本記事を読む前に、これまでの人生を振り返ってみてください。
仕事以外の用事、つまりプライベートの用事で都道府県庁に行ったことって、どれくらいありますか?
僕の場合、
- マンション管理士試験の申込書を貰うために公営住宅担当課に行った
- 県立の体育館を借りるために申込書を提出しに行った
この程度です。
多分ほとんどの方が、プライベートの用事では滅多に県庁に行かないのでは?
一方、市役所や町村役場のほうは、たびたび足を運んでいるでしょう。
僕の場合も、マイナンバーカードを作ったり、転入・転出届を出したり、戸籍謄本などの証明書類を取得したり……なんだかんだ用事があって毎年1回は行っています。
この違い、つまりプライベートの用事で訪れる頻度の違いが、市町村職員と県庁職員の業務の違いにも大きく影響していると思います。
市役所・町村役場はプライベートモードの人、つまり「オフの人」を主に相手にしています。
一方、県庁は仕事モードの人、つまり「オンの人」を主に相手にします。
「オン」相手の仕事、「オフ」相手の仕事
もちろん県庁にも「オフの人」を相手にする仕事があります。自動車税や都道府県民税、公営住宅関係の仕事がその典型でしょう。
ただし、県庁の業務全体からみれば、こういった業務の割合は小さく、従事している職員の数も少ないです。
県庁での対外的な仕事といえば、法人相手の手続き対応がメインです。
職員が対面する相手は「一個人」ではなく「組織の一員」であり、典型的な「オンの人」であります。
何より県庁は、国や市町村とのやりとり、つまり公務員相手の仕事がものすごく多いです。
公務員もまさに「オンの人」です。
一方、市町村の仕事は、住民票関係や各種手当(児童手当など)、生活保護、介護保険、国民健康保険など、住民のプライベートに関わる仕事がたくさんあり、多くの職員がこういった仕事に関わっています。
これらの制度を利用する住民は「オフの人」です。
仕事のためではなく自分自身の私生活のために利用しているからです。
「オンの人」相手の仕事もあるのでしょうが、県庁よりはずっと少なく、役所の仕事全体に占める割合も小さいと思います。
「オン」の人、「オフ」の人
どんな人も「オン」と「オフ」とで異なる顔を持ちます。オンオフの差は人それぞれですが、一般的に「オン」のときのほうが感情の起伏に乏しく打算的だと言えるでしょう。
よく言えば冷静で落ち着いている、悪く言えば無味乾燥でつまらない人間です。
人間関係においては、自分の本心を曝け出すわけではなく、表層的な段階を超えません。
まさに「仕事上の関係」です。
「オンの人」と「オフの人」、いずれを相手にするかによって、業務の雰囲気が大きく変わります。
「オンの人」相手の仕事=腹の探り合い
まず、「オンの人」は属性が限られます。年齢は20代〜60代で、日本語が使えて、健康かつ認知機能のしっかりした方ばかりです。
社会的なステータスもそれなりに高く、常識をわきまえている方がほとんどです。
「オンの人」はたいてい親切です。好感を持たれるよう愛想よく振る舞います。
怒るときも、感情を爆発させるわけではなく、理路整然と詰めてくるほうが多いです。
ただし、親切なのはあくまでも自分の目的を達成するための手段です。
嫌われるよりも好かれていたほうが何事もスムーズに進むから親切なだけで、役所が好きなわけでもなければ、担当職員に個人的な好印象を持っているわけでもありません。
基本的なビジネスマナーを実践しているだけです。
そのため、ある程度までは容易に信頼関係を築けるものの、心の底から打ち解けるような状態までは滅多に至りません。
裏切ったほうが目的に適うと判断すれば、あっさり裏切られます。
なんともドライな関係です。
「オンの人」相手の実際の仕事では、相手の言動は打算であるという前提で動きます。
相手から感謝されても、怒られても、悲しまれても、あくまでも打算だと考え、これらのアクションの裏を読もうとします。
相手の言葉をそのまま鵜呑みになんて絶対しません。発言の経緯や真意を探ります。
相手と協調路線で物事を進めているような状況でも、裏切られた場合を常に想定しています。
ニコニコ笑顔を取り繕いつつも腹の探り合いをしているようなものです。
「オフの人」相手の仕事=生身の人間との対面
一方、役所が関わる「オフの人」は、たいてい苛立っています。特に役所の窓口に来る方は、来たくて来ているわけではなく、来させらているという認識であり、「貴重なプライベートが潰された!」と言わんがばかりのイライラが表れています。
ただし、うまくスムーズに対応できれば、笑顔で帰ってくれることも多いです。
このときの笑顔は打算ではなく本心でしょう。
属性も幅広く、相手に合わせた対応が必要になります。
認知症のために話が通じなかったり、心身に深い傷を負っていたり、カタギでなかったり……
「読み書きができない」という方も結構いらっしゃいます。
「オフの人」相手の仕事では、文字通り「生身の人間」を相手にしているという感覚があります。
僕の思い違いかもしれませんが、打算ではない「本心」を感じます。
感謝されたら嬉しいですし、力になれなかったら凹みます。
比率の違い
県庁も市役所・町役場も、「オンの人」「オフの人」両方を相手にします。ただし、その割合は大きく異なります。
県庁であれば「オンの人」、市役所・町役場では「オフの人」相手の仕事が多いでしょう。
どちらの仕事が向いているかは、完全に人それぞれです。
「どちらが楽か」「どちらがやりがいがあるか」とも一概には言えません。
インターネット上には「県庁の仕事は住民のためになっている実感が無く、やりがいが感じられない」という意見が多数ありますが、これは「オンの人」対応が多いという県庁の性質の帰結なのかもしれません。
僕は圧倒的に「オンの人」相手のドライな仕事のほうが性に合っていて、県庁を選んで正解だったと思っています。
コメント
コメント一覧 (4)
区役所があるので県庁の職員よりは一般の市民(オフモードの人たち)と関わる可能性が高いですが、県がやる仕事も政令市は一部が移管されるので、その他の市町村役場に比べると関わる割合は低い、と見て良いでしょうか?
政令市なら区役所があり、一般の市民は市役所(本庁)に行く機会はほぼないでしょうから
まず、県から政令市に移管される業務には、住民と直接接触するものもあります(児童相談所の設置運営が典型)。「国と市町村のパイプ役」のような、本記事でいう「オンモード」の人と関わる仕事は、あまり移管されないと思われます。
一方、政令市のほうが一般市より組織が大きいので、組織運営に携わる業務(住民ではなく他職員を相手にする仕事)も増えます。これは「オンモード」の人と関わる仕事です。
つまるところ政令市の場合、一般市と比べて「オフモード」「オンモード」どちらの人相手の仕事も増えるので、割合的には何ともいえません。
市役所本庁だけを切り取れば、おっしゃる通り区役所がある分、政令市よりも一般市のほうが住民対応は少ないと思われます。
ご丁寧にありがとうございます。
私は両親が高齢で介護の可能性があることから、県は転居を伴う転勤があるので転勤範囲の狭い市役所が魅力的でありますが、しかし咄嗟の判断が苦手で、じっくり考えるタイプなので、どんな人が来るかわからない一般の市民対応は大変そうで、オンモードのかたとの仕事が主な県庁も一長一短で、悩みどころです。
出願まであと数ヶ月あるので、勉強に専念しつつどちらに提出しようか迷い中です。。
その感覚は正しいです。お気持ちすごく分かります……
実際にやってみたら慣れるかもしれませんが、最初はだいぶきついと思います。僕自身も似たタイプで、最初の方から「公務員なのに日本語すら喋れないのか?」などとのお叱りを受けまくりました……
一般的な傾向として、組織が大きく職員数が多い自治体ほど、内部調整部門(=住民対応が少ない)の人数が多いです。ご判断の参考になれば嬉しいです。