先日の記事で、本格的に地方公務員を目指すと決断する前に
  • 地方公務員という職業は、民間勤務とどう異なるのか(=地方公務員の特異性)
  • 地方公務員の特異性に対し、魅力を感じるか
を念入りに考えたほうがいい……という趣旨のことを書きました。




地方公務員の特異性のうち、僕が特に重要だと思うのが「他律性」です。
「他律性」を受容できるかどうかが地方公務員適正を測る指標になりますし、これに魅力を感じられるかどうかで、地方公務員人生の満足度は大きく左右されると思います。

他律性=従たる立場に立たされること

ここでいう他律性とは、役所が「何を」「どのようにするか」を決めるのは住民であり、役所(地方公務員)に自己決定権は無い……という性質です。
僕の造語ではなく、役所界隈では一般的に使われています。

民主主義という統治体制をとっている以上、役所が他律的になるのは必然です。
かつ、昨今は社会全体が「ユーザー優位」に傾きつつあり、役所の他律性もどんどん強まっているように思われます。

社会全体における役所の立場が他律的であるために、地方公務員個々人の業務も他律的にならざるを得ません。
決められたルールを淡々と運用する業務が多かったり、担当職員の裁量が著しく制約されるのは、まさに他律性の現れだと思います。

他律性は、顧客との関係性にも大きく影響します。
民間企業であれば、提供側と顧客は、原則的には対等のはずです。
(もちろん実際には優劣関係が生じますが、法的には対等です。)

一方役所の場合、原理原則からして対等ではありません。
提供側=役所のほうが圧倒的に劣位に立たされ、顧客=住民のほうが強いです。

住民の意見は、たとえどんな突飛な理想論であれ、合理性に欠ける「お気持ち」であれ、尊重しなければいけません。
そもそも役所(地方公務員)には、住民から寄せられた意見が「突飛だ」とか「合理性に欠ける」と評価する権限がありません。
判断基準すら住民に委ねられています。

他律性はデメリットだらけ

このような他律性に縛られた職業人生は、ストレスまみれです。
地方公務員に嫌気が差して離職した方の発言を読んでいると、離職理由の多くが他律性に由来しています。

ひとつひとつ列記していくとキリが無いのですが、
  • 荒唐無稽な意見に対して真剣に向き合わなければいけない徒労感
  • 意見調整ばかりでなかなか前進しないもどかしさ
  • 自分の裁量があっさり踏み躙られて尊厳破壊
こういうストレスは、地方公務員なら誰もが日常的に味わっているはずです。


加えて、「他律的に働く」という経験しか積めないために、将来の職業選択の幅が狭まると思っています。

他律性に縛られたまま仕事をしているばかりでは、「職業的な自立性」が身につきません。
民間企業であれば当然の「自分で考えて行動する」経験、現状分析→目標設定→手段検討→実行→反省、という一連の流れを自分で考えて実践する経験がなかなか積めないせいです。

結果的に、民間企業で必要とされる基礎的能力を育めないまま、年齢を重ねてしまいます。
転職市場における「地方公務員は使えない」という評価は、専門的知識やトーク力のような個別具体的なスキルの欠如ではなく、もっと基本的な「自分で考えて仕事する」ことができないせいなのでは、とも思っています。

デメリットの中に光明を見られるか?

他律性な働き方は、たいていの人にとって苦痛だと思います。
ただ、地方公務員として働くことに意義を感じている方々は、苦痛を感じつつも、魅力を見出しているはずです。

他律的に与えられた仕事、つまり住民が「やらねば」と決めた仕事は、間違いなく誰かが必要としている仕事です。
決められたとおりに粛々とこなすだけで、確実に社会貢献できます。
(自分が決めたわけでないので、責任感をあまり背負わずに済むという利点もあるでしょう)

最近はひたすら自己決定が重んじられていて、他律的に思考・行動する人は容赦無く無能扱いされます。
しかし、他律的に働く人がいなければ、世の中は回りません。誰かがやらなければいけない。
「具体的にやりたい仕事は無いけど、なんとなく地方公務員に関心がある」という方は、こういう役割に魅力を感じているのかもしれません。

僕自身、他律的に働くことに一定の意義を感じているので、今も地方公務員を続けられています。
もちろんストレスも溜まりますが、僕がストレスに耐えた分だけ誰かの幸福に繋がるんだと整理して処理することにしています。
あとは趣味で思い切り自律性を発揮してストレスを発散できているのも大きいです。


他律的という特質は、地方公務員の宿命です。
どんな部署に配属されようとも付き纏います。
これに魅力を感じるのであればどこでも楽しいでしょうし、逆に厭わしく感じられるのであれば、たとえ「やりたい仕事」を担当できたとしても苦痛でしょう。