県庁における圧倒的出世コースといえば、財政課(予算編成担当)と人事課(人事異動担当)です。
異論を挟む余地がありません。いずれかに乗ってしまえば、部局長クラスが見えてきます。
問題(そして格好の話題)は、出世コース候補者がしのぎを削る選抜ポストと、惜しくも圧倒的出世コースから漏れてしまった職員がしのぎを削るそこそこ出世コースです。
こちらは自治体ごとに大きく異なるのでしょう。インターネット上の情報でも、書き手によって答えが異なります。
中でも評価が割れているのが「市町村課」です。
財政・人事に次いで出世に近いとの高評価を下す人もいれば、そもそも触れもしない人もいます。
僕は「選抜ポスト」「圧倒的出世コース」いずれでもないと考えています。
本稿を読む前に、この記事を読んだほうがわかりやすいかもしれません。
業務面:小難しい
市町村課の主な仕事は、総務省・財務省・内閣府と市町村の中継ぎです。
都道府県のホームページでは、市町村課の業務として「市町村行財政の指導」みたいなことが書かれていますが、都道府県が何らかの意図を持って指導するわけではありません。
あくまでも国家本省から通知された内容に従います。いわば現場監督です。
あくまでも国家本省から通知された内容に従います。いわば現場監督です。
このほか、市町村そのものの存在に関わる手続き(自治体間の境界変更など)、一部事務組合のような広域行政に関する業務も、市町村課の役割です。
選挙管理委員会を兼ねている自治体も多いようです。これらがコア業務であり、自治体によっては、ふるさと納税や移住促進あたりも所管しています。
あくまでも国家本省と市町村の中継役なのであって、県庁内各課と市町村の中継役ではないところが重要です。
市町村課という名前だけ見ると、県庁の事業課と市町村の橋渡し役を務めるかのように思えるかもしれませんが、市町村課は他課の業務には関与しません。
ある意味、市町村課は、庁内では浮いた存在です。他課との関わりがほぼありません。
基礎能力の高い職員しか配置できない
市町村課の職員には、国が作った膨大なルールやマニュアルを解読して咀嚼する「理解力」、市町村からの質疑に応じる「記憶力」「解説力」が必要です。
いずれも公務員であれば必須の能力ではありますが、市町村課の場合は取り扱う分量が非常に多く、しかも小難しいものばかりなために、高い水準が求められます。
しかも、普段やりとりするのは、市町村の人事課や財政課という、市町村職員の中でも選りすぐりのエリートばかりです。
パッとしない職員は舐められて丸め込まれてしまい、指導監督役が務まりません。
こういった事情ため、もともと実績があって高く評価されている職員でないと、市町村課には配置しづらいのではないかと思います。
職員配置面:県庁職員以外がたくさんいる
市町村課には、たいてい市町村からの派遣職員がいます。
どういう基準で派遣職員を選んでいるのかは不明ですが、僕の勤務する県庁の市町村課には期待のホープが送られてくると言われています。
総務省からも、たびたび若手職員が派遣されてきます。
こちらも詳細は不明です。総合職だけなのか、一般職でも来られるのか……
市町村や国と人事交流している部署は他にもあります。
ただし、派遣職員の人数では、市町村課が圧倒的最多です。
コミュ力の高い職員しか配置できない
派遣職員のいる部署では、彼ら彼女らのマネジメント業務(業務配分、進捗管理、指導など)も、県庁生え抜き職員の仕事です。
しかも市町村課は派遣職員が多いため、年齢にかかわらず、ほぼ全員がマネジメント業務に携わることになるでしょう。
そのため、しっかりコミュニケーションが取れる職員でないと、市町村課の仕事は勤まりません。
自分の仕事だけに没頭するのではなく、常に周囲の職員の様子を見て、的確にサポートできるタイプでないといけません。派遣職員が多いということは、生え抜き県庁職員の割合が少ないということでもあります。
そのため、首長発の政治的案件のような派遣職員には任せられない突発的業務が発生したら、わずかな生え抜き職員で対応せざるを得ません。
つまるところ、職員配置面から考えても、それなりに評価の高い職員しか配置できないと思われます。
出世コースとは本質的に異なる
まとめると、市町村課には以下のような特徴があると思われます。
- 業務内容・人員体制の特徴的に、それなりに高評価の職員でないと配置できない
- 役所運営の根幹である行財税政と選挙の知識が身につく
- 年齢に関係なくマネジメント業務を経験できる
これだけ見ると、有能な職員が配置され成長の機会も与えられている環境、つまり出世コースのように見えます。
しかし、正真正銘の出世コースである財政課や人事課と比べると、根本的な違いがあります。
市町村課では、出世に不可欠である「庁内調整能力」が身につきません。
市町村課の役割は、あくまでも国(総務省・内閣府)と市町村の仲介役であり、市町村課が何らかの意思決定を下すことは滅多にありません。
部局長や首長の判断を仰がなければいけない大仕事も比較的少ないでしょう。
加えて、市町村課の業務が庁内他課に影響を及ぼすことも少なく、ほとんどの業務が課内で完結するため、庁内での利害関係調整もありません。
これらの事情のために、市町村課では、庁内調整能力が求められる機会に乏しく、育まれることも無いと思われます。
部局長や首長の判断を仰がなければいけない大仕事も比較的少ないでしょう。
加えて、市町村課の業務が庁内他課に影響を及ぼすことも少なく、ほとんどの業務が課内で完結するため、庁内での利害関係調整もありません。
これらの事情のために、市町村課では、庁内調整能力が求められる機会に乏しく、育まれることも無いと思われます。
本流出世コースである財政課や人事課では、庁内調整能力を徹底的に鍛えられます。
将来的に部局長として役所を回していく際に、この能力が必要不可欠だからです。
逆に言えば、庁内調整能力が身に付かない市町村課は、出世コースたり得ないのです。
結論:20代前半までに配属されたら期待大
新卒入庁で最初の配属先が市町村課だったり、1回目の人事異動で市町村課に配属された場合は、人事から期待されている可能性が高いです。
市町村課の業務を無難にこなせば、基礎能力は合格点です。
ただ、最重要評価項目である「庁内調整能力」は、まだ一切評価できていない状態です。
ただ、最重要評価項目である「庁内調整能力」は、まだ一切評価できていない状態です。
次の人事異動で「選抜ポスト」、つまりは庁内調整能力を試される部署に配置されて、そこでも無難に仕事をこなせれば、晴れて出世コースに入れるでしょう。
20代後半以降に配属された場合は、少なくとも一軍メンバーからは脱落していると思います。
ただし、基礎能力が高く評価されていることは間違いありません。
そうでなければ、そもそも市町村課に配置されないでしょう。
とはいえインターネット上には「市町村課は出世コース!」と断言しているサイトも複数あるので、自治体によっては出世コースなのでしょう。人事録を遡ってみると面白そうです。
とはいえインターネット上には「市町村課は出世コース!」と断言しているサイトも複数あるので、自治体によっては出世コースなのでしょう。人事録を遡ってみると面白そうです。
ちなみに僕は市町村課にかなり興味があります。ブログネタの宝庫でしょう。
話し下手コミュ障なので絶対あり得ないでしょうが……
コメント
コメント一覧 (12)
その後30代前半で市町村課から財政課や人事課に行くことも多く、基礎知識の習得と能力評価が市町村課で行われている感があります。
本県だと結構出世ルートです。
本県の市町村課はとにかく若いので、全然雰囲気が違いそうですね……
本県の市町村課も以前は「財政課予備校」と呼ばれていて、出世ルートの入口だったらしいのですが、最近は財政課・人事課入りする年齢がどんどん引き下がってきていて、市町村課を経ずに配属されているようです。
ただ、庁内調整能力は身につかないかと言われるとどうでしょう。本県では市町村要望への対応、県を含めた公営企業(水道、下水、病院)の広域化等を担当してるので、結構庁内調整やっている印象がありますね。
マイナンバー関係は特に大変そうですよね。何をするにも結局市町村に「お願い」するしかできず、もどかしそうでもあります。
僕の勤務先も総務省(たまに内閣府)案件中心ですが、財務省とのやりとりも結構多いらしいです(市町村の財産処分の案件とか、地方債資金の話とか)。あとは各省の制度にまつわる市町村への交付税措置の話になると、「財政面の話だから」という理由で、県庁内の事業課ではなく市町村課から各省に問い合わせたりもするとか……
単なる市町村と総務省のパイプ役ではなく、県の施策として何かやっていた時代は、花形だったということなのでしょうか……この記事を書いた頃と比べると、マイナンバーカードやシステム標準化の関係で、市町村課は忙しくなっているようです。これから再び花形に返り咲くのかもしれません。