キモオタク地方公務員(県庁職員)のブログ

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2026年05月

今年も自治体の炎上案件が相次いでいます。
特定の地域にしか影響を及ぼさないローカルニュースを掘り出してきて叩く……という行為に果たしてどれだけの社会的意義があるのかは知りませんが、コンテンツのひとつとして収益が期待できるからこそ、大手メディアが挙って地方自治体を叩くのだと思います。
そうでなければ、地元住民以外にとっては本来どうでもいいニュースに番組の尺を割くわけがありません。マスコミ関係者の本音が知りたいなと常々思っています。

僕自身、過去に炎上案件に巻き込まれたことがありますが、通常業務に炎上対応が丸ごと上乗せされて、すさまじい残業を強いられました。
課内の外線電話回線全部が苦情電話で埋まってしまい、通常業務の電話ができない日が続く……なんてこともありました。

僕が勤務しているのは県庁であり、職員数がそれなりにいるので、幸いにも炎上対応を一人で抱えずに済みました。もしこれが市町村、特に小規模な自治体だったら、もっともっと大変だっただろうと思います。

炎上への対応(以下「消火業務」)は、質的にも量的にも、自治体の規模とは関係ありません。職員数が少ない小規模自治体ほど、一人あたりの業務負担は大きくなります。
自治体の炎上が常態化しつつある昨今、「消火業務の負担がすさまじい」という小規模自治体の宿命は、働くうえでの「リスク」でもあると思います。

業務を侵食する「有事」の奔流

ひとたび「炎上」の端緒が開かれれば、平時のルーティンは瞬時に霧散し、役場内は峻烈な「有事」の様相を呈することとなります。

まず直面するのは、電話やメール、広報用SNSアカウントなどを介して殺到する不特定多数からの苦情や抗議です。
窓口にも抗議者が詰めかけ、怒声が飛び交います。
特に最近は炎上案件を扱う配信者(ユーチューバーなど)も増え、遠方からはるばる窓口にやってくる方も珍しくありません。

直接の利害関係者に対しては懇切丁寧に対応する必要がありますが、大半は全く無関係で、自治体職員に怒りをぶつけてすっきりしたいだけの人です。こういう人の相手をしていると、個人的カタルシスのために膨大なリソースが浪費され本来の問題の解決が遠のいていくことへの虚しさを感じます。

同時に、マスコミからの取材も殺到します。 強い口調で糾弾されながらも、一言一句に細心の注意を払いながら質問に答えるのは、かなり精神を削られます。
案件によっては謝罪会見もセッティングしなければいけません。会見での発言や態度がさらなる炎上に繋がるケースも多く、桁違いのプレッシャーに晒されます。

さらに、公文書公開請求や住民監査請求といった「制度的な攻撃」も急増します。
電話や窓口対応とは異なり書面でのやりとりが中心になるので、精神的な負担はまだ小さいものの、業務負担は重く、通常業務を圧迫する大きな要因となります。

意外と見落とされがちなのは、近隣自治体への対応です。
炎上案件が一つの自治体だけで収まることはまずありません。近隣自治体もまとめて攻撃されるか、叩かれないにしても「取材」という形でコメントを要求されます。
そのため近隣自治体は、火元となった自治体に対し、これまでの経緯や炎上の発端などの事実関係を問合せせざるを得なくなります。
火元の自治体としては、この問合せ対応が結構な負担になります。同業者だからこそ細かい内容を尋ねられ、資料を作って送るよう要求されることもしばしばです。

少なくとも県庁は、市町村役場が炎上したら必ず巻き込まれます。
(県庁もターゲットにして一緒に燃やそうという魂胆の場合もあれば、炎上自治体をさらに攻撃するための材料探し目的の場合もあります)
県庁としても当然、市町村の炎上は好ましくなく、鎮火の手助けをしたいところなのですが……情報が足りないゆえに迂闊な発言をして、火に油を注いでしまうケースがたびたび発生しています。

このような事態を未然防止するためにも、火元自治体から正確な情報を入手することが極めて重要で、申し訳ないと思いつつも細かい説明を求めてしまいます。

不均衡な闘いと、小規模自治体の宿命

先述した炎上対応業務は、役所の貴重なリソースを容赦なく侵食していきます。
それは単に職員のマンパワーの占有・摩耗に留まりません。
鳴り止まぬ抗議電話が電話回線を占拠し、怒り狂う来庁者への対応のために会議室を供用するなど、物理的なインフラさえもが「消火業務」という有事対応に接収されてしまいます。

ここで、現代のデジタル社会における炎上の特筆すべき、そして最も残酷な性質が浮き彫りになります。
それは、攻撃の苛烈さや、炎上対応業務の質・量が、「自治体の規模」とは無関係という点です。

3万人を超える職員を擁する東京都庁であっても、十数人の職員で職場を回している島嶼部の小規模自治体であっても、一度火がつけば対峙すべき敵は「全国の不特定多数」となるのです。

その典型的な、そして痛ましい実例が、2020年(令和2年)に山口県阿武町で発生した特別定額給付金の誤給付事案です。
この一件では、連日数百本もの抗議電話が殺到するという異常事態に陥り、全職員約60名のうち10名もの人員、つまり2割弱の職員を苦情対応の専任に充てざるを得なかったと報じられています。
苦情対応に従事した職員はもちろん、引き抜かれた職員が元々所属していた部署の職員も業務のカバーに回る羽目になり、役所全体が疲弊したことと推察します。 



分母となる職員数が少ない小規模自治体ほど、炎上によるリソースの剥奪率は跳ね上がり、行政機能が麻痺するリスクは指数関数的に増大します。
そしてこのリスクは、「唐突にすさまじい多忙に見舞われるかもしれない」という意味で、職員の人生においてもリスクといえるでしょう。

人為の火群を超え、真の危機管理へ

炎上という現象が自然災害と決定的に異なるのは、それが天災ではなく、徹頭徹尾「人為」によって引き起こされるという点にあります。

「アテンション・エコノミー」が加速する現代において、自治体の炎上は、収益が期待できる一種の「ヘイトコンテンツ」であり続けると思います。
そのため、今後も、プロの放火犯たちがビジネスとして炎上を仕掛けてくるはずです。 だからこそ、自治体経営における炎上対策は、単なる広報上の不手際への対応ではなく、組織の存立を賭けた「危機管理」の枢要として、より注目されていいと思います。

同時に、職員個人レベルでも、なるべく職員数の多い自治体に勤務することが、自らの身を守る「リスクヘッジ」として重要なのではと思います。

ここ最近、全国各地で激しい災害が相次いでいます。
特に豪雨災害が顕著で、常襲地域のみならず、これまで水害を経験したことのない地域でも被害が発生しています。

過去にも何度か触れていますが、僕の初任の配属先は防災部局でした。
当時(10年ちょっと前)は、豪雨シーズンといえば「7月~9月」の3か月間であり、6月の議会が終わった直後に「気合い入れ式」、10月に入ったら「お疲れさん会」などと称して、職場で焼肉に行った記憶があります。
今はいつ豪雨に見舞われるかわからず、このような精神的な区切りも無いので、すっかり廃れてしまったとのことでした。

災害が頻発・激甚化するのに対し、防災や災害復旧に対する制度や財政措置も拡充されています。
特に、被災した個人や民間企業を直接支援する制度が、令和に入ったあたりから急速に充実してきていると思います。

しかし、支援制度が拡充されたとしても、その分だけ復旧復興が加速するわけではありません。
むしろ「どうしてカネはあるのに遅いのか」「地方公務員の仕事の遅さがボトルネックだ」という形で、地方公務員叩きの材料にされているのが現状です。


(誰も報じないけど)充実していく被災者支援

まず、最近の被災者支援制度がいかに充実してきているか、よく話題に上るものを紹介します。

ひとつは住宅の再建支援です。
現在(令和8年春)、能登半島地震の被災者で、住宅が全壊した人の場合、総額1,000万円を超える支援が受けれられるとのこと。
このうち500万円は、この地震に際して新たに創設された国の制度です。
直近の大地震である平成28年熊本地震の際は、僕が調べた範囲では500万円にも届いておらず、大幅に拡充されていることがわかります。

<石川県の資料>
<熊本県の資料>

もうひとつは民間企業向けの「なりわい再建支援補助金」です。
被災した民間企業を直接支援する制度としては、東日本大震災の際に創設された「中小企業等グループ補助金」がありました。
民間企業の財産再取得に公金を支出するという前代未聞の制度で、当時はすさまじい大盤振る舞いだと話題になっていましたが、制度の利用にあたっては地域の中小企業で「グループ」を組成して、地域の復興を民間企業集団としてどのように進めていくのか計画策定する必要がありました。
要するに企業単体では利用できず、自社事業の都合だけを盛り込むわけにもいきませんでした。

しかし現在は、個社・個人でも申請できる「なりわい再建支援補助金」が創設されて、自社都合最優先での補助金利用が可能となっています。

このほか、地方自治体に対する財政支援も大幅に拡充されており、災害を原因に財政が急激に悪化するような事態は激減しています。

一方、このように支援制度が年々拡充されていることは、報道ではほとんど取り上げられません。
地方公務員であっても、災害復旧の実務に携わったことがない人であれば、現在の制度がどうなっているかは知っていても、拡充の過程までは把握していないかもしれません(僕も厚生労働省関係の施策はよくわかりません)。

むしろ近年は、「お金が足りない」という声よりも、「役所の対応が遅い」という苦情・苦言が激増しているように感じています。

実際、僕が防災部局にいた頃と比べて、復旧が遅くなったとは思いません。
とはいえ早くなったかと言われると……大して変わっていないと思います。

復旧復興の「遅れ」は地方公務員による人災なのか

世論が主張するとおり、「どれだけ予算があっても、地方公務員の仕事が遅いから復旧復興が進まない」というのも、一理あると思います。
復旧復興に予算はもちろん必要ですが、同じくマンパワーが必要です。 いくらお金が増えようとも、マンパワーも増えなければ、執行できずにお金を滞留させてしまうのは間違いありません。

とはいえ、応援派遣などで被災自治体の地方公務員数を頭数を揃えれば万事解決するわけでもありません。
復旧復興には、多数の民間事業者も携わっており、民間事業者のマンパワーが不足しているために復旧復興が進まないという実態もあります。

さらに、復旧復興には被災者のマンパワーも必要です。
各種インフラの復旧工事や、公共施設を再建、災害公営住宅の建設には、その前提として、被災者との合意が必要です。
ただでさえ被災して自分のことだけで精一杯なところ、役所からの説明を聞いて意思決定をするには、大変なエネルギーが必要です。

地域としての意見をまとめるとなるとますます大変です。
災害のせいで疲弊してストレスが溜まっている状況下では、なかなかうまくコミュニケーションがとれず、協議の場を設けることすら困難なケースも散見されます。
役所側ではいつでも事業開始できるよう準備しているのに、住民側がまとまらないので着手できない……という事例もよくあります。
このような場合、外部から「早くしろ」と叩かれても、正直に「住民側がボトルネックです」などと言うわけにはいかず、役所が矢面に立って批判を受けることになり、何とも言えないやるせなさを感じるものです。

つまるところ、復旧復興の早さを決めるのは、今はマンパワーなのだろうと思います。
そして、自治体のマンパワーは応援派遣で増やせても、民間事業者や被災者のマンパワーを増やすのは難しく、役所だけではどうしようもない面も多々あるのです。



やや不謹慎かもしれませんが、僕は防災関係の業務が結構好きです。
「人命最優先」という旗印の下、官民が一致団結して仕事に取り組めるからです。
人によって方法論は分かれるにしても大義は同じなので、よくある利害関係の衝突にとどまらない、建設的な議論もできます。

だからこそ、どれだけ頑張っても「遅い」と叩かれざるを得ない昨今の状況には、ほかの公務員批判とは異なり、怒りや呆れというよりは「もどかしさ」を感じます。 被災者が直接非難されるよりは、役所が身代わりになるほうがまだマシだと思って、盾役を務めるしかないのだろうと思います。

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