以前の記事でも少し触れたのですが、現役キャリア官僚の友人から転職相談を受けました。
その後も何度かやり取りして、結果的に今回は転職を見送ることで落ち着いたようです。
とはいえ彼の霞が関への落胆は相当なもので、かつ彼個人の問題というよりは本省勤務のプロパー国家公務員に共通するものだと思われました。
本人から「隠すような話でもないし」と了承もらったので、紹介します。
ひたすら「連絡調整」の日々
今回僕に相談をくれた現役キャリア官僚(以下「X氏」)は、現在は某省(本省)のとある課で課長補佐を勤めています。
国家総合職試験に合格して採用された後、1回だけ出先機関勤務を挟んでいますが、基本的にずっと本省勤務が続いています。
課長補佐に昇進してからは、国会対応と内閣府・内閣官房(以下まとめて「内閣周辺」)との連絡調整がメイン業務です。
具体的には、
- 国会答弁を書く
- 国会議員の要求に応じて個別にレクする
- 内閣周辺からの指示(資料作成、レク、各種文章作成など)に対応する
といった業務を、自ら手を動かして処理したり、係長や事務官に指示して対応してもらったりしてこなしています。
いずれの業務も、とにかく「日本語を整えること」が最も重要です。
口頭であれ文章であれ、「隙が無く、かつわかりやすい」説明が求められます。
連絡調整やりたくて官僚になったわけではない
X氏は、こういう仕事がやりたくて官僚になったわけではありません。
X氏がやりたいのは、施策や制度そのものに関わる仕事です。
既存の制度を安定運営させることはもちろん、新たな課題に対して新規施策を打ったり、状況変化に応じて制度を改正したり、不要になった施策を廃して新陳代謝を図ったり……
いわば施策や制度という「コンテンツ」に関わる仕事です。
こういう仕事に生涯をかけて取り組みたいと思ったために官僚を志し、学生時代から勉強を重ね、入省後も経験を積み、人脈を作ってきました。
しかし実際のところ、年々どんどん制度・施策そのものから距離が開き、今となっては口出しすらろくにできない状況にまでなってしまいました。
「連絡調整業務ばかりで施策・制度そのものに関われない」という状況は、X氏だけに限った状況ではありません。
上を見ても下を見ても横(同年代の総合職採用職員)を見ても、皆同じように連絡調整業務に追われています。
加速する「連絡調整」シフト
「制度や施策に携われない」という不満そのものは、今に始まった話ではありません。
X氏を離職に駆り立てたのは、ここ数年でこの傾向が一層強まっているためです。
X氏いわく、2つの大きな流れが、プロパー職員を制度・施策からさらに遠ざけているとのこと。
省庁横断
ひとつは「省庁横断」です。
ここ数年、「官邸主導」や「縦割り廃止」のような掛け声を実現すべく、内閣官房や内閣府の職員がどんどん増えているようです。
職員は基本的に各省からの出向という形で賄っており、係長級〜課長補佐級の職員が中心。
出向中は「各省にオーダーを出す側」として、ひたすら連絡調整業務をこなします。
一方、各省のほうは、内閣官房や内閣府に出向した分だけプロパー職員が減ります。
そのため、少ない人数で、連絡調整業務をこなさなければいけません。
つまるところ、「省庁横断」実現のため「連絡調整業務の司令塔」がどんどん増強されており、連絡調整業務の総量も増えていく一方、各省の対応人員は減少しているため、各省の一人当たりの負担がますます重くなっているのです。
外部人材登用
もうひとつは「外部人材登用」です。
プロパー職員が連絡調整業務に追われる中、制度や施策に関わる業務は、プロパー職員以外が担うようになりつつあるようです。
特に民間企業からの出向者の存在感がどんどん増しつつあり、新規施策や大型制度改正のような目玉プロジェクトほど、民間企業出向者中心で進められているとのこと。
X氏から見れば「自分のやりたかった仕事が外部人材に奪われた」も同然の状況です。
「これまで積み上げてきたもの、学識も経験も人脈も無駄になっている」と嘆いてもいました。
「霞が関において、キャリア官僚は『裏方』になりつつある」という言い方もしていました。
悪いことではないものの……
「省庁横断」「外部人材登用」いずれの流れも、これから当分続くと思われます。
そもそも、どちらも悪いことではありません。
うまくいけば行政サービスの向上につながるでしょう。
しかし、これらの流れが進めば進むほど、プロパー職員はますます連絡調整役に徹することになります。
国家公務員、特に国家総合職の仕事の魅力である「制度・施策に携わって国を動かすこと」から、どんどん遠ざけられてしまいかねないのです。
X氏に離職を考えさせたのは、現状への不満ではなく、「このまま霞が関に残っていては『制度や施策を動かす仕事』に関われない」という将来への危機感でした。
転職先候補として自治体も視野に入れてくれたために、僕に連絡をくれたとのこと。
公務員のやりがいとは何か?と改めて考えさせられる一件でした。
コメント
コメント一覧 (12)
どうにかしないと…と。
モチベーションが保てないのは由々しき事態だと僕も強く思います。
調整のメインプレイヤー(係長や補佐級)が増えると、彼ら彼女らの間を調整する「上級調整役」みたいなポジションも増やす必要が出てきて、そこには室長・課長級が充てられます。
調整役は卒業できないのです……
同世代が本省の課長補佐なんですね。やはり住む世界が違いますね(遠い目)
国も地方も似たような感じかもしれませんが、最近は「予算成立がゴール」みたいな風潮があり、執行の段階になって「あ、あれどうしよう、これどうしよう」ということが頻発しているように思います。記事にもあるように、制度設計に割く時間が絶対的に不足しているのかもしれません。
特に地方においては「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」で大量の金が降ってくるものの、「どうやって使えばええんや?」という有様です。予算執行するための人間がいないんですよね。(財政当局は一般財源の代替として振替を迫ってくることもあったり・・・)
おっしゃるとおりです。共感してしまいました。
成立させた後の執行は他者(国予算の場合は地方自治体、自治体予算の場合は委託業者とか)に丸投げになりがちですよね……
国地方問わず、予算を「執行する」仕事がやりたくて公務員になった方は、入庁後にがっかりしても仕方ない現状だと思います。
コロナの臨時交付金、個人的には「マスコミにどれだけ流れているのか」が気になっています。
「コロナ関係施策をとにかく広報したい」という自治体の足元を見て、広告掲出料とかで相当儲けてるんじゃないかと……「困窮者支援の財源をマスコミがピンハネしてる!」みたいな切り口で誰か暴れてくれないかなーと期待しています。
おっしゃる通りで・・・。過去の経緯を補足的に説明します。(長文失礼)
昔の各省庁には大臣(一部長官)と政務次官しかおらず、基本的な枠組み作りはキャリア官僚にほぼ丸投げされていたのですが、中央省庁再編頃(2001~)からの行政改革により、副大臣や政務官など、政策に口出しをしてくる政治家が大幅に増加し、その裏方調整(秘書業務)を官僚がやるようになりました。
その前に起きた大蔵省不祥事(1998 いわゆるノーパンしゃぶしゃぶ事件→大蔵省解体)も大きいです。これは後の行政改革や政治主導実現における決定的な是正要因になり、中央省庁は骨抜き化されて、いわゆるマスコミの「官僚バッシング」が起こり、巷では「公務員たたき」がはびこるようになりました。
公務員改革は既に声高に叫ばれていましたから、不祥事頻発ゆえに官僚の地位低下は既に大きく進んだことになります。(そもそもの元をたどれば大蔵省など中枢官庁の高級官僚自らで首を締めた)
政治が力を持ち、内閣人事局の設置(2014~)により、国家公務員人事の一元管理が官邸で行われるようになってからは、省庁幹部は政治家に反抗することもできなくなり(すれば飛ばされる)、そして官邸への忖度人事が行われ、まずます息苦しいものへと変化しました。
これまでの官僚主導をよく思わない人たちの意図的なプロパガンダにより、国民ものせられていましたが、結局起きているのは、一連の行政改革や政治主導で「公務員の弱体化」や「政治の独裁化」が進み、さらに「マスコミの暴徒化」、「国民の無頓着化」なども合わさり、日本をさらに弱体化させる大きな要因の一つとなってしまいました。
日本は「自らの失敗を自らで克服することが難しい」です。過去と同様に自然や外部の力を借りるしかもはや方法が無いようです。
大変失礼ながら、国も地方も「新しい組織を作って新しい取組を始めているように見えても、実際はハリボテで何も変わっていない」というケースに陥りがちだと思っており、内閣人事局も(キャッチーな存在ゆえに神格化されすぎているだけで)実際はそれほど権力もないんだろうと思っていました。
僕と同年代のキャリア官僚であれば、まさに内閣人事局が力を伸ばしていく過程を経験しているところで、官僚の立場の弱体化を見にしみて感じていたのかもしれません。
中央省庁の若手・中堅職員の惨状、霞が関の雰囲気に興味がある方は以下の記事が最も明確・詳細に記されているのでご参照ください。(切実な内部実態があぶり出されていて、タブーにもかなり踏み込んだ内容になっています)
以下引用
株式会社ワーク・ライフバランスコロナ禍における中央省庁の残業代支払い実態調査(本社:東京都港区、代表取締役:小室淑恵) (2021年04月22日)発表
全額支払い指示後もなお3割が残業代を正しく支払っていないことが判明 残業代を最も正確に支払っていないのは「財務省」「厚生労働省」
https://work-life-b.co.jp/20210422_11719.html