キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

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2023年09月

役所批判のテンプレートの一つに、「近視眼的」というものがあります。
「中長期的視点の欠如」という言い方もされますが、とにかく中長期的なビジョンが無くて行き当たりばったりな施策ばかりやっているという批判です。

この批判は実際当たっていると思います。
大規模なインフラ整備を除けば、実施した年度のことしか考えていない施策が多く、5年後10年後を見据えた施策はかなり少ないです。

このように役所が近視眼的な理由は、世間的には「公務員が無能だから」で片付けられがちです。
ただ実際のところ、公務員個々人の能力というよりは、役所組織の問題だと思っています。

とにかく「4年間」に集中する首長

まず、役所組織のトップである首長が、最長でも4年先の未来までしか考えていないことが多いです。

首長という仕事は、(よほどご高齢でない限り)人生におけるゴールではなく、次のステップがあります。
次の任期も首長を続けたり、国会議員に転身したり、より大きい自治体の首長へとランクアップしたり、民間企業や大学で「地方自治の専門家」ポジションに就いたり……人によって様々でしょうが、首長としての任期である4年間は、いずれにしても「次のステップ」の準備段階ともいえます。

次のステップに進むためには、任期のうちに成果を出すことが欠かせません。
そのため、4年間という任期の間にどれだけ成果を出すかが最大の関心事になりがちのようです。

加えて、首長の中には、そもそも5年以上先のビジョンを描くことを越権行為と考える人も少なくありません。
あくまでも信託されているのは「現任期の4年間」だけであり、それ以上の時間的スケールの問題は、自分の役割ではないと捉えているのです。
県主導で市町村との連携事業を始めようとすると、よくこういう理由で断ってくるんですよね。


「1年先」しか見ない財政部局

役所組織を牛耳っているのは、たいてい秘書・財政・人事・企画部局です。
この中で最も近視眼的なのは、間違いなく財政課です。
彼ら彼女らは、基本的に一年スパンで物事を考えます。

財政課の主要業務は予算編成ですが、地方自治法において「会計年度独立の原則」が規定されている以上、財政課としてはこれを遵守し、単年度で完結する予算を編成しなければいけないからです。
 
財政課が近視眼的であること自体は問題ではなく、むしろ近視眼的でいることが役割なのだろうと思います。
一年スパンで見た費用対効果最大化が、彼ら彼女らのミッションです。

問題なのは、財政課が王道出世ルートであり、役所内幹部の多くが財政課出身者という点です。
つまり、一年スパンでの費用対効果最大化に特化した職員ばかりが偉くなり、発言力を持ち、意思決定を行なっているのです。

そのため、たとえボトムアップで中長期的な施策を提案していったとしても、たいてい部局長級の幹部を突破できずに撃沈していきます。

「単年度でしっかり成果を出さなければいけない」という意識自体は、間違いではありません。
議員やマスコミ、住民を納得させるためにも、施策の効果がすぐに現れること(即効性)が重要です。
1年周期では遅いくらいです。

一方で、「単年度では成果が出ないけど、中長期的には成果が見込まれる」という考え方も、同じく間違いではないと思います。
しかし財政課的な感覚では、このような説明は言い訳に過ぎません。
このような感覚が組織内の要人の大半に刷り込まれているために、組織全体が近視眼的……より端的にいえば単年度ベースで思考・判断しがちなのだと思います。



地域の5年後10年後を見据えた仕事って、果たして誰が担っているんでしょうね?
ハード面にしてもソフト面にしても、少なくとも行政はほぼノータッチです。
都市部であれば民間企業がしっかり考えて街づくりや再開発をしているのでしょうが、田舎では誰も何も考えていないんじゃないかと思われます。ひょっとしたら政令市・中核市レベルでも……

もちろん地域によっては、行政がしっかりと中長期的に物事を考えているところもあるでしょう。
このような中長期的ビジョンの有無が、今後さらに地域間格差を拡大させていくんだろうなと思います。

未婚者の増加が話題になるとき、地域別の傾向がよく取り上げられます。
その文脈の中で、独身者の性別が男女いずれかに偏っている地域のことを、「男余り」「女余り」と表現されています。

有名なのは、
  • 北関東は男余り
  • 福岡は圧倒的に女余り
あたりでしょうか。 

雑誌やインターネット上の記事を見ていると、男余り/女余りの根拠として「男女別の未婚者の人数」がよく使われています。シンプルでわかりやすいですね。

ただ、独身男性当事者としては、これだけでは物足りなく思っています。
「男女別の未婚者人数」は、あくまでも男余り/女余り現象を表しているだけです。
いわば結果であり、男余り/女余りの「原因」を説明しているわけではありません。

未婚者の増加を問題として捉えて解決策を模索したいのであれば、真に探求すべきは、男余り/女余りの原因ではないでしょうか?

男余り/女余りの原因は複数存在するでしょうし、地域ごとにさまざまな事情があると思います。

参考になりそうな数字を探していたところ、ヒントになりそうな統計を見つけたので、整理していきます。

年齢別の転入超過・転出超過から原因を探る

今回見ていくのは、男女別の人口流入/流出の状況です。
「住民基本台帳人口移動報告」を使用していきます。

この統計では、住民基本台帳上の転入・転出人数を、5歳ごとの年齢帯で集計しています。
今回、僕が興味のある10代後半~30代前半までのデータを抽出して、都道府県間の人口移動として表にまとめ、地域ごとの特徴を調べてみました。

僕が着目したのは、転入超過数(転入者-転出者)です。
この人数がプラスであれば転入超過(人口が増えている)、マイナスであれば転出超過(人口が減っている)です。

年齢帯ごとの呼称設定

この記事では、各年代に名前を付けてみました。
(毎回「15~19歳」などと年齢帯を記載すると、読みづらいため)

10代後半(15~19歳)は、「大学進学期」と命名しました。
この年代で県外に出るのは、大学進学が主な理由だと思われるからです。
高卒で県外に就職する方(工業高校卒→推薦で大企業の工場に就職するパターンなど)もそこそこ居そうですが、そもそも高卒就職者の割合は2割未満であり、進学者よりもだいぶ少数なので、今回は捨象しました。

20代は「ファーストキャリア期」と命名しました。
この年代の移動は、就職に伴うものが多いと思われるからです。
25~29歳をファーストキャリアと呼ぶのは微妙な気がしますが、数字を見るに20~24歳と傾向が似ているので、合わせることにしました。

30歳~34歳は「セカンドキャリア期」と命名しました。
この世代は、転職や、所帯を持つことによる転居といった、人生の第二幕開始に伴う転居が多いと思われるからです。


都道府県別に集計してみた結果

転入超過ビジュアル

都道府県別に人数を集計した結果が、上の表になります。
人数がプラスの部分は転入超過(人口が増えている)、マイナス部分は転出超過(人口が減っている)です。

上の表をもとに、地域別の特徴を見ていきます。

北海道

基本的に転出超過が続いていますが、大学進学期とセカンドキャリア期は減少幅が小さいです。

大学進学期は、道外に出ていく人も多い一方で、道外から北海道大学に進学する人がそこそこいる、ということなのでしょう。
ただ、大卒者を受け入れるだけの就職先が無いのか、大学卒業後のファーストキャリアで北海道を離れる人が多いと思われます。

セカンドキャリア期では、男性が転入超過になっています。
UターンなのかIターンなのかはわかりませんが、道外から北海道へ移住してきてセカンドキャリアを始める人が一定数いるのだと思われます。

男女差を見ると、女性のほうが転出超過しています。
完全に推測ですが、男性は一次産業に就業していく一方、女性は一次産業を避ける傾向があったりするのでしょうか……?


東北(青森〜福島)

仙台市を擁する宮城県の一強です。
大学進学期は、東北大学を擁する宮城県のみプラス。
ファーストキャリア期も、宮城県だけマイナス幅が小さいです。
セカンドキャリア期も、明確にプラスなのは宮城県のみ。
どの年代においても圧倒的に強いです。

男女差では、宮城県を除き女性のほうが転出超過しています。
特に福島県の女性流出が激しいです。
 
未婚者数ベースでも「南東北~北関東は男余りが激しい」とよく言われますが、まさにこの結果と一致します。

関東(茨城〜神奈川)

南関東と北関東でくっきり分かれています。

南関東(埼玉・千葉・東京・神奈川)では、いずれの年代でも転入超過が続きます。
大学進学、ファーストキャリア、セカンドキャリアいずれの人生の転機においても、全国から人を集めているといえるでしょう。

ただ東京都のみ、セカンドキャリア期で減少が見られます。
一方、埼玉県・千葉県では同数ほど増加しているので、東京都内で賃貸暮らしをしていた人がマイホームを購入するにあたり、郊外に引っ越したということなのでしょう。

北関東は、セカンドキャリア期のみ増えています。
こちらも東京都内勤務の方が引っ越してきたのだと思われます。ベッドタウンという特徴が数字に表れているのでしょう。

一貫して転出超過なのは群馬県だけです。
東京のベッドタウンとしては遠いということなのでしょう。

男女差でも、北関東と南関東でくっきり分かれます。
北関東は女性のほうが転出超過、南関東は女性のほうが転入超過です。
ここでも未婚者数ベースの結果と一致しています。

北陸・甲信越(新潟〜長野)

県ごとに特徴が異なる地域です。

新潟県・富山県・福井県は、一貫して転出超過が続きます。
富山県だけファーストキャリア期の転出が少なめなのは、製薬会社やYKKなど就職先が多いからでしょうか?

石川県は、大学進学期だけ転入超過という宮城県や京都府と似た特徴があります。
近隣県から金沢大学へと進学しているほか、特に男性のほうが著しく転入超過になっているところを見ると、金沢工業大学にも県外から人が集まっているのでしょう。
ただ、せっかく集まった学生たちを引き留められるほど就職先には恵まれていないのか、ファーストキャリア期で大勢転出していきます。

山梨県は、大学進学期とセカンドキャリア期で転入超過になっています。
東京にも近く移住先として人気なので、セカンドキャリア期の転入超過はわかるのですが、15~19歳がなぜ転入超過なのか全然わかりません……ファナック関連企業に県外から高卒で就職してくるのでしょうか……?

長野県は、セカンドキャリア期で転入超過です。
長野県はよく「移住先進県」と言われますが、セカンドキャリア期の転入超過は、まさに移住人気を証明しているといえるでしょう。

男女差を見ると、石川県を除き女性のほうが転出超過傾向にあります。
ただし、ネットニュースによると、石川県も「激しく女性が転出している」と評されています。僕の集計方法がおかしいのか……?




 

東海(岐阜〜三重)

愛知県が圧倒的に強いです。
ただし東京都とは異なり、ファーストキャリア期の後半以降から転出超過に転じています。
 
地域全体を見ても転出超過なので、東京都のように近隣県にマイホームを持つために転出するのではなく、中京圏から去っているのだろうと思われます。
とはいえ、他地域と比べれば些細な転出超過です。

男女差では、ファーストキャリア期①で、女性のほうが圧倒的に転出超過になっているのが興味深いです。
製造業が強い地域ですが、女性にとっては魅力的な勤務先が少ないということなのでしょうか?


関西(滋賀〜和歌山)

関西といえば大阪・京都・兵庫の三強……というイメージですが、それぞれ特徴が異なります。

大阪府は非常に強く、セカンドキャリア期を除き転入超過です。
東京都と似ていますが、セカンドキャリア期の転出が東京都と比べてさほど大きくありません。不動産価格の違いなのでしょうか?
滋賀県・奈良県が大阪のベッドタウンという位置付けのようで、セカンドキャリア期で転入超過になっています。

京都府は大学進学期のみ転入超過で、以降は転出超過が続きます。
「京都は学生比率が高いから、人口のわりに税収が少ない」とよく言われますが、この数字を見ていてもそんな気がしてきます。

兵庫県は、ファーストキャリア期での転出超過が非常に大きいです。
神戸大学に集まってきた学生を引き留められていないのでしょう。

一貫して転出超過なのは和歌山県だけです。
関東における群馬県のように、ベッドタウンとしては遠いということなのでしょう。

男女差では、女性のほうが増えています。
特に大阪府は、ファーストキャリア期①で男性の約2.5倍も転入超過になっています。
大学進学期で、兵庫県・奈良県が女性のみ転入超過なのも面白いです。女子大の影響なのでしょうか?


中国・四国(鳥取〜高知)

転入超過なのは、鳥取県のセカンドキャリア期のみ。
基本的に転出超過です。厳しいですね……
 
他地域と比べて男女差が小さく、まんべんなく転出していっているのだと思われます。


九州(福岡〜鹿児島)

福岡県の一強です。
「九州の若者は福岡県に集まる」というイメージと見事に合致しています。

福岡県といえば「女余り地域」の代表格ですが、実際に女性の転入超過数のほうが多く、女余りっぷりが見事に表れています。

九州地方に特徴的なのは、セカンドキャリア期で幅広く転入超過になっている点です。
人数的にはさほど多くないものの、広範囲で転入超過が見られるのは、南関東と九州だけです。
UターンなのかIターンなのかはわかりませんが、移住先として人気があるということなのでしょう。


沖縄

ファーストキャリア期②から転入超過に転じるという、他地域とは異なる傾向が見られます。
男女差では、女性のほうが転出が少なく、転入が多い傾向にあります。
「セカンドキャリアを沖縄で始める」 という流れは、僕のイメージとも一致します。

やはり定性的調査・分析が必要なのか

ここまで見てきた「住民基本台帳上の転入超過数」は、未婚者数ベースの男余り/女余りと、それなりに関係があると思われます。
未婚者数ベースで「男余り」と言われる南東北や北関東は、やはり女性のほうが大きく転出超過になっていましたし、反対に「女余り」と言われる西日本や福岡県は、女性のほうが転入超過傾向にありました。

つまるところ、大学進学や就職のタイミングでの人口移動の男女差が、後々の未婚者数にも影響してくる……と考えて間違いなさそうです。
目新しい知見ではありませんが、印象論ではなく、定量的な裏付けもあると判断できるでしょう。

とはいえ、転入・転出の定性的な理由はわからないままです。
今回は僕のイメージで「大学進学」「就職」「転職」あたりを理由として想定してみましたが、実際の理由はもっといろいろあるでしょう。

移住定住施策や、少子化対策施策の一環で、若年層の転入・転出の理由を詳細に調べてみると、有用な知見が得られるかもしれません。

この統計調査では、転入元・転入先の都道府県ごとのデータ(例:北海道から東京に出ていく15歳~19歳男性の人数)まで細かく公表されているので、お住まいの自治体のデータの時系列推移を見るのも面白いでしょう。
地方公務員稼業の基礎データとして、幅広く使えそうです。 

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