キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

2021年06月

つい先日、現役官僚(総合職採用)の友人から転職相談を受けました。
(転職したいと思った背景とか、僕みたいな就職弱者に相談してきた理由とか、後日別記事にまとめます。)

友人の話を聞きながら、僕はデジャヴを覚えていました。
どこかで聞いたことがある……というか、見たことがあるのです。

正体はこの本です。

ブラック霞が関(新潮新書)
千正康裕
新潮社
2020-11-18

 

実は本書、発刊当初に読んでいたのですが、このブログではあえて取り上げていませんでした。
内容が大変に素晴らしく、かつ僕の思いと重なる部分が多くて、本ブログの存在価値が無くなってしまうからです。
むしろ本書を読んだ後にこのブログの過去記事を漁ったら「パクリか?」と思われそうです。

今回、今まさに霞が関から離れるかもしれないリアル官僚からの話を聞いて、本書の記述が現実にしっかり裏打ちされていることを改めて痛感しました。
このブログの存在価値は最早どうでもいいです。
本書をわずかでも広めることのほうが有意義だと思い直しました。

そもそも本ブログを読んでいる方は、プライベートの時間にわざわざ公務員のことを考えている方であり、行政や公務員への関心が強い方でしょう。
本書のこともご存知であり、既読という方も大勢いるでしょう。

もし未読の方がいれば、このブログを読んでいる場合ではありません。
ぜひ本書を読んでみてください。


現状&提言


朝七時、仕事開始。二七時二〇分、退庁。ブラック労働は今や霞が関の標準だ。相次ぐ休職や退職、採用難が官僚たちをさらに追いつめる。国会対応のための不毛な残業、乱立する会議、煩雑な手続き、旧態依然の「紙文化」……この負のスパイラルを止めなければ、最終的に被害を受けるのは国家、国民だ。官僚が本当に能力を発揮できるようにするにはどうすればいいのか。元厚生労働省キャリアが具体策を提言する。(出版社ページより)



本書のことを暴露本だと思っている方もいるかもしれません。
あまりにも勿体無い勘違いです。
本書は現状解説にとどまらず、具体的解決策の提言まで踏み込みます。

本書の内容は、現役公務員からすれば、目新しさは無いかもしれません。
どこかで見聞きしたり、自ら経験したことのある内容も多いでしょう。

ただ逆にいえば、本書の内容は、現役公務員にとって非常に身近なものです。
今まさに感じている不安や課題が、自分の周りだけの局地的事象ではなく、誰もが抱えている「行政全般に共通する」んだと気づくだけで、幾分か元気付けられると思います。

「役所で働く喜び」のリアルなあり方

本書には「キャリア官僚として働くことの楽しさ」が随所に盛り込まれています。
使い古された陳腐な表現ですが、まさに「書き手が目の前で語っているかのような」リアル感と情熱をもって、胸に迫ってきます。
採用パンフレットや説明会よりもわかりやすく、官僚の仕事の魅力が記されているかもしれません。


かつて僕が学生だった頃、官僚志望の東大生集団と交流したときのことを思い出しました。
(以下記事の中ほどで紹介したエピソードです)


本書を読んで、むしろ「官僚になりたい」と思う方もいるかもしれません。
反対に、本書にある「官僚の役割」に違和感を覚えるのであれば、明らかに向いていないと思います。


「国民の声」で行政が変わる……とは期待できない

本書の記述の中で、個人的に同意できない部分が一箇所だけあります。
「政府も国会議員も、国民の声を無視できなくなった」という部分です。

ここ最近の「国民の声」なるものは、実際にはメディア(あるいはメディアを動かす「黒幕」)の声だと思っています。
「国民の思い」の総体が「国民の声」になるわけではなく、メディアが喧伝する「国民の声」を、国民が「マジョリティはそう考えているのか…」と受容しているだけです。

自治体で勤務している身からすれば、こう感じざるを得ません。
住民から寄せられるリアルな意見や苦情、要望は、メディアが報じる「国民の声」とは異なります。

本書には国民の意識改革を促す意図もあるため、あえて「国民が主役」であるかのようにぼかしているのかもしれませんが……


インターネット上には、地方公務員になったことを後悔している方が大勢います。
後悔を通り越して退職する方もいるくらいです。

転職しやすい20代のうちならまだしも、30歳を過ぎて選択肢が狭まっているにも関わらず「やっぱ民間のほうが良かったかも……」という迷いや後悔をこじらせていると、人生への後悔がどんどん積もっていくばかりで、精神衛生上よくないと思います。
なるべく若いうちに迷いを断ち切って、後悔のないようにしたほうが建設的です。

かくいう僕も、これまで散々書いてきたとおり、就職前は都庁を再受験しようかと迷いました。



ただ実際に働き始めてからは一度も後悔していません。
地方公務員という選択肢が最善だったと思っています。

僕のスペックだと地方公務員以上の待遇は望めない

「待遇が悪い」と嘆く現役地方公務員は結構いるように思いますが、こういう不満を僕はあまり感じません。
自分の能力で就業できる職業のうち、最高待遇の職業が地方公務員なのだと思っています。

地方公務員よりも高待遇の職場はいくらでもあります。
僕が住んでいる地域でも、役所より給料も休みも多い職場がいくつもあります。
大学の同級生でも、東京で頑張っている人の中には、すでに年収1,000万円超えも出てきました。

こういう環境が羨ましいのは事実です。
しかし僕は、手の届かないものとして完全に諦めています。

僕は民間企業への就活活動で敗退して、かろうじて県庁に滑り込んだ人間です。
つまり、一度は県庁より上位ランクの環境へチャレンジしたものの、届かなかったのです。

この事実のおかげで、より高待遇な環境への憧れが生じません。
きっぱり諦めがついています。






仕事に対して「やりがい」を期待していない

地方公務員への就職を後悔している方のほとんどが、「地方公務員の仕事はやりがいがない」と嘆いています。

僕の場合、あくまで生活費を稼ぐ手段であり、やりがいはあればいい程度の要素です。
そもそも働きたくありませんし、仕事を通じて自己実現しようとも思っていません。
たとえどんな仕事をしようとも、このスタンスは変わらないでしょう。

もしかしたら、一生を賭したくなるような魅力的な仕事がどこかにあるのかもしれません。
しかし、本当にあるのかどうかすらわからない「青い鳥」のような存在に恋い焦がれるより、日々できる範囲で生活を改善させていくほうが、僕は好みです。

人生において、仕事に捧げる時間は結構な割合を占めます。
平日8時間勤務だけだとしても、だいたい1週間の4分の1を捧げることになります。
この時間を充実させるべく、やりがいのある仕事を探し求めるのも大いにアリでしょう。
ここは好みだと思います。





つまるところ、
  • 自分の職業人としての能力に見切りをつけていて、「地方公務員よりも上のステージで輝けるかも?」という可能性を一切感じていません。
  • そもそも「職業人として輝きたい!」という希望も希薄です。
この二重の諦観のおかげで、後悔を感じないのだと思います。

こういう割り切りができるなら、青く見える隣の芝に悩まされずに済むと思います。
 


地方公務員各位におかれましては、新型コロナウイルス感染症関係の業務で多忙を極めているところと思います。
しかも今は、過去にない勢いで(少なくとも僕が公務員になって以来は最も苛烈に)役所批判・公務員への反感が噴出しているところで、ストレスも相当なものだと推察します。

昨年は僕自身、特別定額給付金の件で(担当課ではないのに)散々ボロクソになじられましたが、あの頃は所詮「カネ」の問題であり、「ゴネ得ワンチャン」を狙うかのごとく軽薄叩き方でした。

ところが今はワクチン接種という命に直結する話題がメインです。
苦情の量も質も今年のほうが一層重たく、精神的に応えると思います。

ただ、公務員として成長したい方にとっては、今はある意味チャンスだと思います。
役所人生に欠かせない「危機察知能力」を磨き上げる教材があちこちに転がっているからです。

危機管理の最初の一歩たる「危機察知」

ここでいう危機察知能力とは、なんとなく「このまま進めると危ないな」という直感を得る能力です。

「危機」というと災害を想像するかもしれませんが、役所の仕事はどんなものでも「危機」がつきものです。

最も身近なものは住民からの苦情です。
窓口でごねるくらいならなんとかなりますが、最近は一個人のクレームがインターネット上で油を注がれて大事(おおごと)に発展していくケースも多く、これからは一層注意が必要だと思います。

ほかには、 
  • メディアによるネガティブ報道
  • 民間団体との対立
  • 権力者からの横槍

あたりが典型でしょう。



危機察知能力は、出世する/しないにかかわらず、どんな部署に勤めていようとも、職員全員に求められる能力だと思います。

危機察知を含めた「危機管理」全般は、基本的には管理職の仕事です。
特に「危機に対してどう対処するか」は管理職が判断すべき事柄でしょう。

しかし、危機察知に関しては、業務の最前線に立っている平職員目線でないと察知できないものや、管理職世代だと気づかない若年層特有のものも多数あります。
管理職に任せているだけでは不十分であり、若手平職員の知見で補う必要があるのです。


今だけ?ケーススタディやり放題

新型コロナウイルス感染症のせいで、今はそこら中に危機事案が溢れかえっています。
行政への不信感と反発が長期間蔓延し、公務員vs非公務員の「断絶」すら生じつつある現状は、危機管理敗北の結果とも言えるでしょう。

つまり今は、反省すべき事案が大量に転がっています。
しかも全国あらゆる場所で均一に生じているために、自分に身近な事例が容易に入手できるのです。

出世したいなら絶対必須

先にも少し触れましたが、「危機管理」は管理職の重要な役割です。
出世するためには、危機管理能力が欠かせません。

危機管理能力には色々な側面があり、今回取り上げている「危機察知」もその一つです。
「危機察知」は危機的状況に陥ることを未然防止するためのスキルであり、平時から役立つものです。

危機的事態は、何より「起こさない」のがベストです。
そのため、数ある危機管理能力の中でも、未然防止に資する「危機察知」はかなり重要な位置付けだと思われます。
つまり、出世するために必要な「危機管理能力」の中でも、「危機察知」は特に必要なのです。

危機察知能力の磨き方

ここからは僕が実践している方法を紹介します。
あくまで陰湿なオタクによる自己流に過ぎません。
もしかしたら、すでに体系化された定番手法が存在するかもしれません。



この方法は、精神に相当な負担がかかります。
心身に余裕の無いときは厳禁です。
 


1.事例探し

まず、SNSで、勤務自治体に対する批判的発言をしているアカウントを探します。
首長の名前で検索すれば大量にヒットするでしょう。

できればフェイスブックがおすすめです。
実名かつ投稿文字数に制限が無いせいか、ツイッターと比べて文章が整っていて、分析しやすいです。

2.感情特定

次に、そのアカウントの発言を遡っていって、批判的発言の原動力となっている感情を探っていきます。
だいたいは「怒り」「呆れ」「悲しみ」のいずれかだと思います。

感情由来ではなく「打算」という可能性も大いにあります。

3.感情の原因特定

感情が特定できたら、その感情を抱いた原因を深掘りしていきます。

  1. とある情報を知った
  2. とある情報を知らない
  3. とある情報を誤解した
  4. 実害を被った
  5. 根本的思想(反権力など)
  6. 私怨
  7. 誰かの受け売り


このあたりが典型でしょう。

このうち1〜3は特に注目に値します。
情報の伝え方を工夫していれば、未然防止できたかもしれないからです。
どういう点が不味かったのか、詳しく分析していくと良いでしょう。

4.プロフィールの特定

ここからはアカウントの持ち主に注目していきます。
過去の発言を遡ったり、アカウント名で検索してみたりして、持ち主の属性を特定していきます。

  • 年齢
  • 性別
  • 職業
  • 居住地
  • 経歴
  • 所得水準
  • 家族構成
  • 人間関係
  • 思想・信条
  • 好き嫌い
このあたりの情報を、わかる範囲で探っていきます。

感情を特定する前にプロフィールを探ることもできますが、プロフィールを先に知ってしまうと変な先入観を持ってしまうかもしれません。
そのため、僕は先に感情を探ることにしています。

1〜4までの過程を通して、住民の反発という危機がどうやって発生したのかをトレースすることで、いくつかのパターンが見えてきます。
パターンを多く知れば知るほど、危機察知能力の基礎ができ上がっていくはずです。

5.リストの作成

プロフィールを探ってみた結果、アカウントの持ち主が
  • 法人・団体の代表者
  • 個人事業主
  • メディア関係者(個人活動のインフルエンサー含む)

のような、今後もしかしたら役所とビジネスパートナーになりうる人物であれば、その人のプロフィールをリストに記録しておきます。

「喉元過ぎれば熱さを忘れる」という諺がありますが、実際のところ、負の感情はなかなか消えないものです。
これから数年経って新型コロナウイルス騒動が落ち着いたとしても、いったん自覚してしまった行政への反感は、ずーっと燻り続けると思います。

つまり、こういった方々は、金輪際、行政の施策には協力してくれない可能性が高いです。
相手側から行政に近づこうともしないし、行政側から接触しようとしても拒絶されるでしょう。
迂闊に近づくと、双方とも嫌な思いをしかねません。

接触しないほうがいい相手を事前に把握しておくことも、危機察知のひとつです。
つまり、このリストそのものが、危機察知能力の一部を形成するのです。
しかもこのリストはどんな部署に異動しようとも使えますし、同僚や後輩に引き継ぐこともできます。


僕はかれこれ一年間くらい上述のプロセスを続けています。
最初は批判者リスト作成が目的でした。
 

リストを作って観光や地域振興担当の同期職員に共有しよう!という半ば私怨から始まったのですが、やっているうちにだんだん目的が変わってきました。
批判的言動をよくよく見てみると、些細な行き違いが発端のものが多々あります。
工夫次第では未然防止できたであろう案件も多いです。

事例が豊富な今こそ、批判的言動の原因を見つめることで、将来に役立つ能力が養えるはずです。

現役地方公務員とそれ以外の方々で評価が180度変わりそうなニュースが出てきました。



東京都では
  • 特定の人が頻繁に請求を繰り返したり、請求する対象が十分に特定されないため開示を検討する対象の文書が大量になったりして、業務に著しい支障が出ている
  • 制度の運用を見直し開示請求を受け付けない基準を設けることを検討している
とのこと。

もしこのような運用が実装されたら、地方公務員の多分80%超がガッツポーズをとると思います。
上記のような状況は、東京都に限った話ではありません。
僕の勤務先県庁でも常態化していますし、しかも特定の部署に限った話ではなくほぼ全部署が悩まされています。

僕自身もこれまで幾度となく手を煩わされてきました。
とある年度なんか、特定の1人からの情報公開請求だけで250時間くらい残業しました。
(今使っているMacBookProは、その時の残業代で買いました。なのではっきり覚えています)

一方、地方公務員以外の方からすれば、サービスの劣化かつ行政の不透明化、ひいては知る権利の侵害に他ならず、「けしからん」と思うでしょう。
(都議選を控えたこの時期に、こんな住民受けが悪そうなニュースが報じられるあたり、政治的な匂いを感じます)


ニュースの文面だと、あたかも「公開請求の件数が多いせいで業務に支障が出ている」ように書かれていますが、実際は異なります。
混雑緩和のために入場制限を設けるかのごとく、「件数が多いから規制します」という理屈であれば、僕も疑問に思います。

情報公開の現場を悩ませているのは、「この制度を使って行政活動を妨害したい」「情報公開のプロセスをやらせることでミスさせたい」という悪意ある方々です。
こういう方々が暴れているせいで、「情報公開制度を使って情報を入手したい人」、つまり本来のユーザーが割を食っています。

「さすが独身異常男性、狭量すぎだろ(笑)」と思われるかもしれませんが、僕がこれまで経験したどの部署でも、情報公開制度を使った攻撃を食らってきました。

以下、自分の経験談を紹介していきます。
現役の地方公務員であれば、身に覚えのある話ばかりで、目新しさは皆無だと思います。

事務担当者側から見た公文書開示のフロー(前提)

情報公開制度は、だいたい以下のような流れで進んでいきます。

  1. 請求内容の確認
  2. 対象文書を探す
  3. 開示できるか否かの判断
  4. 非開示情報をマスキング(黒塗り)
  5. 開示方法の調整
  6. 開示の実施
基本的には無料です。お金がかかるのは開示された資料をコピーする際くらいです。
スマートフォンカメラで撮影すれば完全無料で済みます。

単純作業のように思っている方もいるかもしれませんが、実際は相当のコミュニケーション能力が求められます。
特に「請求内容の確認」「開示方法の調整」あたりは、頻繁に揉めます。


公開請求=Look at me.

情報公開制度は、開示請求書を提出するというアクションを起こすことで、役所に対して『公文書開示』というサービス提供を義務付けることを可能にする制度です。

あえて性格の悪い言い方をすると、紙切れ一枚で役所に法的義務を負わせ職員を拘束することが可能です。
たとえ理不尽な内容であっても、条例上のルールを守っていれば、役所側は拒否できません。
「条例ギリギリ」の理不尽ラインを攻めることで、役所に負担をかけられるのです

先述した1〜6の各プロセスで、具体的にどういうふうに役所に負担をかけられるのか、見ていきましょう。

1.請求内容の確認……あえてぼかす

情報公開制度を利用する方は、基本的に公務員以外の方です。
そもそも役所がどんな情報を持っているのか知りません。
そのため、請求内容は、「〇〇に関する文書を開示してください」みたいな抽象的なものになりがちです。

こういう請求があった場合、役所側は請求者とコミュニケーションをとり、請求内容を絞り込まなければいけません。
情報公開制度は条例に基づくサービスであり、このコミュニケーションも条例に基づくもので、役所側は法的義務を負っています。
そのため、下手(したて)に出るしかありません。

繰り返しになりますが、役所側は「請求内容を特定する」という法的義務があります。
そのため、どれだけ請求者から罵倒されようが詰られようが粘り強くコミュニケーションを続けなければいけませんし、直接面会を要求されれば応じなければいけません。

さらに、情報公開請求のフローに乗せれば、メールや電話ならスルーされるレベルの荒唐無稽な中身であっても、行政側は応じざるを得ません。


例えば
  • 「ふざけるな」など単なる暴言
  • 「地球外生命体が攻めてきた場合の避難フロー」みたいな過激設定・陰謀論

であっても、行政側は真剣に応じなければいけません。

つまり、「請求書を提出する」というお手軽かつ無料のアクションだけで、下手弱腰な職員を好きなだけ拘束できるという美味しいシチュエーションを確立できるのです。



2.対象文書を探す……悪魔の証明を強制できる

対象文書の量が多くても、正直それほど負担ではありません。
肉体的には大変ですが、あくまで作業です。

本当に大変なのは、存在するのかどうかはっきりわからない文書です。
書庫をひっくり返して探すしかありません。

僕の経験上、悩ましいのは以下のような文書です。
  • 大昔の文書(廃棄した可能性が高いもの)
  • 国から移管された業務の文書(自治体に引き継がれているのか不明瞭)

「存在しない」ことの証明は、俗にいう「悪魔の証明」であり、どれだけ手間と時間をつぎ込もうが原理的には不可能です。
しかし、情報公開制度を使えば、役所に対して「悪魔の証明」を強制できるのです。
こういう案件が降ってくると、面白いくらいに残業時間が嵩んでいきます。

3.開示できるか否かの検討……グレーゾーンを攻めて「運用の齟齬」を狙う

情報公開制度のルールでは、「開示できない情報」の基準も定められています。
代表的なものが個人情報(特定の個人を識別できる情報)です。
あとは企業の営利的内部情報であったり、役所内部の機密情報などもあります。

各自治体の内規などで、これら「開示できない情報」の具体的な線引きがなされていると思いますが、情報のあり方は非常に多様で、全ての事例を網羅的に線引きするのは不可能です。
そのため、部署ごとに個別の判断が下されることもあります。

つまり、ある情報についてA部署では普通に公開されたのにB部署では非開示情報扱いで黒塗り処理された……という「運用の不統一」が生じうるのです。

開示できるか否かのグレーゾーン案件が生じた場合、とにかく徹底的に前例を調べなければいけません。
庁内初のケースであれば、別自治体にも問い合わせます。
これも時間がかかるんですよね。

もし「運用の不統一」に感づかれてしまったら、格好の燃料になってしまいます。


4.非開示情報をマスキング(黒塗り)……物量で攻めて「ケアレスミス」を狙う

全ページ真っ黒に塗りつぶせるなら楽なのですが、1ページの中に個人情報がちょろちょろ出てくるような文書の場合、個人情報部分だけを黒塗りしなければいけません。

この作業がめちゃくちゃ大変です。
これまでの県庁職員生活で、僕がいただいた残業代の少なくとも3割は、黒塗りタイム分だと思います。

悪意ある請求者達もこの苦労は十分ご存知で、だからこそ黒塗り作業が発生しやすそうな文書を狙い撃ちしてきます。
黒塗りが多ければ多いほど、役所に負担をかけられるのです。

もし黒塗り作業にミスがあれば、請求者側からすれば「棚からぼた餅」です。

黒塗りが漏れている箇所があったら、明らかな行政の失態です。
管理職を呼びつけて謝罪させることができます。

黒塗り不要な箇所を間違って黒塗りしてしまった場合も、「情報の隠蔽だ」「きっと意図があるに違いない」と言って燃やせます。


5.開示方法の調整……ここからが本番

黒塗り作業を終えて開示準備が整ったら、再び請求者とのコミュニケーションが始まります。
ここからの流れは、「単に情報が欲しい人」相手と「役所と戦いたい人」相手とで大きく異なります。

前者の方々が求めているのは「文書そのもの」です。
そのため、「開示の準備ができました」と一報を入れれば終了です。

一方、後者の方々の目的は文書ではありません。
公文書開示のプロセスを通して職員を好き放題に拘束することです。
そのためほぼ確実に、情報開示にあたり、職員の同席&口頭説明を求めます。
むしろここからが本番です。

個人的には一番緊張するプロセスです。
怒鳴られながら宣戦布告されることもあれば、やたら嬉しそうな口ぶりでプレッシャーをかけてきたり、「マスコミと議員を連れていくから最低限課長出してね」と一方的に通告されたり……


6.開示の実施……毎回ドラマ

文書が目的の方の場合、基本的に開示には立ち会いません。
質問がある場合のみ面会して対応します。

一方、役所と戦いたい人の場合、相手側の要求に応じて立会わざるを得ません。

開示当日は何が起こるかわかりません。
いまだトラウマな案件もあれば、笑い話もあります。
何にせよ時間も体力も消耗します。

大体の案件に共通するのは、せっかく用意した文書をほとんど見てもらえないことです。
請求者の目的は「職員の拘束」であり、文書はどうでもいいのです。

文書を読み込まれたら別のトラブルに飛び火しかねないので、読まれないほうが安心ではあるのですが、せっかくの努力が無駄になるのはやるせないものです。



ここまで約3,500字にわたって書いてきました。
このブログの記事はだいたい2,000字前後なので、かなりの長編になってしまいました。

しかし、ほとんどの地方公務員にとって、目新しい内容は無かったと思います。
それくらいありふれた事案です。

東京都には是非頑張ってもらって、全国に広がることを強く期待します。
 

書籍でもウェブサイトでも、公務員試験対策の定石として「総合計画を読み込むべし」と説かれています。

総合計画に目を通すのは重要だと思いますが、個人的には「読み込む」必要性までは感じません。
 
総合計画だけでは抽象的すぎて、論文や面接対策としては不十分だと思っています。 
正直、どの自治体も同じようなトピックに触れていて、似たような内容が書かれています。

たとえ総合計画の文言を一字一句暗記していたとしても、総合計画の中身がどのように具体的な施策として展開されているのか知らなければ、地雷を踏んでしまうでしょう。

特に、受験自治体が実際に行っている施策と、論文や面接で回答した内容がずれていると、勉強不足だと思われてしまうかもしれません。

具体的な施策内容を調べるのに役立つのが予算資料です。
どこの自治体もホームページに掲載されていて、簡単に入手できます。
もし載っていなければ、役所の情報公開コーナーみたいなところに行けば、紙の冊子が置いてあるでしょう。

ただし、予算資料は慣れていないと読みづらいです。
現役職員でさえ、すらすら読める人はあまりいません。
そこで役立つのが、議会に対して提出される予算案の説明要旨です。

説明要旨=予算案のわかりやすい要約

自治体の予算は、議会の議決をもって正式に採用されます。
そのため、議会中のどこかの時点(だいたい初日)で、議員に対して首長から説明するタイミングがあります。
ここで予算案の中身を全部説明していると膨大な時間がかかってしまうので、大まかな方向性と主要事業だけを抽出して説明します。

このタイミングで使われる資料が説明要旨です。
予算資料と同じく、多くの自治体でホームページ上で公表しています。
例えば広島県だとこんな感じ。



説明要旨は、首長が喋るための読み原稿みたいなものです。
そのため、耳で聞いて理解できるよう、わかりやすい表現が使われています。
お堅い文章ではないので、頭に入ってきやすいと思います。

自治体によってはプレゼン資料も用意されていて、よりわかりやすいと思います。
 

数年分チェックしてみよう

説明要旨にはあくまでも単年度分のことしか触れていないので、事業の長期的な推移を知るには不向きです。
さらに最近は、新型コロナウイルス感染症のせいで内容が偏っている(コロナに関係のない事業は省略されがち)ので、産業振興や観光、広報のような面接で使いやすい事業への説明が不足しがちです。
 
そのため、コロナが流行し始める前の分(過去4年分くらい)もチェックしておいたほうが良いと思います。

また、予算には「当初予算」と「補正予算」があります。
このうち特に注目すべきは「当初予算」と「9月補正予算」です。

当初予算は1年間の予算のベースであり、金額的にも大部分を占めています。
9月補正予算は、年度上半期に発生した状況に応じて当初予算を変更したり、下半期に実施する主要事業を計上するもので、いくつかある補正予算の中でも自治体としてアピールしたい主要事業がよく計上されています。

昨年度(令和2年度)は、新型コロナウイルス感染症のせいでどの自治体もガンガン補正予算を組んでいて、9月補正予算以外も重要な事業が計上されていますが、これは異常事態です。
 
普通の年度であれば、9月補正予算以外は事務的な内容(時間外勤務手当の人件費予算を増やす等)が多く、論文や面接対策目的であれば、特に注目しなくても問題ないと思います。
 

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