キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

地方公務員の人生満足度アップを目指しています。地方公務員志望者向けの記事は、カテゴリ「公務員になるまで」にまとめています。

2022年06月

定年延長関係の研究会報告書が、いつの間にやら総務省ホームページにアップされていました。


 

この研究会は定員管理が主な議題であり、新規採用者数についても言及されています。
僕はずっと「採用数は間違いなく減る」と考えてきましたが、果たして研究会の先生方はどう結論づけたのでしょうか?見ていきます。

<定年延長関係の過去記事>






職員増が許容される!?

以下、報告書の「概要版」ベースで、主な内容を見ていきます。
まずは「基本的な考え方」です。
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定年引上げ期間中においても、一定の新規採用者を継続的に確保することが必要

自治体の採用は、基本的に退職者補充です。
採用者数=退職者数をベースに、業務量の増減に応じて加減していきます。
また、退職者の約6割が定年退職者です。

退職者補充ベースで採用者数を検討する場合、定年引上げ期間中は定年退職者が2年に一度しか生じないことから、1年ごとに退職者数が大幅に増減し……これに連動して採用者数も増減することになります。
例えば直近だと、令和5年度は定年退職者が発生しないので、退職者数が激減します。
その結果、令和5年度の採用者数(R6年4月1日から働き始める人)も、連動して激減することになります。

研究会報告書では、このような1年ごとの採用者数大幅増減は「望ましくない」と評価しています。
職員の経験年数や年齢構成に偏りができて組織運営に支障をきたすうえ、職員人材確保の観点から問題があるからです。

そこで研究会報告書では、「一定の新規採用者を継続的に確保」「採用者数を一定程度平準化」という表現で、定年引上げ期間中の採用者数が乱高下しないよう留意を求めています。

新規採用者の検討をはじめ、中朝的な観点から定員管理を行うことが必要

目先の単年度の採用者数を検討するのみならず、定年引上げが完成する10年後を見据えて定員管理をする必要があり、職種ごとの年齢構成や採用環境を踏まえしっかり分析する必要がある、とのことです。
そのとおりですね。改めての念押しという位置づけなのでしょう。

業務量に応じた適正な定員管理である説明が必要

定年引上げというイレギュラー要因があろうとも、職員数の増減理由をしっかり住民へ説明する必要がある、とのことです。
こちらもそのとおりです。改めて言われずとも切実に考えているでしょう。

採用者数は「2か年平準化」がスタンダード!?

採用者数の平準化に関しては、さらに具体的に深掘りしています。
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注目すべきは「定年退職者が2年に一度しか生じないことを踏まえ、2年ごとの平準化を基本としつつ、各職種の状況を踏まえ、平準化を行う年数については柔軟な検討が必要」という部分です。
ざっくりいうと、定年退職者が発生する年度としない年度の採用者数の平均をとって、2年ともこの平均人数を採用する…という方法を基本としています。

例えば直近だと、シンプルな退職者補充の場合、
  • 令和5年度の採用者数(R6年4月1日から働き始める人)は、令和5年度に定年退職者数が発生しないので減少
  • 一方で令和6年度の採用者数(R7年4月1日から働き始める人)は、令和6年度は定年退職者が発生するので、前年度と比べて増加します。


研究会報告書でいう「平準化」とは、令和5年度と6年度の採用者数を均一にすることを指しており、その人数は(R5採用者+R6採用者)÷2です。
2年間の採用者数計は変わらないものの、R5採用者数は増加、R6採用者数は減少します。
R6の採用者枠の一部をR5に前倒ししたともいえるでしょう。

「平準化」する場合、R5退職者数<R5採用者数となり、R6年4月1日時点では総職員数が増加します。
その反面、R6退職者数>R6採用者数となるので、R7年4月1日時点では総職員数が減少(元通り)になります。
この「一時的な職員数の増員」を、研究会報告書では許容しています。

ここが個人的には一番の驚きでした。
過去の記事でも触れましたが、総職員数が増えないよう「採用減の前倒し」または「採用枠の後ろ倒し」するよう技術的助言してくるものかと想像していました。

採用数の減少はほぼ確実だが減少幅はそれほどでもない?

採用者数が「平準化」されて、定年退職が出る年度と出ない年度の増減幅が小さくなったとしても、定年引き上げ期間中の総退職者数が減少するのは確実であり、そのため採用者数が減るのは間違いありません。 
どのくらい減るのかという定量的情報は示されませんでしたが、報告書を読む限りでは、僕が以前試算した方法(最大▲25%)がわりといい線きているかもしれません。

あくまでも人事素人の感覚ですが、今回の研究会報告書や総務省通知は、自治体の裁量を広く認める内容なんだろうと思われます。
 
これまでの総務省の定員管理といえば、地方自治法第2条第14号「地方公共団体は、その事務を処理するに当つては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」に基づき、「業務遂行に必要な最小の人員で賄うべき」という考え方が一般的でした。
そのため、「対外的に説明できること」を前提としつつも定年引上げが原因の職員数増加を認める…という今回の整理は、かなり斬新に映ります。

総務省からの縛りが無い分、業務量推移の見込みや、総人件費、住民や議会からの風当たり、組合との関係……等々、いろんな要素を考慮しながら、各自治体で対応を考えることになるのでしょう。
つまるところ、採用数が減るのはほぼ確実としても、採用者数の減少幅は自治体によってバラバラになりそうです。

来年度に地方公務員試験を受けようか考えている方は、採用情報に加えて定員管理情報にも注目したほうがよさそうです。

地方公務員の給与水準に対する官民の印象には、埋め難い隔たりが存在します。
当の地方公務員は「安い」と嘆き、公務員以外は「高すぎる」と憤る…という構造です。

新型コロナウイルス感染症が流行し始めてからは、再び「高すぎる」という批判が強まってきました。
特に、人事院勧告の調査対象が「従業員50人以上」の企業だけという点を捉えて、
  • 公務員給与は大企業水準で設定されており、国民の大半を占める中小企業従業員の水準が反映されていない
  • ゆえに日本国民全体で見たら給与水準は間違いなくガタ落ちしているはずなのに、公務員給与の減少幅が不当に小さい、人事院勧告のあり方がおかしいせいで公務員は不当に得をしている
という批判を展開する方が多いように思います。

地方公務員の給与水準が民間と比べて高いのか低いのか、このブログでも何度か取り上げています。
なるべく統計数字を使って分析をしてみたところ、
  • 男性の場合、給料月額(基本給)は同年代の民間平均よりも安く、大卒地方公務員≒同年代の高卒民間従業員くらい。ボーナス込みの年収だとだいぶマシになるが、それでも民間平均よりも低い。
  • 女性の場合、同年代の民間企業従業員よりも恵まれている
  • 官民の差は、地域によって状況が違いそう

というところまでは見えてきました。




今回はさらに一歩踏み込んで、地域別・企業規模別で分析してみます。

算出方法

今回も「賃金構造基本統計調査」を使っていきます。

この統計調査から、都道府県別・年代別の民間企業従業員の平均年収を算出し、同年代の地方公務員年収と比較していきます。

この統計調査であれば、従業員規模10人以上という中小企業も含めた給与額が使えます。
公務員給与の高さに怒っている方々は、「地方公務員給与が高いのは、人事院勧告の調査対象が50人以上の大きくて裕福な企業だけだから」という叩き方をしてきます。
民間企業の中でも「上澄み」だけを比較対象にしていて、大多数のサラリーマンからはひどく乖離しているという主張です。

総務省の資料(リンク先エクセルファイルの「7−4」)によると、従業員10人規模以上の企業だけで、全雇用者の7割強を補足できるようです。
これなら「上澄み」のみならず民間企業従業者全体と比較できるはずです。


民間企業従業員の年収は、「きまって支給する現金給与額」×12+「年間賞与その他特別給与額」で算出しました。

地方公務員の年収は、賃金構造基本統計調査の対象と合わせ、給料(基本給)、時間外勤務手当、期末勤勉手当、地域手当を合算しています。

給料は、大卒ストレート(22歳)で入庁した職員が一般的ペースで昇給したと仮定し、民間統計の年齢帯の中間である27歳(5年目)で1級40号、32歳(10年目)で3級8号と設定しました。

10年目にもなると自治体間の差も広がりますし、同じ自治体の同期入庁職員どうしでも差が開いてくるので、まだ2級という方も少なくないでしょう。
ただ、あまり低く設定すると地方公務員側に有利な分析になってしまうので、あえて高めに設定しました。

残業時間は、総務省の「地方公務員の時間外勤務に関する実態調査結果」中の都道府県職員の平均残業時間である12.5時間≒13時間、毎月残業すると想定し、13×12=156時間分の時間外勤務手当を盛り込んでいます。
時間外勤務手当単価は、所定内給与時給換算額×1.25で算出しました。

地域手当は、各都道府県の都道府県庁所在地の率を反映させています。
 
ボーナス(期末勤勉手当)は4.4か月分を計上しました。

男性……30歳以降はそこそこ

まずは男性から見ていきます。

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25〜29歳区分では、ほとんどの都道府県において、地方公務員より民間企業のほうが高水準です。
きちんと「従業員規模10人以上」まで集計対象を広げた結果がこれです。
「中小企業も含めた国民全体水準から見ると、地方公務員は不当に高給」という定番の批判は、少なくとも20代後半の男性職員に関しては、当てはまらないと言えるでしょう。

一方、30〜34歳区分では、半分強の地域で、地方公務員のほうが高水準になります。
地方公務員のほうが昇給ペースが早いので、徐々に差が縮まり、ついには逆転するのでしょう。
僕の体感的に「20代のうちは中小企業含めて民間より安いけど、30歳を過ぎると民間に引けをとらなくなる」という感覚だったのですが、どうやら間違っていなかったようです。安定昇給に平伏感謝。

地域別に見ると、やはり田舎ほど地方公務員のほうが優位に見えます。
意外なのが千葉県と埼玉県です。
千葉県民とか埼玉県民という括りだと決して公務員は高給取りではなさそうなのですが、「千葉・埼玉県内で働く人」という括りだと、相対的に公務員が優位に立てるようです。
地域手当がガッツリ支給されるのも大きそうです。

【閲覧注意】1,000人規模以上だと惨敗

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企業規模1,000人以上の大企業だけとの比較版も作ってみました。
こちらだと、沖縄県を除き地方公務員の惨敗です。 

しかも企業規模10人以上の場合とは異なり、25〜29歳区分から30〜34歳区分にかけて、官民乖離が縮まりません。
元々の給与水準も、昇給ペースでも、地方公務員は大企業に遠く及ばないのです。

女性……超強い地方公務員

続いて女性のデータを見ていきます。

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地方公務員の圧勝です。

民間のデータは産休・育休を挟んだせいで昇給が遅れた方の影響が反映されているはずなので、やや低めに出る(地方公務員のほうが高くなる)かもしれませんが、それでも地方公務員優位という結論は揺るがないでしょう。

1,000人以上でも引き続き優位

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従業員1,000人以上の企業とだけ比較しても、地方公務員の優位性は揺らぎません。
25〜29歳区分では負けている地域も半分弱ありますが、30〜34歳区分では完勝です。

やはり男性20代地方公務員の給与水準は低い

分析結果をまとめると、以下のようになります。
  • 男性の場合、25〜29歳区分では、中小企業を含めて比較しても、民間よりも地方公務員のほうが給与水準が低い。ただし30〜34歳区分では地方公務員のほうが高い地域が増える。
  • 男性の場合、従業員1,000人以上規模の大企業の給与水準には、年齢区分問わず遠く及ばない。
  • 女性の場合、中小企業を含めると、地方公務員のほうが高水準。従業員1,000人以上規模の大企業に限って比較しても、半分以上の地域で地方公務員のほうが高水準。

データ集計のため、ひたすらエクセルコピペ作業を約3時間ほど繰り返しました。
苦労した分、未知の新事実との邂逅を期待していたのですが……得られた結論はそんなに目新しくありません。
多くの地方公務員が抱いている「感覚」の正しさが定量的に証明された、とも言えるでしょう。

数字で見ると、女性の公務員志望者が増えているという報道が一気に現実味を帯びてきます。
給与水準が高く、産休・育休も充実、休暇後も復帰可……となると、少なくとも「金稼ぎの手段」としては、役所はかなり魅力的な職場に映るのでは?

一方で、バリバリ働ける男性にとっては、かなり損な職場とも言えそうです。
僕みたいに民間就活に失敗して公務員になったパターンならまだしも、民間就活やっていない若手職員にとっては、 同世代の民間サラリーマンはまさに「青い芝」に見えることでしょう。

今の世の中、「デジタル化」という単語を至るところで見かけます。
 
特に地方自治体はデジタル化が遅れていると連日揶揄されており、新聞なんかでは「自治体のデジタル化が進まないせいで〜〜のような問題が生じている」みたいな指摘がほぼ毎日繰り返されています。
「ネタが無いときの紙面埋め要員か?」と疑りたくなるくらいです。
 
実際のところ、役所はアナログな組織です。
民間企業と比べて明らかにデジタル技術の導入が遅れていて、新しいサービスが提供できていなかったり、非効率なプロセスが残っていたりしています。

デジタル化の遅れは、マスコミから糾弾されるまでもなく、職員自身が自覚しています。
少子高齢化や人口減少、財政悪化、公共施設の老朽化などと並んで、誰もが共通して認識している「行政課題」の一つと言えるでしょう。
 

これから地方公務員試験の採用面接に臨む方の中には、「自治体行政のデジタル化」を志望動機に据えようと計画している方もいるかもしれません。
大学で情報関係の勉強をしていたとか、IT関係のアルバイトをしていたとか、情報処理技術者などのIT系資格を保有しているとか……このような「自分の強み」を活かして「デジタル化」を進めたい、というストーリーを練っている方もいるかもしれません。

個人的には、「デジタル化」を前面に押し出すのは、避けたほうがいい気がしています。
綺麗なストーリーが作れるかもしれませんが、それが面接官に受けるとは限りません。
 

所詮は木端役人

いくら高度なデジタルスキルを持ち合わせていようとも、地方公務員は地方公務員です。
できることには限界があります。

役所のデジタル化が遅れている案件を深掘りしていくと、デジタル以前の理由がボトルネックとして浮上してきます。
法令の規制に引っかかるとか、お金が無いとか、何より住民の理解を得られないとか……
 


デジタル化に限った話ではありませんが、行政課題は頻繁に「総論賛成、各論反対」という民意によって阻まれます。
総論として「行政のデジタル化を進めるべき」だと誰もが思っていても、あるプロセスのデジタル化という個別具体的な論点になると「それは無駄だ」「アナログのままがいい」みたいな反対意見が噴出して、止まってしまうのです。


自治体行政をデジタル化していくためには、単なる新技術の導入のみならず、デジタル以外のボトルネックを解消しなければいけません。
こういうボトルネック解消には、残念ながらデジタルスキルは活かせません。

それどころか、ボトルネックの中には自治体にはどうしようもないものも多く、職員がどれだけ有能であっても解消できるとは限りません。
デジタルに強い地方公務員が増えたところで、自治体のデジタル化は簡単には進まないのです。


このような背景が存在するために、受験生が「行政のデジタル化!自治体DX!」みたいなことをどれだけ熱く語ったとしても、面接官側としては現実味を感じられないと思われます。

「自分のデジタルスキルを活かして〜」という前置きが加わると、皮肉なことに一層非現実的に聞こえます。
個人のスキルで行政課題を解決するなんて、ちゃんと業界研究した人であればまず口にできません。
あまりに現実離れしているために、勉強不足だと思われても仕方ないでしょう。

内部プロセスなら改善できるかもだが……

とはいえ、職員のデジタルスキルだけでも対応できる課題もわずかながら存在します。
それは組織内部のプロセス改善、特に非効率の解消です。
 
  • 組織の問題……部署間のデータ共有ができていなくて、複数の部署で同じような作業を重複して行なっている
  • 職員の問題……職員のデジタルスキルが低くてデータの扱いが下手で、効率が悪い
こういう組織内部しか関係してこない課題であれば、職員個人のデジタルスキルで解決できるかもしれません。

ただし今度は、どういう課題を解決するのか具体的に挙げようとすると詰みます。

非効率の事例としてよく槍玉に上げられている「紙資料使いすぎ」とか「神エクセル」みたいな有名な課題は、徐々に改善されつつあります。
内部プロセスの改善事例として上げられている「会議資料のペーパーレス化」「テレワーク環境の整備」「RPA導入」あたりは、今やどこの自治体でも大なり小なり取り組んでいます。

こういった事例を今年の面接でなんて話そうものなら、さすがに時代遅れです。
勉強不足と思われてしまうでしょう。

組織内部の課題は、実際に組織を観察しなければ見えてきません。
特にデジタル化に関しては、自治体ごとに進捗具合がバラバラで、課題もバラバラだと思います。
めちゃくちゃ熱心にOBOG訪問してリサーチしたり、長期インターンなどで既に組織の一員として働いた経験があったりして、組織内部の状況を熟知しているのでもなければ、地雷を踏みかねないと思います。

素っ頓狂な深堀りを喰らうリスクも

そもそも面接官が「デジタル人材」の実態を理解しているか、かなり疑問です。
僕自身、情報処理技術者試験の勉強をするまでよく知りませんでしたが、一口に「デジタル人材」と言っても、色々な専門分野に分かれています。

しかし面接官は、デジタル人材といえば、
  • プログラムを作れて
  • ネットワーク配線工事ができて
  • データ分析できて
  • プロジェクト管理できて
  • SNSでバズれて
  • スマホやパソコンのおすすめの機種に詳しくて
  • パソコンの使い方をやさしくわかりやすく説明できて……
みたいなパーフェクトオールラウンダーを想定している可能性が大いにあり得ます。

そのため、面接でデジタルスキルをアピールしたら、一発目の受けは良いかもしれませんが、全然専門外の分野から深堀りされるかもしれません。

面接官的には「的確な返答が返ってくるはずだ」と期待しているところ、専門外分野ゆえにしどろもどろになってしまうと、「ハッタリかよ…」と落胆されてしまいかねません。
もちろん適切な深掘りができない面接官の方が悪いのですが、面接の場だとそういう指摘もできません。

アピールしたいなら「添えるだけ」

どうしてもデジタルスキルネタを使いたいのであれば、「行政のデジタル化」という大きな課題を持ち出すのではなく、「〇〇の分野に携わりたい、具体的にはデジタルの知見を活かして〜」みたいに、あくまでもデジタルは手段の一つとして位置付ければいいと思います。

このように位置付ける場合でも、「どうして現時点ではデジタル化が進んでいないか」理由をしっかり確認する必要があります。
ひょっとしたら、自治体では太刀打ちできない理由のために、「デジタル化したくてもできない」かもしれないからです。

こういう観点でスクリーニングしていくと
  • 法令の規制がなく
  • しっかりしたシステムを組む必要がなく(=ローコスト)
  • 住民の「お気持ち」を反映させる必要が薄い
このあたりの条件を満たす分野、具体的には広報とか観光あたりに絞られるのではないかと思います。


変な話、行政全般のデジタル化に本気で携わりたいのであれば、IT企業に就職して行政向けの機器・サービスを開発するほうがよほど近道だと思います。 
コンサルファームに入って行政関係のプロジェクトに参加するのもアリでしょう。


最近はあまり聞かなくなりましたが、僕が採用されたばかりの頃、「自治体=株式会社」「住民=株主」というたとえ話をよく聞きました。

住民はより主体的・積極的に行政参加すべきだ……という文脈の主張の中で、住民側も自治体側も使っていました。

当時は特段気に留めませんでしたが、今から思い返してみるとかなり違和感があるアナロジーです。

僕は就職した年度から株式投資を始めており、何気に地方公務員歴=株主歴です。
どちらの立場も経験してきたからこそ、自治体≠株式会社、住民≠株主だと強く感じます。

住民は「自治体の所有者」ではない

デジタル大辞林によると、株主とは
  • 株式会社の出資者として、株式を所有している者。会社に対して、株主権をもつ
存在とのこと。

 
要するに、株主は企業の所有者であり、顧客(消費者)や従業員(労働者)とは別物です。
もちろん株主が顧客や従業員を兼ねるケースもあり得ますが、根本的には別の存在です。

株主は所有者であるがゆえに、企業から恩恵を受けられます。
つまり株主と企業は、所有をベースとした関係を築いています。


一方、住民と自治体の関係は、そう単純ではありません。

まず、住民は自治体の所有者ではありません。
法律論的に突き詰めていくと、公有財産は全て「総体としての国民」の所有物であるのかもしれません。
しかし、少なくとも住民個々人が自治体を共有または分割所有しているわけではなく、自治体の財産に対して住民が所有権を行使できるわけでもありません。

また、住民は間違いなく行政サービスの消費者です。
ここは異論無いでしょう。

最後に、住民は自治体の従業員なのか?という微妙な論点があります。

自治体の従業員といえば、まず間違いなく地方公務員が挙げられます。
ただし、行政サービスは公務員だけによって提供されているわけではありません。
各種の規制法令など、公務員以外の人に行動を強いることで実現している行政サービスも多々あります。
 
この意味で、行政サービスの提供のために住民も少なからず労働力を提供していると言えないこともない……のかと思います。


住民=株主というアナロジーは、行政と住民のユニークな関係性を、極度に単純化してしまいます。
住民を単に株主、つまりは所有者とだけ見なしてしまうと、いろいろな視点がこぼれ落ちてしまうでしょう。

株主は不平等だが住民は(建前上)平等

株主は、持株数(出資割合)に応じて、受けられる恩恵が異なります。
持株数が一定数を超えると株主優待が豪華になるケースも多いですし、何より株主総会で行使できる票数は持株数に比例します。

株主の世界は、持株数が多いほど強いのです。
株主全員平等というわけではありません。


一方、住民は皆平等です
実際は不平等がまかり通っている気もしますが……建前上は平等です。
 

建前上も実質も不平等が当然である株主の世界とは全然異なります。


住民=株主だと捉えてしまうと、「住民は平等」という原則を見失います。
所得額や納税額に応じて住民間に序列があるかのような錯覚に陥り、「たくさん納税してるんだから」と便宜供与を強いてくる地主のような存在が生まれてしまいます。

株主はだいたい「お金持ちの大人」だが住民はいろいろ

株主は、誰もが簡単になれるわけではありません。
株式を購入するためのお金がまず必要ですし、大金を自由に使える裁量権も欠かせません。

そのため、株主は基本的にお金持ちの大人、いわば社会的強者が多いです。
お金持ちかつ大人であるがゆえに、「生活に余裕がある」「理性的」「ビジネスライク」といった内面的な属性も特定されていきます。

一方、住民は様々です。
子どももいれば大人もいますし、貧乏な人も億万長者もいます。
パーソナリティも様々です。
生活に切羽詰まっている方も多いですし、理性や打算ではなく感情的に動く人も多いです。
社会的強者がいれば、社会的弱者も多いのです。

住民=株主という譬え話は、住民の多様性を捨象しがちです。
特に社会的弱者の存在を見失い、住民全員に強者としての振る舞いを求めかねません。

あえて「住民=株主」とたとえたがる意図とは? 

何らかの比喩を用いるときは、それなりの目的が存在するものです。
聴衆にとって身近な物事に例えてわかりやすくしたり、あえて大袈裟に表現して記憶に焼き付けようとしたり……

ただ、「住民=株主」という喩えの場合は、メリットが全然思いつきません。
むしろ誤解を招きやすいので、避けるべきだと思われます。
今度この表現を見かけたら、その意図を深掘りしていきたいなと思っています。
ひょっとしたら悪意を持ってミスリードを狙っているのかもしれません……


地方公務員の給料月額(基本給)は、ちゃんと1年間出勤さえすれば、余程のことがない限り昇給します。
業務の難易度や忙しさ、人間関係など、役所という職場はとにかく「配属運」で全てが決まる環境ではありますが、昇給はほぼ平等です。

この「昇給の安定感」が、悪名高い「年功序列」につながっているだとか、個々人の業績が反映されなくて悪平等を引き起こしている……などなど賛否両論ありますが、自分みたいな無能寄りの人間にとっては非常にありがたい仕組みです。

しかし実のところ、地方公務員でも給料月額が下がるケースが存在します。
もちろん不祥事を起こして降格処分を食らえば下がりますが、こういう職員に過失があるパターンだけでなく、無過失どころか優秀なせいで減額されてしまうケースも実は存在します。

退職派遣に要注意

無過失の給料減額が発生しうるのは、外部機関に退職派遣されるときです。
退職派遣は、地方公務員を一旦離職して派遣先組織で改めて採用されるという出向形態で、第三セクターや独立行政法人、国への割愛派遣あたりでよく見られます。
 


外部機関への出向では、退職派遣のほかにも在籍型派遣があります。
在籍型のほうがメジャーです。自治体職員という立場のまま外部機関に出向するもので、給与は派遣元自治体が引き続き支払います。


退職派遣の場合、派遣期間中の給与は派遣先が負担します。
そのため、派遣されてきた職員にいくら支払うかは、基本的に派遣先が決めます。
派遣先が独自の基準で「値付け」するわけです。
 
極論、派遣先が「地方公務員経験なんて役に立たない」という考え方の組織であれば、経験年数を問わず初任給並みに設定しても問題ありません。

とはいえ職員側からすれば、人事異動の都合で一方的に退職派遣させられているわけで、派遣先の意向で給料を下げられてしまったら、当然ながら不満を抱きます。
そのため、なるべく自治体勤務と差がつかないよう、派遣元自治体の人事担当者が派遣先と調整しています。

結果的に、たいていの退職派遣では、職員の待遇は変わりません。

国だけは一味違う

ただし、国への退職派遣(割愛派遣)は事情が異なります。
ほぼ確実に自治体勤務時代よりも号級がダウンして、給料が下がるようです。
つい最近、某省への退職派遣から帰ってきた同期職員から聞きました。

彼が個人的に調べた限りでは、
  • 初任給水準+自治体勤務年数×4号ベースが上限、たいていもっと低い
  • 自治体勤務年数しかカウントされないっぽい(民間勤務あり中途入庁者は異様に安い)
  • 自治体勤務時代の特別昇給(6号・8号昇給)は当然考慮されない

あたりの法則性が存在するっぽい……とのことでした。

彼いわく、退職派遣職員の給料水準(号級)はベテランプロパー職員の方々すら把握できていない暗部。どうやって決められているかも謎ですし、同じ年齢・経験年数の職員どうしでも着任時点で差が開いているとのこと。
(もし近日中に弊ブログが消滅したら、この闇に触れてしまったせいだと思ってください)

職場都合で派遣される以上、ちゃんと現給保証されてるのかと思いきや、まさか個々に値付けされてるとは……恐ろしいところです。

ただ、たとえ給料が下がるとはいえ、本省勤務であれば地域手当がたんまり支給されます。
僕の同期のケースでは、給料自体は3万円ほど下がったものの、地域手当が5万円ほど支給されたので、給与トータルではプラスだったとのことでした。

ただ、地域手当の恩恵を受けられないパターン、例えば
  • もともと地域手当がしっかり支給されている都市部自治体から本省に派遣される場合
  • 同一県内の地方局に派遣される場合
であれば、泣き寝入りするしかありません。

減給リスクを背負うのは高評価職員だけ、閑職はむしろ守られる

退職派遣にしろ研修派遣にしろ、国に出向する職員は、自治体組織の中でも高く評価されている職員だけです。
つまり、高評価な職員は「退職派遣で号級ダウン」という減給リスクに晒される一方、反対に僕みたいな閑職は減給とは無縁でいられるわけです。

評価が低い職員ほど減給リスクが高そうな気がしますが、実際は真逆なのです。


インターネット上には、地方公務員の本省出向について解説している記事がたくさん存在しており、研修派遣と退職派遣(割愛)の差にも多く触れられています。
しかし、「割愛だと給料が下がる」という情報は全然見当たりません。
ひょっとしたら僕の同期が出向した省庁だけのイレギュラー運用なのかもしれません……

そもそも退職派遣自体、研修生としての出向よりもレアケースですし、心配するほどのリスクではないと思います。

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