つい先日、同期の職員から刺激的な話を聞きました。
大学時代のゼミの恩師から、「地方公務員になったゼミOB達が近年離職しまくっている、何故なんだ?」と相談されたというのです。
そのゼミは地元大学法学部にあり、国家公務員・地方公務員を毎年大量輩出しています。
より正確にいうと、これまで蓄積された試験対策ノウハウやOBとの接点を求めて、公務員志望の学生が続々入門してきます。田舎国公立大学あるあるです。
そのゼミ生達……つまり公務員になりたくて仕方なかったはずの方々が、せっかく公務員になれても結局辞めているというのです。
若手離職の話は過去記事でも取り上げていますが、正直これまであんまり現実味を感じていませんでした。
ただ今回の話を聞いて、急に切迫感を覚えました。
離職防止策を考えていたところ、ちょうど最近リリースされた「新人地方公務員の組織適応」というテーマの論文を見つけました。
論文PDFはこちら。
ぜひ本文を読んでいただければと思いますが、かいつまんで紹介します。
この論文は、2020年10月〜 11月にかけて、福岡県内の自治体に勤務する勤続年数1〜3年目の職員14名を対象として実施したインタビューをもとにしています。
コロナ感染拡大後の情報に基づいているので、現時点でも十二分に通用すると思われます。
また、インタビュイーうち「これまで一度でも離職や転職を考えたことがある」と回答した人が14人中わずか2名に止まることが付言されています。
著者はこの点をもって、インタビュイーの属性を「組織にそれなりにうまく適応できている人々」と評価しています。
この見方には僕も完全同意です。
1〜3年目といえば、民間勤務の同世代との待遇格差(給料安い、研修無い、残業代不支給など)を痛感して辛酸を舐める時期であり、具体的な不満が無かったとしても辞めたくなってくるものです。
さらに、これらの課題への対処法策として、
それぞれの項目の具体的な内容は、論文本体を読んでみてください。
インタビュー中の実際の発言も多数引用されていて、生々しくて面白いです。
正直なところ、「4つ課題」にも「4つの対処方策」にも、目新しい項目はひとつもありません。
誰もが薄々感じている事柄が改めて立証されたというのが率直な感想です。
とはいえ、このように整理されることの意義は大きいです。
具体的な対策を考えやすくなります。
この辺りの課題に実際に悩まされている方がいたら、「自分が悪い」と背負いこむ必要はありません。
「役所あるある」なのです。
こう捉えれば、いくらか気が楽になるはずです。
あまりに当たり前すぎて「新人にとっては躓きポイントである」ことを忘れがちなので、改めて意識し直したほうが良いでしょう。
加えて、新人職員が「4つの対処方策」を実践するサポートもできればいいでしょう。
特に、新人職員が「現状の変革」に乗り出そうとしている兆候があれば、しっかり監視したほうがいいと思います。
3年目くらいの職員が思いつく改革案には、だいたい致命的な見落としがあります。
そこをうまく指摘して補強させたり、時には諦めさせるのも重要でしょう。
ここからは完全に個人的感想です。
インタビュイー各位の発言を読むに、皆さん「自助だけでなんとか乗り切った」という認識のようで、「周囲の職員に助けられた」というコメントが皆無なのが大変印象的でした。
引用箇所があくまでインタビューの一部だけで、引用されていない部分にはこういう趣旨の発言もあったのかもしれませんが、もし本気で「自分一人で新人期の危機を乗り切った」と信じているなら、それは危険な誤解だと思います。
誰かしらサポートしてくれているはずなのに、視野が狭くて気づいていないだけなのでは……?
周囲の厚意に気づかず、悲劇のヒーロー/ヒロインぶる若手は、役所でなくとも煙たがられます。
さらに、こういうマッチョ思考は、後輩への塩対応(自分は独力でなんとかできたから、お前もできるだろ?)につながりかねません。
勤続年数3年目までの時点では「組織にうまく適応している」かもしれませんが、数年後は危ういなと正直思いました。
大学時代のゼミの恩師から、「地方公務員になったゼミOB達が近年離職しまくっている、何故なんだ?」と相談されたというのです。
そのゼミは地元大学法学部にあり、国家公務員・地方公務員を毎年大量輩出しています。
より正確にいうと、これまで蓄積された試験対策ノウハウやOBとの接点を求めて、公務員志望の学生が続々入門してきます。田舎国公立大学あるあるです。
そのゼミ生達……つまり公務員になりたくて仕方なかったはずの方々が、せっかく公務員になれても結局辞めているというのです。
若手離職の話は過去記事でも取り上げていますが、正直これまであんまり現実味を感じていませんでした。
ただ今回の話を聞いて、急に切迫感を覚えました。
離職防止策を考えていたところ、ちょうど最近リリースされた「新人地方公務員の組織適応」というテーマの論文を見つけました。
論文PDFはこちら。
ぜひ本文を読んでいただければと思いますが、かいつまんで紹介します。
論文のあらすじ:適応成功職員を分析
この論文は、2020年10月〜 11月にかけて、福岡県内の自治体に勤務する勤続年数1〜3年目の職員14名を対象として実施したインタビューをもとにしています。コロナ感染拡大後の情報に基づいているので、現時点でも十二分に通用すると思われます。
また、インタビュイーうち「これまで一度でも離職や転職を考えたことがある」と回答した人が14人中わずか2名に止まることが付言されています。
著者はこの点をもって、インタビュイーの属性を「組織にそれなりにうまく適応できている人々」と評価しています。
この見方には僕も完全同意です。
1〜3年目といえば、民間勤務の同世代との待遇格差(給料安い、研修無い、残業代不支給など)を痛感して辛酸を舐める時期であり、具体的な不満が無かったとしても辞めたくなってくるものです。
分析結果 ー4つの課題と4つの対処方策ー
インタビュー結果を分析した結果、新人職員が主に直面する組織適応上の課題として、- OJTの機能不全
- やりがいの希薄化
- 仕事や職場への戸惑い
- 住民に対する葛藤
さらに、これらの課題への対処法策として、
- 受け入れ・割り切り
- 主体的な学習
- 現状の変革
- 人間関係の構築
それぞれの項目の具体的な内容は、論文本体を読んでみてください。
インタビュー中の実際の発言も多数引用されていて、生々しくて面白いです。
日々の業務に展開するには
正直なところ、「4つ課題」にも「4つの対処方策」にも、目新しい項目はひとつもありません。誰もが薄々感じている事柄が改めて立証されたというのが率直な感想です。
とはいえ、このように整理されることの意義は大きいです。
具体的な対策を考えやすくなります。
当事者(新人地方公務員):肩の荷を下ろせるか
「4つの課題」として挙げられた項目は、新人であれば誰もが直面する課題と言えるでしょう。この辺りの課題に実際に悩まされている方がいたら、「自分が悪い」と背負いこむ必要はありません。
「役所あるある」なのです。
こう捉えれば、いくらか気が楽になるはずです。
上司・先輩:サポートの視点
ある程度経験を積んだ職員にとって、「4つの課題」はいずれも「仕方ないこと」として受容されています。あまりに当たり前すぎて「新人にとっては躓きポイントである」ことを忘れがちなので、改めて意識し直したほうが良いでしょう。
加えて、新人職員が「4つの対処方策」を実践するサポートもできればいいでしょう。
特に、新人職員が「現状の変革」に乗り出そうとしている兆候があれば、しっかり監視したほうがいいと思います。
3年目くらいの職員が思いつく改革案には、だいたい致命的な見落としがあります。
そこをうまく指摘して補強させたり、時には諦めさせるのも重要でしょう。
ここからは完全に個人的感想です。
インタビュイー各位の発言を読むに、皆さん「自助だけでなんとか乗り切った」という認識のようで、「周囲の職員に助けられた」というコメントが皆無なのが大変印象的でした。
引用箇所があくまでインタビューの一部だけで、引用されていない部分にはこういう趣旨の発言もあったのかもしれませんが、もし本気で「自分一人で新人期の危機を乗り切った」と信じているなら、それは危険な誤解だと思います。
誰かしらサポートしてくれているはずなのに、視野が狭くて気づいていないだけなのでは……?
周囲の厚意に気づかず、悲劇のヒーロー/ヒロインぶる若手は、役所でなくとも煙たがられます。
さらに、こういうマッチョ思考は、後輩への塩対応(自分は独力でなんとかできたから、お前もできるだろ?)につながりかねません。
勤続年数3年目までの時点では「組織にうまく適応している」かもしれませんが、数年後は危ういなと正直思いました。
コメント
コメント一覧 (13)
話は少し逸れるのですが、厚生労働省が中途でキャリア職員を募集するという話がありました。あそこは新人はおろか中堅職員まで辞職する例が相次いでおり、もはや職務が回らないという公然の事実。それで中途の募集をかけるようなのですが、そもそもそんな状況下で辞めた人以上に優秀な人が来ますかね?
地方自治体も組織改革を怠ると厚労省のような切羽詰まった状況になるかもしれませんね。完了組織の何かの重要な仕組みが壊れているんだろうなと思いました。そこを治療して直さないと輸血しても無意味なような?
話は少し逸れるのですが、厚生労働省が中途でキャリア職員を募集するという話がありました。あそこは新人はおろか中堅職員まで辞職する例が相次いでおり、もはや職務が回らないという公然の事実。それで中途の募集をかけるようなのですが、そもそもそんな状況下で辞めた人以上に優秀な人が来ますかね?
地方自治体も組織改革を怠ると厚労省のような切羽詰まった状況になるかもしれませんね。完了組織の何かの重要な仕組みが壊れているんだろうなと思いました。そこを治療して直さないと輸血しても無意味なような?
というのは、次のような疑問があるからです。
国家賠償法1条1項は「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」と定め、同2項は「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」と定めています。
以上のことから、公務員個人が損害賠償を支払うのは当該不法行為につき故意又は重大な過失があったときのみとなります。
まず、故意は好ましからざる事態を認容していた訳ですから、そんなものは論外です、次に、「重大な過失」についても、「ここにいう重大な過失とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解するのを相当する」( 昭和32年7月9日 最高裁判所第三小法廷 民集 第11巻7号1203頁)とあるように、まずもってあり得ないことです。
そうすると、そんなあり得ないことのために保険を掛けるのかというのが私の疑問です。
僕自身、次の部署が窓口系だったら保険加入するつもりで、そろそろ実際に資料を取り寄せて調べてみたいと思ってます……
重い仕事が低年次の職員に降りてきたり、職場でのノウハウ伝承の担い手がいなかったりする大きな原因だと思っています。
ちょうど自分が新人だった頃、本来なら指導役になるはずの30代職員がちょうど採用抑制で激減している年代で、僕の同期でも「職場で放置されてる」と嘆いてる職員がたくさんいました。
今は僕の世代が30代になり指導役を担わなければいけないのですが、そもそも指導されていないので指導方法がわからなかったり、「指導は甘え」と思っている職員が少なくありません。負の連鎖が始まっているのでしょう……
しかし、民法709条を根拠に原告が公務員個人を訴えたとしても、そもそも民法709条に対する特別法が国家賠償法1条な訳だから、結局裁判で原告の主張は退けられ、当該公務員が属する国又は地方公共団体が損害賠償を支払うことになるのではないでしょうか。
あと幾つか必要ないと考えられるものがあります。
私が会計年度任用職員として勤務する市役所の訓令「A市職員の服務に関する規程」に有る幾つかの条文です。
まず、6条の「職員は、職務の執行に当たり、法令等もしくは上司の職務上の命令に違反し、または職務の執行の公正さを損なうおそれがある要求に応じてはならない。」
地方公務員法32条と同法33条を言い換えただけ。
ここで禁止された「自らの職務に利害関係を有するものからの金品の受領、利益または便宜の供与を受ける行為」は収賄罪(刑法197条、197条の2、197条の3、197条の4)だし、「職務の執行の公正さに対する市民の信頼を損なうおそれのある行為」も地方公務員法33条を読めばそれがいけないことだと誰でも判ります。(続く)
地方公務員法36条の繰り返しに過ぎません。
10条「職員は、法令等で禁止された、同盟罷業その他の争議行為または怠業的行為をしてはならない。」
地方公務員法37条1項の繰り返しに過ぎません。
11条1項「職員は、職務上知り得た秘密を守らなければならない。」
地方公務員法34条1項の繰り返しに過ぎません。
12条1項「職員は、勤務時間中は全力を挙げて職務に専念するものとし、みだりに勤務場所を離れてはならない。」
地方公務員法30条及び同法35条の繰り返しに過ぎません。
(続く)
そして、これらは必要ないだけでなく、かえって市民と市役所の要らざる不信を招くのではないでしょうか。
「A市職員の服務に関する規程」7条を読んだ市民は「そんな収賄行為が許されないことくらい書かないでも判るだろうに、わざわざ書くということはよっぽどこの市役所の職員は遵法意識に欠けるのだな。」と要らざる誤解を招くし、同規程12条1項についても市民から「そんなもの、地方公務員法35条を読めば判ることなのにわざわざ書くということは余程市役所職員の士気が低いに違いない。」と誤解を招いてしまいます。
したがって、服務規程で記載された作為、不作為義務の内、他の法令で記載されたものと重複するものは全て削除するべきだと考えます。
ただ、条例を作るのは住民(議会)であり、実務的に無駄に思われても受容しかないのが、地方公務員の悲しい宿命だとも思います。
条例そのものを読んだわけではないのであくまで空想ですが、ひょっとしたら、地方公務員法と貴市の条例とで、対象となる「職員」の範囲が異なる……という可能性あるのではないか、とも思います。
「ちょっとだけ法制執務をかじった身からしても、法律と重複する内容をわざわざ条例にも設けるのは、余計なトラブルを招くだけな気がします。」
そうなんですよね。
しかも、「A市職員の服務に関する規程」1条1項は「この規程は、職員(地方公務員法(昭和25年法律第261号)第4条第1項の職員をいう。以下同じ。)の服務について必要な事項を定めるものとする。」と定め、同2項で「職員の服務については、法令、条例、規則その他の規程(以下「法令等」という。)に定めるもののほか、この規程の定めるところによる。」と定めていますから、「A市職員の服務に関する規程」が言う処の「法令等」を補足する形を取ればそれで役目が果たせるはずで、わざわざ重複した条文を記載するのはそれが不要なだけでなく、市民との信頼を損ねる危険すらありますよね。
禁止が有るということは、一般的な考えからすれば禁止された行為が存在するからということになります。そして、地方公務員法で禁止された事項を服務規程でまたぞろくどくど言うということは、そうしないと禁止された非違行為がなくならないのだと市民に認識されてしまいますよね。
本当はそんな不規律でなく、大真面目に御役目に勤しんでいるのにです。
できることなら服務規程は休暇申請の方法、「公務上の必要で離席する場合は黒板等で行先を知らせるべし」とか、「来庁者には礼儀正しく」といった、他の法令には無いが大切な(心構えとしても、事務的な意味でも)もの、地方公務員法や条例だけでは解釈が割れるものの細目に留めるべきでしょうね。