役所は「調整」という言葉が大好きです。
地方公務員であればどんな業務を担当していようともほぼ毎日のように口にする単語ですし、部署名にもよく使われます。
地方公務員向けの啓発でも必ず登場します。
ただ、「調整」の定義は人それぞれです。
各自がそれぞれの定義に基づいて持論を展開しています。
このブログの開設以来、僕もずっと「調整とは何か?」を考え続けてきたところなのですが、最近になってようやく考えがまとまってきたので、ここで一旦紹介します。
地方公務員の調整業務とは
地方公務員であればどんな業務を担当していようともほぼ毎日のように口にする単語ですし、部署名にもよく使われます。
地方公務員向けの啓発でも必ず登場します。
ただ、「調整」の定義は人それぞれです。
各自がそれぞれの定義に基づいて持論を展開しています。
このブログの開設以来、僕もずっと「調整とは何か?」を考え続けてきたところなのですが、最近になってようやく考えがまとまってきたので、ここで一旦紹介します。
単なる「合意形成」でも「交渉」でもない
地方公務員の調整業務とは- 自陣営にとって有利な結論(落とし所)を
- 「客観的妥当性」と「住民感情へのケア」を確保しつつ
- 関係者を納得させて実現させる業務
だと思っています。
民間企業にしろ役所にしろ、組織における調整業務とは、単に合意を取り付けるだけではありません。
自陣営にとってお得な結果でなければ(損しか生じないケースの場合は損失が最小化される結果でなければ)、たとえ関係者との同意が達成できたとしても、意味がありません。
取りうる選択肢の中でも最善のものを選び取ろうとする、わずかでも自陣営に有利な結論へと誘導しようとする意地汚さが、調整業務においては非常に重要です。
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ただし役所の場合は、成果がどんなものであれ、その根拠が「正しい」ものでなければいけません。
「関係者が全員納得しているから問題ないのでは?」という理屈は、役所の場合は認められません。
民主主義の仕組み上、直接的な関係者のみならず、世間一般を納得させなければいけないのです。
「世間一般の納得」というものがまた面倒で、単に論理的・倫理的に正しく、良い結果がもたらされるだけでは足りません。
さらに「感情的な納得」という要素が必須です。
「世間一般の納得」というものがまた面倒で、単に論理的・倫理的に正しく、良い結果がもたらされるだけでは足りません。
さらに「感情的な納得」という要素が必須です。
このため、地方公務員の調整能力には、「客観的妥当性の確保」と「住民感情のケア」が欠かせません。
民間企業の調整業務とは一風異なる、役所ならではの要素と言えるでしょう。
*****
もちろん、調整を成功させるためには、関係者の同意が絶対に必要です。
同意を取り付けるための交渉こそ調整業務の本番であり勘所であるのは、役所でも民間企業でも変わらないでしょう。
ただし役所の場合は、本番に先立つ準備のほうも、相当に重要なのです。
調整業務の3段階
調整業務の大まかな流れは前述のとおりであり、3つの段階に分かれます。自陣営にとって有利な「落とし所」を探る
まずは「落とし所」、つまり「実現可能な選択肢のうち最善のもの」を設定するところから始めます。
この過程を通して、
- 今回の調整において絶対に譲れないポイント
- 優先すべき要素
- 時間や費用、ルールなど制約
などの「条件」を整理していきます。
もちろん「落とし所」は、以降の調整プロセスの中でどんどん変わっていきます。
とはいえ最初に条件を整理して「最善手」が何なのかを把握しておかないと、調整過程全体の方向性が定まりません。
「客観的妥当性」と「住民感情へのケア」を満たす説明(根拠)を作る
「落とし所」の案が固まったら、次はこれを正当化するための説明(根拠)を作ります。
役所には「二枚舌」は許されません。
直接の交渉相手である関係者にも、無関係な世間一般に対しても、同一の説明を以って納得させなければいけません。
このような説明を準備するのは非常に大変で、考慮すべき要素がたくさんあるのですが、少なくともまずは論理的・倫理的に正しくなければいけません。
まず「正しい」ロジックを作ってから、案件ごとの個別性をふまえ、チューニングを加えていくことになるでしょう。
「正しい」説明ができたら、「感情面での適切さ」との両立を模索していきます。
いくら「正しい」説明であっても、感情的に許容できないサイコパスじみたものであれば、理解は得られません。
「論理的・倫理的な正しさ」と「感情面での適切さ」は、たいてい相反します。
バランスをうまく調節しなければいけません。
関係者と交渉して納得させる
調整≒交渉という理解をしている方も多いと思いますが、役所の調整業務に限っていえば、僕はむしろ交渉に臨むまでの準備段階(「落とし所」と「説明作り」)のほうが重要だし大変だと思っています。
とはいえ、関係者が納得してくれなければ調整は成立しないわけで、交渉段階が本番であることに変わりはありません。
あくまでも準備した「落とし所」と「説明」を極力そのまま相手に納得してもらうのが、交渉の最大の目的です。交渉段階で頑張りすぎる(相手を納得させるためにアドリブ的に喋りすぎる等)と、事前に準備した説明内容から外れてしまい、後々に関係者から「説明が違う」「相手によって顔色を変えた、二枚舌だ」という攻撃を受けかねません。このような批判は、民間企業であれば知らん顔できるのかもしれませんが、役所の場合は致命傷です。何としても避けなければいけません。
調整業務に必要な能力(調整能力)
上記の過程を達成するために必要な能力が、俗にいう「調整能力」です。これを構成する要素として、「知識」「公務員的センス」「洞察力」「プレゼンスキル」があると僕は考えています。
調整案件に関する知識
知識は主に「落とし所を探る」段階で必要です。
調整案件に関する知識、例えば
- これまでの経緯・背景
- 他自治体の成功・失敗事例
- 関係法規制などのルール
といった知識がなければ、そもそも「ベストな落とし所」を設定できませんし、「制約条件」を見落とす危険もあります。
公務員的なセンス
落とし所を探る際には、「自陣営にとって何が有利なのか?」という基準が必要です。
これには現時点での損得のみならず将来的な影響も考慮する必要があり、知識だけでは太刀打ちできません。
同様に、説明づくり段階には、「世間一般に通用する妥当性はどんなものか?」「世間一般が感情的に許容できるのはどこまでか?」という基準が必要です。
これも「世間一般」なる抽象的な存在を想定して考えなければならず、ロジカルシンキングが単に得意なだけでは上手くいかないと思います。
これらの能力は、地方公務員として働くうちに培われていくものだと思います。
「公務員的センス」というなんとも抽象的な名称を使わざるを得ず非常に心苦しいのですが、今のところこれ以上にしっくりくる言葉が思い浮かびません。
洞察力・プレゼンスキル
最後の二つは、まとめて「コミュニケーション能力」と称してもいいかもしれません。
いずれも主に最後の交渉段階で必要になるものですが、「洞察力」のほうは最初の「落とし所設定」でも重要です。
関係者の意向を最序盤に察することができれば、適切な制約条件を設定でき、より精度の高い「落とし所」が出来上がるでしょう。
プレゼンスキルは、わかりやすくて好感の持てる話し方や身振り手振り、相手の反応を伺いつつ話のペースを工夫する……といった一般的なものです。
奥深い「調整能力」
役所には「トークが上手いわけではないのに調整業務が得意」という方がたまにいます。
特に超有名大学出身の方に多いです。
こういう方は、きっと交渉の準備段階が完璧、つまり「落とし所」と「説明」が完璧なので、話術加算が無くとも関係者を納得させられるのだろうと思います。
「調整能力=交渉能力」という図式は、地方公務員界隈においては表面的すぎます。
地方公務員の調整能力はもっと複合的なもので、一朝一夕で身につくものでもなく、非公務員が即座に真似できるものでもないと思います。
コメント
コメント一覧 (8)
もしよろしければのリクエストなのですが、
議員対応についてのキモオタ先輩のお考えをお聞かせいただけないでしょうか…
本庁にきて、職員が議員から奴隷のように扱われていてびっくりしたのですが、これはどこも同じですか??
個人的な感覚だと、職員の方が立場が上でもおかしくはないと思うのですが…
(*議員は現場で働いていないので、情報も得られないし、自分で事案をすすめられないため。*厚労省より臨床医の方がつよいというのと同じような感じで。)
議員に目をつけられると集中砲火されるなどいじめられるからでしょうか??
どんなに急ぎや重要な仕事を抱えていても、議員から照会があったから〜と言われて、余計な打ち合わせや現場に行かされ、うんざりしています。
もしよかったらお願いします☆
関係ない記事に申し訳ありません(_ _)
僕の勤務先県庁は多分特殊で、あんまり傲慢な振る舞いをする県議さんがいません。
(むしろ市町村の議員さんのほうが無茶振りしてきたり喧嘩うってきたりします)
こんなこと言ったら怒られそうですが、議員って結局「住民の道具」みたいなところがあって、役所に対して面倒ごとを持ち込んでくるときは、議員本人の意向というよりも「議員の背後にいる支持者」にやらされてる……というケースが多い気がします。
僕自身も面倒事に巻き込まれたことがありますが、うんざりというよりも同情が勝りました……
一つ質問よろしいでしょうか?
自分が担当する業務の関係者が、近々クラウドファンディングをやるようで、個人的には少額でも応援できたらと思っているのですが、これは地方公務員法に抵触する可能性はあるでしょうか?
地方公務員が寄附を募る場合はダメというのは調べたら出てくるのですが、寄附する場合でも自分の業務に関係するものだとアウトですかね…
クラウドファンディングよりもっと抵触しそうな「株式保有」は現状OKですし、庁内のポータルサイトで「応援してね!」と宣伝したりしたらNGでしょうが、自分一人でやる分には大丈夫かと……
地方公務員のくせにろくに地方公務員法を読んだことがない雑魚なので、参考にしないほうがいいかもしれません。
「事務分掌に○○と書いてあるからそちらでメインの対応して」とか「似たような業務やってるでしょ?」とかはよく使いますね。
特に省庁なんかはこの調整がよりシビアで、出向中によく他省庁と答弁の割り振りでケンカしてました。
いずれにせよ係名に「企画」「政策」「調整」が付くところは間違いなく内部調整業務を担当することになるのでハズレですね!
僕の元上司は「若いうちに調整業務をしっかりやると『役所内の地図』が手に入る」という言い方をしていました。
調整業務、相手の人間性で難易度も業務量も変わってくるので、運要素が強いですよね…お疲れ様です。
係名でいうと「管理」とか「総合」もなかなか危ないと思います。
中身の調整に関しては答えが出ないことも多く、多少強引に落とし所を作らなければならないことがあります。
その場合は省内(部局内)の有力な知り合いをつたって、協力をもらうことがあります。「彼に(あの人)言われたらしょうがない」としぶしぶ受けてもらったこともあります。
もちろん、その恩義の貸し借りは忘れません。こちらでも受けられる場合がある時は、できる範囲で協力することはあります。(簡単には受けれませんが)
他省庁の調整だとこれがなかなかうまく行きません。割り振り調整に日々頭を悩ませます。弱小官庁であればあるほど、苦汁を飲まされることもあります。その際、結果を幹部に報告するのは非常に苦しく辛いです。
(組織全体の調整を担う財政課とかの権力が強い、とも言えるかもしれません)
国の場合はもっと縦割りが厳しく、出向経験者から「同じ省内ですらなかなか折りあえない、県庁はみんな仲良し」という話も聞きました。
組織が大きい分、遥かに大変なんでしょうね……