首長選挙にしても議員選挙にしても、やるたびに投票率が下がってきている気がします。

以前の記事でも触れましたが、投票率が低下すればするほど、当選に必要な得票数(絶対数)が減少します。
必要な得票数が少なければ、特定の属性(居住地域、職業、年齢など)からの票さえしっかり抑えておけば、当選できてしまいます。
たとえ世間一般からの評判が芳しくなくても、コアな支持母体がいれば、そこからの票だけで勝てるのです。



こういう人が当選した場合、もちろん支持母体にメリットのある施策にばかり注力します。
投票率が急上昇しない限り、支持母体からの人気さえ保っておけば、次も安定して勝てるからです。

これは好ましい状況ではありません。住民の分断が深刻化してしまいます。
自治体職員という立場でいうと、理不尽なクレームの原因になります。
支持母体からはやたら高圧的に注文をつけられますし、支持母体以外からは「利権だ」「不公平だ」という苦情が相次ぎます。

こういう状況を避ける(というより現状がこんな感じなので、ここから改善していく)ためには、まずは投票率を上げて、「支持母体さえケアしていれば次の選挙も余裕で勝てるし」という舐めプ政治姿勢を改めてもらうのが、地味ですが手っ取り早いと思います。

自治体としても「投票率の低迷」を問題視しており、平時から色々な策を使って投票啓発を行なっています。
選挙期にはポスターを作ったりテレビ・ラジオCMを流したりして、投票を呼びかけます。

ただ冷静に考えてみると、こういう投票啓発、特に直前期の広報活動は、単に「投票率を高める」のみならず選挙結果そのものにも大いに影響を与えそうな気がしています。


文面以外にも副次的なメッセージがたくさん潜んでいる

「投票に行こう」というポスターが見た人が受け取るメッセージは、「投票に行こう」という表面的なものだけではありません。
認識できるもの/無意識下で機能するもの、ともに他にもたくさんの要素があります。

代表的なものは、「ハロー効果」「プライミング効果」のような心理学的影響でしょう。

こういった要素のせいで、投票啓発広報は、単に「投票に行く」という行動を誘発するのみならず、投票先の選択をも左右するかもしれないのです。

特に、ポスターやCMに芸能人を起用する場合は、かなり複雑に心理学的効果が機能すると思います。
芸能人本人のパーソナリティに加え、過去に演じた配役も少なからず影響してきそうだからです。

例えば、代表作が「半沢直樹」の俳優が「選挙に行こう」とガッツポーズを組んでいるポスターを見たら、現職よりも新人に投票したくなりませんか?
今回の選挙とドラマの内容とが自然とリンクして、「現体制は駄目」「確変を起こさねば」という気がしてきませんか?

しかも、投票啓発広報を見て投票に行くような層はもともと政治への関心が低く、確固たる政治思想を持っているわけでもなく、候補者のことをわざわざ調べもしないでしょう。
そのため、心理学的効果の影響を強く受けた状態で投票してしまいがちだと思われます。

国や自治体の選挙担当者も、余計なメッセージが混ざりこまないよう、広報内容には細心の注意を払っていると思います。
ただそれでも、無意識下で働く心理学的影響まで完全に除去するのは困難でしょう。
多かれ少なかれ、投票啓発広報の中身は、選挙結果に影響を及ぼしていると思います。

 

どういう層の投票行動を促すのか次第で結果が変わる

万人に刺さる広報は存在しません。
投票啓発広報も同様です。
使用媒体やメッセージ文言、紙面デザイン等の要素次第で、刺さる層が変わってきます。

言い方を変えると、投票啓発広告によって行動を変える人(もともと投票に行くつもりが無かったが、広告に触れて考えを改め投票することにした人)の属性は、けっこう偏ると思われます。

そして、どのような層の行動変容を起こすか、いわば「得票の発掘」を行うか次第で、選挙結果にも影響が及んでくると思っています。

例えばメインビジュアルにキッズモデルを起用したポスターだと、パパママには刺さりますが、僕みたいな独身者にはさほど効果は無いでしょう。
そのため、パパママの投票率は向上しても、独身者の投票率は変わりません。
独身者よりもパパママの得票率のほうが高くなれば、結果的に、子育て世帯にメリットのある施策(保育や教育の充実など)を訴える候補者が当選しやすくなるでしょう。


揉めないよう注意するくらいしか対策できないか?

つまるところ、投票啓発広告は
  • 広報そのものの見えざる影響
  • どういう層の投票を誘発するのか
という二つの面で、選挙結果を左右すると思われます。

「結果を左右」とまでは言えなくとも、選挙の争点を設定するくらいの影響は確実にあると思います。

自治体の投票啓発広告はあくまでも「投票率の改善」を目的としており、選挙結果に影響を及ぼしてしまうのは好ましくありません。
とはいえ一切影響を出さないことも不可能で、せいぜい後々問題にならないよう、公平中立な立場を保つよう注意するのが精一杯でしょう。

世の中には「選挙コンサルタント」なる職業があるらしいです。
今回僕が考えたようなことも含め、投票行動にまつわる様々な心理的要素を駆使して、クライアントを勝利に導くのでしょうか……?