昨年末、総務省から「地方公務員のメンタルヘルス対策の現況 ー令和2年度メンタルヘルス対策に係るアンケート調査の概要ー」という資料がリリースされました。
この調査、「調査を実施する」と発表されたときはニュースになったのですが、結果に関しては全然話題になりませんでした。
中身を見たところ、とても手堅いというか守りが硬い報告書になっており、センセーショナルに報じたくても報じられない一方で、当事者である地方公務員にとってはちょっと物足りない内容に止まっているように感じました。
他の資料も参照しながら、独自解釈していきます。
休務者の属性
この調査の対象は首長部局の職員、具体的にいうと、正規職員の地方公務員のうち、教育委員会(学校教職員など)、警察、消防、公営企業に勤務する職員を除いた人数です。
職種や勤務地は関係ありません。
地方公務員当事者としては「職種ごとの分布」「本庁と出先の分布傾向」が気になるところですが、この調査からは分かりません。
役職別…昇進するほど減少するが課長級は多い
まずは役職別の状況を見ていきます。
調査結果に掲載されている数字をベースに、役職ごとの休務率を算出してみると、以下の表のようになりました。
概要版本文のとおり、係員級で、休務者絶対数も休務率ともに高くなっています。
記載はされていませんが、どうやら役職が上がるにつれて徐々に下がっていき、課長級以上になると再度増加するようです。
あくまでも推測ですが……一度でも休務していたら課長級まではなかなか出世できないので、課長級の休務者の多くは再発ではなく初めての休務だと思われます。
課長まで上り詰めた屈強な方であっても調子を崩すくらい、課長職は激務ということなのでしょうか……?
年代別…30代以下がやや多い
同じ方法で年代別の休務率を算出してみました。
概要版本文のとおり、30代以下でやや休務率が高くなっています。
役職×年代…「40代以上係員」が重要?
自治体組織は年功序列なので、年齢と役職はかなり相関が強いです。
(もちろん昇進試験がある自治体は別ですが、割合的には小さいはず)
そのため、30代以下の休務者(9,301人)の大半は、役職だと「係員」に該当するでしょう。
一方、役職別休務者のデータを振り返ってみると、係員の休務者は15,724人います。
つまり、係員の休務者のうち、約6,400人は40代以上の職員です。
「〇〇級」という表記からして、この調査における役職とは、ポストではなく給料の号級ベースだと思われます(例えば係長級だと3〜4級)
年功序列式の自治体であれば、40代以降で係員級という職員は珍しいです。
毎年4号ずつ昇給していれば3号には到達しているはずで、それこそ育児休暇や病気休暇で長期間お休みしていなければ、係員級(2級以下)に据え置かれることはあまりないでしょう。
このことから、40代以降の休職者には、結構な割合で2回目以降の休務者が含まれているように思われます。
極端な言い方をすれば、たびたび休職しつつもなんとか仕事を続けている方が、40代以降に約6,400人(1%前後)いらっしゃる、とも言えるでしょう。
極端な言い方をすれば、たびたび休職しつつもなんとか仕事を続けている方が、40代以降に約6,400人(1%前後)いらっしゃる、とも言えるでしょう。
部署別…ぼかされている
地方公務員当事者にとって一番気になるのは、部署別の休務者情報ではないでしょうか?
残念ながらこの調査では、部署別のデータは巧妙にぼかされています。
部署別の休務者数は掲載されているものの、分母にあたる「部署別の職員数」がわからないため、肝心の休務率を算出できないのです。
部署別の職員数は、総務省が実施している「定員管理調査」を見ればだいたい分かります。
本調査と「定員管理調査」の部署設定が同一であれば、定員管理調査の数字を分母に用いればいいのですが……本調査では、定員管理調査と部署の設定が異なっています。
例えば、概要版本文では「保健福祉と生活文化で休職者が多い」と説明されていますが、「定員管理調査」にはいずれの区分もありません。
そのため、分子にあたる休務者数はわかっても、分母にあたる部署別の職員数がわからないため休務率を算出できず、部署ごとの比較ができないのです。
とはいえここで退くのも悔しいので、可能な範囲で分母の数字を推計して、部署別の休務率を算出してみました。
どうやら「財務・財政」と「生活文化&保健福祉」の部署で、休務率が高いと言えそうです。
なお、「財務・財政」に分類される職員の大半は、都道府県も市町村も税関係の職員です。
そのため、税関係の部署は休務率が高いとも言えるでしょう。
これら2部署で休務率が高くなる理由は、果たして何なのでしょう?
強いて言えば住民対応が多そうではありますが……
復職後…民間よりも復職しやすい?
概要版p.6では、休務後の状況についても触れられており、令和2年度中に休務した職員のうち半数強が職場復帰、12.5%が退職しているようです。
独立行政法人 労働政策研究・研修機構の「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活両立支援に関する調査」(リンク先はPDF)によると、民間企業における「過去3年間でのメンタルヘルスの休職者の退職率」は、平均で42.2%とのこと(p.20)。
「1年で12.5%」と「3年で42.2%」だと、単純な比較はできませんが、民間企業よりもメンタルヘルス原因の退職者は少ないような気がします。あくまでも感覚です。
こういう調査は何らかの目的が無ければ通常実施しないので、もしかしたら近々、地方公務員のメンタルヘルス対策の新たな取組みが始まるのかもしれません。要観察です。
コメント
コメント一覧 (8)
さらにこれは推測ですが、休職者の数倍程度(全体の10%以上)には心身の不調者がいて、通院をしたり、薬を処方してもらったりしていることも想像できます。(パレートの法則より)
もしも、休職者が5%以上になったとしたら、全体の20%以上に心身の不調者がいて、まさに組織が停滞し、若手の退職が激増するといった兆候が現れるだろうと推測できます。霞が関本省だけなら県庁市役所の倍の休職者がいても不思議ではありません。
「財務・財政」と「生活文化&保健福祉」の部署で、休務率が高いというのは、霞が関(財務・厚生労働)で見ても全く似たような状況になっているのが興味深いです。それだけ軋轢や矛盾が集中していて、業務が逼迫していると推測しています。
いずれも少数精鋭というよりは大部屋系部署なので、年度途中で休職に入っても、周囲がカバーしやすい環境でもあります。
データからは判別できないので完全に推測です。
休職者数は組織の健康度の分かりやすいバロメーターともなるだけに、個人のプライバシーの問題は確かにあれど、できる範囲ではきちんと公開してもらいたいデータです。
既に休職者数の情報交換を請求する人や取材者も結構いるかもしれませんが、基本的には個人情報保護の観点から大ざっぱなデータしか公表できないんでしょうね。
個人的にも、様々な会社や組織の休職者数・比率等について深掘りしてみたいと思ってしまった有用な記事でした。
以下は霞が関の組合情報(霞国公アンケート)ではありますが、こんなショッキングなデータもありました。組合情報なので多少盛っているとはいえ、霞が関の職員総数の最低2割以上は心身不調の恐れがあることが窺えます.....(しかもこのデータはコロナ前の2018年以前のもの)
以下、ビジネスインサイダーJun. 22, 2018, 05:10 AM より一部引用
霞国公のアンケートでは、33.9%の職員が心身に不調があり、「薬等を服用、または通院治療中」
「庁舎内診療所のメンタルヘルス部門は、3週間先まで予約が取れない」
「若い職員は月曜から金曜まで帰宅できず、庁内で仮眠する者もいる」
https://www.businessinsider.jp/post-169371?itm_source=article_link&itm_campaign=/post-200315&itm_content=https://www.businessinsider.jp/post-169371
少なくとも睡眠時間は間違いなく世間一般よりも短いですし、それくらい心身に支障をきたしてもおかしくないだろうと納得できてしまうのも恐ろしいです……
休職率5%以上で崩壊(組織停滞)ライン、10%以上になると決壊(若手離脱)ラインという感じ?元厚労官僚の千正康裕氏のブログでは「キャリア官僚は1割ぐらい休職経験があるはず」という証言にもおおよそ符合してきます。
数年前に辞めた人間として、やはり絶望的な気持ちです。もう破壊的な創造でしか行く道はないのかも。
技術系職員ですが、復帰後の配属が超激務部署に
なりそうで怖いですね…
復帰してもまた休職するかも知れませんが、取り返しのつかない
ほどまで自分を追い詰めないようほどほどに頑張りたいと思います。
愚痴すみませんでした。
休職明けなのに激務部署に回されるとは、人数少なくて退避ポストのない職種なのでしょうか……本当お気の毒です……
幸いにも生存権が保障されているので、公務員家業に限らず何事も「逃げるが勝ち」だと思います。どうか無理なさらず……