「あなたの仕事のやりがいは何ですか?」というクエスチョンは、どんな職業においてもインタビューの定番です。

「やりがい」はあくまでも主観的なものです。
たとえ同じ仕事であっても、自分と他者ではやりがいを感じるポイントが異なるかもしれませんし、同じポイントに対して正反対のやりがいを感じるかもしれません。
そのため「公務員のやりがいは●●だ」という一般論を示すことは不可能だと思います。

とはいえ、多数のケースを収集すれば、「公務員の中には●●をやりがいと感じる人が多い」という傾向を察する程度なら可能でしょう。
あくまでも一例、河原に無数に転がっている小石の一つくらいの感覚で拾い読みしてください。

公益に貢献できる

公務員稼業のやりがいといえば、真っ先に「公益に携われる」という一文が思い浮かびます。
ただ冷静に考えてみると、「公益に携われる」職業は公務員以外にもたくさんあります。
むしろ公益に資さない仕事のほうが圧倒的に少数派でしょう。

例えばデイトレーダーのような、一見すれば自分のお金のことしか考えていない人であっても、儲けた分だけ納税しています。
もし年収1億円だったら、ざっくり2000万円(20%)くらいを所得税として納めているはずで、僕なんかよりもはるかに公益に貢献していると言えます。

仕事のやりがいとして「公益への貢献」を挙げるなら、なるべく深掘りして具体的に表現する必要があると思います。
特に他の職業との違いを強調したいのなら尚更です。

僕の場合、公務員稼業は主に2つの意味で公益に資する仕事だと思っています。

相対的に困っている人へ→生活水準の底上げ

1つ目は生活水準の底上げです。
 
役所が提供する行政サービスによって恩恵を受けるのは、主に「相対的に弱い立場にいる方々」です。
勿論サービスそのものは住民全員に対して開かれてはいますが、強い立場にいる方々(高所得者など)は、行政サービスを使わずとも生活が成り立つので、必ずしも恩恵を受けているとは限りません。

教育あたりが典型でしょう。
お金のある方は公教育の世話になることなくずっと私立に通わせられますが、普通の方々は公教育を利用します。

電力や通信サービスであれば、立場の強弱に関係なく、使った分だけ支払いが生じます。
こちらは万人の公益に資するサービスです。
一方で行政サービスは、相対的に弱い立場にいる方々を特にケアするものです。
そのため「底上げ」という表現がしっくりくると思っています。

相対的に強い人へ→秩序の維持

2つ目は秩序の維持です。どちらかというとこっちが本命です。
行政がルールを運用したり、各種サービスを提供することによって、社会の秩序が保たれています。
(先述した「生活水準の底上げ」の結果でもあるでしょう)

社会の秩序が保たれていれば、身体的・精神的・財産的な安全が確保され、安心して生活を営めます。
この意味での恩恵は、住民誰もが享受しているはずです。
ネットニュースで「高所得者は行政サービスを受けられない、年収〇〇万円以上だと税金払い損」のような煽り記事がよく掲載されていますが、「秩序の維持」という観点ではむしろ高所得者ほどメリットが大きいと思います。

普段から「行政のおかげで秩序が保たれている」と意識している方はごく少数だと思います。
むしろ「そんなの当たり前だろ」と思う人が大多数でしょう。

ただ自分は、行政による秩序の維持をありがたく感じる人が全然いない現状を、むしろ嬉しく思います。
「当たり前」になっていることを「当たり前」のまま運用していく、これこそが秩序を維持する最大のポイントだと思います。


つまるところ、「生活水準の底上げ」と「秩序の維持」という2点で公益に貢献できるのが公務員であり、これらが僕にとっての「やりがい」です。


知的好奇心を満たせる

僕にとって役所稼業は、個人的な知的好奇心を満たすプロセスでもあります。

無秩序な部局横断的な人事異動のおかげで色々な分野の仕事を経験できるので、幅広い知識が身につく」という意味では断じてありません。

配属部署・担当業務に関係なく、地方公務員稼業を続けていればいつでもどこでも探求できるトピックが、僕は少なくとも2つあると考えています。

現状の不条理分析→真の黒幕は誰なのか? 

ひとつは現状の不条理分析です。

役所の仕事の多くは、現に発生している問題を解消しようとするもので、いわばマイナスをプラスに転じようとする試みです。
そのため、何事もまずはマイナスな事態が発生している現状の分析から始めます。

現状を深掘りしていくと、結構な頻度で既得権益を発見します。
大多数の目には「問題」として映る事態であっても、特定の個人・団体には「利益の源泉」として機能している。こういうケースが散見されるのです。
既得権益といえば金銭的なものがメジャーですが、権威・メンツも立派な既得権益です。

迷惑を被っている人が大勢いることを知っていながらも、私利私欲のために問題解決を意図的に妨害している「真の黒幕」も意外といらっしゃいます。

僕は心根が中二病なので、こういう「黒幕の構造」を探求していくのが楽しいのです。


普通の人のダークサイド分析→常人のキレポイントは?

もうひとつは普通の人のダークサイド分析です。

先にも触れましたが、行政サービスをありがたく思う人はごくごく少数です。
何をやっても感謝されず、むしろ不満や怒りをぶつけられてばかりです。

行政に対して敵意を向けてくる方のほとんどは、戦いの素人です。
戦闘が生活の糧というわけでなく、普段は平穏に暮らしています。
(もちろん戦闘のプロも少なからずいます。役所はじめいろんな相手に戦いを仕掛け、戦果をあげることで収入を得ている方々です。)

こういう方々にとって、敵意を顕にして怒声を上げ罵詈雑言を撒き散らす機会なんて、人生全体で見ても滅多に無いでしょう。

幸か不幸か、役所という場、公務員という相手は、こういうごく普通の方々が秘めたる敵意を発露させやすいシチュエーションだと思います。
つまり公務員は、「普通の人の心のダークサイド」という(ある意味貴重な)事例を垣間見れるのです。

人間の心理に興味のある僕としては、これもまた「やりがい」のひとつです。
……というふうに自分に言い聞かせることで、敵意を浴びるストレスを軽減しようと企てているところです。


やりがいとの付き合い方

僕はなぜか頻繁に異動していて、ほぼ毎年のように担当業務が変わっています。
そのため、どんな部署でも共通するような抽象的な「やりがい」しか思い当たりません。
特定の部局で長く勤め上げているような職員であれば、もっと具体的なやりがいがあるのかもしれません。

逆にいえば、公務員稼業全体に通用するような「やりがい」が見出せず、現在の担当業務と直結した個別具体的な「やりがい」しか見出せないのであれば、人事異動のたびに苦しむのかもしれません。
例えば「観光客の笑顔がやりがい」というだけでは、観光部局から異動した途端に振り出しに戻ってしまいます。

やりがいはあくまでも主観的なもので、口外するものでもありません。
正直、何を抱いていても構いません。
役所勤務の充実感を少しでも高めるための「おまじない」みたいなものでしょう。
自分の納得いくお題目を設定した者勝ちだと思います。