「フェルミ推定」という単語を見かけるたびに学生時代を思い出します。
「外資系企業のインターンシップで試されるから」という理由で、同級生たちが挙って参考書を開いて、山手線の一日の乗降者数や、東京都内のビルの総フロア数のような課題に取り組んでいました。
「フェルミ推定」という単語を知っていることが一種のステータスでもあったので、ことあるごとにドヤ顔でフェルミフェルミと口にする人もたくさんいました。

大学生当時の印象が強いせいか、フェルミ推定といえばキラキラ民間企業のものであり、田舎の役所とは無縁だという認識で、これまでずっと凝り固まっていました。

しかし改めて考えてみると、フェルミ推定は地方公務員でも有用な思考法です。
特に財政課ルートで出世するためには必須のスキルだと思います。




財政課に欠かせない

財政課の仕事、特に予算編成において、フェルミ推定は必須です。
「フェルミ推定」という単語・概念を意識しているかどうかは別にして、誰もが自然と利用している思考パターンでしょう。
 
県の当初予算は数千億円に上ります。
この金額を設計するためには、事業ごと・部署ごとに積み上げていくボトムアップのアプローチだけでは、時間もマンパワーも全然足りません。
あらかじめざっくりと「あたり」をつけて、個別の事業・部署ごとの予算要求額を見ながら、「あたり」を修正・具体化していくという漸進的なアプローチが必要です。

精度の高い「あたり」をつける技術は、フェルミ推定とかなり重複します。
つまり、フェルミ推定のスキルを身につけることで、財政課における予算編成業務という役所組織運営の根幹的業務をスムーズに進められるのです。

このことは同時に、財政課で高い人事評価を獲得することに直結し、さらなる出世につながるのです。

財政課にたどり着くまでも欠かせない

フェルミ思考は、財政課にたどり着くまでの過程、俗にいう「プレ財政課部局」でも役立ちます。
中でも特に産業振興部局で成果を上げるためには欠かせないでしょう。

産業振興部局では、民間企業の方と協力して仕事をする機会が多いです。
民間企業にとって、フェルミ推定は当たり前の思考法です。
役所職員側もフェルミ推定を理解していなければ、ついていけません。

新しいプロジェクトを始める前の準備段階で、スケジュールや予算感を大づかみに検討する際なん
かには、厳密にリサーチしてから決める部分もあるでしょうが、フェルミ推定を使う部分も多いでしょう。

役所という組織は、推定を元に動くことがなかなかできません。
とにかく根拠を求めます。
民間企業からすれば非効率でトロいと思われるのでしょうが、民主主義の下で動いているという役所組織の特性を思うと、仕方のないことと思います。

とはいえ民主主義を理由に推定を全て排除していては、民間企業との協働は実現しません。
ある程度は推定を受け入れなければいけません。

このため、役所(ひいては議会・住民)でも許容できる程度に「確度」「推定プロセスの透明さ・妥当性」を備えた推定を作るという役割が、産業振興部局の職員に課されます。
これにはフェルミ推定に対する深い理解が必要です。

希少性も高い

さらにフェルミ推定は、役所内においては稀少性の高い技能でもあります。

大半の地方公務員は、1円単位を正確に合わせることに心血を注いでいます。
フェルミ推定を用いる業務は限られていて、先述したような出世コースにあたる職員しか普段は担当しません。
実務を通した推定は、いわば帝王学のようなもの。見込まれた職員しか経験できないのです。

普通に仕事をしているだけでは、フェルミ推定のような大枠を掴む思考法は身につきません。
実務に使えるだけでなく、希少価値もあるスキルであり、他の職員から抜きん出るための差別化要因にもなるのです。


先述のとおり、役所におけるフェルミ推定は、世間一般よりも「確度」や「推定プロセスの透明さ・妥当性」が求められます。
そのため、市販のワークブックをなぞるだけでは不足すると思われます。
普段の業務でフェルミ推定を使ってみて、概念的に理解するだけでなく、役所内でも通用するようにアレンジしていく必要があるでしょう。