前回記事(職員数編)に続き、地方公務員の待遇のファクトを見ていきます。

地方公務員の職員数は、ざっくり以下のような特徴があります。
  • 平成6年度のピーク、平成30年度がボトム。令和元年度以降は微増傾向。
  • 一般行政職員だけで見ると、平成25年度に底打ちしてから微増傾向。ただし地域差がかなりある。
  • 平成25年頃から採用者数は高止まりしており、組織に占める若手職員の割合が高まりつつある。
  • 女性職員の割合は一貫して上昇している。

今度は主に、人件費の金額を見ていきます。

総額23兆円

総務省がとりまとめている「地方財政状況調査(決算統計)」によると、地方公務員の人件費総額は約23兆円です。
地方公共団体の歳出総額のうち約2割が人件費にあたります。

01 決算内訳

 
人件費のうち、職員に広く支払われている給与や報酬が約75%を占め、残りは共済(≒社会保険料)や退職手当があります。
「高すぎる」とよく批判されている議員報酬や特別職給与は、人件費総額から見ると非常に小さいです。
財政健全化という観点で見れば、たとえ100%カットしようとも焼け石に水です。あくまでもパフォーマンスにすぎないと言えるでしょう。

23兆円という莫大な数字だけを見ていても実感が湧いてこないので、自分たちにとって馴染み深い「一般職の給与」をさらに分解してみます。(左下の表・右側の円グラフ)
 「任期の定めのない職員」は、一般職(=特別職以外)の職員のうち、任期付職員、再任用職員、会計年度任用職員以外の職員です。いわゆる正規職員です。

給与の内訳では給料が最も大きく、約6割を占めます。
次いで大きいのが期末手当(約14%)、勤勉手当(約11%)と続きます。

自治体によって支給状況が大きく異なるであろう時間外勤務手当は、約4%程度です。
手当の中では大きいほうではありますが、人件費全体で見れば決して大きくはありません。
時間外勤務手当をカットしたところで、さほど財政事情が改善されるとはいえないでしょう。

これでも平成以降は右肩下がり

「地方公務員の待遇はどんどん劣化している」と嘆かれているところですが、実際のところどうなのでしょうか。人件費の推移を見てみます。

02 決算統計推移
 
人件費のピークは平成11年度で、そこからゆるやかに減少を続けています。
直近の令和3年度では、ピーク年度と比較すると、約21%も人件費が減少しています。

人件費総額は、大きく2つの要因で決まります。
「職員1人あたり人件費」と「職員数」です。

平成11年度から令和3年度は、職員数も約13%減少しています。
職員数が減り、1人あたりの人件費も減り……という二重の要因で、人件費が減少しているのです。

歳出決算総額に占める人件費率を見てみると、一番高い平成元年度から、直近の令和3年度にかけて10ポイントも低下しています。
ただし令和2年度~3年度は新型コロナウイルス対策のために歳出が爆増しているので、異常値だと考えたほうが良さそうです。
コロナ直前の数字を見るに、役所の人件費率はだいたい20%と考えるのが妥当でしょう。

(悲報?朗報?)時間外勤務手当は確実に増えている

「地方公務員の待遇はどんどん劣化している」のは、どうやら定量的に見ても事実と言えそうです。
その要因を探っていくべく、続いて内訳別の推移を見ていきます。

03-1 人件費内訳
03-2 人件費内訳

総額ベースでも1人あたりでも、給料と期末勤勉手当と退職手当は減少している中、時間外勤務手当だけは増えています。

1人あたりの額を見ると、地方公務員の待遇水準がめきめき落ちているのがよくわかります。
給料が減少しているのは、職員年齢構成の若返りも一因なのでしょうが、昇級抑制の影響も小さくないと思われます。
期末勤勉手当は給料以上に減少していますが、これは支給月数が減少(4.95か月→4.3か月)しているためでしょう。
退職手当は、2012年と2017年に支給水準が引き下げられた影響がもろに出ています。

一方、時間外勤務手当はぐんぐん増えています。
「昔と比べて職員1人あたりの負担が増大している」という認識は、定量的に見ても間違いないといえるでしょう。

ただなぜか、令和2年度だけ時間外勤務手当が大幅に落ち込んでいるんですよね。
令和2年度といえばコロナ禍が始まった年度であり、残業時間は確実に増えているはずです。
それなのに時間外勤務手当は減っているのです。
 
当時は「経済が長期停滞して税収が減り、財政破綻する自治体が出てくるぞ」みたいな警戒論も盛んに主張されていましたし、少しでも財政負担を抑えるべく、コロナ対応で残業が増えても時間外勤務手当を支払わない自治体が多かったのでしょうか……


今回数字を調べてみた平成元年〜令和3年という約30年間は、日本全体で経済が伸び悩んだ時代であり、公務員のみならず、多くの民間企業サラリーマンの待遇も劣化していると思われます。
ひょっとしたら、公務員よりも民間サラリーマンのほうがひどく劣化しているのかもしれません。

防衛費1兆円のために増税するかどうか、国会で盛んに議論されているところです。
もし増税ではなく歳出削減で1兆円を賄うことになったら、公務員人件費もターゲットにされそうです。
「公務員のボーナスをたった●ヶ月分カットするだけで増税は不要になる!」みたいな、ポピュリズムを煽る論調にならないことを祈ります。