標準的知識を手軽かつ安価に学習する手段として、資格試験は有用です。
このブログでも事あるごとに推奨しています。

ただし、地方公務員には縦横無尽な人事異動という宿命があります。
せっかく頑張って知識を仕入れたところで、人事異動により無用と化すケースが後を絶ちません。
そのため、「どうせすぐに無駄になるから地方公務員に資格は不要」と考えている方もかなりいます。

実際のところ、資格そのものも、試験勉強によって得た知識も、役立つ期間はごく僅かかもしれません。
しかしそれでも、資格試験へのチャレンジは、地方公務員にとって有用だと思います。
 
資格試験勉強の過程で「参考書を読み込む」ことが、「小難しいことを噛み砕いて説明する」という地方公務員稼業に必須のスキル向上に資するからです。

「十分咀嚼する」という難行

地方公務員の仕事には「説明」がつきものです。
 
説明会を開いたり、住民やマスコミからの問合せに回答したり、議員などの有力者に施策内容をレクチャーしたり……といった説明相手と直々に対面するものに加え、広報物やホームページに掲載する文章・図表を作成するような広義の「説明」も含めれば、業務のうちの相当部分が「説明」関係だと言えるでしょう。

本庁勤務の場合は、庁内向けの説明業務もたくさんあります。
自分が担当する法令や制度について別部署に解説するのが典型ですが、財政課に対して予算要求するのも一種の説明業務でしょう。

地方公務員の説明は、概して小難しくてややこしくなりがちです。
これはどうしようもありません。
説明対象が法令や制度のような抽象的存在であることが多く、説明する側にとってもされる側にとってもリアリティを感じにくいからです。

とはいえ、「どうしようもない」と諦めるわけにもいきません。
相手に理解してもらうには、説明者はなるべくわかりやすくなるよう工夫を凝らすしかありません。

高い理解力がかえって「わかりにくい説明」を生む

多くの地方公務員、特に若手は、「わかりやすく説明する」のがあまり上手くありません。

地方公務員はそれなりの難関試験である公務員試験を突破しており、世間一般よりも高い理解力を備えています。
そのため、世間一般にとっては「難しい」と感じられる内容であっても、それなりに理解できてしまいます。

この理解力が、説明業務においては仇になります。
世間一般の理解力がどの程度なのか、わからないのです。
 
世間一般の水準を知らないゆえに、自分基準で「わかりやすい」説明で満足しがちです。

自分基準では十分に咀嚼されていて「わかりやすい」と感じられる説明でも、世間一般にとってはまだまだ不十分でわかりにくいのに……「もっとわかりやすく説明しろ!」というお叱りを受けるまでは気がつかないものです。

特に若手は、「世間一般」との交流経験が圧倒的に不足しています。
地方公務員に合格できるような層(特に大学新卒)は、これまでずっと平均以上の知的レベルの層に囲まれて生活してきており、「誰もが自分程度の理解力を備えている」ことを疑いすらしてこなかったかもしれません。


「噛み砕き」のお手本

小難しいことをうまく噛み砕いてわかりやすく説明するお手本となるのが、資格試験の参考書です。
特に、法令や制度をふんだんに扱っており、かつ受験者の裾野が広いファイナンシャルプランナー(3級と2級、1級はさすがに細かい)や宅建士の参考書は、特に有用だと思います。

このあたりのレベルの資格試験は、受験者のばらつきが大きいです。
中には学力的にかなり劣る人もいます。
そういう人でも努力すれば合格ラインに乗るよう、工夫に工夫を重ねて、参考書は作られています。

この辺りのレベルの試験参考書は、地方公務員にとっては冗長に感じられるでしょう。
特に、民法のような公務員試験対策で勉強したことのある科目だと、「わかりやすい」を通り越して「まどろっこしい」とすら感じるかもしれません。

しかし、この「冗長さ」「まどろっこしさ」こそ、世間一般が希求している「わかりやすさ」であり、法令や制度のような抽象的概念を世間一般に理解してもらうには、このくらいまで噛み砕く必要があるのです。

資格試験の参考書は、知識のみならず「噛み砕き方」を授けてくれます。
試験に合格するだけであれば、参考書で知識をインプットするよりも過去問演習に重点を置くほうが効率的ですが、説明力向上という観点では、参考書をしっかり読み込むのも重要だと思います。