今年8月に発行された本書を遅ればせながら読みました。



 
痛快で面白いです。元気が出ます。
目先の成果だけでなく10年以上の長期スパンを見据えて活動された方が多く、その熱意と慧眼に感服するばかりです。

本書の中身は、実際に読んで確かめてください。
僕からはひねくれた感想を置いておきます。

プライベート搾取の裏付けになる?

本書で取り上げられている方々の成功の秘訣は並外れた専門スキルや人脈(以下まとめて「人的資源」とします)だと、僕は理解しました。

さらに、これらの人的資源は、地方自治体入庁前であったり、入庁後であっても業務時間外に得たものです。
研修のおかげでもなければ、役所業務の中で体得したわけでもありません。職員が自らの余暇と私財を投じて獲得したものです。

職員個人が自腹を切って得た人的資源のおかげで、役所は目覚ましい恩恵を得られたわけです。
つまるところ、役所の体制側(人事・財政など総務部局、ひいては首長)は、職員が余暇と私財を犠牲にして得た人的資源にフリーライドしているのです。

役所の場合、職員に対する成果給はありません。(ボーナスが若干上積みされるくらい)
自腹を切って成果を出した職員に対し、何も報いない。本物のフリーライドです。

本書を読み終えて、嫌な予感がしました。

本書のエピソードを取り上げて、「役所が変わるには職員個人の自発的な自己研鑽が重要」だと、業務時間外の自発的な勉強・活動を強いてくる上司が出てくるのではないか。
 
日々の業務でも、「これも勉強だから」という名目で、業務時間外に自腹でなんでもやらされるようになるのでは。

議会や住民にとっても、これまで以上に公務員に業務外奉仕を求める絶好の口実になるでしょう。

「みみっちいな、だからモテないんだよ」と思われそうですが、日頃から自腹で出張したり参考資料を買ったりしている身としては大変切実です。

異世界からの救世主が来ないと変われない組織?

地方公務員として漫然と働いているだけでは全く成長が得られないということも改めて痛感しました。
 
本書で取り上げられた方々は、役所勤務を通して得た経験や知見のおかげで問題を解決できたわけではなく、解決に必要な人的資源は役所外部から持ち込みました。
別の言い方をすれば、役所内で得た経験・知見だけでは、問題解決できなかったのです。


本書を読んでドラゴンクエスト7を思い出しました。

 
同作では、主人公たちが魔物に支配された異世界にワープして、その世界を支配する魔物を倒す……という繰り返しでストーリーが進むのですが、これと似たものを感じました。
(わかりやすさ重視&ネタバレ回避のため、あえて不正確な表現にしています)

異世界で暮らす人々は、魔物の支配に怯えながらも、反抗を諦めています。
抗戦している人もいますが、力が足りず敗北を喫しています。
そこに主人公たちーー数多の異世界を旅して経験値を蓄えた別次元の存在ーーが現れて魔物を倒し、世界を救います。

役所は「魔物に支配された異世界」なのかもしれません。
世界の住民、つまり地方公務員は、自らの力では世界を変えられません。
世界を変えるには、外から来た勇者が必要なのです。悲しいけれども。