就職活動中は「『やりたい仕事』は何なのか?」という自問自答を繰り返し、志望動機という成果品へと練り上げていきます。
一方、「やりたい仕事」を考える過程で、「やりたくない仕事」も明確になってくるでしょう。

地方公務員の場合、他の職業と比べて、配属される可能性のある業務の範囲がものすごく広いです。
そのため、「地方公務員になって〇〇の仕事をしたいけど、△△はやりたくない」というように、同じ公務員稼業の中でも好き嫌いが分かれると思います。

地方公務員の配属は運次第です。 
よくソーシャルゲームのガチャに例えられて「配属ガチャ」と呼ばれているとおりです。
ただ課金はできません。リセマラもできません。一発限りの運勝負です。
そのため、「やりたい」「やりたくない」どちらにしても、叶うとは限りません。

とはいえ、可能性を高めることは可能です。

「やりたい仕事」を担当する職員の割合が大きい自治体に就職すれば、自分が配属される可能性も高まります。
反対に、「やりたくない仕事」を担当する職員の割合が小さい自治体に就職すれば、自分が配属される可能性も下がります。


そこで、総務省が毎年実施している「定員管理調査」の数値をベースに、都道府県・市町村それぞれについて、地方上級試験の一般行政区分(いわゆる事務職)で採用された職員の部署ごとに割合を試算してみました。

この時期だと、都道府県と市区町村のどちらを優先するか迷っている方もまだいると思います。少しでも参考になれば(そして都道府県を第一志望に据えてもらえれば)至福の限りです。


部局別構成比の違い

画像用


都道府県>市町村の部局は赤色、都道府県<市町村の部局は青色で着色しています。
基本的には左側の「全体構成比」を見てください。右側の「一般行政構成比」は参考値です。

表の下にある注記でも触れましたが、この数字には技術職(土木、農林、保健師など)や現業職の方は入っていません。
あくまでも事務職だけです。

事務職が配属されなさそうな部署・ごく少数しか配属されないであろう部署(保育園とか)は、控除しました。

説明量が膨大になるので、具体的な算出方法は省略します。
結構頑張ったのでエクセルファイルをそのままアップしたいくらいなのですが、ブログシステム上無理っぽいです……

あくまでも全自治体の合計値をもとに算出した割合なので、職員数の多い大都市部の影響が色濃く出ているかもしれません。

部局別コメント


議会


いわゆる「議会事務局」の人数です。ほぼ同じ割合です。


総務・企画

市町村のほうが割合が大きいです。
住民票や戸籍管理を担当する「住民」部局の人数差が影響しています。
都道府県の「住民」部局って何なんでしょう?パスポート関係くらいしか思いつきません……

「広報広聴」が個人的に意外でした。
あくまで推測ですが、自治体の規模と広報広聴部局の人数は関係ない、つまり大きな自治体も小さな自治体も同じような人数で広報業務を回しているような気がします。

ちなみに、財政・人事・企画という出世コース御三家は、この区分に含まれます。
(財政と人事は「総務一般」、企画は「企画開発」) 


税務

都道府県のほうがやや大きいです。
出先機関(県税事務所など)の数が、都道府県のほうが多いためだと思われます。
本庁の人数だけに絞ると市町村のほうが大きくなりそうです。


民生(≒厚生労働省系の部局

市町村のほうがかなり大きいです。
国保や介護保険のような市町村特有の事業があるうえ、「民生一般」も大きくなっています。
よく話題に上る「生活保護のケースワーカー」も「民生一般」に含まれます。


衛生(≒環境省系の部署)

さほど差はありませんが、都道府県のほうが大きいです。
理由はよくわかりません。法定事務量の違い(特に許認可業務は都道府県のほうが多いはず)でしょうか?


労働

若年者の定着やUIJターン促進のような業務を担当する部署です。
労働局と一緒に仕事することが多いせいなのか、都道府県のほうが大きいです。
とはいえ全体から見ればかなり少数派です。


農林水産

都道府県のほうが大きいです。
ちなみに農林技師の人数を加算すると、都道府県と市町村の差がもっと開きます。


商工

観光はやや市町村のほうが大きく、観光以外は都道府県のほうが大きいです。
経済産業省系の法定事務を都道府県で担っているためだと思われます。


土木

都道府県のほうが大きいです。
特に用地買収は都道府県がトリプルスコアをつけています。


公営企業会計

市町村のほうが大きいです。
「公営企業会計って何?」と疑問に思う方もいるかもしれませんが、ざっくり「出先機関の一部で、なかなかまったりしているところ」だと思ってください。


教育

都道府県のほうが大きいです。
高校事務職員の影響が大きいです。


都道府県と市町村、どちらがいい? 

「何でも屋」が嫌なら市町村

全体構成比で見ると、市町村は上位2部局の「総務・企画」と「民生」だけで50%を超えます。
全職員の過半数がこの2部局に勤務しているわけです。

一方、都道府県は、上位2部局を足しても約42%で、5%〜10%の層にたくさんの部局が並んでいます。
市町村と比べると、都道府県のほうが職員のばらつきが大きいと言えるでしょう。

つまり、都道府県の場合はいろんな部署を転々とする可能性が高いのに対し、市町村の場合は「総務・企画」「民生」部局で過ごす期間が相対的に長くなると推測できます。

「地方公務員は数年おきに部署が変わるから専門性が身につかない!」と危惧するのであれば、市町村のほうが向いているかもしれません。

少なくとも「総務・企画」「民生」部局に関しては、都道府県職員よりも専門性が身につきやすいはずです。

具体的には戸籍関係、生活保護、国民健康保険、介護保険あたり。
将来的に公務員を辞めて士業で独立開業したり、金融関係の仕事に就きたいのであれば、このあたりの専門性が有利に働く気がします。
少なくとも、公務員でないと身につかないという意味で希少性があるでしょう。


民生関係の仕事をやりたいなら市町村、嫌なら都道府県

都道府県と市町村の差が大きく、かつ構成比も大きいのが「民生」部局です。
この分野の仕事に関心があるのなら市町村一択ですし、反対に避けたいのであれば都道府県を選んだほうが無難でしょう。


「防災」はあくまで専任職員の数

「防災」の構成比を見ると、僅差ではありますが都道府県のほうが若干大きくなっています。
この数字を見て、「防災関係は嫌だから市町村にしよう」と考えてはいけません。

この数字はあくまでも専任職員の数を集計したもので、災害発生時には部局にかからわず全職員が対応にあたります。
市町村は避難所運営のような対住民業務が多く、都道府県よりも負担が重いと思われます。

公務員である限り、防災関係業務からは逃れられません。
防災関係業務を避けたいのであれば、そもそも公務員は辞めておいたほうが無難です。


商工・観光は狭き門、民間就職も視野に入れては?

公務員志望者から人気のある商工関係部局ですが、都道府県であれば5%、市町村であれば4%しか配属されない競争率の高い部署であることをぜひ認識しておいてもらいたいです。
観光に至っては2%未満です。

商工・観光関係の仕事に就きたくて、かつ具体的にやりたいことが決まっているのであれば、公務員よりも民間に就職したほうがいいかもしれません。
「いつまで経ってもやりたい仕事に配属されない」という地方公務員人生の宿命的リスクに、わざわざ身を晒すことはありません。

地域経済全体の活性化なら金融機関・コンサル、個々の企業支援なら商工会・商工会議所、観光関連ならイベント会社……など、役所と似たような仕事をしている組織が民間にもたくさんあります。
役所でしか携われない仕事といえば、企業誘致くらいでは?


「どのガチャを引くか」を選ぶ

ソシャゲを実際に嗜んでいる方ならよくご存知でしょうが、一つのゲームの中にもいくつかのガチャがあります。
レアキャラが出やすかったり、特定のキャラクターがピックアップされていたり、普段より割安だったり…等々。
どのガチャを引くか、ユーザー達は条件を見ながら選択します。


地方公務員への就職、特に「都道府県か市町村か」の選択は、「どのガチャを引くか」の選択に近いものがあると思っています。
本記事で紹介したように、都道府県と市町村では、配属先の確率分布が異なります。
配属先そのものは運ゲーですが、運ゲーの前提にある確率分布は、志望者が選択できるのです。


ソシャゲ風に言うと、
  • 都道府県は通常ガチャ(ピックアップなし)
  • 市町村は「総務(特に住民)・企画」「民生」ピックアップガチャ
と表現できるでしょう。

ソシャゲと比較していただければ、配属ガチャのクソゲーっぷりもよくわかってもらえると思います。
人気SSRである「観光」を引くためには、一発勝負のガチャで1.3%(都道府県の場合)を引き当てなければいけないわけです。

ポケモン黄のトキワのもりでピジョンが出現する確率が確か1%だったはず。
都道府県職員として観光部局に配属される確率は、ピジョンの出現率と大差無いのです。
(アラサーしかわからない肌感覚かもしれませんが……)

広報に至っては0.6%です。まともにやってられません。

この記事を書いていて、改めて配属に真剣になったほうの負けだと痛感しました。 
どこに配属されようともそれなりに楽しくやる「楽観的達観」が役所人生には欠かせないでしょう。