地方公務員の給与水準に対する官民の印象には、埋め難い隔たりが存在します。
当の地方公務員は「安い」と嘆き、公務員以外は「高すぎる」と憤る…という構造です。
新型コロナウイルス感染症が流行し始めてからは、再び「高すぎる」という批判が強まってきました。
特に、人事院勧告の調査対象が「従業員50人以上」の企業だけという点を捉えて、
地方公務員の給与水準が民間と比べて高いのか低いのか、このブログでも何度か取り上げています。
なるべく統計数字を使って分析をしてみたところ、
というところまでは見えてきました。
今回はさらに一歩踏み込んで、地域別・企業規模別で分析してみます。
今回も「賃金構造基本統計調査」を使っていきます。
この統計調査から、都道府県別・年代別の民間企業従業員の平均年収を算出し、同年代の地方公務員年収と比較していきます。
この統計調査であれば、従業員規模10人以上という中小企業も含めた給与額が使えます。
公務員給与の高さに怒っている方々は、「地方公務員給与が高いのは、人事院勧告の調査対象が50人以上の大きくて裕福な企業だけだから」という叩き方をしてきます。
民間企業の中でも「上澄み」だけを比較対象にしていて、大多数のサラリーマンからはひどく乖離しているという主張です。
総務省の資料(リンク先エクセルファイルの「7−4」)によると、従業員10人規模以上の企業だけで、全雇用者の7割強を補足できるようです。
これなら「上澄み」のみならず民間企業従業者全体と比較できるはずです。
民間企業従業員の年収は、「きまって支給する現金給与額」×12+「年間賞与その他特別給与額」で算出しました。
地方公務員の年収は、賃金構造基本統計調査の対象と合わせ、給料(基本給)、時間外勤務手当、期末勤勉手当、地域手当を合算しています。
給料は、大卒ストレート(22歳)で入庁した職員が一般的ペースで昇給したと仮定し、民間統計の年齢帯の中間である27歳(5年目)で1級40号、32歳(10年目)で3級8号と設定しました。
10年目にもなると自治体間の差も広がりますし、同じ自治体の同期入庁職員どうしでも差が開いてくるので、まだ2級という方も少なくないでしょう。
ただ、あまり低く設定すると地方公務員側に有利な分析になってしまうので、あえて高めに設定しました。
残業時間は、総務省の「地方公務員の時間外勤務に関する実態調査結果」中の都道府県職員の平均残業時間である12.5時間≒13時間、毎月残業すると想定し、13×12=156時間分の時間外勤務手当を盛り込んでいます。
時間外勤務手当単価は、所定内給与時給換算額×1.25で算出しました。
地域手当は、各都道府県の都道府県庁所在地の率を反映させています。
ボーナス(期末勤勉手当)は4.4か月分を計上しました。
まずは男性から見ていきます。
25〜29歳区分では、ほとんどの都道府県において、地方公務員より民間企業のほうが高水準です。
きちんと「従業員規模10人以上」まで集計対象を広げた結果がこれです。
「中小企業も含めた国民全体水準から見ると、地方公務員は不当に高給」という定番の批判は、少なくとも20代後半の男性職員に関しては、当てはまらないと言えるでしょう。
一方、30〜34歳区分では、半分強の地域で、地方公務員のほうが高水準になります。
地方公務員のほうが昇給ペースが早いので、徐々に差が縮まり、ついには逆転するのでしょう。
僕の体感的に「20代のうちは中小企業含めて民間より安いけど、30歳を過ぎると民間に引けをとらなくなる」という感覚だったのですが、どうやら間違っていなかったようです。安定昇給に平伏感謝。
地域別に見ると、やはり田舎ほど地方公務員のほうが優位に見えます。
意外なのが千葉県と埼玉県です。
千葉県民とか埼玉県民という括りだと決して公務員は高給取りではなさそうなのですが、「千葉・埼玉県内で働く人」という括りだと、相対的に公務員が優位に立てるようです。
地域手当がガッツリ支給されるのも大きそうです。
企業規模1,000人以上の大企業だけとの比較版も作ってみました。
こちらだと、沖縄県を除き地方公務員の惨敗です。
しかも企業規模10人以上の場合とは異なり、25〜29歳区分から30〜34歳区分にかけて、官民乖離が縮まりません。
元々の給与水準も、昇給ペースでも、地方公務員は大企業に遠く及ばないのです。
続いて女性のデータを見ていきます。
地方公務員の圧勝です。
民間のデータは産休・育休を挟んだせいで昇給が遅れた方の影響が反映されているはずなので、やや低めに出る(地方公務員のほうが高くなる)かもしれませんが、それでも地方公務員優位という結論は揺るがないでしょう。
従業員1,000人以上の企業とだけ比較しても、地方公務員の優位性は揺らぎません。
25〜29歳区分では負けている地域も半分弱ありますが、30〜34歳区分では完勝です。
分析結果をまとめると、以下のようになります。
データ集計のため、ひたすらエクセルコピペ作業を約3時間ほど繰り返しました。
苦労した分、未知の新事実との邂逅を期待していたのですが……得られた結論はそんなに目新しくありません。
多くの地方公務員が抱いている「感覚」の正しさが定量的に証明された、とも言えるでしょう。
数字で見ると、女性の公務員志望者が増えているという報道が一気に現実味を帯びてきます。
給与水準が高く、産休・育休も充実、休暇後も復帰可……となると、少なくとも「金稼ぎの手段」としては、役所はかなり魅力的な職場に映るのでは?
一方で、バリバリ働ける男性にとっては、かなり損な職場とも言えそうです。
僕みたいに民間就活に失敗して公務員になったパターンならまだしも、民間就活やっていない若手職員にとっては、 同世代の民間サラリーマンはまさに「青い芝」に見えることでしょう。
当の地方公務員は「安い」と嘆き、公務員以外は「高すぎる」と憤る…という構造です。
新型コロナウイルス感染症が流行し始めてからは、再び「高すぎる」という批判が強まってきました。
特に、人事院勧告の調査対象が「従業員50人以上」の企業だけという点を捉えて、
- 公務員給与は大企業水準で設定されており、国民の大半を占める中小企業従業員の水準が反映されていない
- ゆえに日本国民全体で見たら給与水準は間違いなくガタ落ちしているはずなのに、公務員給与の減少幅が不当に小さい、人事院勧告のあり方がおかしいせいで公務員は不当に得をしている
地方公務員の給与水準が民間と比べて高いのか低いのか、このブログでも何度か取り上げています。
なるべく統計数字を使って分析をしてみたところ、
- 男性の場合、給料月額(基本給)は同年代の民間平均よりも安く、大卒地方公務員≒同年代の高卒民間従業員くらい。ボーナス込みの年収だとだいぶマシになるが、それでも民間平均よりも低い。
- 女性の場合、同年代の民間企業従業員よりも恵まれている
- 官民の差は、地域によって状況が違いそう
というところまでは見えてきました。
今回はさらに一歩踏み込んで、地域別・企業規模別で分析してみます。
算出方法
今回も「賃金構造基本統計調査」を使っていきます。この統計調査から、都道府県別・年代別の民間企業従業員の平均年収を算出し、同年代の地方公務員年収と比較していきます。
この統計調査であれば、従業員規模10人以上という中小企業も含めた給与額が使えます。
公務員給与の高さに怒っている方々は、「地方公務員給与が高いのは、人事院勧告の調査対象が50人以上の大きくて裕福な企業だけだから」という叩き方をしてきます。
民間企業の中でも「上澄み」だけを比較対象にしていて、大多数のサラリーマンからはひどく乖離しているという主張です。
総務省の資料(リンク先エクセルファイルの「7−4」)によると、従業員10人規模以上の企業だけで、全雇用者の7割強を補足できるようです。
これなら「上澄み」のみならず民間企業従業者全体と比較できるはずです。
民間企業従業員の年収は、「きまって支給する現金給与額」×12+「年間賞与その他特別給与額」で算出しました。
地方公務員の年収は、賃金構造基本統計調査の対象と合わせ、給料(基本給)、時間外勤務手当、期末勤勉手当、地域手当を合算しています。
給料は、大卒ストレート(22歳)で入庁した職員が一般的ペースで昇給したと仮定し、民間統計の年齢帯の中間である27歳(5年目)で1級40号、32歳(10年目)で3級8号と設定しました。
10年目にもなると自治体間の差も広がりますし、同じ自治体の同期入庁職員どうしでも差が開いてくるので、まだ2級という方も少なくないでしょう。
ただ、あまり低く設定すると地方公務員側に有利な分析になってしまうので、あえて高めに設定しました。
残業時間は、総務省の「地方公務員の時間外勤務に関する実態調査結果」中の都道府県職員の平均残業時間である12.5時間≒13時間、毎月残業すると想定し、13×12=156時間分の時間外勤務手当を盛り込んでいます。
時間外勤務手当単価は、所定内給与時給換算額×1.25で算出しました。
地域手当は、各都道府県の都道府県庁所在地の率を反映させています。
ボーナス(期末勤勉手当)は4.4か月分を計上しました。
男性……30歳以降はそこそこ
まずは男性から見ていきます。25〜29歳区分では、ほとんどの都道府県において、地方公務員より民間企業のほうが高水準です。
きちんと「従業員規模10人以上」まで集計対象を広げた結果がこれです。
「中小企業も含めた国民全体水準から見ると、地方公務員は不当に高給」という定番の批判は、少なくとも20代後半の男性職員に関しては、当てはまらないと言えるでしょう。
一方、30〜34歳区分では、半分強の地域で、地方公務員のほうが高水準になります。
地方公務員のほうが昇給ペースが早いので、徐々に差が縮まり、ついには逆転するのでしょう。
僕の体感的に「20代のうちは中小企業含めて民間より安いけど、30歳を過ぎると民間に引けをとらなくなる」という感覚だったのですが、どうやら間違っていなかったようです。安定昇給に平伏感謝。
地域別に見ると、やはり田舎ほど地方公務員のほうが優位に見えます。
意外なのが千葉県と埼玉県です。
千葉県民とか埼玉県民という括りだと決して公務員は高給取りではなさそうなのですが、「千葉・埼玉県内で働く人」という括りだと、相対的に公務員が優位に立てるようです。
地域手当がガッツリ支給されるのも大きそうです。
【閲覧注意】1,000人規模以上だと惨敗
企業規模1,000人以上の大企業だけとの比較版も作ってみました。
こちらだと、沖縄県を除き地方公務員の惨敗です。
しかも企業規模10人以上の場合とは異なり、25〜29歳区分から30〜34歳区分にかけて、官民乖離が縮まりません。
元々の給与水準も、昇給ペースでも、地方公務員は大企業に遠く及ばないのです。
女性……超強い地方公務員
続いて女性のデータを見ていきます。地方公務員の圧勝です。
民間のデータは産休・育休を挟んだせいで昇給が遅れた方の影響が反映されているはずなので、やや低めに出る(地方公務員のほうが高くなる)かもしれませんが、それでも地方公務員優位という結論は揺るがないでしょう。
1,000人以上でも引き続き優位
従業員1,000人以上の企業とだけ比較しても、地方公務員の優位性は揺らぎません。
25〜29歳区分では負けている地域も半分弱ありますが、30〜34歳区分では完勝です。
やはり男性20代地方公務員の給与水準は低い
分析結果をまとめると、以下のようになります。- 男性の場合、25〜29歳区分では、中小企業を含めて比較しても、民間よりも地方公務員のほうが給与水準が低い。ただし30〜34歳区分では地方公務員のほうが高い地域が増える。
- 男性の場合、従業員1,000人以上規模の大企業の給与水準には、年齢区分問わず遠く及ばない。
- 女性の場合、中小企業を含めると、地方公務員のほうが高水準。従業員1,000人以上規模の大企業に限って比較しても、半分以上の地域で地方公務員のほうが高水準。
データ集計のため、ひたすらエクセルコピペ作業を約3時間ほど繰り返しました。
苦労した分、未知の新事実との邂逅を期待していたのですが……得られた結論はそんなに目新しくありません。
多くの地方公務員が抱いている「感覚」の正しさが定量的に証明された、とも言えるでしょう。
数字で見ると、女性の公務員志望者が増えているという報道が一気に現実味を帯びてきます。
給与水準が高く、産休・育休も充実、休暇後も復帰可……となると、少なくとも「金稼ぎの手段」としては、役所はかなり魅力的な職場に映るのでは?
一方で、バリバリ働ける男性にとっては、かなり損な職場とも言えそうです。
僕みたいに民間就活に失敗して公務員になったパターンならまだしも、民間就活やっていない若手職員にとっては、 同世代の民間サラリーマンはまさに「青い芝」に見えることでしょう。
コメント
コメント一覧 (4)
結婚や介護などの事情による自治体間の転職をしやすくするのが目的だそうです。県外の自治体に勤務していたり転勤が多いタイプの地方公務員にはかなり大きな転換だと思います。
共通資格は実現するのか、実現したとして、現実的にはどのように運用されていくのかなどについて、現役県庁職員のキモヲタさんのお考えをブログで取り上げていただけますと幸いです。
あくまでも現時点での想像ですが、この施策は「女性活躍」の一環という位置付けなんだと思っています。
官民問わず女性管理職が少ない理由として、そもそも寿退社してしまう女性が一定数いるせいで、管理職適齢期の女性がそもそも少ないという事情があり、これをなんとかしたい…という魂胆があるんじゃないかと見ています。(似たような仕組みが地銀には既に存在して、こちらは女性行員が対象)
そのため、もし導入されたとしても、適用条件はかなり狭く(まさに結婚とか介護とかに限る)、他のブロガーさんがおっしゃっている「自治体間の人材の奪い合い」とか「田舎から都市部に人材流出」みたいな事態にはならないと思っています。