内に終わりそう。

14:00 他課から突発案件

本日3件目の突発案件。他課(A課)から、とある資料を至急提供するよう、電話で依頼されました。
個人情報もりもりのデータのため、そもそも他課に提供していいものか僕単独では判断できません。
「課内で検討したい」と回答して一旦電話を切り、係長に相談。
係長的にはOKだが、念のため課長にも相談することになり、課長に諮るための簡単な打合せペーパーを作成。

14:30 課長にヒアリング

先の急件について課長の意向を伺います。
課長的にもOKだが、どうしてA課が突然そんなデータを求め始めたのか、その背景を気にしている様子。
 
まともな職員ならA課から依頼があった時点で違和感を察して背景を尋ねておくべきところ、こういうところで気が利かないから僕は出世競争早々脱落なんだよなーと反省しつつ、ヒアリングから離席してA課担当に電話。
結果、「部長からオーダーされた」との一点張りで、明確な答えは貰えません。
 
明らかに怪しいので、A課に対しては「個人情報なので絶対に庁内限り、職員のみ閲覧可」という条件を強く念押しして情報提供することになりました。

こういう仕事が、公務員がよく言う「調整業務」の一例です。

15:30 作業再開

今日やるべき作業に三たび着手します。
午前中に仕上がるはずだった17:00締切の調査ものすら、まだ出来ていません。
さすがに焦って作業します。

眼精疲労と空腹を感じ始める頃合いで、作業効率が落ちてきます。 

16:00 打合せ

X市役所の担当者が来て、来年度からの新規事業について説明を受けます。
財政的支援を求められますが、そんなものは無いと回答。

残業タイム

17:45 定時終了

あと少しで全タスクを終えられそうなので、そのまま残業に突入します。
定時を過ぎると電話が減り、作業効率が上がります。

18:00 作業依頼メール

他課(B課)からの作業依頼メールが届きました。4件目の突発案件です。
期限は明日AM10:00。作業量自体は大したことないものの、課長の確認が必要です。
本日中に仕上げて、明日の朝一番に課長に見てもらうことにします。


18:45 本日の作業終了

もともと予定していた本日のタスクを完了。
B課から依頼された作業に移り、こちらも完了。
明日マストのタスクをメモして、机の上とデスクトップを整理して、さっさと退庁します。

普通はもっと忙しい

繰り返しになりますが、これはあくまでも閑職のケースです。
90%のフルタイム勤務職員はこれより忙しいです。
忙しい部署だと突発案件がもっと増えるうえ、しかも締切の短い急件ばかりなので、一日中ずっと急かされているような状態になります。

公務員志望の方で、この一日を見て「思ったより忙しそう……」と思うなら、考え直したほうがいいかもしれません。



押印廃止に後押しされているのか、役所のペーパーレス化も最近よく話題に上ります。
僕自身、毎日たくさん紙を消費することに心を痛めており、はんこと同じく紙の使用もどんどん減らしたいところです。

しかし、役所が全面ペーパーレス化するにはたくさんの課題があり、押印廃止と比べても圧倒的に難しいと思います。
中でも深刻なのは、ペーパーレス化により不利益を被る人(デジタルに疎い住民)が大勢いる点です。
総務省作成の資料によると、65歳以上の年代でインターネットの利用率が非常に低く、約半数が「使いこなしているとはいえない」とされています。
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インターネットを一切使わずに住民サービスをペーパーレス化するのは、現実的ではありません。

となると、インターネットに疎い層にとっては、ペーパーレス化のメリットはありません。むしろ既存の紙ベースのサービスが縮小されて不便になるでしょう。

つまり少なくとも65歳以上の約半数(総務省資料によると約1247万人)が「サービスの劣化」を感じることになります。
高齢者のほうが政治的影響力が強いことを踏まえると、かなり強烈な反対運動が巻き起こるでしょう。

そのため、対外的なサービスも含めた全面デジタル化は当面不可能だと思います。
ペーパーレス化するなら、まずは庁内だけで完結するプロセス(決裁、会議など)を先行させることになるでしょう。

ペーパーレス化そのものには僕も賛成で、できるところから進めていけばいいと思っています。
ただどうしても懸念が拭えない点があります。

目が疲れる

ペーパーレス化が進んだとしても、地方公務員の仕事そのものが変わるわけではありません。
相変わらず役所内に篭り、資料作成や書類のチェック、会議や打合せをこなしていくことでしょう。

資料作成は既にほとんどパソコン作業なので、大きく変わるのは書類チェックや会議です。
従来は紙媒体に出力していたものがデータになり、画面上で見ることになります。

つまり、これまで紙を眺めていた時間は、そのまま電子機器の画面を眺める時間になります。

めちゃくちゃ目が疲れそうだと思いませんか?

近い将来、地方公務員の適正に「眼精疲労耐性」が挙げられる日が来るかもしれません。

イージーミスで怒られる案件が増える

下っ端公務員の重要な仕事に「紙資料のデータ化」があります。

外部から受領した紙資料をスキャンしてPDF化したり、必要な部分だけエクセルファイルに抜粋・転記したり……

仕事自体は単純作業そのものであり、誰でもできます。いずれはRPAによって置き換えられるでしょう。
しかし、のちのちの判断の基礎となる元データを整備する作業であり、決して間違ってはいけない重要な仕事です。
単純作業ゆえにケアレスミスも発生しやすく、かなり厄介な仕事でもあります。

僕自身、幾度となく数字転記ミスをやらかして叱責されてきました。
議会答弁の訂正まで発展したことも一度だけあります。軽いトラウマです。

役所内のペーパーレス化が進めば、外部から受領した紙資料をそのままコピーして使うことが減り、スキャンなり抜粋転記なりの一手間を加えてデータ化する作業が増えるでしょう。
つまり、下っ端職員にとっては、イージーミスを起こしやすいうえガン詰めの原因にもなる厄介な仕事が増えるのです。


紙の使用量を減らすだけでも勿論成果だとは思いますが、紙を減らした結果かえって不便になるのは勘弁願いたいです。

手当たり次第なんでもペーパーレスするのではなく、まずはドキュメントの寿命を基準に優先順位をつけたほうがいい気がしています。
  • 寿命が短い、つまり短期間しか使わなかったり、単発での使用に止まるものは、どんどん電子媒体に置き換えていく。(例:会議資料、報告資料)
  • 寿命が長い、つまり長期間にわたり何度も使うドキュメントは、紙媒体での保有も認める。(例:マニュアル類)

僕単独で完結する業務は、当面この基準で運用してみようかと思っています。


「公務員は苦情対応が大変」という意見をよく見かけますが、今の時代、働いているなら誰しもが苦情対応に頭を抱えていると思います。
公務員だけが特段大変だとは思いません。
 
とはいえ役所ならではの苦情の特徴があり、そのせいでスムーズに処理できなかったり、苦情主・対応側ともに余計なストレスを感じていることも事実だと思います。

顧客数=潜在的苦情主がものすごく多い

役所の顧客(行政サービスの利用者)は、少なくとも域内の全住民です。
観光や移住、広報など域外住民をターゲットにした施策もあり、実際はさらに増えます。
民間サービスでこれほど多くの顧客を抱えているものは、そうそうありません。 配達業やインフラ関係くらいでしょうか?

顧客が多いほど苦情の量は当然増えます。
ただし役所の場合、幸か不幸か、大半の顧客は普段は行政サービスに対して無関心です。
そのため、平常時は、顧客数の割には苦情が少ないほうだと思います。

しかし、顧客は皆、潜在的には苦情主です。
何かあれば全員が苦情主になりえます。
つまり役所は、膨大な数の潜在的苦情主を抱えており、有事の際にはものすごい数の苦情を受けうるのです。

苦情主のステータスがバラバラ→苦情内容もバラバラ

役所の顧客には、ステータスのばらつきが非常に大きいという特徴もあります。
何しろ域内の全住民が顧客です。
年齢、所属、職業、社会的地位……あらゆる要素において、上も下もきりがありません。

同一のトピックであっても、ステータスが異なれば、抱く意見は異なります。
苦情も同様です。
とあるひとつの行政サービスに対する苦情であっても、苦情主のステータスによって中身は大きく異なります。
つまり役所は、抱えている顧客の幅が広いために、受ける苦情の中身も幅広いのです。

例えば街路樹の消毒。
  • 近隣住民は「消毒しなければ毛虫が湧いてくる、すぐ消毒してくれ」と要望します
  • エコ団体の方々は「毛虫がいないと生態系が乱れる」と声を張り上げます
  • 観光客は「消毒業者が邪魔だから中止しろ」とSNSで表明します
  • 消毒業者の業界団体は「夜間作業は労災の温床、危険だから禁止してくれ」と陳情します

いずれの苦情にしても無下にはできません。誰もが重要な顧客だからです。
応じるかどうかは別にして、一旦は聞き入れる必要があります。

苦情主のステータスや苦情内容の幅が広いと、対応のマニュアル化が難しくなります。
そもそもどんな事案がありうるのか想定しきれないのです。
そのため事前の備えが不完全にならざるを得ず、アドリブ的な対応がどうしても必要になります。

苦情を言われても応じられないケースが大半

僕の経験上、住民からの苦情に完璧に応じきったことは一度もありません。
一部対応するだけに止まった案件がちらほら、大半は諦めてもらっています。

もちろん面倒だから拒絶しているわけではありません。
内容的に応じられないため、泣く泣くお断りしているのです。

対応できない苦情の中でも特に多いのは、法令や全国的制度への苦情です。
いずれも自治体にルールの変更権限は無く、自治体はあくまでも運用するだけの立場です。
いくら苦言を呈されても変えられません。
別の言い方をすれば、地方自治体や地方公務員は本来自分には責任の無いはずの事案で悪者扱いされがちとも言えるでしょう。
「自分は何も悪く無いのにどうして罵倒されてるんだろう……」という戸惑いを、自治体職員であれば誰もが経験していると思います。

行政は本質的に執行機関であり、物事を決める立場ではありません。
特に地方自治体は、住民が想定するより裁量の幅が狭いものです。

執行過程での不手際に対する苦情であれば当然役所が責任をもって対応しますが、法令や制度そのものや、ある事業のやる/やらないの判断など、役所ではなく議会(ひいては住民)が決めたことに対してまで苦情を言われても応じきれません。
むしろ、苦情主一人を尊重して法令・議決を勝手に覆すような行いは、その住民による独裁にほかなりません。あってはならないことです。

Go toキャンペーンの運用変更や、困窮世帯に30万円給付→国民全員に10万円給付への変更など、政府が民意に追従したように見える事案が最近いくつかありました。(実態はどうか知りません)

これらを成功体験と捉えて「住民が強く訴え続ければ役所を変えられる!!」「役所が折れるまで叩き続けよう!!!」と意気込んでいる方が増えているように思います。
自治体の独自事業なら変わる可能性はありますが、生活保護のような法令に基づいて全国一律で運用している事業は、自治体をどれだけ叩こうが変わりようがありません。

これから当面、こういう「自治体ではどうしようもない苦情」をぶつけてくる方が増えるような気がして、ちょっと憂鬱です。

断ってばかりだけどメンタルは保ちますか?

地方自治体に寄せられる苦情の多くは、先述したような法令・全国的制度への苦情であり、自治体ではどうあがいても応じられない案件です。
そのため、地方公務員の苦情対応業務の大半は、苦情を聞いたうえでの説得です。

  • 「その苦情には応じられない」というメッセージを、いかに明確かつ穏便に伝えるか。
  • 相手のステータスを敏感に察して、ふさわしい言葉と仕草・態度を選べるか。

これが地方公務員の苦情対応の基本だと思います。

こういう苦情対応のスタンスは、ある意味楽です。
「いかに引き下がってもらうか」だけに集中すればよく、弁償の方法のようなアフターフォローを考える必要が無いからです。

一方、このスタンスが苦痛で仕方ないという方もいるでしょう。
苦情に応じないということは、別の見方をすれば、困っている人を見捨てることでもあります。
公務員を志す方は多かれ少なかれ「人助け」に関心があるはずで、眼前の嘆願者を見放すことに罪悪感を覚えるでしょう。
それでも割り切るしかありません。これが公務員という立場です。

苦情対応の場面では、多数=公益(秩序)のために、眼前の一人を見放さざるをえないケースが多数あります。
心の中で割り切って公益を優先できるかどうかは、公務員適正のひとつだと思います。


どんな仕事に就こうとも苦情対応からは逃れられません。
「苦情対応が嫌だから公務員は止めておく」という判断に意味は無いと思います。
それよりも「断ってばかりだけど罪悪感に耐えられるか」という観点で考えたほうが有益でしょう。

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