地方公務員という仕事は、暴力とは切っても切れない関係にあります。
(法という根拠があるとはいえ)様々な形で暴力を行使する加害者でもありますし、住民からの物理的・精神的暴力に常時晒されている被害者でもあります。

そのため、地方公務員が暴力についてしっかり考えることは、非常に有益だと思います。
自らの振る舞いの暴力性を意識する必要がありますし、何より心身共に健康に生きるために暴力からの自衛を考えなければいけません。

というわけで、去年夏ごろから「暴力」と名のつく本を手当たり次第読んでいるのですが、最近読んだ『民衆暴力 一揆・暴動・虐殺の日本近代』という本が非常に面白かったです。


ひとたび民衆の暴力行使が始まると、日常ではなし得なかった行動が呼び起こされもする。暴力をふるうプロセスで、民衆にとって「可能な幅」が広がっていくのである。権力への対抗として現れた暴力が、途中から被差別者に向けられたり、反対に被差別者への暴力のなかに権力への対抗の要素が含まれたりもする。
本書を通読すると、権力に対する民衆の暴力と、被差別者に向けられた民衆の暴力とが、それほど簡単に切り分けられないことがわかるだろう。誰が/誰に向けてふるったかによって、暴力の意味合いが異なってくるのはもちろんだが、両者を「民衆暴力」として同時に扱うことで、従来とは異なる領域に思考をめぐらせることができるはずだ。

藤野裕子 著『民衆暴力 一揆・暴動・虐殺の日本近代』 
中公新書 2020年8月 「はしがき」より


地方公務員稼業における暴力考察のポイントを以下紹介していきます。

アンチ行政活動が弱者叩きにもなりうる

先の引用にも書かれているとおり、権力への反抗としてスタートした暴力行使であっても、途中で弱者にも矛先が向けられてしまうケースがままあります。
 
行政に対する抗議活動でも、こういうパターンがよくあります。
行政にダメージを与えるための「戦略」として弱者を攻撃するのです。
あまり具体的なことは書けませんが、現に発生しています。

抗議側としては外堀を埋めるくらいの感覚なのかもしれませんが、やられる側からすれば堪ったものではありません。

民衆による不当な暴力から弱者を守るのは、今の行政の役目です。
そのため、もし今から民衆暴力が始まった場合、被害に遭いそうな相対的弱者は一体誰なのかをシミュレーションするだけでも、きっとためになると思います。

加えて、行政の言動が「民衆暴力のお墨付き」にならないよう、細心の注意が必要だと思います。
マスク着用をめぐって他人に難癖をつけて暴力を振るう「マスク自警団」達は、行政による「感染防止を徹底してくれ」というメッセージを拡大解釈して、自らの暴力を正当化しているのだと思われます。
こういうケースを極力起こさないよう、隙のないメッセージづくりが求められるでしょう。

武装蜂起されたら(軽武装であっても)マジで死ぬ 

そもそも公務員は「権力側」の存在であり、民衆暴力の典型的なターゲットです。

これまでもたびたび、役所内での暴力沙汰や公務員に対する暴行事件が報じられているところですが、報道されているのはごくごくごくごくごくごく一部です。
 
実際に発生している事案数は、報じられた件数の十倍はあるでしょう。
公務員に対する暴力行使の心理的ハードルが低いのだろうと思わざるを得ません。

しかも昔の官憲とは異なり、今の公務員は全く武装していません。
役所内にも武器はおろか防具もありません。刺股(さすまた)くらいならどこかにあるのかもしれませんが、一般の職員は手にできません。

正直、河原で手頃な石を拾ってきて放り投げる程度の原始的暴力にすら勝てる気がしません。

集団に襲撃されたらなすすべもなくやられることを改めて痛感しました。


コロナ収束後が怖すぎる

「コロナによって世界は不可逆的に変わる、行政にも変化が求められる」というお題目の下、行政のデジタル化を進めなければいけない等と主張する方が結構います。
僕もその通りだと思いますが、「コロナによる不可逆的な変化」についていけない方々の救済も、同じく行政の重要な役目だと思っています。

そして、「民衆暴力」という視点で整理してみると
  • 「ついていけない方々」が民衆暴力の主役になる(現代のラッダイト運動)
  • 「ついていけない方々」が相対的弱者となって民衆暴力の対象になる
いずれかの展開になりそうな気がしてなりません。

どちらにせよ行政・公務員は確実に槍玉に挙げられるのでしょうね……

今の時代、物理的暴力は随分下火ですが、精神的暴力のほうは人類史上最盛期を迎えていると思っています。
 
インターネットのおかげで、お手軽かつ殺傷力の高い手段がよりどりみどり。
しかも素性を明かさずに攻撃できるので、加害側のリスクも相当抑えられています。
 
本当に何が起こるのか予想できません。僕も自衛の術を真剣に考えていきます。