今年もそろそろ新規採用職員の方々から「放置されている」という怨嗟が漏れ聞こえてくる頃合いでしょうか……
 
研修が適当な理由は過去にも記事にしています。


「4月1日付で一斉に人事異動」「議会のスケジュール」「出納整理期間」といった制度的な理由のために、役所はどうしても新人教育に注力する余裕がありません。

組織的なOJTが機能しづらいからこそ、直属の上司のみならず先輩ポジションの職員が草の根的に新人をサポートする必要があると思います。
しかし、新人の怨嗟が止まないということは、こういうサポートもうまく機能していないのでしょう。

先輩によるサポートが機能していない理由は、昔と今とで異なります。
以前は「サポート役がそもそもいない」という組織構成が原因でしたが、最近は「ノウハウ不足」というより低レベルな原因に堕しています。

かつて:先輩がいない

僕が採用された頃(2013年頃)は、「先輩」と呼べる職員が周囲にほとんどいませんでした。
平成10年代後半に総務省主導で厳しく採用抑制されたせいで、ちょうど先輩にあたる世代(20代後半〜30代)の採用人数が極端に少ないからです。
僕が配属された職場だと、僕の次に若い職員が「40代前半」の係長でした。

つまるところ、新人をサポートしてやれる先輩的なポジションの職員がそもそもいなかったのです。
先輩ポジションがいる職場であっても、先輩一人当たりの新人数が多すぎて、十分なサポートができていなかったでしょう。

僕の場合、たまたま補佐級のおじさんたちがみんな面倒見が良かったおかげで色々助けてもらえましたが、同期入庁職員の多くは見事に放置プレイを食らっていたようで、当時は飲み会のたびに愚痴が飛び交っていました。

今:サポートスキルが無い

平成20年代後半からは採用数も増えてきて、今はどんな職場でもそれなりに「先輩的ポジション」のアラサー職員が在籍しています。
新人をサポートする人的体制は相当改善されたといえるでしょう。

しかし今度は「新人をサポートするスキルが不足している」という新たな問題が生じています。

今のアラサー職員は「先輩にサポートしてもらった」という経験に乏しいです。
そのため、何をどのように教えればいいのかよくわかっていません。
頼りになるのは自分の経験だけであり、サポートするにしても単なる経験談の押し売りになりがちです。

経験談ベースのサポートだと、情報が体系化されていなくて抜け漏れだらけですし、少しずつ段階を踏んで教えていくという観点が抜け落ちていたりします。
いずれにしても新人職員のためにはなりませんし、かえって余計に混乱させてしまうかもしれません。

経験談はあくまでも「一事例」であり、定石とは限りません。
それなりに経験を積んだ職員であれば役立てるかもしれませんが、判断能力に乏しい新人職員にとっては毒にもなりかねません。

何より問題なのが、今のアラサー職員には「自分は誰からもフォローされなかったがなんとかなった、だから新人のフォローはそもそも不要」というマッチョ思考な職員が少なくない点です。
つまるところ、指導するスキルも無ければ、指導する気も無いのです。 
これは典型的な生存バイアスでしょう。


今回取り上げたのは、あくまでも僕の勤務先県庁で生じている事案です。
ただ、原因の大元は「平成10年代後半に採用数を極端に絞ったこと」であり、これは全国共通の事象なので、同じような事態が全国で発生しているのではないかとも思います。

かつては先輩という立場から新人に伝授されていた「アンオフィシャルな仕事のノウハウ」みたいなものが存在したようなのですが、僕らの世代には引き継がれていません。
一旦ノウハウが途絶えてしまうと、復活させるのは本当に難しいです。
 
とはいえ、役所は日々変化していますし、新人職員の性質も変わってきています。
今と昔では、新人に教えるべき事柄も教え方も、ずいぶん違うでしょう。
新しいサポートのあり方を考えていく良い機会なのかもしれません。