大型市役所や県庁志望の方は、今ごろ面接ネタを練っているところと思います。
中には「役所だけではどうしようもない課題を、住民や民間企業と協力しながら解決していきたい」という展開を考えている方もいるかもしれません。
 
とても耳触りの良いストーリーではありますが、実務をやっている身からすると現実味がありません。
面接官としても心を動かされないと思います。

協力してもらえれば解決できそうな課題は実際たくさんありますが、「いや役所の責任でしょ」と一蹴されるのが常であり、そもそも協力しあえる素地があれば、現存する社会課題の多くは今ほど深刻になる前に解決できていたはずです。
いまだに課題のまま残っているものは、過去に協力を仰ごうとして失敗したと考えるほうが自然です。

もし「住民・民間企業との協力による課題解決」要素を使いたいのであれば、国内自治体の成功事例を探しておいたほうがいいと思います。
少なくとも事例が無いと、根拠があまりにも薄弱だからです。

ただし、どんなに優れた成功事例があったとしても、指定管理者ネタだけは絶対に避けたほうが無難です。
全国各地でトラブルが相次いで発生していて、職員を悩ませているからです。

指定管理者の懐具合

指定管理者制度の概要は、インターネットで検索したほうが正確かつわかりやすいでしょう。
ここでは省略して、お金の話を中心に進めていきます。

役所側から見ると、指定管理者制度は
  • コスト削減(特に人件費)になる
  • 役所では提供しづらいサービス(物販や飲食、娯楽イベントなど)を提供でき、施設の魅力向上につながる
というメリットがあります。

一方、指定管理者として施設を預かる民間側(受託者)からすると、
  • 設備は役所が準備してくれるので、初期投資なしで事業が始められる
  • 賃料や固定資産税がかからないので、運営コストが安い
  • 指定管理料という安定収入を得られる
というメリットがあり、一見双方にとってお得な制度のように見えます。

建前はこんな感じなのですが、実際やってみると、上記メリットの恩恵を受けられるとは限りません。
特に受託者側の負担が想定以上に重くなり、受託当初は想定していなかった多額の赤字を抱えることになりがちです。

想定外のコストが嵩む

赤字の原因の一つは、住民や議会からの要望です。
運営を指定管理者(民間)に任せているとしても、施設自体は役所のものです。
そのため、民主主義の原則から逃れることができません。通常の民営施設のように営利優先での運営ができないのです。

完全民営の施設であれば、お客さんから要望があったとしても応じる義務はありません。
「利益につながるかどうか」を判断基準として検討するでしょう。
しかし役所の場合は、民間企業の感覚では一蹴すべきトンデモ案件や、利益には到底結びつかない提案であったとしても、しかるべき相手・人数からの要望であれば応じなければいけません。

指定管理者が運営している施設も、税金を原資に提供されている行政サービスであることには変わりありません。
民主主義の原則に従い、役所本体が提供するサービスと同程度に、住民の意見を尊重しなければいけません。

かっこよく言うと、公設という性質上、採算度外視でロングテールのニーズに応じなければいけないのです。 
  • 農産物直売だけでなく試食も出してほしい →加工・提供スタッフ増員(人件費増)、衛生管理のコスト増
  • 街灯代わりに照明を点けておいてほしい →光熱水費増加
  • ふるさと納税の受付窓口機能も持つべきだ →対応スタッフ増員
  • 避難所機能も持つべきだ →非常食などの備蓄(消耗品費増)
指定管理料を増額したりして役所側で費用増額分をカバーできればいいのですが、全てカバーするのはなかなか難しいです。
こういう要望に応じるたびにランニングコストが嵩んでいって、赤字を積んでいくのです。

役所から支払われる指定管理料ではなく、受託者の独自財源を使っている事業であっても、状況は変わりません。
その事業単体では確かに公費は入っていませんが、事業に使っている施設の財源は税金である以上、「独自事業だから好きにやらせてほしい」とは言えません。

「住民や議会からの要望を優先せざるを得ない」という現実は、受託者の裁量を制限し、意欲を減退させます。
受託者としてやりたいことがあっても、こういった要望に応じるために予算が枯渇してしまって実行できなかったり、真逆の要望を受けたために諦めざるを得なかったり……。
まさに学習性無気力という状態に陥るケースもよく聞きます。

人材確保できないためにオペレーション効率化できない

指定管理で運営されている施設で働いているのは、ほぼ全員が非正規雇用の方々です。
正社員は施設長くらいでしょう。しかも元から受託者の別部署で働いていた方を配置転換しただけで、指定管理のために新たに雇用するケースはごく稀だと思います。

施設の指定管理は、たいてい3年くらいの有期契約です。この期間が終了したら、次どうなるかは全くわかりません。
もし正社員を雇用して、3年後に継続受託できなかったら、余計な人員を抱えることになります。
このため、指定管理のために受託者が正社員を新たに雇用するケースはほぼ無く、アルバイトや契約社員を中心に運営することになります。

アルバイトや契約社員を募集するにしても、「3年後に終わるかもしれない」という点がネックになります。
将来性に欠けるため真面目な人がなかなか集まらず、採用できたとしても腰掛け的なジョブホッパーかリタイア世代ばかり採用せざるを得ないのです。
職場としての魅力に欠けるために離職者も多く、採用活動はずっと続くことになります。

スタッフが定着しないために、日々のシフト調整ですら苦労する羽目になり、長期的な経営計画はもちろんのこと、年間の運営計画すら見通せません。
人の入れ替わりが激しいせいでノウハウが育ちにくく、運営のマニュアル化も難しいです。
このような手探り・場当たりの環境がずっと続くために、オペレーションの改善が進まず、非効率・高コストな運営になりがちです。

そもそも儲からない?

指定管理業務をやっている上場企業は、なかなかありません。
決算に現れるくらいに大きなウェイトを占める企業だと、シダックス株式会社しか見つかりませんでした。

トータルアウトソーシング部門

有価証券報告書によると、同社は全国で指定管理を受託していて豊富なノウハウを持っており、しかもグループ内で流通会社を持っているためにローコストで物品調達ができるとのこと。
さらに社員もたくさんいるので、先述した人材確保の問題もある程度は緩和されるでしょう。

つまり、指定管理ビジネスをやっている企業の中でも、かなり高い利益率を確保できるほうと思われます。
しかし、それでも営業利益率6%前後(しかも本社機能の経費は別途発生)なのです。
そもそもビジネスとしてあまり儲かる分野ではないのでしょう。

担い手がいない

このような事情が深刻化しつつあり、指定管理の担い手がいなくなりつつあります。

現行の受託者は、人手不足や赤字を理由に継続受託を断念することが増えています。
新たに指定管理者を公募しても、応じる事業者が見つからないケースが多発しています。

役所が直営で運営できる施設ならまだしも、道の駅のような物販や飲食機能のある施設だと、直営は不可能です。
実際、指定管理者が見つからないまま閉鎖状態の施設も出てきました。

「指定管理者 断念」あたりのワードで検索すれば、いろんな事例が出てきます。
今後はさらに増えていくと思われます。新型コロナウイルスの影響でさらに収益性が悪化して、会社として生き残るために、指定管理業務をリストラせざるを得なくなるケースが予想されるためです。

指定管理という運営方法が成り立たなくなった場合の対策を検討しているのが田舎役所の現状です。
もし面接で「指定管理制度を活用して〜」みたいなことを発言されたら、少なくともローカルニュースに全然目を通していないんだなと思われるでしょう。