年初の記事で「今年こそ『コロナ訴訟』と『採用抑制』で盛り上がる」と予想したところなのですが……
これらが霞んでしまうビッグニュースが早速飛び込んできました。
会計年度任用職員への勤勉手当支給です。



公務員のボーナスは「期末手当」と「勤勉手当」に分かれており、割合はほぼ半々です。
会計年度任用職員は、このうち「期末手当」しか支払われていませんでした。
一般職員のだいたい半分の月数分しか支給されていなかったわけです。

現在提出されている改正法案では、会計年度任用職員に「勤勉手当」も支給できるようになります。
詳しくは後述しますが、ボーナスの支給月数がざっくり倍増すると思われます。

個人的には大賛成なのですが(特に保育士や司書のような専門職)、これから国会での法案審議が本格化していくと、「公務員の待遇」に対する世間のイメージが生々しく表れてきそうで恐ろしいです。

「非正規」という追い風 vs 「公務員」という向かい風 

マスコミ報道では通常、会計年度任用職員は「非正規公務員」と表現をされることが多いです。
今回の「会計年度任用職員への勤勉手当支給」も、すでに一部のマスコミ報道では「非正規公務員の処遇改善」という表現に変換されています。

「非正規公務員の処遇改善」という表現の中には、世間一般の方々にとって、好印象/悪印象どちらの要素も含まれています。
 
「処遇改善」の一言であれば、誰もが賛同するでしょう。
「非正規の処遇改善」であれば、賛同の声はさらに強くなるはずです。
しかし、さらにここに「公務員」という単語が加わり「非正規公務員の処遇改善」になると、途端に印象が悪化します。
 
公務員の給与の大元は税収であり、公務員の賃上げは税負担増加(または公共サービスの縮小)に直結しかねません。
公務員が潤う代わりに、公務員以外は損をするわけです。
単なる「公務員の処遇改善」であれば、マスコミも世間も猛反発するでしょう。

ただし今回は、単なる「公務員の処遇改善」ではなく「非正規公務員の処遇改善」です。
非正規労働者を安く使う慣行が色々な社会問題の元凶として認識されている以上、無碍にはできないと思います。
特にマスコミは叩きづらいでしょう。

このように、「非正規公務員の処遇改善」には、国民感情にとって
・「非正規労働者の処遇改善」というプラス要素
・「公務員の処遇改善」というマイナス要素
いずれもが織り混ざっています。
ゆえに、容易には判断を下せないように思われます。

結果的に世論が賛成/反対どちらに傾くか次第で、どちらの要素が強いかわかります。
ここでもし反対に傾けば、「非正規だろうが何だろうが公務員の処遇改善は断じて許されない」という判断を世間が下したわけで、公務員に対する悪感情が今後も末永く持続することが確定します。

財源捻出が結構大変なのかもしれない

完全に皮算用ですが、会計年度任用職員に勤勉手当を支給することでどれくらいの財政的インパクトがあるのか推計してみます。

地方財政状況調査(決算統計)によると、会計年度任用職員分のボーナス支給額は、令和3年度で約1,872億円。これは期末手当分だけです。
 
期末手当は勤務期間に応じて支給されるもので、ここでは2ヶ月分と仮定します。
支給月数は自治体によってバラバラですが、おおよそ任用1年目であれば1.7ヶ月分、2年目であれば2.2ヶ月分くらいのはず。任用期間の割合はわからないので、ざっくり2ヶ月分ということにします。

一方、新たに支給される見込みの勤勉手当は、勤務実績に応じて支給されます。
とはいえ実際そんなに差はつかないので、こちらも2ヶ月分と仮定します。

要するに、勤勉手当が支給されるようになると、ボーナス支給額が倍になります。
つまり、全国ベースで1,872億円≒約1,900億円、人件費が増えると見込まれます。

全国総額で約1,900億円……と言われても全然ピンとこないので、同じく地方財政状況調査の中から、近しい数字を探してみました。
  • 住居手当総額 約1,600億円
  • 管理職手当 約1,700億円
  • 時間外勤務手当 約5,600億円 →1/3すると約1,900億円
人件費関係だと、このあたりが近しいです。

つまるところ、会計年度任用職員への勤勉手当支給は、
  • 住居手当や管理職手当を倍増する
  • 時間外勤務手当が3割上乗せされる
くらいの財政的インパクトがあるといえます。
こう考えると相当大きな影響です。 

ただし、令和3年度の地方公務員の人件費総額は約23兆円で、会計年度任用職員の勤勉手当相当分は約1%にすぎません。
率ベースで見ると、大した影響ではないのかもしれません。

一般職員の待遇に波及してくる可能性もゼロではない?

個々の自治体レベルでは、会計年度任用職員への勤勉手当支給に必要な財源をどう確保するか、そして財源確保方法を議員や住民にどう納得してもらうかが課題になるでしょう。
 
いくら法改正が原因とはいえ、「人件費が増える」のは非常にウケが悪いものです。
「法改正が原因だから仕方ない」と押し切るか、別のところで人件費をカットして総額は増えないように調整するか……議員や住民の顔色を伺いながら各自治体で判断することになりそうです。
 
人件費をカットして財源捻出する場合、採用を減らしたりがっつり勧奨退職したりして職員数を減らす方法が一番手っ取り早いでしょう。

一般職員の待遇を落とすという方法もあり得ます。
その場合は、 先述した「住居手当や管理職手当がゼロになる」「時間外勤務手当3割カット」並のドラスティックな改革が必要になってきます。やばいですね……

法改正に伴う人件費増ということで、交付税で措置されることを切に望みます。 

会計年度任用職員への勤勉手当支給は、「早くても令和6年度」からとのこと。
個々の自治体で議論になるのは、令和6年度予算審議が本格化する今年度後半になるでしょうか。
ちょうど12月のボーナス支給時期と重なりますし、「公務員の12月ボーナスは〇〇万円、来年度はさらに増える模様」みたいな感じでセンセーショナルに報道されるんでしょうね……
 
とりあえずは目下の国会審議の動向を眺めつつ、マスコミの反応をウォッチしていきたいです。