このブログの読者層にとっては公然の事実でしょうが、公立学校教員には残業代が支給されません。
代わりに「教員調整手当」なる手当が支給されていますが、大した額ではありません。
公立学校教員に残業代を支給すべきか否かは、定期的に話題になります。
ただ支給賛成派も反対派も感情論に終始している感じがして、具体的な金額はあまり論じられていない気がしています。
特に「もし支給されることになったら、国全体でどれくらいの財政負担が生じるのか」というマクロな数字は見覚えがありませんし、インターネットで検索してみても全然ヒットしません。
というわけでざっくり試算してみました。
計算方法は、以前の記事で「年齢別の年収」を作った際の方法をアレンジしています。
まずは総務省「給与実態調査」を使って「経験年数ごとの人数」と「経験年数ごとの残業代単価」を算出します。
管理職はそもそも残業代の対象外なので、人数からは差し引きます。
「経験年数ごとの残業代単価」に「残業時間」を乗じて「1人あたり残業代」を算出し、最後に「経験年数ごとの人数」を乗じて、国全体のマクロな残業代を求めていきます。
その結果、小中学校分で約1.4兆円、高校分で約0.4兆円、合計約1.8兆円というとんでもない数字になってしまいました。
1.8兆円というと最早感覚が全然つかめません。
そこで自治体の予算規模と比較してみたところ、令和3年度の宮城県の総予算額(一般会計+特別会計)がだいたい1.5兆円と結構近い額になりました。
教員の残業代だけでそこそこ大きい県の予算規模を余裕で超えると理解すればいいと思います。
我ながら信用できない数字が生まれてしまいました。
僕が使った「人数」には、産休などで休んでいて残業するわけない人も一部含まれていると思われるので、上振れしているのかもしれません。
とはいえ休日出勤分の時間外手当割増を考慮せず「一律25%加算」で計算しているので、下振れする要素もあります。
とりあえず「約1.8兆円」は正しいとして、どうしてこんなに高くなるのかを考えていきます。
月あたりに換算するとだいたい85時間。
事務職地方公務員だと相当なハードなほうです。
こんな長時間労働が蔓延しているとは思いたくないのですが、公表データを使うとこの結果になりました。
年間1000時間は、「週あたり21時間15分」 × 「48週間」=1008時間 ≒ 1000時間という流れで算出しています。
「週あたり21時間15分」 の出典は、文部科学省が実施した「教員勤務実態調査」です。
この中で「週あたりの勤務時間は、小学校だと55〜60時間、中学校だと60〜65時間の層が一番多い」との記述があることから、間をとって60時間に設定しました。
60時間から、定時勤務時間である38時間45分を差し引いて、週あたり残業時間である21時間15分を算出しました。
僕が恣意的に残業時間を長めに設定しているわけではなく、実態調査の結果「事務職地方公務員だと上位数%レベルの長時間労働が当たり前」と設定せざるを得ないのです。
一般事務職員(約76万人)よりも多いです。
人数が多いために、全国総額も大きくなります。
公務員の残業代支給の適正化といえば、「本省勤務の国家公務員」が真っ先に思い当たります。
「暗黙の了解事項だった本省のサビ残が改善されたんだから、教員も改善を!」という主張を見かけますが、本省勤務職員と教員だと人数があまりに違いすぎます。
一人あたりの不払い残業代という意味では、教員よりも本省職員のほうが大きいかもしれませんが、全国総額で考えると桁違いのインパクトがあるでしょう。
正確な金額は置いといて……教員の時間外勤務手当をきちんと支給すると凄まじい財政負担が発生するのは、間違いないと思います。
「一人あたりの残業時間」も半端ないですし、「教員の数」も半端ないのです。
ざっくり試算してみて、誰も真剣に全国マクロの金額を推計しない理由がわかりました。
途方も無い金額になるせいで、国民の理解を到底得られないからなのでしょう。
「毎月80時間も残業している」までなら同情を誘えるでしょうが、「現状を改善するには〇〇兆円必要です」という情報が加わると、途端に国民の反応が変わり、世論は教員叩きに流れると思います。
「そもそも働き方が悪い」「人材の質が落ちている」みたいな。
残業代についての問題提起が、かえって自らの首を締めてしまいかねないのです。
当面はとにかく、残業代支給については触れずに、教員の労働時間を減らす方向しか取れないのだと思います。
代わりに「教員調整手当」なる手当が支給されていますが、大した額ではありません。
公立学校教員に残業代を支給すべきか否かは、定期的に話題になります。
ただ支給賛成派も反対派も感情論に終始している感じがして、具体的な金額はあまり論じられていない気がしています。
特に「もし支給されることになったら、国全体でどれくらいの財政負担が生じるのか」というマクロな数字は見覚えがありませんし、インターネットで検索してみても全然ヒットしません。
というわけでざっくり試算してみました。
年間1.8兆円!?
計算方法は、以前の記事で「年齢別の年収」を作った際の方法をアレンジしています。まずは総務省「給与実態調査」を使って「経験年数ごとの人数」と「経験年数ごとの残業代単価」を算出します。
管理職はそもそも残業代の対象外なので、人数からは差し引きます。
「経験年数ごとの残業代単価」に「残業時間」を乗じて「1人あたり残業代」を算出し、最後に「経験年数ごとの人数」を乗じて、国全体のマクロな残業代を求めていきます。
その結果、小中学校分で約1.4兆円、高校分で約0.4兆円、合計約1.8兆円というとんでもない数字になってしまいました。
1.8兆円というと最早感覚が全然つかめません。
そこで自治体の予算規模と比較してみたところ、令和3年度の宮城県の総予算額(一般会計+特別会計)がだいたい1.5兆円と結構近い額になりました。
教員の残業代だけでそこそこ大きい県の予算規模を余裕で超えると理解すればいいと思います。
どこかでミスった?
我ながら信用できない数字が生まれてしまいました。僕が使った「人数」には、産休などで休んでいて残業するわけない人も一部含まれていると思われるので、上振れしているのかもしれません。
とはいえ休日出勤分の時間外手当割増を考慮せず「一律25%加算」で計算しているので、下振れする要素もあります。
とりあえず「約1.8兆円」は正しいとして、どうしてこんなに高くなるのかを考えていきます。
残業時間が長い
残業時間は年間1,000時間という設定です。月あたりに換算するとだいたい85時間。
事務職地方公務員だと相当なハードなほうです。
こんな長時間労働が蔓延しているとは思いたくないのですが、公表データを使うとこの結果になりました。
年間1000時間は、「週あたり21時間15分」 × 「48週間」=1008時間 ≒ 1000時間という流れで算出しています。
「週あたり21時間15分」 の出典は、文部科学省が実施した「教員勤務実態調査」です。
この中で「週あたりの勤務時間は、小学校だと55〜60時間、中学校だと60〜65時間の層が一番多い」との記述があることから、間をとって60時間に設定しました。
60時間から、定時勤務時間である38時間45分を差し引いて、週あたり残業時間である21時間15分を算出しました。
僕が恣意的に残業時間を長めに設定しているわけではなく、実態調査の結果「事務職地方公務員だと上位数%レベルの長時間労働が当たり前」と設定せざるを得ないのです。
人数が多い
総務省の資料(PDFへのリンクです、30ページ参照)によると、公立学校の教員は全国でだいたい85万人くらいいます。一般事務職員(約76万人)よりも多いです。
人数が多いために、全国総額も大きくなります。
公務員の残業代支給の適正化といえば、「本省勤務の国家公務員」が真っ先に思い当たります。
「暗黙の了解事項だった本省のサビ残が改善されたんだから、教員も改善を!」という主張を見かけますが、本省勤務職員と教員だと人数があまりに違いすぎます。
一人あたりの不払い残業代という意味では、教員よりも本省職員のほうが大きいかもしれませんが、全国総額で考えると桁違いのインパクトがあるでしょう。
触れないほうがいい
正確な金額は置いといて……教員の時間外勤務手当をきちんと支給すると凄まじい財政負担が発生するのは、間違いないと思います。「一人あたりの残業時間」も半端ないですし、「教員の数」も半端ないのです。
ざっくり試算してみて、誰も真剣に全国マクロの金額を推計しない理由がわかりました。
途方も無い金額になるせいで、国民の理解を到底得られないからなのでしょう。
「毎月80時間も残業している」までなら同情を誘えるでしょうが、「現状を改善するには〇〇兆円必要です」という情報が加わると、途端に国民の反応が変わり、世論は教員叩きに流れると思います。
「そもそも働き方が悪い」「人材の質が落ちている」みたいな。
残業代についての問題提起が、かえって自らの首を締めてしまいかねないのです。
当面はとにかく、残業代支給については触れずに、教員の労働時間を減らす方向しか取れないのだと思います。
コメント
コメント一覧 (3)
なお、個人的には、当面は実質的には赤字国債の発行(地方負担分があったとしても全額、国が負担)で賄えば問題ないとも思えますが、財務省的にどうか・・・
そう言っていただけると書き甲斐?を感じます。ありがとうございます!
>>坐 様
かつてプロ市民の方から
・これからはハードアセットよりも知的財産や人財の時代なんだから、教育や研究開発に国債&地方債を発行してガンガン投資しろ
・知的財産も人財も、将来にわたり便益をもたらすんだから、将来世代に償還負担させていい
・むしろ生い先短い高齢者のために赤字国債発行してる今がおかしい
という主張を受けたことがあります。
教員人件費のために赤字国債を発行するのは、労働者としての処遇改善というよりも「未来への投資」だと思えば、まだ実現可能性があるのかもしれません。