令和6年能登半島地震から半年が経過しました。
最近はめっきり報道されなくなっていましたが、発災から半年が経過したということで、再びメディアを賑わせています。
実は僕も、3月頃に対口支援として現地に派遣されていました。
最近はめっきり報道されなくなっていましたが、発災から半年が経過したということで、再びメディアを賑わせています。
実は僕も、3月頃に対口支援として現地に派遣されていました。
具体的な場所や時期は伏せますが、僕が対口支援に行った頃には既に人命救助フェーズは終わっていて、避難所運営や罹災証明書発行のような被災者支援施策の質と量をいかに改善していくかというフェーズでした。
対口支援職員の役割は、いったん確立したルーチンを回しつつ改善していくこと。比較的楽な時期だったと思います。
「能登はやさしや土までも」
従事期間中、「能登はやさしや土までも」というフレーズを何度も見聞きしました。
今回の震災で拵えられた造語ではなく、昔からある言葉のようです。
実際、被災者の方々は皆さん優しかったです。
約1週間の従事期間中、被災者の方々が声を荒げるところは一度も見かけませんでしたし、ちまちま文句や嫌味を言われることもありませんでした。
僕の経験上、被災地に行くと「お前もどうせすぐいなくなるんだろ?本気で支援するつもりなんて無いんだろ?」という定番フレーズで嫌味を言ってくる方が一定数いらっしゃるものなのですが、今回は一人も遭遇しませんでした。
一方、支援者の方々(特に非公務員の方々、現地入りしているボランティアの方々など)は、かなりフラストレーションが溜まっているようでした。
役所に来て、現地のプロパー職員なり対口支援職員なりを捕まえて思いの丈をぶつけていく方は連日いらっしゃいましたし、被災者の方の前で愚痴をこぼしている方も少なくありませんでした。
例えば、避難所で炊出しボランティアをしている方々が、被災者の方々に「冷たいおにぎりしか持って来ない役所と私たちは違いますからね」みたいなことをわざわざ吹き込んで回ったり。
もちろんこそこそと陰口のように言うのではなく、避難所運営をしている公務員にも聞こえるように、はっきりとおっしゃいます。
役所や自治体職員の悪口を言うこと自体は、僕は構わないと思っています。
特に応援職員はいずれいなくなる立場なので、被災者のストレス軽減につながるのであれば、多少暴言をぶつけても差支え無いとすら思っています。
先のケースでも、ボランティアの方々が役所の悪口ネタを持ち出して、被災者の方々がそれに同調して盛り上がってくれるのであれば、別に問題ないと思います。
僕がひっかかるのは、被災者の方々がどう見ても乗り気でないのに、ボランティアの方々が役所叩き・公務員叩きを延々続けていたところです。
ボランティアの方々の熱意と、被災者の方々の心情がマッチせず、ボランティア側の内輪のノリを押し付けているかのように見えて、居たたまれなくなりました。
悪口を聞きながら食べるご飯は、たとえ温かくとも本当に美味しいのだろうか……と疑問を抱かざるをえませんでした。
発災直後の「被災地への不要不急の移動を控えて」発言がいまだに尾を引いている
今回の震災では、発災直後に、県知事が「被災地への不要不急の移動を控えてほしい」と発信し、話題になりました。
⚠️能登への不要不急の移動は控えて⚠️
— はせ浩(馳浩)石川県知事 (@hase3655) January 5, 2024
能登へ向かう道路が渋滞し、物資が届かない、患者の輸送回数が減っているなど救援部隊も大変困っています。今日と明日からの三連休について、能登への不要不急の移動はくれぐれも控えてください。
被災者の命に関わります。皆様のご協力を何卒お願いいたします。 https://t.co/dMGZbBe8aS
この発言自体は1月5日。
僕が対口支援に行った時点では既に2か月近く経過していて、既に自由に往来できるようになっていました。
僕が対口支援に行った時点では既に2か月近く経過していて、既に自由に往来できるようになっていました。
ただ、現地入りしているボランティアの方々を中心に、いまだにこの発言が機能していると捉えている方が少なくありませんでした。
「自分たちは県知事の命令に背くというリスクを冒してでも被災地の役に立ちたい」みたいな被害者意識・自己犠牲精神を持っていたり、この発言を拡大解釈して「県はボランティアを禁止している」などと憤っていたり……
単に「被災地の復旧復興に携わりたい」「被災者を助けたい」という善意のみならず、ヒロイックな使命感や義憤、政治や行政への敵意を抱いて活動している方が本当に目立ちました。
特に石川県庁への敵意は凄まじかったです。
「県庁のせいで復旧が遅れている」だの「県庁は被災地よりも万博優先」だの「私たちが県庁から被災地を救わなければいけない」だのという話を、先述したように被災者の方々の前で大声で唱えているんですよね。
繰り返しになりますが、役所や公務員に文句を言うこと自体は、僕は否定しません。
ただ、悪口や怒鳴り声は、基本的に心地よいのものではなく、被災者の中には聞きたくない方もいらっしゃると思います。
そのような被災者の内情に配慮せず、自分自身の怒りの感情を被災者に見せつけるのは、ボランティアとして如何なものか……と思わざるを得ません。
これまでの経験上、大災害発生時には誰かしら「悪者」が設定されるものなのですが、今回はどうやら県庁がターゲットになってしまったように思われます。同業者として本当に気の毒です。
被害が出てるのは能登半島だけではない
被災地派遣から約2ヶ月後のゴールデンウィーク期間中にも、石川県に行ってきました。今後はオタク用務です。
加賀友禅コラボが非常に良かったです。ざっくりいうと、
- 現役の加賀友禅(着物)作家が、キャラクターに着せる着物の図柄デザインを「受注」して、加賀友禅の特徴や技法に沿ったデザインを作成
- そのデザインをもとに、実際にミニチュアの着物を作るのみならず、デザインを完成させるまでの過程(モチーフを決めるまでのアイデアメモ、ラフスケッチなど)まで展示公開する
オタクとして大満足なのに加えて、伝統工芸振興施策としても上手い取組だと思いました。
これまで今ひとつ理解できていなかった「美術」と「工芸」の違い、「工芸」という産業のあり方がよく分かりましたし、「工芸」という産業が今も生存している石川県という地の特異性にも興味が湧き、急遽そのまま近隣の伝統工芸関係の施設をはしごしてしまいました。
ネット上にはいくつかこの企画のレポートも載っているので、観光や産業振興の仕事をしている方は、一度見てみるといいと思います。参考になるはずです。
……話を本筋に戻します。
スタンプラリーのために1泊2日で金沢市内を歩き回ったところ、歩道も車道も陥没しまくっていました。特に金沢駅の西口側が酷い。
最近マスコミが「観光需要が早々に戻ったおかげで、金沢市民は震災を忘れて立ち直れた」などと皮肉を報じていますが、日々使う道路がベコベコな状態では、震災を忘れられるわけがないと思います。
外野が好き勝手に、被災地をおもちゃにしているとしか思えません。
ボランティアにしろマスコミにしろ、「被災者のため」という大義名分を掲げつつ実際は「自分の私利私欲のため」に活動すること自体は、否定しません。
ただ、被災者に対しては、本音を隠し通してほしい。
私利私欲は見せず、徹頭徹尾、利他的な存在として振る舞ってほしい。
僕の経験上、被災者の方々は、実利が伴わずとも、「善意」を向けられるだけで気持ちが救われます。
それが「被災者の気持ちに寄り添う」ことだと思います。
コメント
コメント一覧 (4)
私も過去の大震災や大水害など主に首都圏にいましたので、直接的な支援には一切関われませんでしたが、東日本大震災の場合などではどこも大変な混乱(カオス)もので、職員の被災はもちろん疲労やストレスで自◯される方も数多くおり、マスコミでもかなり話題になりました。
支援(あるいは批判)に加わる人々は一定の頭脳派や行動力のある方が多いものの、リベラル派だったり、一義的な価値観を持っていたり、自己の欲求や目的を完遂しようとするためだけに来て、数次の被害を引き起こす場合も多々あり、年々扱いがやっかいになってきています。
災害ボランティアも災害派遣アプリなどで一括登録のうえ一定の評価のある人に絞って受け入れたり、ITを利用して工夫する時代に来ているのかもしれませんね。
親切や思想の押し売りをする人は一定数いるものですし、ボランティアも共通的な規範をきちんと定めてそれを超えた振る舞いはしないよう誓約したものだけが入れる体系だった仕組みがあればいいのかなと思いました。
被災地入りしたyoutuberや政治家が「自己顕示だ」「売名だ」と叩かれていますが、こういう有名人以外の一般ボランティアも、結構な数が「被災者のため」ではなく「自分のため」に被災地入りしていると、残念ながら思わざるを得ず……一方的に叩かれる自治体職員のみならず、被災者の心中も穏やかではないと思います。