1ヶ月ほど前から唐突に、対話型AIが脚光を浴び始めました。
テレビやネットニュースはもちろんのこと、平均年齢70歳くらいの地方新聞の投書欄ですら、「AI=ChatGPT」と言わんがばかりの勢いで侃侃諤諤の議論が交わされています。

こういう新技術は、高齢者層から頭ごなしに否定されることが多い気がしますが、対話型AIに関しては賛否両論に分かれているような印象を受けます。
ただ、賛成側にしても否定側にしても、実際に使ったことがある人は果たしてどれくらいいるんでしょう?
話題になっているのを見て数回使ってみたくらいの人は結構いるかもしれませんが、日常的に使っている人はほとんどいない気がします。

創作のお供

僕は趣味で短編小説(主に二次創作)を書いています。

書きたいシーンはスラスラと言葉が出てくるのですが、そうでないシーンはなかなか進まないもので、いわば後片付けのために多大な時間と労力を注ぎ込んでいるような気がして、結構ストレスなんですよね。
こういう部分、あんまり筆が載らないシーンをAIに書いてもらっています。

あとは擬音や視覚表現のバリエーションを増やしたいときにも使っています。
例えば、殴り合いのシーンを5,000字くらい書いていると、どうしても擬音がワンパターンになるんですよね。「ガシッ」「ボカッ」みたいな典型だけだと足りません。
そこでAIに「擬音の候補」を提示してもらうのです。

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ちなみに、単に「殴ったときの擬音を教えて」とだけオーダーすると、倫理コードに引っかかってブロックされます。これを回避するために「あなたは編集者です」などの状況設定を入れています。

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エピソードは得意、ロジックは苦手

現状、対話型AIが得意なのは「エピソード」です。
シチュエーションを指定してやれば、それらしいエピソードを一瞬で創出してくれます。
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ChatGPTであれば、プログラムも書けます。
地方公務員に身近なところだと、エクセルの計算式やマクロコードも一瞬で仕上げてくれます。
僕自身、庁内各課から提出されてきたエクセルファイルを統合する作業を代行してくれるマクロコードをChatGPTに書いてもらって、早速楽をさせてもらっています。


一方、論理構造がしっかりした文章はまだまだ苦手です。
因果関係や論理関係がしっかりした文章はなかなか生成できませんし、ビジネス文章の基礎である「ロジックツリー」や「MECE」にもうまく対応できません。

根拠をはっきりさせたうえで意見を主張する文章も苦手です。
意見自体はそれなりに仕上がるのですが、根拠の部分が弱いです。
インターネット上の通説レベルの根拠はしっかり準備してくれるのですが、専門書レベルの知見や定量的データまでは引っ張ってきてくれません。
そのため、既視感のある薄っぺらい仕上がりになりがちです。

現状、対話型AIを仕事で使うのは仕事で使うにはまだまだ難しいと思います。
論理構造が今ひとつで根拠も弱く、説得力に欠けるからです。
一文一文は綺麗に書けていて、サラーっと流し読みするだけならそれっぽく見えるのですが、じっくり読むと穴だらけなんですよね。

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「昇給や賞与が少ない」とか「民間は週6勤務が一般的」というファクトがだいぶおかしいです。


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センチュリーが日本の伝統の結集であるのはまだわかるとしても、「地元の産業や文化に対するアピールにつながる」という結論にはつながりません。


一方、厳密なロジックや根拠が必要ない文章、例えば新聞の社説、コメンテーターの発言、エッセイ、感想文のような文章を作るには十分実用レベルだと思います。
特に、具体的なエピソードをもとに何らかの主張をするタイプの文章はとても良い感じに仕上がります。
ニュースでも「就職活動のエントリーシートをAIに書かせた」という事例が取り上げられていましたが、まさにこういう使い方において長所が発揮されるでしょう。

あとは質問を作るのも上手いと思います。
人間ではなかなか気がつかないようなものも含め、網羅的に論点を出してくれます。

実務に使えるか

いくつかの自治体では、既存の対話型AIを議会答弁や報道発表に活用する方向で検討しているらしいですが、僕はなかなか難しいのではないかと思っています。

役所が作る文章は、いろんな人が多角的・批判的に吟味してきます。
そのため、結論はもちろんのこと、論理展開や根拠にも一切手を抜けません。
全面的にAIにぶん投げて作文してもらうのは不可能でしょう。
AIが作った文章を、職員が全面的に修正する光景がありありと想像できます。

せいぜい細かい文言の候補を提示してもらうとか、記者発表原稿の大まかな流れを作ってもらうとか、その程度に止まるのではないかと思います。
 
これだけでも十分便利そうではありますが、世間で騒がれているほど革命的な進歩かと言われると……正直疑問です。
「エピソードの創作」という現状の強みを活かすのであれば、今すぐにでも対話型AIを活躍させられそうですが……役所内にそういう仕事があるのでしょうか?僕には思い当たりません。

それよりも、エクセルマクロのコードを書いてもらって日々の業務を効率化する用途にまず使うほうが、有益だと思います。あまり世間受けは良くなさそうですが……

今はまだ組織的に採否を判断するフェーズではなく、職員個々人が試しに使ってみて、どんな局面でAIを活用できるのかを探る段階だと思います。

加えて、どういう質問を投げると効果的に回答を得られるのかを探るのも重要だと思います。
「現状苦手」と書いた定量的根拠に基づく主張も、うまく質問を投げてやれると、きちんとした回答が返ってくるんですよね。