僕の職場の若手職員(20代の職員)は本当に退庁が早く、20時を過ぎて残業する人は一人もいません。
早く帰るのは良いことなのですが、先輩や上司に仕事を残して帰られてしまうケースも少なからず発生していて……
21時頃に30代・40代のメンバーでその尻拭いをしていると、自然と「最近の若手、本当に質が落ちてるよな」という愚痴が聞こえてきます。
このような愚痴トークを何十回も繰り返す聞いているうちに、ここでいう「若手職員の質の低下」には、二種類のニュアンスが含まれることがわかってきました。
ひとつは「全体的に能力が落ちている」という現象です。
これまで当たり前に任せていられた軽度の単純作業すら回せない職員が増えた等、ボリューム層の能力が落ちてきているという意味です。
そしてもう一つは、「優秀な職員がいなくなった」という現象です。
出世ルート突入間違いなし!といえるような傑物が見当たらない、つまり上位層がごっそり抜け落ちているという意味です。
「若手地方公務員の能力が低下している」という話題自体は、今に始まったことではありません。
僕が入庁した頃も「最近の若手は……」と難癖つける人だらけでしたし、多分いつの時代もそうなんだろうと思います。
その原因も、「民間と比べて待遇が悪い」「職業として魅力が無い」という2点に集約されています。
僕自身、今更改めて議論する話題ではないと思っていました。
ただこの一年間、愚痴トークをBGMに仕事をしているうちに、後者の現象(優秀な若手職員の消滅)に関する新説に思い至りました。
県内での人口集中、すなわち県庁所在地や中核市“以外”の過疎化もまた、優秀な職員が県庁に入ってこなくなった原因のひとつだと思っています。
若者の都市部流出は止まらないが「真の田舎」の若者は「田舎都市部」にとどまってくれる
同じ田舎県の中でも、県庁所在地・中核市の周辺と、それ以外の地域の間には、歴然とした差があります。
以下この記事では、便宜上、三大都市圏を「真の都市部」、県庁所在地や中核市を「田舎都市部」、それ以外の地域を「真の田舎」と称します。
三大都市圏のような都市部在住の方からすれば「どっちも田舎だろ」と思うかもしれませんが、設備も住環境も雰囲気も暮らしぶりも……全然違います。
何より心情が異なります。
「田舎都市部」と「真の田舎」は、物理的距離のみならず心理的距離でも離れているのです。
勤労世代であれば「田舎都市部」「真の田舎」を行き来する機会があり、それほど心理的距離は離れないと思われますが、行動範囲が狭くなる高齢者や子どもは、居住している「田舎都市部」または「真の田舎」にどっぷり浸かることになり、たとえ同じ県内であっても心理的距離は隔絶します。
災害発生時には、この違いがわかりやすく露見します。
典型的な事例が、「危険で不便なのに頑なに避難を拒み、被災地に留まろうとする高齢者の方々」です。
令和6年能登半島地震でも、金沢市などに二次避難せず、水道も電気も無いのに被災地生活を続けている方々が相当数いらっしゃることが連日報道されていました。
彼ら彼女らにとって、金沢市のような「田舎都市部」はまさに未知の世界であり、被災地生活の不便さを凌駕するほどに強烈な不安を感じたのだろうと推察します。
被災地の中学生の一部が金沢市に集団避難したという報道もありましたが、この集団避難に応じた中学生の心労も計り知れません。
集団避難した中学生が「一部」に留まり、危険で不便なのに被災地に残った中学生がいたことも理解できます。
今回注目したいのは、子ども世代の心理的距離です。
「田舎都市部」の子どもは、「真の田舎」「真の都市部」いずれに対しても心理的距離を感じています。
「真の田舎」に住んでいる子どもは、「田舎都市部」に対して心理的距離があり、「真の都市部」に対してはさらに隔たりを感じています。
この心理的距離の違いが、進路の選択、具体的には進学と就職の選択に影響してきます。
「真の田舎」の子どもにとって、「田舎都市部」に出る段階でまず心理的なハードルがあり、「真の都市部」まで出るのは、さらにもう一段高いハードルがあるのです。
その結果、せっかく能力があるのに、心理的なハードルを越えられずに「田舎都市部」に留まってしまう人が少なからずいます。
例えば、普通に旧帝大を狙えるのに地元国公立大学に入学したり、ハイスペックなのに就職先として県内企業・県内自治体しか視野に入れていなかったり……
県庁内にいる「優秀な職員」の中にも、このような過程を経て入庁してきた人が少なくありません。
チャレンジさえしていれば「真の都市部」のエリート層に食い込めたはず……という、傍から見れば「もったいない」人たちです。
採用担当者の努力で人口動態的変化に対処しきれるのか(絶望)
改めて言うまでも無く、日本全国の「真の田舎」地域において、急激に人口が減少しています。特に子どもの減少が著しく、高齢化率がどんどん上昇しています。
この人口動態的な変化が「優秀な若手職員」の減少にも影響していると、僕は思っています。
「真の田舎」出身の子どもの総数が減れば、その中に一定割合で存在する優秀な人材の総数も減ります。
総数が減った結果、県庁に入ってくれる「真の田舎」出身の優秀な人材(もったいない職員)が減っており、結果的に「優秀な若手職員」も減っているのではないか……と思うのです。
「真の田舎」出身の若者が、能力に恵まれているにもかかわらず心理的ハードルに阻まれて「田舎都市部」に留まるという現象自体は、今後も続くと思います。
しかし、「真の田舎」の人口はこれからもどんどん減少していくでしょう。
もはや「もったいない人材」をあてにするのは無理だと思います。
優秀な若手職員を確保するには、もとから優秀な人を他から奪い取って採用するか、今いる人材を育成するしかありません。
現状多くの自治体で前者の方法を取っています。
優秀な人材を確保するため、仕事のやりがいや魅力をアピールしたり、近年はついに給与水準を上げています。
つい先日、僕の勤務先自治体の募集要項を見ていたら、僕の採用時から初任給が約3万円も上がっていて驚愕しました。
しかし、田舎の自治体がどれだけ頑張ったところで、「真の都市部」への若者流出は止められません。
給料を上げるにしても限度がありますし、たとえ給料を大企業並みに引き上げたとしても、それ以外の部分……たとえば生活の利便性や娯楽、文化資源、人的資源では、到底敵いません。
そろそろ現実を見て、人材育成をまともに考える時期が来ているのだろうと思います。
コメント
コメント一覧 (20)
定員割れ(に近いところ)もありますし
あれは日々の仕事が回ってるのか謎です…
人材難とは関係ない質問なのですが
idecoを利確するタイミングは
どのように考えてらっしゃいますか。
(60歳でideco、65歳で退職…など)
idecoの出口戦略は全く考えてません。このまま独身だったら勧奨退職で早期リタイアするプランも考えていて、人生どうするか次第でだいぶ変わってきそうです。
「田舎」の県庁ほど、「自分の地元を良くしたい」という強い気持ちを持って地元に残る(or帰って来る)人が多いからなんじゃないかと勝手に想像しています
そこには相対的に、その地域において県庁の地位が高いからというのもあると思います
一方で三大都市圏の県庁に入ってくるのは、良い民間企業や政令市を選べなかった中途半端な人材たちです(自己紹介ですが)
旅行でよその県庁に行くと、庁舎といいその周辺の道路などの環境といい、やたら立派に見えて、県民から尊敬されてて、そりゃ良い人材も集まるんだろうなあ…と変な納得をしてしまいます
20代の若手職員としては給与水準の底上げは喜ばしいですが、分不相応の激務部署に回されそうで戦々恐々としております。
お互い潰れないよう、頑張りましょう...
3大都市圏でも、県も政令市も人材確保に苦労しています。
自分が公務員試験を受けたときには、3大都市圏の地方上級の倍率は20倍程度でした。
今は5倍程度です。筆記倍率は2倍未満の所すらあります。最低限の教養さえ不問かもしれません。
ちなみに中核市や一般市は現在でも倍率10〜15倍くらいで、氷河期より微減といったところです(事務職のみですが)
モチベーションの問題というよりは、田舎だとほかに就職する先が無いだけだと思われます。同じ田舎でも、電力会社の本社がある県なんかだと、そちらに優秀層が流れていくので、県庁に来るのは2.5軍以下の人材だと聞きます。
>一方で三大都市圏の県庁に入ってくるのは、良い民間企業や政令市を選べなかった中途半端な人材たちです
政令市と県庁を比べると、やはり前者が上にくるんですね……田舎県庁職員的に、そのあたりの序列はかなり気になるところです。
受験した時の肌感覚ではありますが、やっぱり政令市の方が人気だと感じましたね
働いてる限りはひたすら同格というか、管轄内にパラレルワールドがあるという感じです
一応県内にあるのに、殆ど政令市内のことにはタッチできないし、変な感じですよ
県で何か施策をする時は、すぐそばに居るはずの政令市の動きを横目で見る…ということが日常的に行われています
「人材が質が落ちた」のではなく「元通りに戻った」と捉えるほうが正確なのかもしれませんね……優秀な人材は民間に行ってくれたほうが社会のためになると思うので、現状の流れは内心良いことだと思っています。
>正直行政職公務員自体が魅力のない職業として浸透しつつある感はありますね
完全に同感です。
ようやくメッキが剥がれてきて実情が知れ渡ってきた、というところなのでしょうか……
給与水準の引き上げ、30代にはほぼ恩恵なく、モチベーションを喪失する人が多発しています。「若者はいいよなー」みたいなダル絡みされても、許してもらえるとありがたいです(笑)
>中核市や一般市は現在でも倍率10〜15倍くらい
なかなか高水準をキープされてますね!
本県だと中核市もその他市町村も4〜5倍くらいです。どうやら若者がかなり都市部に流出していき、公務員試験を受けうる母数がそもそも減っているようで……
ちなみにこのブログでも、公務員試験関係の記事のPV数が激減していて、公務員試験を受ける人が減っているのをリアルに感じます。
ありがとうございます。
なるほどです……想像がつきませんが、「変な感じ」というのはよくわかりました。
就職人気も政令市のが上ですし。
僕自身、札幌市や仙台市、福岡市あたりだと、県庁よりも魅力を感じます。
・採用者の平均水準を高めること
・飛び切りの優秀層を確保すること
前者については、売り手市場になっている以上、対策は難しい感じがします。近年は採用数も高止まりしていますし。
反面、地方の県庁で後者が課題になるのは少し意外でした。地元大の優秀層が引き続き志望してくれているなら、あるいは長男のUターンがあるなら、原石も含まれるのが通常でしたので。ご指摘の通り、大学入試の易化+少子化で「地元の鬼才」が減ってきているのかもしれないですね。でも、どうしたらいいのか笑
あんまり中途採用頼みも難しいですよね。
勉強になります。ありがとうございます。個人的に神戸市が入るのが意外だったのですが、関西という括りで見ると、その3都市は同格だよなとも思えてきます。
今までのように採用に頼るのは(新採・中途ともに)止めて、真面目に人材育成を考えざるを得ないのでは……と思っています。
最近、予算編成や条例制定のような役所オブ役所みたいな業務にもいろんな民間サービスが進出してきており、この流れで、役所向けの人材育成サービスもそろそろ出現するのでは?と思っていたりもします。
そんなもんなんでしょうね