いかなる社会問題であれとりあえず叩かれるのが役所の宿命です。
特に最近は、縁もゆかりもないはずの遠方在住の方から叩かれる機会も増えてきました。

中央メディアの報道姿勢が変わったのか、SNSが浸透したせいなのか……原因はよくわかりませんが、従来であれば知りようのなかった「自分とは無縁な社会問題」に触れる機会、そして「自分とは無縁」にもかかわらず激情に駆られて行動を起こす機会が爆増していると思われます。

役所を叩くこと自体は構いません。
ただ、「役所=諸悪の根源」と信じて疑わない姿勢は大変危ういと思います。
実際は「真の黒幕」が別にいて、役所をスケープゴートにして甘い汁を吸い、青筋を立て口角泡を飛ばす批判者のすぐ隣でほくそ笑んでいるかもしれないのです。

あなたの不利益は誰かの利益、あなたの利益は誰かの不利益

そもそも、住民全員に害をなす社会問題はあまりありません。
多数派から問題視されている事象であっても、誰かがそこから恩恵を受けているものです。

年齢、居住地、職業、家族構成、社会的地位等々、個人を構成するステータス次第で、利害関係は大きく異なります。
そのため、全員が利益にあずかれる事象も無ければ、全員が不利益を被る事象もありません。

同様に、無駄な施策というものも滅多にありません。
目立たないかもしれませんが、誰かが得をしています。

あなたが「問題だ」「無駄だ」と感じたとしても、たまたま自分が恩恵を受けていないだけで、大抵の場合は誰かが救われているのです。

特定の事象を問題視して騒ぎ立てる行為は、方法を間違えれば、この事象から恩恵を受けている方々への迫害・脅迫になりかねません。
たとえ騒ぐ側に加害意図が無かったとしても、騒がれる側は防衛本能が働いてネガティブに捉えがちで、想像以上に傷ついています。

ある事象が社会問題として騒がれると、役所には「罪の告白」のような声も寄せられます。
「私はこの事象のおかげで生活できているのですが、これは犯罪なのでしょうか?」
「自分の存在そのものが否定されている気がして、眠れません」
「このままだと生きていられません、助けてください」
こういう切実な声を聞かされるより、罵倒されるほうがずっと楽です。

真に問題視すべき事象は、単に不利益が生じているだけではなく、
  • 利益よりも不利益のほうが圧倒的に大きい
  • 利益を得ている層があまりにも少ない、不利益を被っている層があまりに多い
  • 利益を獲得する(不利益を押しつける)に至るまでにプロセスに不正があった
こういう極端なケースです。
そしてこういうケースには、たびたび黒幕が潜んでいます。

探してみよう「真の黒幕」

いかなる社会問題であっても、行政は悪者扱いしやすいです。
  • 行政の縦割り構造
  • 意思決定の遅さ
  • 忖度の文化
  • 職員が無能
あたりの理由は汎用性が高く、どんな事象にも適用できます。
こういった理由を組み合わせてやれば、こじつけ感の無い理由が簡単に組み立てられます。 

実際、「行政に一切非が無い社会問題」はごく稀であり、理由は何であれ、行政に責任はあるでしょう。
しかし、「行政=諸悪の根源」であるケースもごく稀だと思います。

行政は執行機関であり、民主主義プロセスの結果なされた意思決定を淡々と実行する立場です。
役所(公務員)が自主的に物事を決めているわけではなく、民意に従って動きます。
社会問題への立場も、基本的には民意に従います。役所に意思はありません。
つまり、一見役所が悪者に見える社会問題であっても、意のままに「民意」を操縦して私腹を肥やす「真の黒幕」が存在するかもしれないのです。

先にも書きましたが、人によって利害関係は様々であり、行政に対する意見も異なります。
そのため、全員が共有できる「民意」というものは実現不可能なのでしょう。
とはいえ、なるべく多くの人が共有できる「民意」を作り上げべきであるところ、「真の黒幕」たちはあらゆるテクニックを駆使して、自らの利益に資するよう「民意」を整えます。


民意=多数派の意見、とは限りません。
とある集団内の有力者の意見をその集団の「民意」とみなすような慣例もありますし、「これが民意だ!」と大声で騒ぐ個人の意見をなし崩し的に受け入れてしまう場合もあります。
とにかく「民意」らしく仕立て上げる、客観的に「民意」のように見えることが重要です。
 

地方公務員稼業では、こういう「真の黒幕」にたびたび遭遇します。
まさに「世にも奇妙な物語」の世界です。
いくつか例示したいところなのですが、さすがに憚られます。

「真の黒幕」の正体は様々です。
有名な人もいれば、無名な人もいます。 
わかりやすい金の亡者もいれば、マジモノのサイコパスもいます。
 
彼ら彼女らが求める「利益」も様々です。
お金、地位、名誉、自尊心、他者の苦痛などなど……

「真の黒幕」というと大仰な話に見えるかもしれませんが、
  • 近隣自治体と比べて公立学校の冷房整備が遅れている
  • 新しくできた公共施設の形がいびつで使いにくい
  • 道路が補修されないまま放置されている
  • 転落事故が起きているのに手すりが設置されない
こういう身近な案件こそ「真の黒幕」がいたりするものです。
卑近で小さな案件ほど、ちょっと激しく動けば個人レベルでも「民意」を左右できて、甘い汁を吸えます。


役所叩きで溜飲を下げる風潮が続く限り、「真の黒幕」達の利益は安泰であり、社会問題も改善されないでしょう。
逆にいえば、役所叩きは「目くらまし」であり、大々的に行政批判されている時期こそ「真の黒幕」が活発に動いているのかもしれません。