キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

2021年03月

ここ最近公務員関係の不祥事が立て続いているので、今年の新規採用職員研修では公務員倫理をみっちりレクチャーされるのではないかと思います。

公務員倫理と似たような意味で、「公務員としての自覚」という言葉もよく使われます。
こちらは明確な定義が無いようで、組織ごと・文脈ごとに様々な意味づけがなされているようです。

研修では「公務員としての自覚」と公務員倫理を同じものとして扱いがちですが、僕は個人的に、「公務員としての自覚」はもっと広い概念だと思っています。
そして、公務員倫理ももちろん大切なのですが、普段の業務、特に住民と接する業務においては、もっと重要な「自覚」があるとも思っています。

それは 「好かれていない」という自覚です。

住民の大半は公務員を好いていない(嫌悪するほどではない)

正式職員として役所に採用された方は誰しも、公務員という職業に「好感」を抱いていると思います。
公務員になるためには面倒くさい筆記試験を通過する必要があり、民間企業への就職と比べて時間もお金もかかります。

公務員という職業に魅力を感じ、好感を抱いていなければ、そもそもこんなハイコストな選択をしないでしょう。

しかし、その感覚は、世間一般からすれば異端です。
大半の人は公務員が好きではありません。

「好きではない」を通り越して明確に嫌悪している方もいますが、あくまでも多数派は「好きではない」程度の軽度な悪感情にとどまります。
10点満点(10点が「好き」、5点が「普通」、0点が「嫌い」)で評価するなら3点くらいです。

「好き」の反対は「嫌い」ではなく「無関心」……という表現もあります。
この意味での「無関心」と言っても間違いないと思います。

公務員を好いていない理由は複合的かつ人それぞれです。
  • 連日報道される公務員の不祥事に義憤を覚えた
  • 役所に手続きしに行ったら不愉快な目に遭った
  • 税金で食っているから
このあたりがメジャーな理由かと思われますが、他にもいろいろあるでしょう。

人事院が実施したアンケートの結果からも、世間の公務員への印象が見てとれます。



この「好きではない」という感情がものすごく厄介なのです。


普段は温厚でも、ひょんなことで爆発しかねない

多少なり公務員への反感を持っているとしても、ほとんどの方は普段は悪感情を表明しません。
理由もなく悪感情を露呈して他者を攻撃するのは世間一般のマナーに反するからです。

しかし、何らかの「理由」「きっかけ」さえあれば、こういう穏健な方々も爆発します。
爆発のきっかけになった案件に対してのみならず、「そもそも公務員は」「そもそも役所は」という前置きを挟んでから、公務員・行政全般への反感をここぞとばかりにぶつけてきます。

今の世の中、公務員嫌いを堂々と表明して叩く方も大勢います。
そのため公務員側としては、「公務員が嫌いな人はそう明言している。裏を返せば、公務員嫌いを明言していない人は公務員に対して好印象を持っているはずだ」と思いがちです。

この発想は完全な誤解であり、過度な楽観です。
普段は意志力によって公務員への反感を押さえ込んでいるだけで、内心は悪感情を溜め込んでいるかもしれないのです。


マイナスフィルターがかかる


「好きではない」相手の言動には、マイナスのフィルターがかかるものです。
 
 
態度のヒューリスティクス
態度とは、情報的で評価的な要素を含む特殊な信念の一つである。ある意味では、態度とは、ある対象について記憶に貯蔵された評価ー良いか悪いかーである。アンソニー・ブラトニカスとアンソニー・グリーンワルドによれば、人々には、意思決定や問題解決をするための手段として態度のヒューリスティクスを利用する傾向がある。態度は、対象を、好意的な部類(そこでは、賛成し、接近し、賞賛し、大切にし、保護するという方略が最適である)に割り当てるか、それとも、非好意的なカテゴリー(そこでは、反対し、回避し、非難し、無視し、傷つけるという方略が使われる)に割り当てられるのに利用される。

『ザ・ソーシャル・アニマル 第11版』p.132
E・アロンソン著 岡隆訳 サイエンス社



訪問販売の販売員が突然やってきて、商品を売り込んできた場面を想像してください。
どれだけ営業トークを聞かされても、「どうせぼったくりだろ」と決めつけて、心が動かないのでは?

住民の多数派にとって、公務員はこの場合における「訪問販売の販売員」と同程度に疎ましい存在です。
もともと好感度が低いために、何を聞かされても見せられても不信感を感じますし、そもそも関わっているだけでイライラしてきます。

住民側に負担が生じる施策であれば当然ながら断固拒否したくなりますし、住民側に一見メリットがある施策であっても何か裏があるように感じられます。

役所外の方と接する業務では、まずこのマイナスフィルターを取り除くところから始めます。
つまるところ「信頼関係の構築」です。
ラブコメ的な言い方をすれば「最悪の出会いから始まる恋」を軌道に乗せるようなものです。

「好かれていない」という自覚が無いと、マイナスフィルターの存在になかなか気づけません。
先述のとおり、多くの方は公務員への悪感情を見せません。
しかし、表に出す/出さないに関係なく、悪感情があれば、マイナスフィルターも存在します。

一見愛想よく見える相手であっても、まずはマイナスフィルターの除去から始めたほうが無難です。
これをすっ飛ばして、いきなり本題に入ってしまうと、表情が急に険しくなって炎上しかねません。


心から謙虚・低姿勢に振る舞うための「自覚」

「好かれていない」という自覚があれば、おのずと自制が効いて謙虚な態度がとれるようになります。
この「謙虚な態度」こそ、若手地方公務員に最も必要なものだと僕は思っています。

地方公務員になりたての頃は、地方公務員という職に誇りを持っている方が多いと思います。
しかし、住民からすれば、地方公務員は皆いけ好かない連中です。
地方公務員の言動全てにネガティブなフィルターがかかります。

そのため、公務員側としては「誇りをもって」仕事をしているつもりでも、住民側からすれば「横柄」「上から目線」「図に乗っている」ように見えてしまいがちです。
これが先述の「きっかけ」となり、爆発するのです。

無用なトラブルを避けるためには、謙虚で低姿勢に徹するのが一番無難です。

もちろん時には堂々と誇り高く(横柄なくらい)振舞うべき瞬間もあります。
ただし、これは若手の役目ではありません。肩書きのある職員の仕事です。

今は公務員に対する風当たりが非常に厳しく、怒り爆発のハードルが著しく下がっています。
トラブルを未然防止し、苛烈な罵声から自分の心身を守るためにも、「好かれていない」という自覚を持ち、謙虚な低姿勢を習得したほうが安全でしょう。

冷静に考えてみると、「公務員を好きになる機会」はなかなか存在しません。
公務員を好きになる機会=加点要素が無いために、ひたすらずっと減点方式で評価しているような状態なのでしょう。
「公務員嫌い」に転落する機会はたびたびあるけど、そこから好転する機会が無いのです。

地方公務員の仕事はよく「マニュアル仕事」と言われて揶揄されます。
「決まった手順通りにやれば誰でもできる簡単な仕事」「画一的で柔軟性欠ける」「単純なルーチンワーク」というイメージが強いのでしょう。

役所の仕事は基本的に法令という(広義の)マニュアルに基づいて執行されるものであり、なんでもありの民間企業と比べれば間違いなくマニュアル仕事です。

ただし、役所が参照するマニュアルは、業務の手順が全て書かれている親切丁寧なものではありません。

地方公務員は日々、マニュアルの行間を埋めて具体的な作業へと落とし込んで行くプロセス、つまりマニュアルの解釈に膨大な時間と労力を注いでいます。
 
「マニュアルの解釈」の方法を説いたマニュアルはありません。ケースバイケースかつコミュニケーション能力が問われる仕事です。

地方公務員の仕事は「作業ゲー」というよりは、むしろ「作業ルールの解釈ゲー」です。



「要綱」「要領」「手引き」「ガイド」「詳説」「解釈指針」「心得」などと題される、業務の手順や判断基準を説明した文書のことを、便宜上全部ひっくるめて「マニュアル」と称します。

マニュアルは不完全、だから事後的コミュニケーションで補完する

役所の仕事はとにかく「正確さ」を追求します。

マニュアルに書かれていない例外事案が生じた場合、どんなに些細な事象であっても決して無視しません。
 

民間企業であれば「その例外事案について真剣に検討することのコスパ」をまず考え、ごくわずかな影響しかない事象であれば無視するでしょうが、行政は違います。
どれだけの労力がかかろうとも、正確に把握しようとします。

良し悪しは別にして、役所らしいポイントだと思います。


そのため役所は、マニュアルに書かれていない例外事案と日々格闘しています。

マニュアルの文言を拡大解釈して適用しようと試みたり、例外事象そのものを深く調べて本当に例外なのかを確認したり……

どんな方法を採るにしても、一人では完結しません。

マニュアルの作成者をはじめ、いろんな関係者とのコミュニケーションが生じます。



さらにそもそも「読めば誰でも作業できる」ような親切なマニュアルを作成するのは、ものすごく大変です。実際にマニュアルを作ったことがある方なら重々ご存知でしょう。

個人的には作業を文章化することが大変に困難です。
単語の定義は人それぞれです。
どれだけ言葉を尽くして丁寧に文章に認めたとしても、文章を構成する個々の単語の意味が異なれば、文章の意味も変わってしまいます。

マニュアル作成者としては単純作業のレベルまで落とし込んだつもりでも、作業者にとっては曖昧な表現にしか映らない。こういうケースが頻繁に生じます。

マニュアルの文意が汲み取れないのであれば、作業の進めようがありません。
作成者に解説してもらうしかありません。

マニュアルを補完するコミュニケーション

  • マニュアルに書かれていない事態が生じている
  • マニュアルの文章の意味がわからない、または複数パターンの解釈が可能でどちらが正しいのかわからない
マニュアルを解釈するプロセスでは、こうしたマニュアルに対する疑義が頻繁に生じます。
自力ではどうしようできません。疑義を解消するにはマニュアルの作成者に尋ねるしかありません。

ここでコミュニケーションが必要になります。
マニュアル作成者に疑義内容を伝え、回答を求めるのです。
自分が現に直面している状況を正確に伝えるだけの説明能力が問われます。

県庁職員は「疑義に答える」側でもある

市町村役場職員と県庁職員との大きな違いの一つが、マニュアル解釈に関係する業務の中身かもしれません。

市町村職員は、主にマニュアルを解釈して作業する立場です。
 
一方、県庁職員は、マニュアルを解釈して作業するだけでなく、市町村職員からの疑義に答える立場でもあります。
県庁(特に本庁)では、市町村役場にマニュアルを送って作業してもらい、作業結果を集計・分析するという業務がたくさんあります。
県庁主体で実施している業務もあれば、国の事業を仲介しているだけの場合もありますが、いずれにしても県庁はマニュアルを司る側であり、市町村役場からの疑義に答える立場です。
県内の各市町村役場から寄せられる疑義を正確に把握し、回答しなければいけません。

国の事業を県が仲介して市町村に作業してもらう場合でも、市町村からの疑義は県が答えなければいけません。
市町村が直接国に質問するのはご法度です。
市町村も怒られますし、県も怒られます。

疑義にまつわるコミュニケーションの量は、市町村役場よりも県庁のほうが圧倒的に多くなります。
県庁には県内全市町村からそれぞれ疑義が寄せられ、ひとつひとつ対応していきます。
ざっくり市町村数の分だけ疑義数が倍増し、疑義数増に伴ってコミュニケーション量が増えます。

「マニュアル→作業へと具体化するためのコミュ力」こそ地方公務員の適正

地方公務員の仕事の多くが何らかのマニュアルに従って行われているのは、まぎれもない事実です。
ただし、マニュアルに書かれているとおりの作業を淡々とこなしているだけではありません。
マニュアルの解釈に相当の時間と労力を割いています。

マニュアルの解釈は、自分一人で完結するプロセスではありません。
他者とのコミュニケーションが必ず生じます。

一見するとただの単純作業のような業務であっても、自分一人で最後まで仕上げられるとは限りません。
手順に疑義が生じるたびにコミュニケーションが生じます。
そして、「自分の疑義を正確かつわかりやすく相手に伝える」というコミュニケーション能力が求められます。

さらに県庁職員の場合は、「相手が抱いている疑義を正確に把握し、わかりやすく説明して疑義を解消する」というコミュニケーション能力が必要です。

公務員志望者の中には、「マニュアルに従って淡々と作業するのが役所の仕事、自分はマニュアルを理解するのが得意で作業スピードにも自信がある、だからきっと公務員適性があるはずだ」と考えている方もいるかもしれません。

文章読解能力や作業速度が公務員適性のひとつであることは間違いありません。
ただ、前述したようなコミュニケーション能力のほうがもっと重要です。
他者とのコミュニケーションを経なければ、やるべき作業の中身が特定できず、作業に着手することすらできないのです。

こういう「作業内容を確認するためのコミュニケーション」を無駄だと思うなら、きっと地方公務員には向いていません。
何をするにも煩わしく感じられ、ストレスが溜まるでしょう。 

最近の流れを見ていると、マニュアルに基づく作業は今後どんどん会計年度任用職員に任せるようになり、正規職員の役割は「マニュアル作成」「マニュアルの解釈を会計年度任用職員に教える」ほうへとシフトしていく気がしています。


直近だと、札幌市が「比較的簡単な手続き業務」を民間委託するとニュースになっていました。

こういう流れがどんどん進んでいくような気がしています。



こういう路線で実際に進んでいけば、正規職員の仕事に占めるコミュニケーションの割合が大きくなり、より一層コミュニケーション能力が要求されるでしょう。

黙々と作業したいタイプの方にとっては働きづらい環境になるかもしれません。


このページのトップヘ