キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

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2023年03月

前回記事(職員数編)に続き、地方公務員の待遇のファクトを見ていきます。

地方公務員の職員数は、ざっくり以下のような特徴があります。
  • 平成6年度のピーク、平成30年度がボトム。令和元年度以降は微増傾向。
  • 一般行政職員だけで見ると、平成25年度に底打ちしてから微増傾向。ただし地域差がかなりある。
  • 平成25年頃から採用者数は高止まりしており、組織に占める若手職員の割合が高まりつつある。
  • 女性職員の割合は一貫して上昇している。

今度は主に、人件費の金額を見ていきます。

総額23兆円

総務省がとりまとめている「地方財政状況調査(決算統計)」によると、地方公務員の人件費総額は約23兆円です。
地方公共団体の歳出総額のうち約2割が人件費にあたります。

01 決算内訳

 
人件費のうち、職員に広く支払われている給与や報酬が約75%を占め、残りは共済(≒社会保険料)や退職手当があります。
「高すぎる」とよく批判されている議員報酬や特別職給与は、人件費総額から見ると非常に小さいです。
財政健全化という観点で見れば、たとえ100%カットしようとも焼け石に水です。あくまでもパフォーマンスにすぎないと言えるでしょう。

23兆円という莫大な数字だけを見ていても実感が湧いてこないので、自分たちにとって馴染み深い「一般職の給与」をさらに分解してみます。(左下の表・右側の円グラフ)
 「任期の定めのない職員」は、一般職(=特別職以外)の職員のうち、任期付職員、再任用職員、会計年度任用職員以外の職員です。いわゆる正規職員です。

給与の内訳では給料が最も大きく、約6割を占めます。
次いで大きいのが期末手当(約14%)、勤勉手当(約11%)と続きます。

自治体によって支給状況が大きく異なるであろう時間外勤務手当は、約4%程度です。
手当の中では大きいほうではありますが、人件費全体で見れば決して大きくはありません。
時間外勤務手当をカットしたところで、さほど財政事情が改善されるとはいえないでしょう。

これでも平成以降は右肩下がり

「地方公務員の待遇はどんどん劣化している」と嘆かれているところですが、実際のところどうなのでしょうか。人件費の推移を見てみます。

02 決算統計推移
 
人件費のピークは平成11年度で、そこからゆるやかに減少を続けています。
直近の令和3年度では、ピーク年度と比較すると、約21%も人件費が減少しています。

人件費総額は、大きく2つの要因で決まります。
「職員1人あたり人件費」と「職員数」です。

平成11年度から令和3年度は、職員数も約13%減少しています。
職員数が減り、1人あたりの人件費も減り……という二重の要因で、人件費が減少しているのです。

歳出決算総額に占める人件費率を見てみると、一番高い平成元年度から、直近の令和3年度にかけて10ポイントも低下しています。
ただし令和2年度~3年度は新型コロナウイルス対策のために歳出が爆増しているので、異常値だと考えたほうが良さそうです。
コロナ直前の数字を見るに、役所の人件費率はだいたい20%と考えるのが妥当でしょう。

(悲報?朗報?)時間外勤務手当は確実に増えている

「地方公務員の待遇はどんどん劣化している」のは、どうやら定量的に見ても事実と言えそうです。
その要因を探っていくべく、続いて内訳別の推移を見ていきます。

03-1 人件費内訳
03-2 人件費内訳

総額ベースでも1人あたりでも、給料と期末勤勉手当と退職手当は減少している中、時間外勤務手当だけは増えています。

1人あたりの額を見ると、地方公務員の待遇水準がめきめき落ちているのがよくわかります。
給料が減少しているのは、職員年齢構成の若返りも一因なのでしょうが、昇級抑制の影響も小さくないと思われます。
期末勤勉手当は給料以上に減少していますが、これは支給月数が減少(4.95か月→4.3か月)しているためでしょう。
退職手当は、2012年と2017年に支給水準が引き下げられた影響がもろに出ています。

一方、時間外勤務手当はぐんぐん増えています。
「昔と比べて職員1人あたりの負担が増大している」という認識は、定量的に見ても間違いないといえるでしょう。

ただなぜか、令和2年度だけ時間外勤務手当が大幅に落ち込んでいるんですよね。
令和2年度といえばコロナ禍が始まった年度であり、残業時間は確実に増えているはずです。
それなのに時間外勤務手当は減っているのです。
 
当時は「経済が長期停滞して税収が減り、財政破綻する自治体が出てくるぞ」みたいな警戒論も盛んに主張されていましたし、少しでも財政負担を抑えるべく、コロナ対応で残業が増えても時間外勤務手当を支払わない自治体が多かったのでしょうか……


今回数字を調べてみた平成元年〜令和3年という約30年間は、日本全体で経済が伸び悩んだ時代であり、公務員のみならず、多くの民間企業サラリーマンの待遇も劣化していると思われます。
ひょっとしたら、公務員よりも民間サラリーマンのほうがひどく劣化しているのかもしれません。

防衛費1兆円のために増税するかどうか、国会で盛んに議論されているところです。
もし増税ではなく歳出削減で1兆円を賄うことになったら、公務員人件費もターゲットにされそうです。
「公務員のボーナスをたった●ヶ月分カットするだけで増税は不要になる!」みたいな、ポピュリズムを煽る論調にならないことを祈ります。

地方公務員の待遇関係の主張は、役所当事者側も反行政側も、往々にして印象論に終始しがちです。
説得力のある主張をするのであれば、双方ともにしっかり事実に基づくことが必要でしょう。

僕自身「地方公務員は減っている」とか「手当が削減されている」あたり気軽に書きそうになるのですが、ちゃんと事実に基づくべく、現時点のファクトを確認しておきたいと思います。
本記事ではまず、地方公務員の人数について見ていきます。

全国総数約280万人(うち一般行政は約93万人)

まずは最新時点の地方公務員数を確認していきます。
今入手できる最新のデータは、総務省「定員管理調査」の令和4年4月1日時点版です。
 
01_R4.4.1部門構成

総務省の「定員管理調査」データによると、令和4年4月1日時点の地方公務員の人数は約280万人です。
部門別では、一般行政職員が約94万人、教育部門が約106万人、警察部門が29万人、消防部門が約16万人、公営企業等が約35万人います。
こうしてみると、教育部門の割合がかなり大きいです。一般行政部門の職員は1/3にすぎません。
 

02_団体区分別構成

団体区分別にみてみると、都道府県職員が約143万人、市町村等(一部事務組合を含む)職員が137万人います。
人数だけ見ると大差ありませんが、部門別の構成比は全然違います。
都道府県は教育部門が過半数を占めており、一般行政部門はわずか約16%にすぎません。
一方で市町村等では、一般行政部門が過半数を占めています。

地方公務員関係の統計データを見るときには、部門ごとの構成比に留意が必要です。
特に、「都道府県の一般行政部門」のことが知りたい場合、都道府県職員全体に占める一般行政部門の割合はかなり小さいので、都道府県職員全体のデータだけを見ていても「都道府県の一般行政職員」の傾向は読み取れません。


最近は増加に転じている

続いて、職員数の推移を見ていきます。
こちらの出典も総務省「定員管理調査」の令和4年4月1日時点版です。
 

03_4.1職員数推移

地方公務員の人数は、平成6年度にピークに達した後に減少に転じており、平成30年度に底を打ってからは微増しています。
特に平成17~22年度にかけては、「集中改革プラン」に基づく定員純減という国主導の地方公務員削減が行われており、減少人数も大きいです。
 
令和元年以降は増加傾向に転じており、令和元年度から令和4年度にかけて約7万人増えています。
地方公務員の人数は長らくずっと減少し続けてきたので、そのトレンドが今も続いているかのように錯覚してしまいがちですが、実際は増加に転じているのです。
もちろんピーク時と比べると大幅に減少していますが……

 
特に増えているのが臨時的任用職員で、令和元年度から令和3年度にかけて約4万7千人増えています(総務省「給与実態調査」より)。
臨時的任用職員は、原則として1年未満の期間だけ正規職員の代替として採用される職員で、年度途中に産休に入った職員の穴埋め要員あたりが典型です。

ただし、この期間の定員管理調査によると「任用の適正化による臨時的任用職員の増加」(多分「空白期間」の解消)という説明がなされていて、実際に人数が増えたかどうかは正直よくわかりません。
 
臨時的任用職員のうち、各種統計で「職員数」としてカウントされるのは、何らかの理由で12月以上継続勤務している人数だけに限られます。
任用の「空白期間」が解消されたことで、統計上の位置付けが変わっただけ(これまで職員数にカウントされていなかった人がカウントされるようになった)による影響が大きいような気がします。


ちなみに、「地方公務員が減ったのは民主党のせい」という主張をする方がいますが、先述の「集中改革プラン」を推し進めたのは小泉政権です。
民主党はそのプランを継承しただけで、「地方公務員を減らすぞ!」と決断したのは、むしろ自民党のほうです。

一般行政部門だけでも微増傾向

一般行政職員だけを抽出したのが下表です。参考に採用数も掲載しています。
(以下「定員管理調査」ではなく「給与実態調査」の数字を使っていきます。そのため冒頭の「部門別職員数」とズレが生じます。)
表(一般行政推移)


一般行政部門だけでみると、職員数は平成25年度に底打ちして、以降は微増傾向にあります。
 
一方、採用者数の推移を見てみると、平成17・18年度で激減、H19以降は増加傾向にあります。
平成20年代は団塊世代前後が定年を迎える時期で、退職者数が高止まりしていたので、採用者が増えたところで退職者も多かったため、職員数は増えなかったようです。
 
令和元年以降は、大量退職が収束しつつある一方で採用者数が高止まりしたままなので、職員数が増加に転じたのでしょう。

地域によって明暗くっきり

「都会の自治体ほど財政力に余裕があるから、職員数をカットせずに済んでいる」という説もたびたび見かけます。
この説を検証すべく、都道府県の一般行政職員の自治体別内訳を見てみます。

 表(都道府県別)
H15からH25にかけては、どの団体でも職員数が減少しています。
減少率はバラバラです。
青森・秋田・千葉・岐阜のように20%以上減少しているところもあれば、10%未満の自治体もあります。 

H25からH30にかけては一層バラツキが広がり、引き続き減少している自治体と増加に転じる自治体に分かれます。
東京都が大幅増しているのは、オリンピック開催が決まったためでしょう。
一方、大阪府・兵庫県では大幅減が続いています。これが維新の会による改革の結果なのかもしれません。
 
H30からR3にかけては、増加する自治体のほうが多数派になりますが、さらに減少を続けている自治体もあります。

全国総数で見ると先述のとおり「平成25年度に底打ちして、以降は微増傾向」なのですが、引き続き職員数削減を続けている自治体もあるようです。


「若者」と「女性」が増えている

続いて職員の年齢構成を見ていきます。

表(年齢構成)

20代職員の人数は、採用動向とほぼリンクしていると言えるでしょう。
平成10年台の採用抑制の結果、H20の20代職員数はかなり少ないです。
平成20年半ば頃から採用数が増えた結果、H30時点では1.4倍ほどに増えて、直近の令和3年度時点ではさらに増えています。

一方、40~59歳の職員はどんどん減少しています。
平成一桁代以前の大量採用時代の職員が定年を迎えて辞めていき、採用抑制時代の職員に置き換わっていくことで、自然と減少しているのだと思われます。

60歳以上の職員は爆発的に増加しています。
ほとんどが再任用職員のはずですが、年金支給開始年齢が引上げられた影響が大きいのでしょうか?


最後に男女比です。(R3のデータは見つかりませんでした)
性別1(都道府県)
性別2(市町村)
 
都道府県・市町村ともに、女性職員が増える一方で男性職員が減少しています。
これらが相まって、女性職員の割合が大きくなっています。

年代別に見ると、若い世代ほど女性職員の割合が高まっています。
結婚や出産のタイミングで離職する人が多いともいえるでしょうし、社会全体で徐々に女性の正規職就労が進んだ結果なのだろうとも思われます。
とはいえ、相変わらず男性のほうが多い職種であることには変わりありません。

個人的に気になったのが、24~27歳の若手層で女性職員割合が高まっている点です。
近年「公務員試験の受験者が減っている」「倍率が下がっている」と嘆かれているところですが、ひょっとしたら「公務員離れ」は男性に顕著な事象で、女性はそれほどではないのかもしれません。


ある一年度の年齢別・男女別職員数のデータだけを使って「30代半ばから女性職員の人数が激減している!地方公務員もマタハラで女性が辞めている!」という主張をする方が一定数いますが、これは誤解です。
今の30代以降はそもそも男女ともに採用数が少ないので減って当然ですし、今の30代中盤以降の職員が採用された時代は採用時点から女性比率が低く、この特徴が今も引き継がれているだけです。

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