現役地方公務員とそれ以外の方々で評価が180度変わりそうなニュースが出てきました。
東京都では
もしこのような運用が実装されたら、地方公務員の多分80%超がガッツポーズをとると思います。
上記のような状況は、東京都に限った話ではありません。
僕の勤務先県庁でも常態化していますし、しかも特定の部署に限った話ではなくほぼ全部署が悩まされています。
僕自身もこれまで幾度となく手を煩わされてきました。
とある年度なんか、特定の1人からの情報公開請求だけで250時間くらい残業しました。
(今使っているMacBookProは、その時の残業代で買いました。なのではっきり覚えています)
一方、地方公務員以外の方からすれば、サービスの劣化かつ行政の不透明化、ひいては知る権利の侵害に他ならず、「けしからん」と思うでしょう。
(都議選を控えたこの時期に、こんな住民受けが悪そうなニュースが報じられるあたり、政治的な匂いを感じます)
ニュースの文面だと、あたかも「公開請求の件数が多いせいで業務に支障が出ている」ように書かれていますが、実際は異なります。
混雑緩和のために入場制限を設けるかのごとく、「件数が多いから規制します」という理屈であれば、僕も疑問に思います。
情報公開の現場を悩ませているのは、「この制度を使って行政活動を妨害したい」「情報公開のプロセスをやらせることでミスさせたい」という悪意ある方々です。
こういう方々が暴れているせいで、「情報公開制度を使って情報を入手したい人」、つまり本来のユーザーが割を食っています。
「さすが独身異常男性、狭量すぎだろ(笑)」と思われるかもしれませんが、僕がこれまで経験したどの部署でも、情報公開制度を使った攻撃を食らってきました。
以下、自分の経験談を紹介していきます。
現役の地方公務員であれば、身に覚えのある話ばかりで、目新しさは皆無だと思います。
情報公開制度は、だいたい以下のような流れで進んでいきます。
スマートフォンカメラで撮影すれば完全無料で済みます。
単純作業のように思っている方もいるかもしれませんが、実際は相当のコミュニケーション能力が求められます。
特に「請求内容の確認」「開示方法の調整」あたりは、頻繁に揉めます。
情報公開制度は、開示請求書を提出するというアクションを起こすことで、役所に対して『公文書開示』というサービス提供を義務付けることを可能にする制度です。
あえて性格の悪い言い方をすると、紙切れ一枚で役所に法的義務を負わせ職員を拘束することが可能です。
たとえ理不尽な内容であっても、条例上のルールを守っていれば、役所側は拒否できません。
「条例ギリギリ」の理不尽ラインを攻めることで、役所に負担をかけられるのです
先述した1〜6の各プロセスで、具体的にどういうふうに役所に負担をかけられるのか、見ていきましょう。
そもそも役所がどんな情報を持っているのか知りません。
そのため、請求内容は、「〇〇に関する文書を開示してください」みたいな抽象的なものになりがちです。
こういう請求があった場合、役所側は請求者とコミュニケーションをとり、請求内容を絞り込まなければいけません。
情報公開制度は条例に基づくサービスであり、このコミュニケーションも条例に基づくもので、役所側は法的義務を負っています。
そのため、下手(したて)に出るしかありません。
繰り返しになりますが、役所側は「請求内容を特定する」という法的義務があります。
そのため、どれだけ請求者から罵倒されようが詰られようが粘り強くコミュニケーションを続けなければいけませんし、直接面会を要求されれば応じなければいけません。
さらに、情報公開請求のフローに乗せれば、メールや電話ならスルーされるレベルの荒唐無稽な中身であっても、行政側は応じざるを得ません。
例えば
であっても、行政側は真剣に応じなければいけません。
つまり、「請求書を提出する」というお手軽かつ無料のアクションだけで、下手弱腰な職員を好きなだけ拘束できるという美味しいシチュエーションを確立できるのです。
肉体的には大変ですが、あくまで作業です。
本当に大変なのは、存在するのかどうかはっきりわからない文書です。
書庫をひっくり返して探すしかありません。
僕の経験上、悩ましいのは以下のような文書です。
「存在しない」ことの証明は、俗にいう「悪魔の証明」であり、どれだけ手間と時間をつぎ込もうが原理的には不可能です。
しかし、情報公開制度を使えば、役所に対して「悪魔の証明」を強制できるのです。
こういう案件が降ってくると、面白いくらいに残業時間が嵩んでいきます。
代表的なものが個人情報(特定の個人を識別できる情報)です。
あとは企業の営利的内部情報であったり、役所内部の機密情報などもあります。
各自治体の内規などで、これら「開示できない情報」の具体的な線引きがなされていると思いますが、情報のあり方は非常に多様で、全ての事例を網羅的に線引きするのは不可能です。
そのため、部署ごとに個別の判断が下されることもあります。
つまり、ある情報についてA部署では普通に公開されたのにB部署では非開示情報扱いで黒塗り処理された……という「運用の不統一」が生じうるのです。
開示できるか否かのグレーゾーン案件が生じた場合、とにかく徹底的に前例を調べなければいけません。
庁内初のケースであれば、別自治体にも問い合わせます。
これも時間がかかるんですよね。
もし「運用の不統一」に感づかれてしまったら、格好の燃料になってしまいます。
この作業がめちゃくちゃ大変です。
これまでの県庁職員生活で、僕がいただいた残業代の少なくとも3割は、黒塗りタイム分だと思います。
悪意ある請求者達もこの苦労は十分ご存知で、だからこそ黒塗り作業が発生しやすそうな文書を狙い撃ちしてきます。
黒塗りが多ければ多いほど、役所に負担をかけられるのです。
もし黒塗り作業にミスがあれば、請求者側からすれば「棚からぼた餅」です。
黒塗りが漏れている箇所があったら、明らかな行政の失態です。
管理職を呼びつけて謝罪させることができます。
黒塗り不要な箇所を間違って黒塗りしてしまった場合も、「情報の隠蔽だ」「きっと意図があるに違いない」と言って燃やせます。
ここからの流れは、「単に情報が欲しい人」相手と「役所と戦いたい人」相手とで大きく異なります。
前者の方々が求めているのは「文書そのもの」です。
そのため、「開示の準備ができました」と一報を入れれば終了です。
一方、後者の方々の目的は文書ではありません。
公文書開示のプロセスを通して職員を好き放題に拘束することです。
そのためほぼ確実に、情報開示にあたり、職員の同席&口頭説明を求めます。
むしろここからが本番です。
個人的には一番緊張するプロセスです。
怒鳴られながら宣戦布告されることもあれば、やたら嬉しそうな口ぶりでプレッシャーをかけてきたり、「マスコミと議員を連れていくから最低限課長出してね」と一方的に通告されたり……
質問がある場合のみ面会して対応します。
一方、役所と戦いたい人の場合、相手側の要求に応じて立会わざるを得ません。
開示当日は何が起こるかわかりません。
いまだトラウマな案件もあれば、笑い話もあります。
何にせよ時間も体力も消耗します。
大体の案件に共通するのは、せっかく用意した文書をほとんど見てもらえないことです。
請求者の目的は「職員の拘束」であり、文書はどうでもいいのです。
文書を読み込まれたら別のトラブルに飛び火しかねないので、読まれないほうが安心ではあるのですが、せっかくの努力が無駄になるのはやるせないものです。
ここまで約3,500字にわたって書いてきました。
このブログの記事はだいたい2,000字前後なので、かなりの長編になってしまいました。
しかし、ほとんどの地方公務員にとって、目新しい内容は無かったと思います。
それくらいありふれた事案です。
東京都には是非頑張ってもらって、全国に広がることを強く期待します。
東京都では
- 特定の人が頻繁に請求を繰り返したり、請求する対象が十分に特定されないため開示を検討する対象の文書が大量になったりして、業務に著しい支障が出ている
- 制度の運用を見直し開示請求を受け付けない基準を設けることを検討している
もしこのような運用が実装されたら、地方公務員の多分80%超がガッツポーズをとると思います。
上記のような状況は、東京都に限った話ではありません。
僕の勤務先県庁でも常態化していますし、しかも特定の部署に限った話ではなくほぼ全部署が悩まされています。
僕自身もこれまで幾度となく手を煩わされてきました。
とある年度なんか、特定の1人からの情報公開請求だけで250時間くらい残業しました。
(今使っているMacBookProは、その時の残業代で買いました。なのではっきり覚えています)
一方、地方公務員以外の方からすれば、サービスの劣化かつ行政の不透明化、ひいては知る権利の侵害に他ならず、「けしからん」と思うでしょう。
(都議選を控えたこの時期に、こんな住民受けが悪そうなニュースが報じられるあたり、政治的な匂いを感じます)
ニュースの文面だと、あたかも「公開請求の件数が多いせいで業務に支障が出ている」ように書かれていますが、実際は異なります。
混雑緩和のために入場制限を設けるかのごとく、「件数が多いから規制します」という理屈であれば、僕も疑問に思います。
情報公開の現場を悩ませているのは、「この制度を使って行政活動を妨害したい」「情報公開のプロセスをやらせることでミスさせたい」という悪意ある方々です。
こういう方々が暴れているせいで、「情報公開制度を使って情報を入手したい人」、つまり本来のユーザーが割を食っています。
「さすが独身異常男性、狭量すぎだろ(笑)」と思われるかもしれませんが、僕がこれまで経験したどの部署でも、情報公開制度を使った攻撃を食らってきました。
以下、自分の経験談を紹介していきます。
現役の地方公務員であれば、身に覚えのある話ばかりで、目新しさは皆無だと思います。
事務担当者側から見た公文書開示のフロー(前提)
情報公開制度は、だいたい以下のような流れで進んでいきます。- 請求内容の確認
- 対象文書を探す
- 開示できるか否かの判断
- 非開示情報をマスキング(黒塗り)
- 開示方法の調整
- 開示の実施
スマートフォンカメラで撮影すれば完全無料で済みます。
単純作業のように思っている方もいるかもしれませんが、実際は相当のコミュニケーション能力が求められます。
特に「請求内容の確認」「開示方法の調整」あたりは、頻繁に揉めます。
公開請求=Look at me.
情報公開制度は、開示請求書を提出するというアクションを起こすことで、役所に対して『公文書開示』というサービス提供を義務付けることを可能にする制度です。あえて性格の悪い言い方をすると、紙切れ一枚で役所に法的義務を負わせ職員を拘束することが可能です。
たとえ理不尽な内容であっても、条例上のルールを守っていれば、役所側は拒否できません。
「条例ギリギリ」の理不尽ラインを攻めることで、役所に負担をかけられるのです
先述した1〜6の各プロセスで、具体的にどういうふうに役所に負担をかけられるのか、見ていきましょう。
1.請求内容の確認……あえてぼかす
情報公開制度を利用する方は、基本的に公務員以外の方です。そもそも役所がどんな情報を持っているのか知りません。
そのため、請求内容は、「〇〇に関する文書を開示してください」みたいな抽象的なものになりがちです。
こういう請求があった場合、役所側は請求者とコミュニケーションをとり、請求内容を絞り込まなければいけません。
情報公開制度は条例に基づくサービスであり、このコミュニケーションも条例に基づくもので、役所側は法的義務を負っています。
そのため、下手(したて)に出るしかありません。
繰り返しになりますが、役所側は「請求内容を特定する」という法的義務があります。
そのため、どれだけ請求者から罵倒されようが詰られようが粘り強くコミュニケーションを続けなければいけませんし、直接面会を要求されれば応じなければいけません。
さらに、情報公開請求のフローに乗せれば、メールや電話ならスルーされるレベルの荒唐無稽な中身であっても、行政側は応じざるを得ません。
例えば
- 「ふざけるな」など単なる暴言
- 「地球外生命体が攻めてきた場合の避難フロー」みたいな過激設定・陰謀論
であっても、行政側は真剣に応じなければいけません。
つまり、「請求書を提出する」というお手軽かつ無料のアクションだけで、下手弱腰な職員を好きなだけ拘束できるという美味しいシチュエーションを確立できるのです。
2.対象文書を探す……悪魔の証明を強制できる
対象文書の量が多くても、正直それほど負担ではありません。肉体的には大変ですが、あくまで作業です。
本当に大変なのは、存在するのかどうかはっきりわからない文書です。
書庫をひっくり返して探すしかありません。
僕の経験上、悩ましいのは以下のような文書です。
- 大昔の文書(廃棄した可能性が高いもの)
- 国から移管された業務の文書(自治体に引き継がれているのか不明瞭)
「存在しない」ことの証明は、俗にいう「悪魔の証明」であり、どれだけ手間と時間をつぎ込もうが原理的には不可能です。
しかし、情報公開制度を使えば、役所に対して「悪魔の証明」を強制できるのです。
こういう案件が降ってくると、面白いくらいに残業時間が嵩んでいきます。
3.開示できるか否かの検討……グレーゾーンを攻めて「運用の齟齬」を狙う
情報公開制度のルールでは、「開示できない情報」の基準も定められています。代表的なものが個人情報(特定の個人を識別できる情報)です。
あとは企業の営利的内部情報であったり、役所内部の機密情報などもあります。
各自治体の内規などで、これら「開示できない情報」の具体的な線引きがなされていると思いますが、情報のあり方は非常に多様で、全ての事例を網羅的に線引きするのは不可能です。
そのため、部署ごとに個別の判断が下されることもあります。
つまり、ある情報についてA部署では普通に公開されたのにB部署では非開示情報扱いで黒塗り処理された……という「運用の不統一」が生じうるのです。
開示できるか否かのグレーゾーン案件が生じた場合、とにかく徹底的に前例を調べなければいけません。
庁内初のケースであれば、別自治体にも問い合わせます。
これも時間がかかるんですよね。
もし「運用の不統一」に感づかれてしまったら、格好の燃料になってしまいます。
4.非開示情報をマスキング(黒塗り)……物量で攻めて「ケアレスミス」を狙う
全ページ真っ黒に塗りつぶせるなら楽なのですが、1ページの中に個人情報がちょろちょろ出てくるような文書の場合、個人情報部分だけを黒塗りしなければいけません。この作業がめちゃくちゃ大変です。
これまでの県庁職員生活で、僕がいただいた残業代の少なくとも3割は、黒塗りタイム分だと思います。
悪意ある請求者達もこの苦労は十分ご存知で、だからこそ黒塗り作業が発生しやすそうな文書を狙い撃ちしてきます。
黒塗りが多ければ多いほど、役所に負担をかけられるのです。
もし黒塗り作業にミスがあれば、請求者側からすれば「棚からぼた餅」です。
黒塗りが漏れている箇所があったら、明らかな行政の失態です。
管理職を呼びつけて謝罪させることができます。
黒塗り不要な箇所を間違って黒塗りしてしまった場合も、「情報の隠蔽だ」「きっと意図があるに違いない」と言って燃やせます。
5.開示方法の調整……ここからが本番
黒塗り作業を終えて開示準備が整ったら、再び請求者とのコミュニケーションが始まります。ここからの流れは、「単に情報が欲しい人」相手と「役所と戦いたい人」相手とで大きく異なります。
前者の方々が求めているのは「文書そのもの」です。
そのため、「開示の準備ができました」と一報を入れれば終了です。
一方、後者の方々の目的は文書ではありません。
公文書開示のプロセスを通して職員を好き放題に拘束することです。
そのためほぼ確実に、情報開示にあたり、職員の同席&口頭説明を求めます。
むしろここからが本番です。
個人的には一番緊張するプロセスです。
怒鳴られながら宣戦布告されることもあれば、やたら嬉しそうな口ぶりでプレッシャーをかけてきたり、「マスコミと議員を連れていくから最低限課長出してね」と一方的に通告されたり……
6.開示の実施……毎回ドラマ
文書が目的の方の場合、基本的に開示には立ち会いません。質問がある場合のみ面会して対応します。
一方、役所と戦いたい人の場合、相手側の要求に応じて立会わざるを得ません。
開示当日は何が起こるかわかりません。
いまだトラウマな案件もあれば、笑い話もあります。
何にせよ時間も体力も消耗します。
大体の案件に共通するのは、せっかく用意した文書をほとんど見てもらえないことです。
請求者の目的は「職員の拘束」であり、文書はどうでもいいのです。
文書を読み込まれたら別のトラブルに飛び火しかねないので、読まれないほうが安心ではあるのですが、せっかくの努力が無駄になるのはやるせないものです。
ここまで約3,500字にわたって書いてきました。
このブログの記事はだいたい2,000字前後なので、かなりの長編になってしまいました。
しかし、ほとんどの地方公務員にとって、目新しい内容は無かったと思います。
それくらいありふれた事案です。
東京都には是非頑張ってもらって、全国に広がることを強く期待します。
コメント
コメント一覧 (2)
私も窓口を経験したことがあります。職員を困らせるのはまずプロ市民とマスコミ、あとオタク的な人(素性不明者)、一部の事業者など継続的に似たような案件を大量請求する人(お得意さん)。確かにいました。
やはり一番嫌なのは、請求があれば「原則として30日以内に開示・不開示の決定をしなければならない」こと。霞が関の場合だと1日に請求文書が数十件以上来ることもあるので、何か起きた時に大量請求があると大量の時限爆弾を抱えて手が回らなくなり、ひとたまりもありません。(この苦しみが上司になかなか伝わらない)
実際にも開示決定がされない事案も多いから、申請者から不服申立てをよく行われるし、そのためにさらに多くの職員が配置させられて、日々作業に追われる始末。もうエンドレスです。
行政官の時間的・精神的余力を相当奪っています。一定の制限をかけることをしないと、役所機能が本当に麻痺してしまいますね。(国では運用見直しの話はあまり聞いたことがありません)
かつて所属していた部署では、公文書開示という制度の趣旨から外れた請求があまりに多くて、国から出向されてきた管理職が「自治体って議員じゃなくても質問主意書を出せるんだね」と笑っていました。
当時は本当に課の機能が麻痺したので、途中で職員が増員されました……