香川県がオンラインゲーム規制条例を真剣に検討しているとのことで、インターネットが盛り上がっています。
ちょっと調べてみたところ予想以上に深い話だったので、まとめておきます。
香川県議会の議事録を見たところ、ゲーム依存に関する質問が最初に出たのが平成18年9月議会(大山一郎議員)で、これ以降自民党所属の議員さんを中心に繰り返しゲーム依存関係の質問が出ています。
近年はほぼ毎回問われています。
平成31年2月議会に至っては、代表質問(大山一郎議員)の1問目、つまり政党として最重視しているトピックを問う場面で、ピンポイントにゲーム依存対策が出てきます。
県職員ならお分かりだと思いますが、こんなに長期間、議会のたびに質問される話題なんてそうそうありません。しかも代表質問のトップバッターをも務めています。
香川県社会全体がどう捉えているかは別にして、少なくとも香川県議会の中では、ゲーム依存が超重大問題として長年認識されていると考えて間違いないでしょう。
平成31年2月議会の知事答弁には「急務である」「社会全体で取り組み必要性」との発言もあり、執行部(首長)も冷めた目で見ているわけではなく、かなり本気で対策を考えているようです。
今回の条例化は、いきなり湧いてきたわけではなく、平成18年から始まる13年超の経緯を踏まえての結果なのです。
今更炎上するなんて思いもしなかったろうと推測します。
質問と答弁はこちらから検索できます。
ちょっと長いですが、平成31年2月議会の代表質問を引用します。
あくまでも論点は依存症です。
省略した部分を含め、ゲーム自体を否定する発言は見当たりませんでした。
香川県といえば、ポケモンGOとタイアップした「ヤドン県」キャンペーンを過去にやっています。
議会答弁には、これを称賛する声もありました。
このため、「香川県はゲームを否定している」みたいなネットの燃え方は若干ずれていると思います。
ネット上の議論を見ていると、「条例制定したところで意味がない」という論調が目立ちます。
条例単体で見ると、罰則が無いため、制定したところですぐにネット依存が解消に向かうとは思えませんし、改善すらされないでしょう。
僕の個人的感覚ですが、条例制定の直接の目的は「ネット・ゲーム依存の解消」ではないと考えています。
最終的な目的はもちろんこれなのですが、直接的な目的は別にあります。
これに対して先進的な取組を打ち出すことで、「香川県は健康に気を遣っている」「教育・子育てに真剣に向き合っている」という方向でのイメージアップが期待できます。
このようなイメージを確立することで、別の施策(子育て世代の移住促進など)にプラスの働くことも期待しているのでしょう。
条例は議会、つまり民意を経て制定されます。
条例に沿った施策は、民意に沿った施策と同義です。
そのため、議会や住民から批判されても跳ね返しやすいです。
国に対しても強気に迫れるでしょう。
今回の場合、規制条例が成立すれば、ネット・ゲーム依存対策関係の事業は民意に沿ったものと認められ、これらの事業に予算を注ぎ込みやすくなります。
ただ短期的には、この条例はデメリットの方が大きいと思います。
その流れに真っ向から反対しているように見られてしまいます。
今回の規制は、企業としては、事業リスクと捉えると思います。
どんどん規制の範囲が広がっていく懸念も抱くでしょう。
市場が拡大しているわけでもないのに、わざわざリスクのある地域に積極的に進出しようとは普通思いません。
特に情報通信産業は近寄らなくなるでしょう。悪とみなされる(既にみなされている)リスクがあります。
今回の条例の目的はあくまでも「依存対策」ですが、その手段はデジタルと子供を遠ざけることです。
しかし、全県民が目的と手段をきちんと区別できるとは思えません。
「デジタルと子供は近づけてはならない」と理解する方も一定数いるでしょう。
そうなってしまうと、教育行政が停滞しかねません。
教員の認識への悪影響が特に心配です。
ここからはオタクの独り言です。条例とは関係ありません。
ゲームばっかりやってると、楽しさがどんどん下がっていくのです。
ゲームやって、漫画読んで、アニメ見て、外出して……と、いろんな娯楽をバランス良く楽しむことで、余暇の楽しみは最大化されると思います。
重要なのは、いろいろな娯楽のバランスの最適化、つまり娯楽のパレート最適を実現しようとする自己規律です。
それぞれに費やす時間やエネルギーの割合は人それぞれで、他人が口出しするものではありません。
しかし、この自己規律が出来上がるまでは、ある程度外から規制を加えるのもやむなしかと思います。
頭ごなしに「ゲームはダメ」と縛ってはいけません。
「ゲームのほかにも楽しいことがたくさんある」「楽しいことをいっぱい知っている方が人生楽しいに決まっている」と、飴アンド飴で誘導するのが理想だと思います。
特に後者が厄介です。
強権的に規制すると、その人の大事な心の拠り所を失わせる結果になりかねません。
ゲームは止められたとしても、別の問題の原因になります。
そのため、ゲーム依存を他の依存症と同じ方法で対処しようとすると、多分うまくいきません。
ゲーム依存ならではの対策を考えねばいけません。
僕は何より、この条例案を香川県民がどう考えているのかが気になります。
パブリックコメントの結果が楽しみです。
ちょっと調べてみたところ予想以上に深い話だったので、まとめておきます。
長い長い歴史を経ての条例化
香川県議会の議事録を見たところ、ゲーム依存に関する質問が最初に出たのが平成18年9月議会(大山一郎議員)で、これ以降自民党所属の議員さんを中心に繰り返しゲーム依存関係の質問が出ています。近年はほぼ毎回問われています。
平成31年2月議会に至っては、代表質問(大山一郎議員)の1問目、つまり政党として最重視しているトピックを問う場面で、ピンポイントにゲーム依存対策が出てきます。
県職員ならお分かりだと思いますが、こんなに長期間、議会のたびに質問される話題なんてそうそうありません。しかも代表質問のトップバッターをも務めています。
香川県社会全体がどう捉えているかは別にして、少なくとも香川県議会の中では、ゲーム依存が超重大問題として長年認識されていると考えて間違いないでしょう。
平成31年2月議会の知事答弁には「急務である」「社会全体で取り組み必要性」との発言もあり、執行部(首長)も冷めた目で見ているわけではなく、かなり本気で対策を考えているようです。
今回の条例化は、いきなり湧いてきたわけではなく、平成18年から始まる13年超の経緯を踏まえての結果なのです。
今更炎上するなんて思いもしなかったろうと推測します。
質問と答弁はこちらから検索できます。
ゲーム自体を否定しているわけではない?
今回の条例はあくまでもゲーム依存対策が目的で、ゲーム全般に異を唱えているわけではないようです。ちょっと長いですが、平成31年2月議会の代表質問を引用します。
◯大山一郎君
私は、ただいまから自由民主党香川県政会を代表して、当面する県政の諸課題について、知事、教育長並びに警察本部長に質問をいたします。(中略)世界保健機関WHOは、昨年六月、スマートフォンなどのゲームのやり過ぎで日常生活に支障を来すゲーム依存症を「ゲーム障害」という疾患として認めました。世界で多くの若者を中心にゲーム依存が原因で死亡したり、ひきこもりや問題行動を起こすことなどが報告されており、このような憂慮すべき事態を踏まえた対応で、ことし五月のWHO総会で正式に病気として決定される運びとなっております。(中略)県内でも事態は深刻化しています。小学四年生から高校生を対象に行った県教委の二〇一七年度調査では、児童の二割弱、中学生の三割弱、高校生の四割弱が、平日三時間以上、スマートフォンやゲーム機などを使用していました。この調査では、中学生の三・四%、高校生の二・九%でインターネット依存のおそれがあるとされています。また、長時間ゲームやインターネットを使用すればするほど、成績が低下する相関関係も顕著になっております。子供たちも若干の自覚はあるようで、スマホやゲームの利用に関し、小学生の二四・五%、中学生の三七・四%、高校生の四七・九%が「悩み事や心配事がある」と回答。理由の一位は、全校種とも「勉強に集中できない」で、小学生は八・七%、中学生は一七・七%、高校生は四人に一人の二五・七%。二位は「寝不足」で、生活リズムの乱れや健康面での悩みが目立っております。
(中略)そこで、知事及び教育長に質問です。まず、WHOの方針や県教委の調査結果を踏まえ、県内の小・中高生のスマホゲームやインターネットの利用状況をどう受けとめているのか、お伺いをいたします。世界では、ネットへのシャットダウンや依存度アンケート調査に基づく相談体制などの先進的な取り組みが進む中、日本は取り組みがおくれています。香川県は全国でも有数の教育県だと思っており、ゲーム・インターネット依存対策を全国に先駆けて取り組むべきだと考えますが、いかがでしょうか。(以下略)
あくまでも論点は依存症です。
省略した部分を含め、ゲーム自体を否定する発言は見当たりませんでした。
香川県といえば、ポケモンGOとタイアップした「ヤドン県」キャンペーンを過去にやっています。
議会答弁には、これを称賛する声もありました。
このため、「香川県はゲームを否定している」みたいなネットの燃え方は若干ずれていると思います。
条例化のメリット
ネット上の議論を見ていると、「条例制定したところで意味がない」という論調が目立ちます。条例単体で見ると、罰則が無いため、制定したところですぐにネット依存が解消に向かうとは思えませんし、改善すらされないでしょう。
僕の個人的感覚ですが、条例制定の直接の目的は「ネット・ゲーム依存の解消」ではないと考えています。
最終的な目的はもちろんこれなのですが、直接的な目的は別にあります。
イメージアップ・セルフブランディング
ネット・ゲーム依存は、深刻な社会問題のひとつであることに間違いはありません。これに対して先進的な取組を打ち出すことで、「香川県は健康に気を遣っている」「教育・子育てに真剣に向き合っている」という方向でのイメージアップが期待できます。
このようなイメージを確立することで、別の施策(子育て世代の移住促進など)にプラスの働くことも期待しているのでしょう。
今後の具体的施策の布石
新たに確立したイメージを具体化していくための新たな事業を始める段階でも、条例は強大な後ろ盾になります。条例は議会、つまり民意を経て制定されます。
条例に沿った施策は、民意に沿った施策と同義です。
そのため、議会や住民から批判されても跳ね返しやすいです。
国に対しても強気に迫れるでしょう。
今回の場合、規制条例が成立すれば、ネット・ゲーム依存対策関係の事業は民意に沿ったものと認められ、これらの事業に予算を注ぎ込みやすくなります。
条例のデメリット
ただ短期的には、この条例はデメリットの方が大きいと思います。イメージの低下・時代遅れとみなされる
既にかなりダメージを食らっているところですが、最近はeスポーツやクールジャパンなど、ゲームをもてはやす流れの方も相当強いです。その流れに真っ向から反対しているように見られてしまいます。
企業から敬遠される
インターネットやゲームが規制されて、儲かる企業は多分ほとんどありません。今回の規制は、企業としては、事業リスクと捉えると思います。
どんどん規制の範囲が広がっていく懸念も抱くでしょう。
市場が拡大しているわけでもないのに、わざわざリスクのある地域に積極的に進出しようとは普通思いません。
特に情報通信産業は近寄らなくなるでしょう。悪とみなされる(既にみなされている)リスクがあります。
目新しい教育施策の遅れ
デジタル教材の導入やプログラミング教育のような、デジタルツールを使った新しい教育関係の施策が相当やりづらくなるのではないかと思います。今回の条例の目的はあくまでも「依存対策」ですが、その手段はデジタルと子供を遠ざけることです。
しかし、全県民が目的と手段をきちんと区別できるとは思えません。
「デジタルと子供は近づけてはならない」と理解する方も一定数いるでしょう。
そうなってしまうと、教育行政が停滞しかねません。
教員の認識への悪影響が特に心配です。
オタク的な感覚
ここからはオタクの独り言です。条例とは関係ありません。娯楽の限界効用
みんな大好き「限界効用逓減の法則」ですが、これは娯楽にも当てはまると思います。ゲームばっかりやってると、楽しさがどんどん下がっていくのです。
ゲームやって、漫画読んで、アニメ見て、外出して……と、いろんな娯楽をバランス良く楽しむことで、余暇の楽しみは最大化されると思います。
重要なのは、いろいろな娯楽のバランスの最適化、つまり娯楽のパレート最適を実現しようとする自己規律です。
それぞれに費やす時間やエネルギーの割合は人それぞれで、他人が口出しするものではありません。
しかし、この自己規律が出来上がるまでは、ある程度外から規制を加えるのもやむなしかと思います。
頭ごなしに「ゲームはダメ」と縛ってはいけません。
「ゲームのほかにも楽しいことがたくさんある」「楽しいことをいっぱい知っている方が人生楽しいに決まっている」と、飴アンド飴で誘導するのが理想だと思います。
他の依存症との違い:自己効力感と密接
ゲームは、他の依存対象(薬物など)とは異なり、- お金や健康だけでなく時間を吸い上げる
- 居場所として機能し、自己効力感の源となりうる
特に後者が厄介です。
強権的に規制すると、その人の大事な心の拠り所を失わせる結果になりかねません。
ゲームは止められたとしても、別の問題の原因になります。
そのため、ゲーム依存を他の依存症と同じ方法で対処しようとすると、多分うまくいきません。
ゲーム依存ならではの対策を考えねばいけません。
僕は何より、この条例案を香川県民がどう考えているのかが気になります。
パブリックコメントの結果が楽しみです。
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