ここ最近、地方公務員の個人賠償案件が立て続けにニュースになっています。
行政のミスについて公務員に個人負担を求める案件は、以前から度々ありました。
プールの栓の閉め忘れは毎年のように発生していますし、去年だと常陸太田市の連帯責任的減給が一番話題になったでしょうか。
大抵の場合、報道側も受け手(国民)も「公務員が自腹を切るのは当たり前」というスタンスなのですが、今年の案件ではなぜか地方公務員に同情的な報道が目立ちます。
個人的には、個人負担うんぬんよりもマスコミの手のひら返っぷりが一番腹立つんですよね……
プールの水とか電気あたりは、あなた方が全国津々浦々の事例をいちいち全国ニュースで大々的に報道して「賠償して然るべき」だと騒ぎ立てるから個人賠償するのがスタンダード化したんですけど?
自分で「問題」を作っておいてそれを他者のせいにして別の「問題」に仕立て上げるとは、見事な死の商人っぷりです。
……私怨は置いといて、個人賠償が増える流れ
地方自治法上、地方自治体が職員に対して個人賠償を課すこと自体は、違法ではありません。
つまり、地方公務員が業務上のミスを自腹で補償するのは、地方公務員という職業に内在するリスクと言えます。
法令上決められていることなので、賠償させられること自体に文句を言うのは筋違いなのでしょう。
実際に働いていると、手違いのために物品を損傷してしまうケースはままあります。
職場のパソコンに飲み物をぶちまけて壊してしまうとか、ホッチキスの針がついたまま書類をコピー機に突っ込んで壊してしまうとか……
とはいえ、こういうミス全てに対して賠償請求されているわけではありません。
損害賠償の条件となる「故意または重大な過失」は、かなり限定的に解釈運用されていると思われます。
法令上存在する「個人賠償リスク」が、組織の温情によって相当程度軽減されているとも言えるでしょう。少なくとも従来はそうでした。
ただここ最近は、個人賠償を求められるケースが増えています。
背景や経緯は別にして、この現象だけを捉えると、これまでは潜在的だった個人賠償リスクが顕在化してきたということなのでしょう。
地方公務員が個人負担を負わされることについて、「かわいそう」という見方もできますが、僕はあくまでも個人賠償は法に則った適法な措置であり、感情面とは切り離して考えるべきだと思っています。
地方公務員の個人賠償を「かわいそう」という理由で否定するのは、感情的な理由で法令逃れを正当化しようとする方々……例えば、官有地を長年不法占拠してきた人に対して「かわいそう」といって反発してくる市民団体とか、飲酒運転がバレた際に「今日は仕方なかったから見逃してくれ」と懇願してくる酔っ払いと変わりありません。
これまでは無視していても問題なかった潜在的リスクが、とうとう顕在化して襲ってきた……という理解が一番妥当かと思っています。
とはいえ、地方公務員が個人賠償するケースは、まだまだごく少数に止まっています。
顕在化しつつあるとはいえ、それほど神経質になる必要も無いのかと思います。とりあえず今は。
僕が目下心配しているのは、地方公務員向けの賠償責任保険の値上がりです。
地方公務員が業務上のミスやトラブルが原因で個人賠償責任を負った場合に、賠償金や弁護士費用を補償する保険が、いくつかの損害保険会社からリリースされています。
どこの会社も保険料はかなり控えめで、安いコースであれば一月あたりスタバ一杯分くらいの金額で加入できます。
この公務員向け賠償責任保険は、自動車保険などと同じく、損害保険の一種です。
損害保険の保険料は、保険金が出るケースの数によって大きく左右されます。
自動車保険の場合、(ここ最近の中古自動車関係のニュースでも取り上げられていましたが)自動車事故の数が増えれば増えるほど、保険料は全体的に上がっていきます。
となると、公務員向け賠償責任保険の場合も、保険金が出るケース、つまり公務員が個人賠償するケースが増えれば増えるほど、保険料が上がっていくと考えられます。
先述のとおり、これまでは賠償するケースがごく少数だったため保険料も安く抑えられていましたが、これから賠償事例が増えていけば(増えると見込まれれば)、保険料はどんどん上がっていくでしょう。
賠償事案が増えるにつれて、賠償責任保険のニーズは高まると思います。
しかし同時に、今は安価でお手頃に見える保険料も、今後どんどん上がっていくかもしれないのです。
さらに、保険に加入する地方公務員が増えるほど、役所側としては個人賠償を課しやすくなるのでは?という懸念もあります。
ひょっとしたら今後、
地方公務員の個人賠償案件が増えることで損をするのは、もちろん地方公務員です。
下手をすれば全財産が吹き飛ぶレベルの賠償を強いられるのは言うまでもなく、来る損害賠償に備えて保険に加入するにしても、自腹で保険料を支払わなければいけません。
今は安価ではありますが、これから値上がりするんじゃないかと僕は思っています。
一方、住民は得をします。
地方公務員個人から賠償金を取ることで自治体の歳入(=自分達に還元される財源)が増えるのはもちろんのこと、職員が自腹で保険に入るだけでも、損害賠償を取りやすくなるという意味で、住民は間接的に得をします。
民間企業であれば、業務上発生しうる損害への保険は、会社の経費で加入するんじゃないかと思うのですが、地方自治体の場合は職員の個人負担で加入するのがスタンダードになりつつある、とも言えるでしょう。
どのような見方をするにしても、地方公務員の勤務環境が一段階悪化したのは間違いありません。
何度も触れているとおり、個人賠償を求められること自体は、地方自治法上どうしようもなく、地方公務員という職業に内在する如何ともし難いリスクです。
「労働基本権が制限されている」「副業が厳しく規制されている」あたりと同列のデメリットとして、就職前に留意すべきポイントと言えるでしょう。
地方自治法の法令の条文を改めて読んでいると、運用上なあなあにされているために問題視されていないものの、厳格に適用すると大事件になりかねない条文が他にもあったりします。
地方公務員という職業には、今回の「個人賠償責任」の他にも、潜在的なリスクがたくさんあるのでしょう。
行政のミスについて公務員に個人負担を求める案件は、以前から度々ありました。
プールの栓の閉め忘れは毎年のように発生していますし、去年だと常陸太田市の連帯責任的減給が一番話題になったでしょうか。
大抵の場合、報道側も受け手(国民)も「公務員が自腹を切るのは当たり前」というスタンスなのですが、今年の案件ではなぜか地方公務員に同情的な報道が目立ちます。
個人的には、個人負担うんぬんよりもマスコミの手のひら返っぷりが一番腹立つんですよね……
プールの水とか電気あたりは、あなた方が全国津々浦々の事例をいちいち全国ニュースで大々的に報道して「賠償して然るべき」だと騒ぎ立てるから個人賠償するのがスタンダード化したんですけど?
自分で「問題」を作っておいてそれを他者のせいにして別の「問題」に仕立て上げるとは、見事な死の商人っぷりです。
……私怨は置いといて、個人賠償が増える流れ
もともと個人賠償は潜在的にリスクだった
地方自治法上、地方自治体が職員に対して個人賠償を課すこと自体は、違法ではありません。
地方自治法(職員の賠償責任)第二百四十三条の二の二 会計管理者若しくは会計管理者の事務を補助する職員、資金前渡を受けた職員、占有動産を保管している職員又は物品を使用している職員が故意又は重大な過失(現金については、故意又は過失)により、その保管に係る現金、有価証券、物品(基金に属する動産を含む。)若しくは占有動産又はその使用に係る物品を亡失し、又は損傷したときは、これによつて生じた損害を賠償しなければならない。(以下略)
つまり、地方公務員が業務上のミスを自腹で補償するのは、地方公務員という職業に内在するリスクと言えます。
法令上決められていることなので、賠償させられること自体に文句を言うのは筋違いなのでしょう。
実際に働いていると、手違いのために物品を損傷してしまうケースはままあります。
職場のパソコンに飲み物をぶちまけて壊してしまうとか、ホッチキスの針がついたまま書類をコピー機に突っ込んで壊してしまうとか……
とはいえ、こういうミス全てに対して賠償請求されているわけではありません。
損害賠償の条件となる「故意または重大な過失」は、かなり限定的に解釈運用されていると思われます。
法令上存在する「個人賠償リスク」が、組織の温情によって相当程度軽減されているとも言えるでしょう。少なくとも従来はそうでした。
ただここ最近は、個人賠償を求められるケースが増えています。
背景や経緯は別にして、この現象だけを捉えると、これまでは潜在的だった個人賠償リスクが顕在化してきたということなのでしょう。
地方公務員が個人負担を負わされることについて、「かわいそう」という見方もできますが、僕はあくまでも個人賠償は法に則った適法な措置であり、感情面とは切り離して考えるべきだと思っています。
地方公務員の個人賠償を「かわいそう」という理由で否定するのは、感情的な理由で法令逃れを正当化しようとする方々……例えば、官有地を長年不法占拠してきた人に対して「かわいそう」といって反発してくる市民団体とか、飲酒運転がバレた際に「今日は仕方なかったから見逃してくれ」と懇願してくる酔っ払いと変わりありません。
これまでは無視していても問題なかった潜在的リスクが、とうとう顕在化して襲ってきた……という理解が一番妥当かと思っています。
「賠償責任保険の値上がり」という身近な懸念
とはいえ、地方公務員が個人賠償するケースは、まだまだごく少数に止まっています。顕在化しつつあるとはいえ、それほど神経質になる必要も無いのかと思います。とりあえず今は。
僕が目下心配しているのは、地方公務員向けの賠償責任保険の値上がりです。
地方公務員が業務上のミスやトラブルが原因で個人賠償責任を負った場合に、賠償金や弁護士費用を補償する保険が、いくつかの損害保険会社からリリースされています。
どこの会社も保険料はかなり控えめで、安いコースであれば一月あたりスタバ一杯分くらいの金額で加入できます。
この公務員向け賠償責任保険は、自動車保険などと同じく、損害保険の一種です。
損害保険の保険料は、保険金が出るケースの数によって大きく左右されます。
自動車保険の場合、(ここ最近の中古自動車関係のニュースでも取り上げられていましたが)自動車事故の数が増えれば増えるほど、保険料は全体的に上がっていきます。
となると、公務員向け賠償責任保険の場合も、保険金が出るケース、つまり公務員が個人賠償するケースが増えれば増えるほど、保険料が上がっていくと考えられます。
先述のとおり、これまでは賠償するケースがごく少数だったため保険料も安く抑えられていましたが、これから賠償事例が増えていけば(増えると見込まれれば)、保険料はどんどん上がっていくでしょう。
賠償事案が増えるにつれて、賠償責任保険のニーズは高まると思います。
しかし同時に、今は安価でお手頃に見える保険料も、今後どんどん上がっていくかもしれないのです。
さらに、保険に加入する地方公務員が増えるほど、役所側としては個人賠償を課しやすくなるのでは?という懸念もあります。
ひょっとしたら今後、
- 個人賠償する案件が増える
- 保険に加入する職員が増えると同時に保険料が上がる
- 役所側が「どうせ保険金が出て懐は痛まないんだから個人賠償しよう」と考える
- 1に戻る……
地方公務員の自腹で住民が潤う
地方公務員の個人賠償案件が増えることで損をするのは、もちろん地方公務員です。下手をすれば全財産が吹き飛ぶレベルの賠償を強いられるのは言うまでもなく、来る損害賠償に備えて保険に加入するにしても、自腹で保険料を支払わなければいけません。
今は安価ではありますが、これから値上がりするんじゃないかと僕は思っています。
一方、住民は得をします。
地方公務員個人から賠償金を取ることで自治体の歳入(=自分達に還元される財源)が増えるのはもちろんのこと、職員が自腹で保険に入るだけでも、損害賠償を取りやすくなるという意味で、住民は間接的に得をします。
民間企業であれば、業務上発生しうる損害への保険は、会社の経費で加入するんじゃないかと思うのですが、地方自治体の場合は職員の個人負担で加入するのがスタンダードになりつつある、とも言えるでしょう。
どのような見方をするにしても、地方公務員の勤務環境が一段階悪化したのは間違いありません。
何度も触れているとおり、個人賠償を求められること自体は、地方自治法上どうしようもなく、地方公務員という職業に内在する如何ともし難いリスクです。
「労働基本権が制限されている」「副業が厳しく規制されている」あたりと同列のデメリットとして、就職前に留意すべきポイントと言えるでしょう。
地方自治法の法令の条文を改めて読んでいると、運用上なあなあにされているために問題視されていないものの、厳格に適用すると大事件になりかねない条文が他にもあったりします。
地方公務員という職業には、今回の「個人賠償責任」の他にも、潜在的なリスクがたくさんあるのでしょう。