地方公務員であれば、誰しも少なくとも一度は「公務員じゃなくて民間に行けばよかった」と嘆くものです。
他の職場が羨ましく思えてしまうのは、地方公務員に限らず、労働者全般に共通する本性だと思います。
ことわざにある通り、隣の芝は青く見えるものです。

ただ、地方公務員(特に新卒で役所に入った人)の場合は、「隣の芝は青い」効果のみならず、さらに特有の原因も上乗せされて、より一層「公務員はやめとくべきだった」という後悔を拗らせていると思っています。

この原因とは……就職前の自己分析不足です。
地方公務員の多くは、「働く」ということについて徹底的に考え抜くべき大学3年生の時期を試験勉強に費やしてしまうせいで、自分自身の「やりたい仕事」「歩みたい職業人生」を特定できないまま働き始めてしまうために、就職後にギャップに苦しみがちなのだと思っています。

受験勉強のせいで情報収集も自己分析もやってる暇がない

民間就活組と公務員試験組の、大学3年生の一年間のスケジュールを比較してみると、わかりやすいと思います。

民間就活組の場合、大学3年生の春頃からぼちぼち情報収集を開始して、夏〜秋にかけてインターンや説明会に参加、冬の後半頃から本格的に採用プロセスに臨み始める……という流れを辿ることになります。
同時に、自分の「職業選択の軸」や「職業的適性」を深掘りすること、いわゆる「自己分析」も行います。

いろんな業界・企業の情報を収集して比較検討(=業界・企業研究)しつつ、自分自身の希望や適性を見定める(=自己分析)……というプロセスを、1年間かけてじっくり進めるわけです。


他方、公務員試験組の場合は、大学3年生の春〜夏頃から公務員試験対策を始めます。
だいたいこの時期から大学主催の学内講座や予備校のコースが始まりますし、独学勢であっても「試験対策は1年前から」という目安で動く人が多数派のようです。

あとはひたすらずっと受験勉強優先の日々が続きます。
説明会やインターンに参加したり、受験候補自治体の情報収集したり、自己分析したりもするでしょうが、試験勉強の負担があるせいで民間就活組ほどには時間も労力も割けないでしょう。


民間企業を知らないのにどうして「公務員のほうがいい」と判断できるのか?

民間就活組と比べると、公務員受験組は、量的にも質的にも自己分析が不足しがちです。

量的は不足は、先述したとおり、受験勉強に時間と労力を奪われるせいです。
民間就活組が約1年かけてじっくり自己分析するところ、公務員試験組はエントリーシートを書く段階に至ってようやく自己分析に着手……なんて場合すらあるでしょう。

質的な不足は、情報収集の幅が狭いせいです
情報収集と自己分析は、別物ではなく一体的に進めるものです。
より正確にいうと、情報収集をしなければ、自己分析はうまくいかないと思います。

「自己分析」というと、ひたすら自分の過去や内面を掘り下げていくイメージがあるかもしれません。
ただし、就職活動における自己分析とはあくまで適職を見出すための分析です。
 
学生時代までの経験だけであっても「バリバリ稼ぎたい」「プライベートを優先したい」程度の大枠は特定できるかもしれませんが、具体的にどういう業界・職業に就くのがベストかを考えようとすると、どうしても材料が足りません。
世の中にはどういう仕事が存在するのか、つまりどういう選択肢が存在するのかをインプットしなければ、分析は行き詰まるでしょう。

民間就活も公務員試験も、就職するためのプロセスという意味では同一であり、やるべき自己分析も同じです。
しっかり自己分析するためには、幅広い業界・職業情報が不可欠です。

特に公務員就職の場合、「どうして民間ではなく公務員なのか」を深掘りするためには、公務員の情報のみならず民間の情報も幅広く必要なはずです。
しかし実際のところ、ちゃんと民間企業の情報を収集して業界・企業分析を経たうえで公務員を選択する人は、ごくわずかだと思います。

自己分析が甘いまま地方公務員になっちゃうと……

つまるところ、地方公務員の多くは、学生時代に民間企業の情報収集を怠ったせいで、自己分析が浅いまま働き始めてしまうのです。
 
そして、地方公務員として働く中で遅ればせながら自己分析が深まっていき、「やりたい仕事」や「歩みたい職業人生」が明確化されていきます。
その結果、人によっては「民間のほうがよかった」と本気で後悔し始めるのです。

大学3年時の苦労が一生を救う?

公務員試験対策を始める大学3年生の大半は、しっかりと情報収集や自己分析を済ませたうえで公務員を選択しているわけではなく、「今のうちから勉強を始めないと間に合わないから」着手するのでしょう。
たとえこの時点で「絶対公務員になるぞ!」と固く決意していたとしても、情報収集がまだまだ足りていないと思います。

情報が足りない中で下した判断は、正しいとは限りません。
なので僕は、少なくとも大学3年生の冬頃までは、受験勉強と並行して民間企業についても幅広く情報収集することを強くお勧めします。

国家公務員か地方公務員か、特別区か政令市か、都庁か地元県庁か……みたいな官官比較だけでなく、ちゃんと民間企業も選択肢に含めて就職先を比較検討することで、自己分析が深まり、後悔の少ない決断ができるはずです。